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第二部 四章:つい青い芝生が目の前にあっ

二話 狙撃という暴力

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 一つ目は、“森顎”と“森彩”の使用は魔物相手だけである事。人類相手には使ってはいけない。というか、“魔倉の腕輪”以外の魔道具は人間相手に使用してはいけない。ただし、魔法アクセサリーは可。
 また、魔物と戦うのは基本的にライゼである。ライゼ一人では対応しきれなくなったら、レーラーも戦う。

 二つ目は、人類相手と戦う際は相手が盗賊や犯罪者、戦士、魔法使いであろうと“身体強化”と〝攻撃する魔法アングルドゥ〟、〝防御する魔法ファタエディドゥ〟、〝回復する魔法エフォロードゥ〟、そして〝誰か魔法を操る魔法ダイングフェットミア〟以外は使ってはいけない。

 それとできる限り人類を殺してはいけない。命の危機があった場合は可。できる限り殺さずに、リスクを排除しろというわけである。
 命は限られてるし、儚いから奪うのは面倒だというレーラーの考えである。まぁ、それでも奪う時は容赦なく奪っているが。

 ただ、この世界で、町人や衛兵、貴族を殺すことは大罪に値するが、しかし、人類を殺すこと自体はそこまで罪に問われない。
 人の命自体は軽い。役職と所属によって命の重さが変わる。

 前世の倫理など通用しないのだ。世界の成り立ちが違うのだ。

 そもそも貴族社会である。いや、力と守護の社会といった方がいい。
 町人や衛兵は貴族の所有物であるから、殺すと大罪になるが、旅人や盗賊などを殺してもそこまで罪に問われない。というか、罪にならない事の方が多い。

 冒険者は、ランクに応じて対応が変わる。
 特にCランク以上だと、死刑すら生ぬるい罪に問われる。それ以下でも、町内や都市内で殺した場合は、ランクに関わらず大罪にされる。
 冒険者ギルドを敵に回すからだ。

 最初は首を捻ったが、魔物が跋扈し、また、魔人との抗争が人類の歴史の主だった事もあり、納得はしてなくとも理解はしている。
 俺が否を唱える事はない。

 まぁ、他にも幾つかあるが、ライゼはそれらをレーラーに課せられているのだ。
 弟子であるライゼはそれに従うしかない。もちろん、それら全てにレーラーの考えがあり、それを聞いているライゼは納得している。

 だから、ライゼはこげ茶の飛行帽と深緑のゴーグルを身につけたまま、腰に下げている“森顎”を右手で抜き取る。
 羽織っている羽毛が付いた深緑ローブなどは、見た目よりも重くない。大して戦闘の邪魔にはならないので、寒さ対策を優先する。

 そして、ライゼは徐に“森顎”の上部の銃口に懐から取り出した大きい紅い“宝石銃弾”を入れる。
 未だに“森顎”の“宝石倉”の取り換えの簡略化はできていないが、しかし“森顎”が持つ“宝石銃弾”以外を放つ事ができる特性を利用して、特殊な“宝石銃弾”を銃口から装填できるようにした。

 ライゼは、それから魔力でギミックを操作して、“森顎”の柄の部分を内側に30度折り曲げ、半身を取り、“森顎”を構える。
 深緑ゴーグルの奥のこげ茶の瞳で凍結華鳥の放出魔力を捉える。木々に遮ら得られようと、“森顎”の銃口は問題なく一キロ先で寛いでいる凍結華鳥を捉える。

 風の流れを捉え、また、木々による影響を計算に入れ、ライゼは“森顎”の銃口を僅かにずらし、深く深く息を吐く。
 そして“身体強化”を発動させ、己の身体能力を全て強化した瞬間。

「解放」

 紅い“宝石銃弾”が音もなく銃口から飛び出した。
 “宝石銃弾”は爆発で飛ばしているわけではないので、また、普通に“森顎”の消音性能を高めているため、音はないのだ。また、魔力隠蔽も施している。

 そして二秒後。
 魔法というニュートンの第一、第二、第三法則をガン無視した加速と挙動によって、音の世界すら置き去りにした銃弾により爆音が響き、黒煙が上がる。

「終わった」

 ライゼは、しっかりと凍結華鳥の魔力反応が消え、魔石の魔力反応だけが残る事を確認した後、“森顎”を降ろした。
 と、瞬間、後に倒れ込む。

「大丈夫?」
「……ちょっと疲れたよ」

 先程の紅い“宝石銃弾”は特別製だ。
 一キロ半程度加速しながら飛び、また、定めた魔力反応を持つ対象を貫いた瞬間、中級程度の爆炎系の魔法が発動する特別製の“宝石銃弾”である。

 普通の“森顎”で使う“宝石銃弾”の飛距離は六十メートルほどだ。
 また、込めてある自由な魔法もせいぜい下級程度である。

 ただし、それは量産性の“宝石銃弾”の場合だ。
 二週間分の魔力を全て溜めた“魔倉の腕輪”の魔力を、全消費して作る“宝石銃弾”は例外なのだ。
 あらゆる性能を向上させて、遠方にいる上位の魔物すら確実に撃ち殺すのだ。

 だが、その“宝石銃弾”を作るのはもちろんのこと、撃つことすら大変だ。
 砂浜の上で、短距離走の選手と同等な速度で一時間以上走っても疲れる事を知らないライゼでさえ、今は倒れ込むほど疲れるのだ。

 〝物体を射出する魔法オピエシュピッツォン〟による反作用の反動に耐え、ブレることなく“宝石銃弾”を狙い違わず撃ち込む。
 “森顎”に組み込まれている基本的な加速と回転、その他諸々の魔道具を必要以上に発動させる為の魔力消費。

 何より、放出魔力しか捉える事のできない動く対象を捉え、頭の位置を予測し、寸分違わず射撃する為の集中。
 未だに、銃機能を十二分に使いこなせていないライゼにはとても疲れるのだ。

 まぁ、それでも常人よりは銃機能を扱えているとは思うが。

 ……狙撃用を作るか? 
 ぶっちゃけ、“森顎”では無理があるしな。検討しよう。

 と、俺が首を捻っていると、レーラーが屈みこみ、倒れ込んでいるライゼの顔を除く。

「数分休んだら、魔石を回収するよ。魔物に喰われたら厄介だし」

 魔物が魔石を喰らうと急激な成長をする。また、人類を喰っても同様に急激な成長をする。
 共に、悪魔の性質を受け継いでる。悪魔は同族を倒すと階位や爵位が上がる。また、人間の血肉を喰らうとこの世界に受肉して凄まじい力を得る。
 子は親に似るのだ。

「……いや、ヘルメスに乗っていくよ」

 ライゼは少しだけ考えた後、俺にチラリとこげ茶の瞳を向けた後、そう言った。
 レーラーはそう、と頷いた。

『あいよ』

 俺も頷き、倒れ込んでいるライゼを尻尾を使って器用に背中に乗せる。それから、黒煙が未だに立ち昇る方向へと足を進める。
 レーラーは履いたブーツで氷を踏みしめ、俺の先を歩く。
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