転生トカゲは見届ける。~俺はライゼの足なのです~

イノナかノかワズ

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第二部 一章:どこにだって光はある

五話 掘り出し物

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「お客様は、もしくはお客様がプレゼント相手は魔導書をよく読みますか?」
「うん。そうだね」

 移動しながら、初老の男性店員は聞いてくる。
 レーラーは何の躊躇いもなくそれに答える。

「なるほど、そうですか」

 初老の店員は細めで頷きながらも、ニコニコと笑う。喰えない表情である。
 ただ、魔導書をよく読みという事は普通に考えれば金を持っているという事である。流してはいけない情報を流したのではないか。

『大丈夫だよ、ヘルメス』
『何が』
『私の勘では、この初老はいい嗅覚をもってる。そんなへまはしないよ』
『ならいいんだが』

 俺は少し不安になりながらも、レーラーの首元でチロチロと舌を出す。
 トカゲになった時にできた癖だ。

「お客様。こちらはどうでしょうか?」

 と、移動し終わったらしい。
 初老の店員がガスコンロみたいな物を手に取った。

「何それ?」
「こちらは遠征魔導コンロと言いまして、当店が開発した魔道具の一つです。こちらに埋め込まれている火系統の宝石魔法触媒と、幾つかの魔石によって少量の魔力で火を出すことができます」

 初老の店員は説明しながら、遠征魔導コンロについている小さな摘みを引っ張りながら捻る。
 すると、コンロに青白い火が付く。

「また、この遠征魔導コンロは通常の魔導コンロとは違い耐久性などにも優れており、また、とても小型です」

 初老の店員は遠征魔導コンロを一旦商品棚に戻し、似たような大きな魔導コンロをレーラーに見せる。
 レーラーは頷く。

「わたくしの勘によりますと、お客様のプレゼント相手は旅の中で料理をよくしますでしょう?」
「うん、そうだね」

 勘って自由だな。都合が良すぎる。
 あ、でも、レーラーの雰囲気とかを感じると、何となくそう想うのも理解できなくはない。

「なら、火起こしも簡単で、持ち運び便利な遠征魔導コンロを進めます。火の強さも調節できますので、料理の幅も広がると思いますよ」
「うーん」

 レーラーは悩む。
 にしても、この店員、プレゼントっていう事を忘れてないか?
 普通、遠征魔導コンロをプレゼントの候補に挙げないだろ。まぁ、ライゼならそういう旅装備も喜びそうだが。
 しかし。

『レーラー、既に似たような奴、あるぞ』
『……あ、そうだった』

 俺が似たような奴を既に作ったのだ。しかも、その遠征魔導コンロよりも小さい。
 だって、小石だし。
 “携帯火熱石”は火力調整はもちろん、浮いて自由に火の位置も変えられるからライゼは好き好んで使っているのだ。

「悪いけど、間に合ってるよ」
「そうですか」

 初老の店員は分かっていたように頷く。
 それから、直ぐにレーラーを誘導して移動する。

「では、こちらはどうでしょうか?」
「それ、ケトル?」
「はい。洗浄系の魔法と水を生成する魔法が組み込まれており、とても使い勝手が良いかと」
「……なしだね」
「わかりました」

 そして、そのやり取りを何度も、何度も、何度も繰り返した。
 俺の体感的には二時間程度だろうか。もうそろそろ日が暮れそうである。

 途中途中、ライゼがもの凄く気に入りそうなものもあったのだが、レーラーは何故か悩み、却下していった。
 色々な品々を紹介されていくにつれ、レーラーは何かしらのビジョンが見えてきたらしい。途中からは色々と要望を口に出していた。

 だが、結局レーラーが首を縦に振ることはなかった。
 初老の店員は疲れ果てている。

 と、色々と紹介しつくされたと思ったのだが、レーラーは少しだけ初老の店員に言うと、自分で動き出す。
 そして、とある棚の前に立った。

「何、これ?」
「……こちらは動かない魔道具でして、ただ、見た目だけは良い事から飾り物としておいていますね」
「ふーん」

 その棚には品というか、味のある懐中時計などの時計や羽ペン、模型やロケットなどがおいてあった。
 材質や内包されている魔力から見るとかなりの逸品物である。
 ただ、初老の店員が言うように、幾つかの機構が、特に精密的な部分が壊れている。魔力回路が駄目になったりしている。

 レーラーはそれを眺める。
 そして、銀の鎖に繋がっていて、青の蝶が描かれた蓋がついている懐中時計を取った。

「これの本来の効果って何?」
「……そちらは、魔力を込めてボタンを押しますと、時計から方位磁石に変わったり、もしくは暗い中でも見えるように光ったりします。また、とても耐久性などに優れており、あらゆる魔法触媒としても使えます。それとその懐中時計に血を垂らしますと、垂らした者は懐中時計が何処にあるか分かるようになります」

 初老の店員は少しだけ思い出しながら、ゆっくりと言う。

「……この蓋は?」

 レーラーはパカパカと蓋を閉じたり、開けたりする。
 蓋の内側には小さな孔が開いていた。

「そちらには宝石を縮小したり、形を任意に変えたりできる魔法が組み込まれおり、その孔に嵌める事ができます。それと、劣化防止の魔法も組み込まれております」
「……すごいね」

 ああ、本当に凄い。
 これって故障していてもマジでいい値段するんじゃないか?
 というか、壊れてなかったら数年間遊んで暮らせる程度の金額だろう。

「しかし、そちらは全ての機能が故障しており、修理もできない状態でして」
「でも、ここにおいてあったなら売る気はあるんでしょ」
「ええ、まぁ」

 まぁ、完全な故障品を売りつけるというのは店側としてもどうかと思ってたんだろう。だが、元の価値が高すぎる。
 泣く泣くというか、縋る思いで置いていたに違いない。

「なら、これを買うよ」
「……よろしいのでしょうか」
「うん、問題ないよ。それと、途中で見せてもらった存在感が薄くなる眼鏡も買うよ」
「……かしこまりました」

 そうして、今日の買い物は終わった。
 そして、明日は下準備をする。
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