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第二部 四章:つい青い芝生が目の前にあっ
五話 空から落ちてくる少女
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ただ、全方位から襲う氷の嵐の中にいようと、もちろんライゼが簡単にやられるわけはない。
氷の嵐に直撃する寸でで魔力を練り、最初に己の魔法耐性を高める。
それによって、氷の花弁はライゼの全身を切り裂き、既にボロボロな飛行帽や深緑ローブなどが更にボロボロになっていくが、しかし、致命傷にはならない。
心臓と顔、そして急所を魔法耐性と物理耐性共に高い“森顎”と“森彩”で守っている事もあり、せいぜい、深い切り傷が体のあちこちにでき、血が吹き出るくらいである。
これくらいならば、ライゼは慣れている。幾度もレーラーの無茶ぶりによる実践訓練で幾度も味わった。酷いときには一週間くらい生死を彷徨いかけた事もある。
だからこそ、ライゼは全身を襲う激痛の中、魔法を発動させる。発動させることができたのだ。
――キュウエ?――
放出魔力がほぼないから弱いと侮っていた敵がようやく死ぬと思っていたのに、何故か死なない敵に、手を緩めることなく凍結華鳥たちは一斉に首を傾げる。
突然現れた魔法反応に警戒を高める。
それは、ライゼを中心とした球状の障壁だった。透明に輝く障壁だった。
しかし、先程の〝防御する魔法〟とは違う。
割れる事はない。それどころか、氷の花弁が逸れていく。氷の花弁が球状の障壁を滑り、あらぬ方向に飛んでいくのだ。また、あらぬ方向へ飛んで行った氷の花弁は他の氷の花弁にあたる。
嵐が弱まる。
〝魔法を逸らす魔法〟である。
ライゼは〝防御する魔法〟と〝誰か魔法を操る魔法〟を合成して、逸らすための防壁を作ったのだ。まぁ、しかし、〝誰か魔法を操る魔法〟はライゼが創り出したとはいえ、まだ完璧に使いこなしていない。
だから、魔法を行使するには時間が必要だったのだ。
時間さえあれば、激痛によって意識が点滅しようとも行使できる。
「クッ」
だが、しかし、ライゼが〝魔法を逸らす魔法〟を行使したことで、ライゼを襲う氷の嵐は烈風の如く、猛威を振るい始める。
聖位の魔物が数十に、中位の魔物が百近くが、今なお抗う敵に死ぬ気の全力を注いでいるのだ。
ライゼを殺そうとしているのだ。
いくら〝魔法を逸らす魔法〟とはいえ、逸らす事に、受け流すことに特化しているとはいえ、それでもゆっくりと甲高い音と共に軋みを上げ、ヒビが入っていく。
「ハァッッ!」
ライゼは裂帛の叫びと共に、必死になって体内と“魔倉の腕輪”の魔力を練り、〝魔法を逸らす魔法〟を維持していく。
また、舌を噛んで意識を保ちながら、血が染め上げ、力が入らない右腕を無理やり動かして、同じく血に色塗られた“森顎”の柄を内側へ折り曲げ、構える。
〝魔法を逸らす魔法〟が破られた瞬間に凍結華鳥たちを殺せるようにしているんのだ。
それでも、“森顎”に装填されている“宝石銃弾”は普通の銃弾だ。“森彩”の“宝石銃弾”の様に、この状況を打破できるものではない。
そして、“森彩”の回転式“宝石倉”をリロードしようにも、血に沈んだ左腕が動かないからそれができない。
触れずに取り替えられる装備は一応あるが、しかし、ライゼは今、それを装備していない。
装備するのに少しだけ手間がかかるのと、日常的に装備するには邪魔なのだ。
「ッ」
そして、やはりというべきか、ライゼの体内魔力が尽き、また、“魔倉の腕輪”の魔力も尽きてしまった。
今度こそ、氷の颶風が為す術のないライゼを襲う。
……まぁ、レーラーが助けるから大丈夫だ――
「そこのクソ森人ッ! 何故、動かないのですかッ!?」
――と思ったら、空からシスター服姿の女の子が降ってきて、氷の暴風を吹き飛ばした。
凍結華鳥たちは吹き飛ばされ、また、突然現れたシスターに警戒を募らせる。
「大丈夫ですか?」
氷の暴風を吹き飛ばしたのは尖った耳が白銀の宝石で覆われている岩人《ドワーフ》の少女。
ライゼよりも少し高い背ではもてないであろう漆黒に輝く二メートル以上の金棒を、シスター服を纏う褐色の少女が振るい、竜巻を起こしたのだ。
黄金の瞳にシスター服から覗かせる腰まである夜空色の艶やかな長髪。尖った耳の周りは白銀の宝石で覆われている。
体型はある程度出るところは出ていて、しかし、物静かな印象を抱かせる黒の紋様が所々描かれている真っ白なシスター服を身に纏っているおかげで、その他は分りづらい。
この世界の岩人は、ロリでもないし、髭もじゃでもない。
ただただ、耳とその周りが宝石で覆われているだけである。
だから、顔はロリっぽいわけではない。
平凡だ。まぁまぁ整っている普通な顔立ち。身に纏う雰囲気を除けばどこにでもいる物静かな少女だ。
しかし、ライゼに優しく労わる様に微笑みは、清純さというか、母性というか、シスター服なのだからだろうが、神神しく美しい。
聖母という雰囲気だ。
「……」
そんな腰まである黒髪を靡かせた岩人の少女は、器用に手首の回転だけで巨大な黒金棒を背中に背負い、血に染まったライゼをお姫様抱っこする。
シスター服が赤黒くなるが、彼女は気にしていない。
「意識はありますか」
彼女はライゼを抱えたまま着地する。
そして、氷の大地に優しくライゼを寝かせる。
「……」
ライゼは呆然。
ただ、彼女に言っていることは理解できるのか、無意識に頷く。
「なら、良かったです」
その頷きにシスター服の彼女は心底安心したように微笑み、また、未だに全身の傷から血が溢れているライゼの前で祈り手をする。
そっと妙な調べを呟く。
「〝聖典の輝き〟」
瞬間、ライゼが温かな夜空の光に包まれる。
「傷は塞ぎました。けれど体力や血は失われていますので、安静にしてください」
にっこりと笑った彼女は立ち上がり、背中に納めていた黒金棒を軽々しく右手で抜き取り、正眼に構えた。
そして暴風を体現した。
氷の嵐に直撃する寸でで魔力を練り、最初に己の魔法耐性を高める。
それによって、氷の花弁はライゼの全身を切り裂き、既にボロボロな飛行帽や深緑ローブなどが更にボロボロになっていくが、しかし、致命傷にはならない。
心臓と顔、そして急所を魔法耐性と物理耐性共に高い“森顎”と“森彩”で守っている事もあり、せいぜい、深い切り傷が体のあちこちにでき、血が吹き出るくらいである。
これくらいならば、ライゼは慣れている。幾度もレーラーの無茶ぶりによる実践訓練で幾度も味わった。酷いときには一週間くらい生死を彷徨いかけた事もある。
だからこそ、ライゼは全身を襲う激痛の中、魔法を発動させる。発動させることができたのだ。
――キュウエ?――
放出魔力がほぼないから弱いと侮っていた敵がようやく死ぬと思っていたのに、何故か死なない敵に、手を緩めることなく凍結華鳥たちは一斉に首を傾げる。
突然現れた魔法反応に警戒を高める。
それは、ライゼを中心とした球状の障壁だった。透明に輝く障壁だった。
しかし、先程の〝防御する魔法〟とは違う。
割れる事はない。それどころか、氷の花弁が逸れていく。氷の花弁が球状の障壁を滑り、あらぬ方向に飛んでいくのだ。また、あらぬ方向へ飛んで行った氷の花弁は他の氷の花弁にあたる。
嵐が弱まる。
〝魔法を逸らす魔法〟である。
ライゼは〝防御する魔法〟と〝誰か魔法を操る魔法〟を合成して、逸らすための防壁を作ったのだ。まぁ、しかし、〝誰か魔法を操る魔法〟はライゼが創り出したとはいえ、まだ完璧に使いこなしていない。
だから、魔法を行使するには時間が必要だったのだ。
時間さえあれば、激痛によって意識が点滅しようとも行使できる。
「クッ」
だが、しかし、ライゼが〝魔法を逸らす魔法〟を行使したことで、ライゼを襲う氷の嵐は烈風の如く、猛威を振るい始める。
聖位の魔物が数十に、中位の魔物が百近くが、今なお抗う敵に死ぬ気の全力を注いでいるのだ。
ライゼを殺そうとしているのだ。
いくら〝魔法を逸らす魔法〟とはいえ、逸らす事に、受け流すことに特化しているとはいえ、それでもゆっくりと甲高い音と共に軋みを上げ、ヒビが入っていく。
「ハァッッ!」
ライゼは裂帛の叫びと共に、必死になって体内と“魔倉の腕輪”の魔力を練り、〝魔法を逸らす魔法〟を維持していく。
また、舌を噛んで意識を保ちながら、血が染め上げ、力が入らない右腕を無理やり動かして、同じく血に色塗られた“森顎”の柄を内側へ折り曲げ、構える。
〝魔法を逸らす魔法〟が破られた瞬間に凍結華鳥たちを殺せるようにしているんのだ。
それでも、“森顎”に装填されている“宝石銃弾”は普通の銃弾だ。“森彩”の“宝石銃弾”の様に、この状況を打破できるものではない。
そして、“森彩”の回転式“宝石倉”をリロードしようにも、血に沈んだ左腕が動かないからそれができない。
触れずに取り替えられる装備は一応あるが、しかし、ライゼは今、それを装備していない。
装備するのに少しだけ手間がかかるのと、日常的に装備するには邪魔なのだ。
「ッ」
そして、やはりというべきか、ライゼの体内魔力が尽き、また、“魔倉の腕輪”の魔力も尽きてしまった。
今度こそ、氷の颶風が為す術のないライゼを襲う。
……まぁ、レーラーが助けるから大丈夫だ――
「そこのクソ森人ッ! 何故、動かないのですかッ!?」
――と思ったら、空からシスター服姿の女の子が降ってきて、氷の暴風を吹き飛ばした。
凍結華鳥たちは吹き飛ばされ、また、突然現れたシスターに警戒を募らせる。
「大丈夫ですか?」
氷の暴風を吹き飛ばしたのは尖った耳が白銀の宝石で覆われている岩人《ドワーフ》の少女。
ライゼよりも少し高い背ではもてないであろう漆黒に輝く二メートル以上の金棒を、シスター服を纏う褐色の少女が振るい、竜巻を起こしたのだ。
黄金の瞳にシスター服から覗かせる腰まである夜空色の艶やかな長髪。尖った耳の周りは白銀の宝石で覆われている。
体型はある程度出るところは出ていて、しかし、物静かな印象を抱かせる黒の紋様が所々描かれている真っ白なシスター服を身に纏っているおかげで、その他は分りづらい。
この世界の岩人は、ロリでもないし、髭もじゃでもない。
ただただ、耳とその周りが宝石で覆われているだけである。
だから、顔はロリっぽいわけではない。
平凡だ。まぁまぁ整っている普通な顔立ち。身に纏う雰囲気を除けばどこにでもいる物静かな少女だ。
しかし、ライゼに優しく労わる様に微笑みは、清純さというか、母性というか、シスター服なのだからだろうが、神神しく美しい。
聖母という雰囲気だ。
「……」
そんな腰まである黒髪を靡かせた岩人の少女は、器用に手首の回転だけで巨大な黒金棒を背中に背負い、血に染まったライゼをお姫様抱っこする。
シスター服が赤黒くなるが、彼女は気にしていない。
「意識はありますか」
彼女はライゼを抱えたまま着地する。
そして、氷の大地に優しくライゼを寝かせる。
「……」
ライゼは呆然。
ただ、彼女に言っていることは理解できるのか、無意識に頷く。
「なら、良かったです」
その頷きにシスター服の彼女は心底安心したように微笑み、また、未だに全身の傷から血が溢れているライゼの前で祈り手をする。
そっと妙な調べを呟く。
「〝聖典の輝き〟」
瞬間、ライゼが温かな夜空の光に包まれる。
「傷は塞ぎました。けれど体力や血は失われていますので、安静にしてください」
にっこりと笑った彼女は立ち上がり、背中に納めていた黒金棒を軽々しく右手で抜き取り、正眼に構えた。
そして暴風を体現した。
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