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第二部 七章:四日間
六話 ただの暴論
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『で、どうするんだ』
俺は昨日と同じ質問をした。
時間的には一時間早いだろうか。
『どうするって、昨日言った通りだよ。まぁ、情報はあんまり貰えなかったし、深夜じゃなくて早朝になっちゃったけどさ』
深緑のローブを羽織り、フードを被っているライゼは魔力だけでなくできるだけ気配などといったものも隠蔽しながら進む。
身体を大きくしたままの俺はその後をついて行く。
荷物をどこかに置ければいいのだが、しかしそうすると安全に荷物を置ける場所は宿屋などとなり足がついてしまう。
それは避けたい。
『分かった。で、当たりはつけてあるのか?』
『うん、たぶん辺境伯の屋敷内だと思うんだよね』
『なんでだ?』
『だってトレーネだよ。前にも言ったと思うけど、僕は彼女の事をあんまりしらない。けど、優しくて傷ついて死にそうな人たちを見捨てる人でもない』
『まぁ確かに』
裏路地を歩いていたライゼは地面に手を付けて魔力を放出する。
そしたら地面に丸い穴が開き、ライゼはそこに飛び込んだ。俺も迷わず飛び込んだ。
『やっぱり地下下水があった』
『うげぇ』
そして汚れた浅い水に着地したライゼは、穴の開いた天井を見つめた後、魔力を放出して作り出した穴を閉じる。
下水に飛び込み、着地した俺は、腹すれすれまで下水で汚れたのが嫌で、一瞬だけ飛び跳ねてその瞬間に空中に障壁を張る。それから〝汚れを落とす魔法〟で汚れた足や尻尾を清めていく。
ついでに〝辺りを照らす魔法〟で暗い下水道内を照らしていく。
『ライゼ、俺の背に乗れ。ブーツやローブの裾が汚れるぞ』
『……分かった』
ライゼは飛び跳ね、障壁の上に立っている俺の背に乗る。
また乗る瞬間に〝汚れを落とす魔法〟でブーツやローブの裾を綺麗にしていく。それでも魔力量が足らなかったのか、少しだけ汚れが残っていたので、ライゼがそれに気が付く前に俺が清めておく。
『どっちだ』
『真っ直ぐだね』
背中に乗ったライゼの指示で、俺は空中に障壁の道を張りながら進んでいく。魔力量だけは潤沢にあるのでこんなこともできるのだ。
まぁ、使える魔法はライゼやレーラーよりも多くはないが。戦闘系の魔法は一切使えないし。
『……それで話の続きだが、何でトレーネは屋敷にいると思ったんだ?』
『ええっと、トレーネが野戦病院になってた冒険者ギルドに来なかったのは、たぶん来れなかったからだと思うんだよ』
『つまり軟禁状態だと?』
さっきライゼが冒険者ギルドを出たように、辺境伯とかに囚われているのか。
……だが、俺達が集めていた情報ではファーバフェルクト辺境伯は高潔な武人であり、そのような事をする人ではなかった筈だ。まぁ、情報は捻じ曲げられるから信用ならないが。
それでもレーラーが言うにはファーバフェルクト領地の辺境伯になる人物は皆、高潔な人だけだと言っていた。
何でも、辺境伯になるにはとある剣を装備できなければならないらしい。そしてその剣を装備するには血筋と高潔な心が必要だとか。
それ以外はいらないらしい。
昔には戦う事ができない文官が辺境伯になったという話もあるらしいし。
『いや、昨日の衛兵隊長さんの言葉の端から推測するとたぶん、騎士や兵士たちがとても酷い状態なんだと思う』
『ああ、なるほど。そっちの治療で手一杯だから冒険者ギルドに行けなかったと』
確かにそれはありえそうだが。
けど、弱いな。ライゼの勝手の予測だし、根拠もあんまりない。
『それにそうだとすると、衛兵隊長さんがトレーネをいないと言った理由も、そしてそれが街に知られていた理由も合点がいくだよ』
『ん? どういうことだ』
『ほら、昨日治療している時も神官たちがトレーネ様がいれば、時々小さく嘆いてたでしょ』
確かに、そうだったような。
つい口から出てしまったていう感じだったが、そんな事を言ってたな。
『そして冒険者ギルドに何回か、騎士様たちが来たでしょ。物資の援助のために』
『ああ。……なるほど、士気を下げないためか』
『うん、後は余計な不安と暴動に繋がりかねない怒りを与えないためだと思う』
なるほどな。
トレーネが騎士や兵士の治療で手一杯という事は、それだけ騎士団と兵士団は致命的な状態だという事だ。
それでも街の中に騎士や兵士がいて、巡回していて、物資などを回していた。そしてだから、町人たちは騎士団などが壊滅状態に近い事を知らないんだ。
だから、悲壮感と絶望漂う街中でもある程度落ち着いているのだ。
自暴自棄になった人たちもいなかったし。
そしてなのにトレーネが街中にいて治療に来ないことを知ったら、町人や冒険者たちは怒りを抱いてしまう。
しょうがない事だ。怒りを抱くなという方が難しい。
だって、死んでいってる人たちが多くいるのに、それが治せる力があるのに治療しないからだ。
それは醜いかも思うかもしれないが、そういうものだ。
『だが、それだってトレーネが街中にいるっていう前提だぞ』
『まぁね。けど、ただ確かめるだけだし、間違っていても問題ないよ。ちょっと辺境伯から目を付けられるだけで』
『……それもそうか』
ウォーリアズ王国である程度力を持っているファーバフェルクト辺境伯に睨まれるのは嫌だが、それはまぁ些細な事だ。
どうとでもなる。
俺は昨日と同じ質問をした。
時間的には一時間早いだろうか。
『どうするって、昨日言った通りだよ。まぁ、情報はあんまり貰えなかったし、深夜じゃなくて早朝になっちゃったけどさ』
深緑のローブを羽織り、フードを被っているライゼは魔力だけでなくできるだけ気配などといったものも隠蔽しながら進む。
身体を大きくしたままの俺はその後をついて行く。
荷物をどこかに置ければいいのだが、しかしそうすると安全に荷物を置ける場所は宿屋などとなり足がついてしまう。
それは避けたい。
『分かった。で、当たりはつけてあるのか?』
『うん、たぶん辺境伯の屋敷内だと思うんだよね』
『なんでだ?』
『だってトレーネだよ。前にも言ったと思うけど、僕は彼女の事をあんまりしらない。けど、優しくて傷ついて死にそうな人たちを見捨てる人でもない』
『まぁ確かに』
裏路地を歩いていたライゼは地面に手を付けて魔力を放出する。
そしたら地面に丸い穴が開き、ライゼはそこに飛び込んだ。俺も迷わず飛び込んだ。
『やっぱり地下下水があった』
『うげぇ』
そして汚れた浅い水に着地したライゼは、穴の開いた天井を見つめた後、魔力を放出して作り出した穴を閉じる。
下水に飛び込み、着地した俺は、腹すれすれまで下水で汚れたのが嫌で、一瞬だけ飛び跳ねてその瞬間に空中に障壁を張る。それから〝汚れを落とす魔法〟で汚れた足や尻尾を清めていく。
ついでに〝辺りを照らす魔法〟で暗い下水道内を照らしていく。
『ライゼ、俺の背に乗れ。ブーツやローブの裾が汚れるぞ』
『……分かった』
ライゼは飛び跳ね、障壁の上に立っている俺の背に乗る。
また乗る瞬間に〝汚れを落とす魔法〟でブーツやローブの裾を綺麗にしていく。それでも魔力量が足らなかったのか、少しだけ汚れが残っていたので、ライゼがそれに気が付く前に俺が清めておく。
『どっちだ』
『真っ直ぐだね』
背中に乗ったライゼの指示で、俺は空中に障壁の道を張りながら進んでいく。魔力量だけは潤沢にあるのでこんなこともできるのだ。
まぁ、使える魔法はライゼやレーラーよりも多くはないが。戦闘系の魔法は一切使えないし。
『……それで話の続きだが、何でトレーネは屋敷にいると思ったんだ?』
『ええっと、トレーネが野戦病院になってた冒険者ギルドに来なかったのは、たぶん来れなかったからだと思うんだよ』
『つまり軟禁状態だと?』
さっきライゼが冒険者ギルドを出たように、辺境伯とかに囚われているのか。
……だが、俺達が集めていた情報ではファーバフェルクト辺境伯は高潔な武人であり、そのような事をする人ではなかった筈だ。まぁ、情報は捻じ曲げられるから信用ならないが。
それでもレーラーが言うにはファーバフェルクト領地の辺境伯になる人物は皆、高潔な人だけだと言っていた。
何でも、辺境伯になるにはとある剣を装備できなければならないらしい。そしてその剣を装備するには血筋と高潔な心が必要だとか。
それ以外はいらないらしい。
昔には戦う事ができない文官が辺境伯になったという話もあるらしいし。
『いや、昨日の衛兵隊長さんの言葉の端から推測するとたぶん、騎士や兵士たちがとても酷い状態なんだと思う』
『ああ、なるほど。そっちの治療で手一杯だから冒険者ギルドに行けなかったと』
確かにそれはありえそうだが。
けど、弱いな。ライゼの勝手の予測だし、根拠もあんまりない。
『それにそうだとすると、衛兵隊長さんがトレーネをいないと言った理由も、そしてそれが街に知られていた理由も合点がいくだよ』
『ん? どういうことだ』
『ほら、昨日治療している時も神官たちがトレーネ様がいれば、時々小さく嘆いてたでしょ』
確かに、そうだったような。
つい口から出てしまったていう感じだったが、そんな事を言ってたな。
『そして冒険者ギルドに何回か、騎士様たちが来たでしょ。物資の援助のために』
『ああ。……なるほど、士気を下げないためか』
『うん、後は余計な不安と暴動に繋がりかねない怒りを与えないためだと思う』
なるほどな。
トレーネが騎士や兵士の治療で手一杯という事は、それだけ騎士団と兵士団は致命的な状態だという事だ。
それでも街の中に騎士や兵士がいて、巡回していて、物資などを回していた。そしてだから、町人たちは騎士団などが壊滅状態に近い事を知らないんだ。
だから、悲壮感と絶望漂う街中でもある程度落ち着いているのだ。
自暴自棄になった人たちもいなかったし。
そしてなのにトレーネが街中にいて治療に来ないことを知ったら、町人や冒険者たちは怒りを抱いてしまう。
しょうがない事だ。怒りを抱くなという方が難しい。
だって、死んでいってる人たちが多くいるのに、それが治せる力があるのに治療しないからだ。
それは醜いかも思うかもしれないが、そういうものだ。
『だが、それだってトレーネが街中にいるっていう前提だぞ』
『まぁね。けど、ただ確かめるだけだし、間違っていても問題ないよ。ちょっと辺境伯から目を付けられるだけで』
『……それもそうか』
ウォーリアズ王国である程度力を持っているファーバフェルクト辺境伯に睨まれるのは嫌だが、それはまぁ些細な事だ。
どうとでもなる。
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