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第二部 一章:どこにだって光はある
三話 誕生日プレゼント
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もうすぐ、自由都市ウーバーに着いてから二週間になろうとしている。後、三日くらいだろうか。
だが、しかし、魔道具や魔導書は売れていない。
いや、一つだけ老人が余興かなんかで買っていったが、しかし、それだけだった。まぁ、けど、それだけで一ヶ月分の旅費は稼げたので大丈夫だろうという事になり、ライゼは自由都市ウーバーの探索をしに行った。
ただ、レーラーは露店で魔導書を読むことが気にいったらしく、今も魔導写本や俺の魔道具などを露店に置き、魔導書を読んでいる。
俺はレーラーの影に隠れてとある魔道具を作っている。
魔道具作りのため、ここ最近はライゼと別行動している。
『……ヘルメス、何作ってるの?』
読んでいた魔導書を読破したのか、レーラーは、金属製のネジやら何やらを浮かせている俺に聞いてくる。
『……ライゼの誕生日プレゼントだ』
『……そうなんだ』
二日後、ライゼの誕生日がある。
と言っても、ライゼは自分が生まれた日を正式には覚えていない。ただ、ライゼを育ててくれた老人が、それでは不便だと誕生日を作ってくれたらしい。
ライゼと老人が出会った日だそうだ。
それが二日後。
なので、毎年、俺は誕生日の日にライゼが気に入りそうな魔道具を作って贈るのだ。
そして、レーラーは唖然と頷いていた。
『どうしよ、ヘルメス。忘れてた』
『……どうしよって言われてもな』
そういえば、レーラーは去年どうしてたんだっけ?
いや、去年はまだ、ライゼはレーラーの弟子になってなかったような、それに研究室にも配属されてなかった気がするな。
『今から、プレゼントを見繕ったらどうだ? どうせ、客何て来ないだろうし、さっさと露店を畳んで商売街にでも行って見てきたらどうだ?』
珍しく青ざめているレーラーに俺は言う。
『……ねぇ、ライゼって何が好きなんだっけ?』
『それは自分で思い出したらどうだ』
レーラーは少しだけ人に無頓着だからな。
本人が言うにはこれでもマシになったらしいんだが、それでも無頓着だ。
『お願い、ヘルメス。手伝って』
『魔道具を作ってるんだが』
『それは手伝うからさ』
レーラーはトカゲに必死に頼み込む。
まぁ、いいか。
『アドバイスするだけだからな』
『うん、ありがと』
Φ
『で、何を贈ろうと思ってんだ?』
多くの人々が行き交う繁華街でレーラーの首元にいる俺は訊ねる。
背が低いレーラーは人が多い繁華街だと人の波に飲まれることがあり、肩だと万が一を考えて危ないので、レーラーの首元に落ち着いた。
『……そうだね。“魔導書庫”に入ってる秘蔵の魔導書でもいいかなと思ったんだけど、私はライゼの師匠だからね。どっちにしろ、時間が許す限り全てを教えようと思ったから、却下したんだ』
『……賢明だな』
『なので、これにしようかと思った』
レーラーは新緑ローブの下から、ピカピカ光るメガネを取り出した。
センスが悪い眼鏡である。
『なんだ、それ』
『服が透けて見えるメガネ。年頃の男の子なら喜ぶかと思――』
『――殴るぞ!』
少しだけ得意げに言おうとしたレーラーに俺は怒鳴る。情操教育に悪いし、何よりライゼにそんなものを渡すなど。
もし、本当に渡すならレーラーには地獄を見てもらう。
『だ、だよね』
レーラーは慌てて頷く。
傍から見れば無表情に見えるが、一年以上一緒にいたので、レーラーがとても焦っているのが分かる。
そして小さく「〝服が透けて見える魔法〟は教えない方がいいかな」と呟いた。
それは賢明な判断だ。
『というか、そんなメガネ、捨ててしまえ』
『だ、駄目だね。自衛のためにも必要だし、何より面白い』
『……まぁ、いいか。それで、どうするつもりなんだ?』
とある服屋に入ったレーラーに俺は訊ねる。
『ライゼっていつも、白シャツと黒ズボンでしょ。おしゃれには興味ないのかなって?』
『……ないな。好きな人ができれば変わるかもしれないが、現状、着る服を好きになる事は少ないぞ』
そうなんだよな。ライゼって清潔感さえあればおしゃれなどどうでもいいと考えているからな。機能性と清潔性を意識してるんだよな。
いつの間にかそういう価値観が形成されてしまったんだよな。気づいたときには手遅れで、色々とおしゃれをさせてみようとは思ったんだが、無理だった。
まぁ、無理なら無理でいいんだが。
『あ、だが、ライゼは自分の格好には興味ないのに他人の服装には敏感なんだよな。ほら、レーラーの服だっていつもライゼが選んでるだろ』
『確かに。私にはいつもおしゃれをさせたがるね』
俺とレーラーは不思議そうに首を傾げる。
『なんでなんだろうな』
『なんでなんだろうね』
あ、けど、俺がライゼにおしゃれさせたい気持ちと似たようなものなのか。
俺はトカゲだから、おしゃれもくそもなく裸だけど、ライゼがずっと同じ服を着まわしてるのを見ると、たまに口うるさく言ってしまうからな。
『じゃあ、服は駄目そうだね』
『まぁ、服は一緒に見た方がいいしな』
という事で、レーラーは真っ白なローブを買った後、服屋を出た。
レーラーは、身だしなみはあまり整えないが、ローブだけにはこだわっている。新緑色だけでなく、黒や青、白、赤、多種多様なローブを持っている。
ローブの浪費家である。
だが、しかし、魔道具や魔導書は売れていない。
いや、一つだけ老人が余興かなんかで買っていったが、しかし、それだけだった。まぁ、けど、それだけで一ヶ月分の旅費は稼げたので大丈夫だろうという事になり、ライゼは自由都市ウーバーの探索をしに行った。
ただ、レーラーは露店で魔導書を読むことが気にいったらしく、今も魔導写本や俺の魔道具などを露店に置き、魔導書を読んでいる。
俺はレーラーの影に隠れてとある魔道具を作っている。
魔道具作りのため、ここ最近はライゼと別行動している。
『……ヘルメス、何作ってるの?』
読んでいた魔導書を読破したのか、レーラーは、金属製のネジやら何やらを浮かせている俺に聞いてくる。
『……ライゼの誕生日プレゼントだ』
『……そうなんだ』
二日後、ライゼの誕生日がある。
と言っても、ライゼは自分が生まれた日を正式には覚えていない。ただ、ライゼを育ててくれた老人が、それでは不便だと誕生日を作ってくれたらしい。
ライゼと老人が出会った日だそうだ。
それが二日後。
なので、毎年、俺は誕生日の日にライゼが気に入りそうな魔道具を作って贈るのだ。
そして、レーラーは唖然と頷いていた。
『どうしよ、ヘルメス。忘れてた』
『……どうしよって言われてもな』
そういえば、レーラーは去年どうしてたんだっけ?
いや、去年はまだ、ライゼはレーラーの弟子になってなかったような、それに研究室にも配属されてなかった気がするな。
『今から、プレゼントを見繕ったらどうだ? どうせ、客何て来ないだろうし、さっさと露店を畳んで商売街にでも行って見てきたらどうだ?』
珍しく青ざめているレーラーに俺は言う。
『……ねぇ、ライゼって何が好きなんだっけ?』
『それは自分で思い出したらどうだ』
レーラーは少しだけ人に無頓着だからな。
本人が言うにはこれでもマシになったらしいんだが、それでも無頓着だ。
『お願い、ヘルメス。手伝って』
『魔道具を作ってるんだが』
『それは手伝うからさ』
レーラーはトカゲに必死に頼み込む。
まぁ、いいか。
『アドバイスするだけだからな』
『うん、ありがと』
Φ
『で、何を贈ろうと思ってんだ?』
多くの人々が行き交う繁華街でレーラーの首元にいる俺は訊ねる。
背が低いレーラーは人が多い繁華街だと人の波に飲まれることがあり、肩だと万が一を考えて危ないので、レーラーの首元に落ち着いた。
『……そうだね。“魔導書庫”に入ってる秘蔵の魔導書でもいいかなと思ったんだけど、私はライゼの師匠だからね。どっちにしろ、時間が許す限り全てを教えようと思ったから、却下したんだ』
『……賢明だな』
『なので、これにしようかと思った』
レーラーは新緑ローブの下から、ピカピカ光るメガネを取り出した。
センスが悪い眼鏡である。
『なんだ、それ』
『服が透けて見えるメガネ。年頃の男の子なら喜ぶかと思――』
『――殴るぞ!』
少しだけ得意げに言おうとしたレーラーに俺は怒鳴る。情操教育に悪いし、何よりライゼにそんなものを渡すなど。
もし、本当に渡すならレーラーには地獄を見てもらう。
『だ、だよね』
レーラーは慌てて頷く。
傍から見れば無表情に見えるが、一年以上一緒にいたので、レーラーがとても焦っているのが分かる。
そして小さく「〝服が透けて見える魔法〟は教えない方がいいかな」と呟いた。
それは賢明な判断だ。
『というか、そんなメガネ、捨ててしまえ』
『だ、駄目だね。自衛のためにも必要だし、何より面白い』
『……まぁ、いいか。それで、どうするつもりなんだ?』
とある服屋に入ったレーラーに俺は訊ねる。
『ライゼっていつも、白シャツと黒ズボンでしょ。おしゃれには興味ないのかなって?』
『……ないな。好きな人ができれば変わるかもしれないが、現状、着る服を好きになる事は少ないぞ』
そうなんだよな。ライゼって清潔感さえあればおしゃれなどどうでもいいと考えているからな。機能性と清潔性を意識してるんだよな。
いつの間にかそういう価値観が形成されてしまったんだよな。気づいたときには手遅れで、色々とおしゃれをさせてみようとは思ったんだが、無理だった。
まぁ、無理なら無理でいいんだが。
『あ、だが、ライゼは自分の格好には興味ないのに他人の服装には敏感なんだよな。ほら、レーラーの服だっていつもライゼが選んでるだろ』
『確かに。私にはいつもおしゃれをさせたがるね』
俺とレーラーは不思議そうに首を傾げる。
『なんでなんだろうな』
『なんでなんだろうね』
あ、けど、俺がライゼにおしゃれさせたい気持ちと似たようなものなのか。
俺はトカゲだから、おしゃれもくそもなく裸だけど、ライゼがずっと同じ服を着まわしてるのを見ると、たまに口うるさく言ってしまうからな。
『じゃあ、服は駄目そうだね』
『まぁ、服は一緒に見た方がいいしな』
という事で、レーラーは真っ白なローブを買った後、服屋を出た。
レーラーは、身だしなみはあまり整えないが、ローブだけにはこだわっている。新緑色だけでなく、黒や青、白、赤、多種多様なローブを持っている。
ローブの浪費家である。
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