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第二部 四章:つい青い芝生が目の前にあっ

一話 氷の国境村

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 革袋や革鞄を横腹に付けた大蜥蜴の俺の背中に乗るローブ姿の男女が二人。
 ライゼとレーラーである。

 盆地であるせいか、ここ一帯は雪が降らないが、しかし、この地域は世界でも最も寒い地域に分類されている。雪は降っていないが、俺が踏みしめる大地は氷に覆われている。
 それでもその氷大地から堅き自分の背を伸ばし、極寒に耐える木々には恐れ入るが、ライゼとレーラーにそんな事はできない。

 なので、二人とも首元や袖元などに羽毛がついたローブを纏っている。レーラーは新緑のローブ、ライゼは深緑のローブである。
 また、レーラーは耳当てが付いた灰色のコサック・キャップを、ライゼはこげ茶色の飛行帽と深緑色のゴーグルの身に着けていた。
 
 ライゼの方が重装備なのは、子鬼人という種族が寒さに少しだけ弱いのと、ライゼが〝体を温める魔法クーパヴァマァ〟を恒久的に使えないためだ。
 レーラーは〝体を温める魔法クーパヴァマァ〟を常時発動しても、その魔力消費が戦闘に影響を与える事は全くないが、ライゼの場合は幾度となく体内魔力を使い果たしてしまうため、体力と精神力を消耗する。

 もちろん、その消耗を抑えたり、耐えたりする訓練は毎日やっているのだが、今は魔物の、しかも上位以上の魔物の討伐に向かっている。
 戦いの前に無駄な消耗は控えたかったのだ。

 そのため、しっかりとした防寒着と俺が作った防寒用の魔道具を身に着けているのだのだ。なので、ライゼは寒そうにしていない。
 吐く息は白く宙を染め上げているのにも関わらず。

『ヘルメス、今日中に済ませたいから』
『ああ、分かってる』

 俺はようやく慣れてきた氷の大地を力いっぱい蹴り、逞しい木々の間をすり抜けていく。
 街道すらないこの地域で、しかし、街道らしき道はある。多くの人たちが踏みしめて創り出した氷の道がある。

 俺はその道をさらに踏みしめ固めていく。
 そしてその足跡の道――この地域では足踏み道と言うらしい――の先に、討伐目標の凍結華鳥がいるはずである。


 Φ

 
 切っ掛けは、ナファレン王国を越え、ウォーリアズ王国国境付近で補給の為に村に寄った事だ。
 レーラーの友人の状態もあるのでなるべく急いで移動していたのだが、流石に二ヶ月半も村や町に寄らないと、調味料や肉、油、生活必需品が足りなくなってくる。
 
 なので、国境を越えた旅人がよく訪れる村で物資の補給をしたのだ。
 村ではあるが、旅人が訪れるため行商人が多くの物資を持ってくるらしい。村はそれを買い取り、旅人たちに売っている。

 村であるのに、生活は豊かなものであった。

 ただ、そんな村に問題が生じた。
 行商人が使う氷の足踏み道に魔物が現れたらしい。しかも、運が悪い事に魔人の集団が魔物を引く連れてウォーリアズ王国の東側に現れたため、冒険者や騎士などがそっちに行ってしまったらしい。
 
 そのため売るための物資の貯蓄はあるものの、行商人が来ることが困難になり、このままいけば旅人に売るための物資がなくなるのだという。
 それは村だけでなく、冷たく氷が埋め尽くす国境を越えてきた旅人には死活問題なのだ。

 そのため、村はCランク冒険者のレーラーにその魔物の討伐を依頼したのだ。
 Cランク冒険者は冒険者の強さとしては上位に入る。DランクとCランクの間には大きな差があるのだ。

 ただ、レーラーは旅を急いでいた事もあり、依頼を受けはしたものの報酬は前払いなどと色々と吹っ掛けた。
 戻る時間が惜しかったのだ。

 しかし、思ったよりその村の村長は切れ者というか、ギャンブラーというか、二つ返事でその吹っ掛けを了承した。
 レーラーは少しだけ面白がり、討伐は直ぐに決行されることになった。

 ライゼは温かなシャワーと真っ白なシーツの上で寝たいと珍しくゴネたが、それは叶わなかった。
 普段の様子からは分かりづらいがライゼはレーラーの弟子なのだ。

 という事で、朝過ぎに付いた村を昼前に出て、俺達は足踏み道を進んでいた。
 ところで、俺は蜥蜴用の防寒着をずっと探している。防寒用の魔道具を身に着けているとはいえ、〝体を温める魔法クーパヴァマァ〟は何故か俺には効果がなかったのだ。

 とても寒い。
 足が冷たい。


 Φ


『止まって』
『ああ』

 そんな寒さに耐えて走り続ける事三時間。目的の場所に辿り着いた。
 と言っても、その目的の場所は一キロ先なのだが。

「ライゼ」
「うん」

 しかし、レーラーもライゼも、そして俺も“魔力感知”の範囲はとても広い。
 そして、相手は魔物だ。魔物は特殊な存在と隠密行動時を除いて自身の放出魔力を隠すことはしない。むしろ誇示する。

 それが力の象徴であり、魔物の習性だ。魔力量で爵位が決まる悪魔の性質を受け継いだのだ。
 まぁ、人類種の魔法使いも魔力を誇示する。あれも力の象徴だからな。

 なので、一キロ離れていようと、また、木々によって見えなかろうと凍結華鳥が放つ魔力は問題なくここから捉えられた。

「強いね」
「うん。私が知ってる凍結華鳥でも一番だ。上位じゃなくて聖位くらいかも」

 魔物の階級は初位、下位、中位、上位、聖位……と続く。聖位は最低でもBランク冒険者程度の力の者が対応する。
 Bランク冒険者の強さは分かりやすく言えば、人類の中でも上位十パーセントに入るくらいである。強い。

「……いつも通り僕がやるんだね」
「うん。魔物相手には“森顎”と“森彩”を使っていいんだし、余裕でしょ」
「……そうでもないんだけど」

 レーラーはライゼに幾つかの枷を課している。
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