転生トカゲは見届ける。~俺はライゼの足なのです~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
98 / 138
第二部 七章:四日間

三話 冒険者ギルド内

しおりを挟む
 金属の鎧を纏った冒険者ギルドの入り口にいた武装した二人の冒険者に、ライゼは種族欄だけ偽装した冒険者カードを見せる。
 通常の冒険者ギルドならばこんなガードマンなどいないのだが、今は平時ではなく戦時だ。前の街で聞いた情報では魔人は掃討したらしいが、しかし、それでも街は荒れている。

「……そいつは?」

 だからか、人族で強そうにも見えない十三歳の若造がCランクである事。そして見たこともない大きなトカゲである俺がいる事。
 それらは警備をしている冒険者に警戒心を抱かせるのには十分だった。二丁の斧を背負っている冒険者が恫喝する様に低く荒々しい声でライゼに問う。

「こっちは遺物で召喚した馬の代わりです。僕以外の指示を聞くことはありません。衛兵隊長さんから許可はとっています」

 威嚇する様にチロチロと舌を出している俺の背中に乗っているライゼは、俺の頭を撫でながら開いている手で懐から小さな手形を取り出す。
 この街ではある程度の許可書となるものだ。

「……確かに間違いはないようだな。よし、通っていいぞ」
「ありがとうございます」

 ライゼは軽く頭を下げて、俺の横腹を少しだけ蹴る。
 俺はそれに従って進む。対外的には馬みたいな扱いした方が多くの人が理解しやすいのだ。勝手に動くなどは説明するのが面倒だ。

 そして俺はもう二人の冒険者によって開かれた扉をくぐり、冒険者ギルドの中に入った。
 そこは荒れていた。

 多くの冒険者が駆けまわっている。
 特に街専属だと思われるバッチを着けた冒険者がドタドタと床を踏み鳴らすのも厭わずに駆けまわっていた。それに冒険者ギルドの職員も慌ただしそうに動き回っている。

 ただ、そこには血の臭いが常に付きまとっていた。
 そこは野戦病院と化していた。

 生臭く、ドロドロな臭いがする。空気は重く、どんよりとしている。肉が焼けた臭いと腐った臭いがする。外とは比較にならないほどだ。
 外は比較的軽症の人か、助からない人がいたのだ。そして冒険者ギルド内はそうでない人たちがいる。
 
 だから冒険者と職員だけでなく、修道服を身に纏った神官たちが怒声を響かせている。けれど、怒声であろうとそこには優しさが奥底にあった。
 動ける男や子供が抱えられる道具や包帯、薬品などを持ち運んでいる。緊迫した世界がそこにはあった。

『ヘルメス』
『待て、手続きと現状を聞いてからだ。じゃなきゃ、邪魔になるだけだ』
『……分かった』

 どうやらライゼは我慢できなくなったらしい。
 ここに来るまでも下唇をずっと噛んでいたしな。流石に、耐えられないのだろう。ライゼは人を笑顔にしたいと思ってここで生きている。

 そりゃあ、自分が生きるという最優先事項だが、それでも人が目の前で死んでいくのは耐える事ができない。少なくともそれに抗うくらいの行動はしなければ気が済まない。
 そういう性分なんだと思う。

 俺やレーラーは少しだけ違うが。

 ライゼは俺の背からスルリと降りると荒れるように書類仕事をしている受付所に駆け足で移動する。もちろん、冒険者ギルド内を動き回っている人たちの邪魔にはならないようにだ。
 俺もライゼを追ってスルスルと人の波を抜けていく。

「忙しいところすみません!」

 ライゼは忙しくして周りを見えていなさそうな受付員に聞こえるように鋭く明瞭に声を発する。
 一人の受付員がライゼの方を鬱陶しく見た。それは当たり前だろう。死ぬほど忙しくて一刻を争っているのだから。

 だから、ライゼは冒険者カードを見せながら簡潔にハキハキと素早く言う。

「僕はライゼ、Cランク冒険者で“万能凡人”です。飯、薬の調合、回復魔法、医術、その他諸々何でもできます。それとこっちのトカゲの荷物の中に魔法薬や保存食が数百程度あります」

 そこで一旦切ってライゼはもう一度口を開く。

「Eランク程度の報酬で受けます。こっちのトカゲも働けます」

 無償ではできない。
 偽善、もしくは善意で善行を為そうにも無償では何もできないのがこの世の仕組みだ。いや、できる事にはできるが続けられないのだ。

 元手がなくては誰かに施すことはできないし、営利でなくとも対価を受け取らなければ、それに着け込み善行を汚す存在が現れる。
 そんな存在が現れないためにも、そして現れたとしてもそれを消す為には有償でなくてはならないのだ。

「分かったッ! 回復魔法はどれくらい使えるッ!?」
「医術と併用で百数人ほど。瀕死者が多ければ数は減ります」

 ライゼは俺の横腹に付けていた魔法袋などの荷物から食料を取り出していく。
 また、ライゼが直接使う必要がない治癒薬も取り出していく。

 ライゼの回答とそれを見ていた受付員は身体を捻り、後の受付職員しか入れないエリアに顔を向ける。

「ナライッ!」
「はいっ!」

 そして何処までも響き明瞭な大声を響かせる。
 また、それに呼応する様に若い男性の声が聞こえた。

「こちらはライゼ、医療班に、特定医療上務冒険者として回せ。命令系統の二番に彼を組み込むように伝達しろ。俺のからの命令だと言えッ!」
「畏まりましたッ!」

 そしてナライと呼ばれた巨躯な若い青年がライゼに一礼する。
 ライゼは軽く頭を下げた後、受付員に顔を向ける。

「こっちは血の付く保存食、こっちは疲労回復などの滋養強壮がある保存食です。他はスープにしやすく、水で飲み込みやすい保存食です。代金は後でいいので回してください」
「助力、感謝する」

 そしてライゼはナライの案内で駆け足で移動した。
 俺も移動する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...