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第二部 三章:溶けた雪は物寂しい
一話 迂回
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「え?」
俺の背に乗るレーラーが珍しく驚いた声を上げる。ついでに、翡翠の水晶が浮いている木製の大きな杖を人間相手に珍しく取り出し、杖先を向けている。
「嘘は?」
「あ、ありませんぜぇ!」
「……」
そんな木製の大きな杖を向けられた盗賊は、縄でグルグル巻きにされて縮こまっている。顔を引き攣らせ、寒いのに全身から汗を垂れ流している。
着ている服はボロボロで、また、ほぼ裸だ。
ライゼが盗賊をしばき、身包みを剥いだのだ。
多少の衣服と武器だったが、売れば二日ぐらいは町で過ごせるお金になる。ライゼは、旅を始めてから八か月近くで立派な守銭奴になっていた。
レーラーの金遣いが意外に荒かったのと、旅には何かとお金が必要であることが理解できたからだ。また、魔導書や本を買ったりするのに自分のお金も欲しいのだ。
まだまだライゼの貯金は十分にあるが、それでも希少な本を買う場合、少し心許ない。なので、お金には厳しくなった。
「ライゼ、どうしようか」
「そう言われても……でも、最後の港町から二カ月間も人里によってないから、町に降りてみる? 情報はあるだろうし」
「……急ぎたいからね。寄り道は……」
時間感覚がとてもゆっくりなレーラーは珍しく時間を気にしている。
まぁ、それでもライゼよりはルーズではあるが。
俺達はレーラーの友人のところへ向かっている。旅の報告と看取りのためだ。
それでレーラーにしてはまめなのか、その友人とは使い魔を使って簡単な手紙のやり取りをしていたらしい。
そして、友人の体調が悪くなったことを知ったのだ。
年越しをした港町を出てから、直ぐだった。
ただ、手紙には死ぬのはあと二年後だとしっかり明記されていたので、レーラーは転移魔法や浮遊魔法を無理やり使って移動するのではなく、普通に急いで移動することを選んだ。
そうしろと友人の手紙に書いてあったそうだ。
死ぬ日時が分かっているのは不思議だが、レーラーは何の疑問も持っていなかったので、事情があるのだろう。
まぁ、という事で、レーラーは足を使って、急いで移動していたのだ。
だが、通るはずの街道が雪崩によって塞がれてしまったらしい。
盗賊たちは、その情報を知らない旅人にその情報を与え、道案内と称して罠へ誘導するつもりだったらしい。それと雪崩が起きた場所に陣取り、情報を知らず来てしまった旅人が戸惑ったところを襲うつもりだったそうだ。
自分の商売情報を間違えるわけはないだろうし、ライゼとの戦いを見た感じ、統率は取れていて頭も回っていた。
その情報は確実だろう。ここで嘘をついて死んでは意味はない。
「……あ、確か近くに村があった」
「……それっていつの記憶?」
レーラーが村があったと言って、あったためしが殆んどない。レーラーの記憶が古すぎで滅んだのだ。
なので、ライゼは疑う。
「……四十年前かな」
「なら、ありそうだね」
そうして、俺達は雪崩によって塞がれた街道を迂回するために、北西へと足を進めた。
盗賊がどうなったかは知らん。
身包みは剥いだが、俺達がその場を去るときに縛っていた縄は切った。
後は彼らの自由だろう。
Φ
「……これだから、人族の村は」
「八つ当たりじゃん」
フラグを立ててしまったためか、村は滅んでいた。
ただ、この村に向かう途中に犬人の行商人に会い、情報を得る事はできた。
『で、どうする。今すぐここを発って、おっさんに教えてもらった道を進むか?』
ここで食料やら何やらの補給ができればと思ったが、それは望めない。
今はまだ、昼だ。もう少し先へ進めるし、この先は平原であるから、野宿もしやすい。
『……ちょっと待って』
そう思ったのだが、レーラーは滅んだ廃村を探索し始めた。
まるで、何かを探しているように、回り始めたのだ。
俺とライゼは少しだけ首を傾げながらも、レーラーの後を追う。そうして、無駄に広く、一軒一軒が離れている廃村の中央に辿り着いた。
そこには一人の男の銅像があった。
銅像の男は大層なイケメンであった。
だが、剣を掲げている右手には苔が生えまくり、所々崩れている。滅びた銅像だった。
しかし、俺らはこの銅像を知っている。
ここ八か月近くの旅で、何度も目にしてきた。都市で、大きな町で、小さな町で、村で、何度も何度も目にしてきた。
年越しをした港町にもあった。
その銅像はこの世界を救った勇者の銅像だった。
「酷い」
ライゼはその銅像を見て、悲しそうに呟いた。
レーラーは黙って銅像を見上げていた。
「今日はここで野宿をするよ。幸い、雨風を凌げる場所はあるようだし」
レーラーは古びた小さい教会を見た。それ以外の平屋はボロボロで屋根などはない。けれど、教会だからこそか、小さな教会は草木に覆われていながらも激しい損傷はなく、壁が少しだけ剥がれている程度。
お昼を過ぎ、草木から漏れる木漏れ日に照らされていて、いい味がある。
〝視界を写す魔法〟で撮っておくか。
「うん、わかったよ」
ライゼはそう頷いた後、小さいな教会に入るために、魔法を使って覆っている草木をほどよく切っていく。
レーラーはそれを尻目に銅像をずっと見ていた。
そうして、俺達は小さな教会で最低限の寝泊りの準備をした後、銅像を綺麗にしていった。
〝汚れを落とす魔法〟で汚れを落としたり、水で濡らした雑巾で拭いたり、また、〝錆を落とす魔法〟で錆を落としたりした。
因みに、〝錆を落とす魔法〟は年越しをした港町で手に入れた偽物の魔導書の情報からレーラーが魔法理論を組み立てた魔法である。
微妙に魔導言語が残っており、レーラーが言うには創ったけど書けなかったパターンではという事だ。
まぁ、断片的な情報からそこまでの魔法理論を組み立てて実行する事が既に凄いのだが。ライゼだってできない。俺もできない。
また、俺が金属を操って禿げていた部分を修復したり、とある魔道具をこっそり組み込んだりした。
そうして、銅像を綺麗にしたころには夕方になっていた。
俺の背に乗るレーラーが珍しく驚いた声を上げる。ついでに、翡翠の水晶が浮いている木製の大きな杖を人間相手に珍しく取り出し、杖先を向けている。
「嘘は?」
「あ、ありませんぜぇ!」
「……」
そんな木製の大きな杖を向けられた盗賊は、縄でグルグル巻きにされて縮こまっている。顔を引き攣らせ、寒いのに全身から汗を垂れ流している。
着ている服はボロボロで、また、ほぼ裸だ。
ライゼが盗賊をしばき、身包みを剥いだのだ。
多少の衣服と武器だったが、売れば二日ぐらいは町で過ごせるお金になる。ライゼは、旅を始めてから八か月近くで立派な守銭奴になっていた。
レーラーの金遣いが意外に荒かったのと、旅には何かとお金が必要であることが理解できたからだ。また、魔導書や本を買ったりするのに自分のお金も欲しいのだ。
まだまだライゼの貯金は十分にあるが、それでも希少な本を買う場合、少し心許ない。なので、お金には厳しくなった。
「ライゼ、どうしようか」
「そう言われても……でも、最後の港町から二カ月間も人里によってないから、町に降りてみる? 情報はあるだろうし」
「……急ぎたいからね。寄り道は……」
時間感覚がとてもゆっくりなレーラーは珍しく時間を気にしている。
まぁ、それでもライゼよりはルーズではあるが。
俺達はレーラーの友人のところへ向かっている。旅の報告と看取りのためだ。
それでレーラーにしてはまめなのか、その友人とは使い魔を使って簡単な手紙のやり取りをしていたらしい。
そして、友人の体調が悪くなったことを知ったのだ。
年越しをした港町を出てから、直ぐだった。
ただ、手紙には死ぬのはあと二年後だとしっかり明記されていたので、レーラーは転移魔法や浮遊魔法を無理やり使って移動するのではなく、普通に急いで移動することを選んだ。
そうしろと友人の手紙に書いてあったそうだ。
死ぬ日時が分かっているのは不思議だが、レーラーは何の疑問も持っていなかったので、事情があるのだろう。
まぁ、という事で、レーラーは足を使って、急いで移動していたのだ。
だが、通るはずの街道が雪崩によって塞がれてしまったらしい。
盗賊たちは、その情報を知らない旅人にその情報を与え、道案内と称して罠へ誘導するつもりだったらしい。それと雪崩が起きた場所に陣取り、情報を知らず来てしまった旅人が戸惑ったところを襲うつもりだったそうだ。
自分の商売情報を間違えるわけはないだろうし、ライゼとの戦いを見た感じ、統率は取れていて頭も回っていた。
その情報は確実だろう。ここで嘘をついて死んでは意味はない。
「……あ、確か近くに村があった」
「……それっていつの記憶?」
レーラーが村があったと言って、あったためしが殆んどない。レーラーの記憶が古すぎで滅んだのだ。
なので、ライゼは疑う。
「……四十年前かな」
「なら、ありそうだね」
そうして、俺達は雪崩によって塞がれた街道を迂回するために、北西へと足を進めた。
盗賊がどうなったかは知らん。
身包みは剥いだが、俺達がその場を去るときに縛っていた縄は切った。
後は彼らの自由だろう。
Φ
「……これだから、人族の村は」
「八つ当たりじゃん」
フラグを立ててしまったためか、村は滅んでいた。
ただ、この村に向かう途中に犬人の行商人に会い、情報を得る事はできた。
『で、どうする。今すぐここを発って、おっさんに教えてもらった道を進むか?』
ここで食料やら何やらの補給ができればと思ったが、それは望めない。
今はまだ、昼だ。もう少し先へ進めるし、この先は平原であるから、野宿もしやすい。
『……ちょっと待って』
そう思ったのだが、レーラーは滅んだ廃村を探索し始めた。
まるで、何かを探しているように、回り始めたのだ。
俺とライゼは少しだけ首を傾げながらも、レーラーの後を追う。そうして、無駄に広く、一軒一軒が離れている廃村の中央に辿り着いた。
そこには一人の男の銅像があった。
銅像の男は大層なイケメンであった。
だが、剣を掲げている右手には苔が生えまくり、所々崩れている。滅びた銅像だった。
しかし、俺らはこの銅像を知っている。
ここ八か月近くの旅で、何度も目にしてきた。都市で、大きな町で、小さな町で、村で、何度も何度も目にしてきた。
年越しをした港町にもあった。
その銅像はこの世界を救った勇者の銅像だった。
「酷い」
ライゼはその銅像を見て、悲しそうに呟いた。
レーラーは黙って銅像を見上げていた。
「今日はここで野宿をするよ。幸い、雨風を凌げる場所はあるようだし」
レーラーは古びた小さい教会を見た。それ以外の平屋はボロボロで屋根などはない。けれど、教会だからこそか、小さな教会は草木に覆われていながらも激しい損傷はなく、壁が少しだけ剥がれている程度。
お昼を過ぎ、草木から漏れる木漏れ日に照らされていて、いい味がある。
〝視界を写す魔法〟で撮っておくか。
「うん、わかったよ」
ライゼはそう頷いた後、小さいな教会に入るために、魔法を使って覆っている草木をほどよく切っていく。
レーラーはそれを尻目に銅像をずっと見ていた。
そうして、俺達は小さな教会で最低限の寝泊りの準備をした後、銅像を綺麗にしていった。
〝汚れを落とす魔法〟で汚れを落としたり、水で濡らした雑巾で拭いたり、また、〝錆を落とす魔法〟で錆を落としたりした。
因みに、〝錆を落とす魔法〟は年越しをした港町で手に入れた偽物の魔導書の情報からレーラーが魔法理論を組み立てた魔法である。
微妙に魔導言語が残っており、レーラーが言うには創ったけど書けなかったパターンではという事だ。
まぁ、断片的な情報からそこまでの魔法理論を組み立てて実行する事が既に凄いのだが。ライゼだってできない。俺もできない。
また、俺が金属を操って禿げていた部分を修復したり、とある魔道具をこっそり組み込んだりした。
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