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第二部 七章:四日間
十二話 礼儀作法と礼
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ノックもせずに、また供すら伴わず部屋に入ってきたエーレに対して、ライゼは素早く動いた。
まぁ、エーレの魔力気配は分かっていたし、ライゼも外に誰かがいるかは分かっていたのだろう。
そしてエーレの装い、右の腰に差した騎士剣、文官服に近いドレス姿でありながらよくよく見れば所々に特殊な金属で用いた鎧を身に付けている。
それに何よりも分かりやすかったのは紋章を首から下げていた事だ。一応、ファーバフェルクトに入る前に、領主や領地に情報は集めていた。そして、また礼儀作法や他国の貴族などに関する授業が魔法学園ではあった。
つまり、ライゼはエーレが首に下げていた紋章で相手が誰なのか分かったらしい。
俺は忘れていたのだがな。
そして忘れていた俺は置いといて、ベッドに腰を掛けていたライゼは素早く本を“空鞄”に仕舞い、また“空鞄”を消す。その間、一秒もかかっていない。
それから落ち着きと気品あふれる、されど素早い動きで扉を開けて入ってきたエーレの前に片膝を付き、頭を垂れた。
エーレは一瞬だけ驚いたように目を見開いたものの、直ぐに武人とも違う為政者の顔になった。
片膝を付くライゼに冷徹な深紅の瞳を向ける。
「顔を上げよ」
「はっ、失礼いたします」
ライゼはこげ茶の瞳をエーレの深紅の瞳にぶつける。
ライゼは膝をついていたが、貴族の礼儀作法に照らし合わせてみればへりくだってはいなかった。正確に言えば、冒険者専用の貴族用の礼儀作法と言えばいいか。
ワザと武器を見せ、また片膝をついたとはいえ、もう片方の足は少しだけ外に開く。また、両手は握りしめるのではなく人差し指と中指を立てながら握りしめている。
冒険者ギルドは冒険者が貴族の下に付くことをよしとはしない。それは貴族側もだ。だが、だからといって貴族に対して対等な姿勢を見せてしまうのは頂けない。
冒険者ランクがD以下ならばそもそも貴族に関わる事は殆んどないが、Cランク以上になると貴族からの依頼を受けてることになる。
つまり、ライゼが今何でこんな礼儀作法を取れるかといえば、ライゼがCランクに昇格する際に試験内容としてこれがあったからである。
にしても、付け焼き刃とはいえ、魔法学園で貴族に対しての一般的な礼儀作法は習っていたからか、ライゼの仕草には気品があった。
……もしかしてライゼってカッコいいんじゃないか。強くて優しくて礼儀作法もできて何かカッコいんじゃないか。
「お初にお目にかかります、ファーバフェルクト辺境伯。私の名はライゼ、Cランク冒険者をしております。この度はこのような不遜な装いと身であることをお許しください」
深緑ローブをワザとはだけるようにして前を開き、腰に差している“森顎”と“森彩”を見せているライゼは、お許しくださいと言いながら頭を下げる事はない。
……どうしよ、俺はどうすればいいか。ライゼがこんな立派にしているのに。
「よい、許す」
エーレは左手を少しだけ上げて頷く。
また、一歩ライゼへと近寄った。
「我が名はエーレ・S・ファーバフェルクト。ファーバフェルクトの名において、貴殿に礼を申し上げたい。よいか」
「もったいなきお言葉」
「……うむ」
それからエーレは少しだけ茶目っ気がある瞳をライゼに向けて。
「して、我はこの場に存在しなかった」
とぼけた様な声を出し。
「……えっ」
そしてエーレはライゼと同様に片膝をついた。
……この場に存在しないか。
「ライゼ殿。我が騎士たちとそして領民、冒険者の命を救ってくれたこと誠に感謝する。其方のお陰で、我が騎士は誰も欠けることなく魔人を掃討する事ができた。魔法薬といった物資も大変助かった。本当に感謝する」
「……もったいな――」
「――我はこの場に存在しない」
覆いかぶせるようにエーレは再び言った。
ライゼは適切な言葉を探す。
「……私は私がしたいことをしたまでです」
「……ふむ、まぁよいか。……して、ライゼ殿。我に聞きたいことはないか」
「聞きたいことですか?」
「褒美自体はここでは渡せぬからな。それよりも冒険者であるのならば情報を欲しがると思ってな。答えられる範囲であれば、何でも、何度でも答えるぞ」
……褒美はあれか、公の場でするのか。
まぁ、そっちの方が示しが付きやすいし。
「……では、現状を教えていただけないでしょうか。今回の魔人の騒動。現在、私がどのような立場に置かれているのか。それとトレーネさんについても」
ああ、そういえば俺もそれを知りたいんだよな。
というかトレーネとはあれから会ってないし、情報が足りていない。街の様子も気になるし、魔人の動きも気になる。
まぁ、今回の目的はトレーネに礼をいう事と、幾つかの写真とちょっとした昔話をするだけらしいしが、それはトレーネが来ないと始まらない。
暇つぶしに聞くのもいいだろう。
「……うむ、よかろう」
片足をついているエーレは少しだけ俺を一瞥しながら頷き、また、立ち上がった。そして両手を二回叩く。
すると、一人のメイドさんが現れ、小さな丸机と二つの椅子が用意された。
「しかしライゼ殿。話すにしても時間がかかる。お茶でもどうだ?」
「……謹んでお受けいたします」
ライゼとエーレは同じ席についたのだった。
ライゼが寝ていた部屋でいいのか?
まぁ、エーレの魔力気配は分かっていたし、ライゼも外に誰かがいるかは分かっていたのだろう。
そしてエーレの装い、右の腰に差した騎士剣、文官服に近いドレス姿でありながらよくよく見れば所々に特殊な金属で用いた鎧を身に付けている。
それに何よりも分かりやすかったのは紋章を首から下げていた事だ。一応、ファーバフェルクトに入る前に、領主や領地に情報は集めていた。そして、また礼儀作法や他国の貴族などに関する授業が魔法学園ではあった。
つまり、ライゼはエーレが首に下げていた紋章で相手が誰なのか分かったらしい。
俺は忘れていたのだがな。
そして忘れていた俺は置いといて、ベッドに腰を掛けていたライゼは素早く本を“空鞄”に仕舞い、また“空鞄”を消す。その間、一秒もかかっていない。
それから落ち着きと気品あふれる、されど素早い動きで扉を開けて入ってきたエーレの前に片膝を付き、頭を垂れた。
エーレは一瞬だけ驚いたように目を見開いたものの、直ぐに武人とも違う為政者の顔になった。
片膝を付くライゼに冷徹な深紅の瞳を向ける。
「顔を上げよ」
「はっ、失礼いたします」
ライゼはこげ茶の瞳をエーレの深紅の瞳にぶつける。
ライゼは膝をついていたが、貴族の礼儀作法に照らし合わせてみればへりくだってはいなかった。正確に言えば、冒険者専用の貴族用の礼儀作法と言えばいいか。
ワザと武器を見せ、また片膝をついたとはいえ、もう片方の足は少しだけ外に開く。また、両手は握りしめるのではなく人差し指と中指を立てながら握りしめている。
冒険者ギルドは冒険者が貴族の下に付くことをよしとはしない。それは貴族側もだ。だが、だからといって貴族に対して対等な姿勢を見せてしまうのは頂けない。
冒険者ランクがD以下ならばそもそも貴族に関わる事は殆んどないが、Cランク以上になると貴族からの依頼を受けてることになる。
つまり、ライゼが今何でこんな礼儀作法を取れるかといえば、ライゼがCランクに昇格する際に試験内容としてこれがあったからである。
にしても、付け焼き刃とはいえ、魔法学園で貴族に対しての一般的な礼儀作法は習っていたからか、ライゼの仕草には気品があった。
……もしかしてライゼってカッコいいんじゃないか。強くて優しくて礼儀作法もできて何かカッコいんじゃないか。
「お初にお目にかかります、ファーバフェルクト辺境伯。私の名はライゼ、Cランク冒険者をしております。この度はこのような不遜な装いと身であることをお許しください」
深緑ローブをワザとはだけるようにして前を開き、腰に差している“森顎”と“森彩”を見せているライゼは、お許しくださいと言いながら頭を下げる事はない。
……どうしよ、俺はどうすればいいか。ライゼがこんな立派にしているのに。
「よい、許す」
エーレは左手を少しだけ上げて頷く。
また、一歩ライゼへと近寄った。
「我が名はエーレ・S・ファーバフェルクト。ファーバフェルクトの名において、貴殿に礼を申し上げたい。よいか」
「もったいなきお言葉」
「……うむ」
それからエーレは少しだけ茶目っ気がある瞳をライゼに向けて。
「して、我はこの場に存在しなかった」
とぼけた様な声を出し。
「……えっ」
そしてエーレはライゼと同様に片膝をついた。
……この場に存在しないか。
「ライゼ殿。我が騎士たちとそして領民、冒険者の命を救ってくれたこと誠に感謝する。其方のお陰で、我が騎士は誰も欠けることなく魔人を掃討する事ができた。魔法薬といった物資も大変助かった。本当に感謝する」
「……もったいな――」
「――我はこの場に存在しない」
覆いかぶせるようにエーレは再び言った。
ライゼは適切な言葉を探す。
「……私は私がしたいことをしたまでです」
「……ふむ、まぁよいか。……して、ライゼ殿。我に聞きたいことはないか」
「聞きたいことですか?」
「褒美自体はここでは渡せぬからな。それよりも冒険者であるのならば情報を欲しがると思ってな。答えられる範囲であれば、何でも、何度でも答えるぞ」
……褒美はあれか、公の場でするのか。
まぁ、そっちの方が示しが付きやすいし。
「……では、現状を教えていただけないでしょうか。今回の魔人の騒動。現在、私がどのような立場に置かれているのか。それとトレーネさんについても」
ああ、そういえば俺もそれを知りたいんだよな。
というかトレーネとはあれから会ってないし、情報が足りていない。街の様子も気になるし、魔人の動きも気になる。
まぁ、今回の目的はトレーネに礼をいう事と、幾つかの写真とちょっとした昔話をするだけらしいしが、それはトレーネが来ないと始まらない。
暇つぶしに聞くのもいいだろう。
「……うむ、よかろう」
片足をついているエーレは少しだけ俺を一瞥しながら頷き、また、立ち上がった。そして両手を二回叩く。
すると、一人のメイドさんが現れ、小さな丸机と二つの椅子が用意された。
「しかしライゼ殿。話すにしても時間がかかる。お茶でもどうだ?」
「……謹んでお受けいたします」
ライゼとエーレは同じ席についたのだった。
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