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第二部 七章:四日間

十七話 代わり

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「……どういうことですか?」

 まぁ、本当にどういうことなのだろう。
 追い出されるとは違うが、出ていってほしいって感じか?

「ライゼ殿が訪れた冒険者ギルドがライゼ殿の経歴を調べたらしい。その結果、ライゼ殿の種族偽装が分かったのだが」
「もしかして――」

 ライゼは慌ててたように立ち上がる。
 俺も慌てる。基本的に冒険者ギルドが冒険者カードを信用しないことはない。冒険者カードに書かれている事が全てだと思う。それが当たり前だから。だからこそ、もう訪れる事もない街で冒険者カードを偽装しても大丈夫だろうと思ったのだが。

 まさか、経歴を調べているとは。
 あの中年の神官か?

「――いや、そうではない。ライゼ殿は処罰されない」
「えっ、そうなのですか。てっきり偽装したから……」
「それはしないつもりらしい。ライゼ殿の冒険者保証人に反感を買いたくない事やライゼ殿に冒険者を治療して貰った恩などから見逃すそうだ。むしろ、手助けしてくれるらしい」

 冒険者保証人とは、その冒険者の保証人、正確には身分保証やもし死んだ場合の財産やら何やらを相続する人をさす。
 前は『竜の魂渡り』に頼んでいたのだが、今はレーラーである。そして冒険者ギルドはレーラーの素性を知っているのだろう。

「手助けですか?」
「そうだ。ライゼ殿は我が褒賞を与える時には冒険者ギルドの依頼でこの領地から出ていってしまった。代わりに冒険者ギルドがライゼ殿の代理として褒賞を受け取り、そして冒険者ギルドがライゼ殿に褒賞を与える、だそうだ」

 ライゼは少しだけ首を捻る。

「……悪くなないですが」
「因みに、褒賞はのゲルトの箱とランクアップだそうだ」
「よし、今すぐ出ていきましょう」

 ゲルトの箱は隠語で金。つまり、賄賂的なめっちゃ高いお金。
 そしてランクアップは本当にでかい。Bランク冒険者になれば、どの国でも貴族程度の特権を持ち、身が保証される。青白い冒険者カードが黒色に変わる。
 つまり一発で身分が証明できるし、冒険者ギルドが超手厚い保障をライゼに与えてくれる。

 その分、冒険者ギルドからの依頼があまり断れなくなるが、それもレーラーのあれで面倒な依頼などはないだろう。
 レーラーが冒険者ギルドの所属をやめること自体が向こうの損失だろうし。

 Cランクにランクアップとかだったら、まだ首を捻っていただろうがBランク冒険者になるという事がでかすぎた。というか、子鬼人であるライゼがBランク冒険者になるには凄い年数がかかるし。
 だからライゼはウッキウッキと出ていこうとする。

 という姿勢を見せたまま、再び席に着いた。
 流石に、領主であるエーレが非公式だといったとはいえ、そこまでの無礼はできない。
 それに少しだけ引っかかる部分もある。

「トレーネさんも一緒ってどういうことですか?」
「それはライゼ殿と同じことだ。トレーネ殿は既にこの街を出ていったっていう事で領民や他領には伝わっているはずだ。だが、騎士たちはもちろん知っている。そしてトレーネ殿は今回の魔人騒動の尽力者だ」
「なるほど、都合が良かったって事ですか」

 ライゼは納得したように頷く。
 エーレも頷いたが、直ぐに少しだけ首を横に振る。

「それだけではない。冒険者ギルドの方からライゼ殿とトレーネ殿には一つだけ命令が出ている」
「……命令ですか」

 ライゼは身構える。
 俺も少しだけ周囲を警戒する。命令をいった瞬間に、冒険者ギルドの者が入ってきてライゼを拘束するとも限らない。まぁ、可能性は相当低いが。

「ああ、特にトレーネ殿の方に強制力が高いのだが、二人はパーティーに所属しろという事だ」
「……あ、確かBランク冒険者はパーティーやクランに所属する義務に引っかかるからですか」
「そういう事らしい」

 Bランク冒険者は貴重な戦力だ。
 そして貴族程度の特権も持つからこそ、ある程度の組織的な行動はして欲しいし、小さくてもいいからグループを持ってもらった方が色々と都合がいい。
 全て一人でやられると管理が面倒だからだろう。もちろん、それ以外にも生存率を上げたりして欲しい事もあるんだろうが。

 で、レーラーは長い時を生きる種族であったり、秘密が多かったりするから実力はあるのにBランク冒険者に昇格していない。
 パーティーになると、ある程度情報は密に交換しなければならないため、面倒だそうだ。本当にパーティーになってもいいと思う人間は少ないらしい。

「……あれ、でも私は」
「ああ、らしいな。既にパーティーは組んでいると聞いている」

 そしてそんな人間がライゼだ。
 師弟関係ではあるが、そしてレーラーはライゼの冒険者保証人だがそれでもパーティーだ。そのように申請している。というか、パーティー内で相互で冒険者保証人をしているのも珍しくない。

 エーレはそれを知っていたらしい。レーラーとパーティーを組んでいることは知らなくても、パーティーを組んでいることは知っていたらしい。
 そんなエーレは少しだけ深紅の瞳をライゼから外す。

「扱いにくい存在は一か所に集めておきたいらしい」
「なるほど。私とトレーネさんにパーティを組んでほしいって事ですか」

 ライゼは納得顔で頷く。
 ……ん? あれ、タナボタじゃね。

「そうだ」
「……私はトレーネさんが了承しているなら問題ありません」
「そうか」
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