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第二部 七章:四日間

八話 急襲と殲滅

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 暗闇の下水道を先行するライゼを俺は必死になって追っていく。
 けれど何と言うべきか、“魔倉の腕輪”には殆ど魔力が残っておらず、また体内魔力を何度も枯渇と回復を繰り返していたせいで、ライゼはそうとう疲れているはずだ。
 というか、寝てないし。

 なのに、俺が身体強化を全力で掛けているのに、ライゼに追いつけない。
 無茶をして走っているのがありありと分かる。

 下水に残るライゼの匂いと、振動や超微少な魔力の漏れを頼りに複雑怪奇に入り組んでいる下水道を何度も何度も曲がっていく。
 暗闇を先行しているライゼは、俺よりも夜目がきかず、また行く場所すらもハッキリと分かっていないはずなのに、捉えられる気配を見れば一度も止まってない。

 たぶん俺ですら感じ取る事の出来ないさっきの魔人の残り香ならぬ残り魔力を追っているのだろう。
 超微少の魔力すらもライゼは捉える事ができるからな。

 レーラーの魔力感知精度をすらも越えているらしいし。レーラーが誇らしげに言ってた。
 長く生きているんだし悔しさとか恥はないのかと聞いたら、長生きしている事が有利になる事はない。そんなものに誇りはないから、悔しさはあっても恥はないと言っていた。

 悔しさは、魔法使いとしての悔しさなのだろう。

『あ?』

 と、そんな事を考えてライゼを追っていたら、明らかにライゼとは違う魔力反応を遠くで捉え、俺は止まった。結構な数だ。
 その中には魔人らしき、感じているだけで心の底から憎しみが湧きそうな邪悪な魔力が幾つもあった。ざっと、数十ってところか。

 対して、弱弱しい魔力や、強い練り上げられた魔力、神聖な魔力、そして強い鍛え上げられた闘気の気配を合計で百程度感じた。
 こっちは人間側か。

 争っているのだ。
 どうやら、魔人との抗争はまだ終わってなかったらしい。

 それに今気が付いたが、この地下下水道の途中からおかしな結界魔法が張ってある。
 丁度俺の目の前を境に張ってある。ライゼは既にここを通り抜けているから問題ないのだろうが、解析だけして……いや、後にしよう。

 まずは、ライゼを追わなきゃ。
 なので、俺はその結界が安全かどうかだけ確かめた後、思いっきりくぐった。物理的な結界ではなく、特定の条件によって発動する概念的な結界であったため俺は阻まれずに通り抜けられた。

 つまり、外部侵入を阻止することが目的じゃないって事か。
 まぁ、いいや。

 俺は再びライゼの匂いや魔力を追って行く。
 まぁ、けど、ライゼは明らかに魔人たちがいる方向に向かっているので、俺もそっち方面を目処にして駆ける。

 というか、ライゼったら一直線に進まずに大回りしている。なんでだ。
 まぁ、だけどライゼの行先は分かるので、俺は俺で一直線に進む。下水道の入り組み方にはある程度法則があるのが分かったので、それに従って進んでいく。

 そして魔人たちがいる場所に近づいたとき、俺はいつも以上に放出魔力を制限してほぼ無にする。
 また、ここ数年で鍛えた足音や振動を発生させない走りをする。横腹に荷物鞄などを付けているため、凄い気を遣うが問題ない。

 そうして俺は横幅の広い下水路へと出た。
 何故か大回りしていたライゼも俺と同時に魔人と人間たちが一堂に会している、もとい戦っている横幅の広い下水路へと出た。

 瞬間。

「ぁっ!」
「なっ!」
「ぇ」
「屈めーーーーっ!」

 爆炎が上がり、黒煙が下水路を満たしてしまった。
 が、その一瞬で把握した。

 ライゼは、魔人の後から“森彩”で爆発する“宝石銃弾”を連射したのだ。
 大回りしていた理由が分かった。人間たちがいる側ではなく、魔人たちが無防備に背を晒している後を取りたかったのだ。俺は最短距離で来たためか、人間側の背後に出た。

 そして魔人ですら感じ取れない程に放出魔力を無にして、背後から襲撃したのだ。魔人と戦っていた人間たちが、戦況を変えるために一旦魔人と距離を取った瞬間に。
 そしてその人間――多くは騎士姿だったが、殆どは後で横たわっていた――の中に目が、もしくは感知能力が良いものがいたのだろう。爆風を逃れる為に対ショック体勢を取らせていた。

 そして今。

「貴様ら、どこだ!」
「おい、何処にいる!?」
「クソ、バババルトハルトがやら――ッ、助けっ」
「散らばるな、敵は一人だぞ! 魔力感知をぜんか――」
「感じられない、魔力が感じられっ――」
「〝風圧を発生させる魔法ウィンドェシュテンロー〟ッ!!」

 何故か明るく灯されていた広い下水路を包んでいた黒煙が晴れた今。
 魔人の半数ほどが煙となって消えて去っていた。

 そしてそれだけじゃなくて。

「ようやくとら――っぅ」
「防御だ、結界を張れっーー!」

 魔人たちの後にいてどういう状況はまだ理解していない騎士たちに流れ弾がいかないように、乱射ではなく一体一体、超近接による射撃と斬撃をライゼは行っていた。
 魔人たちは咄嗟に後退して結界を張ったようだが、それは物理結界だった。
 上位の魔物の物理耐性すらも突破する“森顎”と“森彩”の銃撃を至近距離で受けたから、それは直ぐに割れた。破壊された。

 人間には通常出せない力なのだ。
 魔人はそれを想定していない。

「ッッッッゥゥッ!」
「シッ」

 結界を破壊したライゼは、流れる水の様に自然に身体を低くしながら魔人たちの懐に飛び込み、鼠のようにちょこまかと動いて魔人たちが態勢を立て直す前に殺していく。
 “宝石銃弾”が魔人を貫くたびに一瞬にして煙となって消え去っていった。

 そして。

「かかれっーー!」
「なっ」

 状況を理解していないが、戦況は理解したらしい。
 女性の叫び声が上がり、騎士たちは呆然として隙を晒していた魔人の背に魔法や闘術を叩き込んでいく。背中を斬っていく。
 大した統率力だ。

 そうして数分もかからずに、魔人は全滅していた。
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