46 / 138
第二部 一章:どこにだって光はある
プロローグ Night Sky Is Bright――a
しおりを挟む
夜天に幾万の、いや、幾星霜の星々が色鮮やかに輝き、儚く揺れている。
煌く大河は、今にも消えてしまいそうなほど精一杯の輝きを放ち、流れている。
しかし、夜を代表する月はない。今日は新月なのだ。
そんな夜の下で、星々の光しかない美しい夜の下で、レーラーとライゼは、星々が煌くようなシュターノンというケーキを食べている。
ディナーの締めである。
「美味しいね、レーラー師匠」
「うん、そうだね」
今まで黙々と噛みしめるように、抱きしめるように食べいたライゼは、そう言葉を漏らす。
レーラーはそれに嬉しそうに、少しだけ頬を緩めて頷く。
まぁ、レーラーの表情はそれでも殆ど動いていないのだが。
「ありがと、レーラー師匠」
「うん、こっちもありがと」
そしてシュターノンを食べ終わった二人はそう言葉を交わした。
また、ライゼはクリームを食べている俺に目を向ける。
『ヘルメスもありがと』
『ああ、どういたしまして』
まぁ、今回俺は何もやっていない。
けれど、うん。この言葉は喜んで受け取る。感謝は受け取り手ではなく、言い手の感情だ。受け取り手が如何こう言うのは無粋だ。
なら、存分に受け取ればいい。
そして、星が輝く夜の中、ディナーは終わり、俺達は宿屋に帰った。
ライゼの首元には蒼い蝶が描かれた蓋つきの懐中時計が星に輝いていた。
Φ
日が昇る前、ライゼはいつも通り起きる。俺は、珍しく早起きする。
そして、もっと珍しくレーラーが一人で起きていた。
「……レーラー師匠、今日は槍でも降るの? 流石に、出立の日に槍が降るのは困るんだけど」
「失敬な。私でも早起きできる日はあるよ。まぁ、数年に一度だけど」
そんな珍しい日だからこそ、ライゼは怖がっているのだが。
まぁ、けど、レーラーが早起きしたなら、今日は問題なく出立できそうだ。
「まぁ、いいか。ヘルメス、荷物が多いけど大丈夫?」
『ああ、問題ない』
それから俺らは宿屋を引き払い、城門に行く。
ライゼとレーラーは身長が低いのに、とても多くの荷物を持っている。食料やら何やらである。どうせ、二週間も立たずになくなる。
それらを引きずる様に持って城門に着いた俺たちは、手続きを済ませたあと、自由都市ウーバーを出た。ナファレン王国に足を踏み入れた。
そして、しばらく朝日に照らされる草原を歩き、城門に立っていた衛兵が豆粒ほどになった時、俺はライゼの肩から飛び降りる。
そして、地面に着くと同時に、“身大変化”で体長四メートルほどの大きさになる。ライゼとレーラーは抱えていた荷物を俺に括り付ける。
俺は馬、いや、ロバみたいなものだ。
「じゃあ、失礼するよ」
そして、レーラーは俺の背中の上に乗る。
俺は少しだけ蜥蜴色の鱗を震わし、レーラーが座りやすいようにする。
『ライゼは座らないのか?』
『僕はいいかな』
『そうか』
そして、俺達は草原の中、昇り始めた朝日の陽射しを浴びながら、北東へと伸びる土の道を進んだ。
目的地のウォーリアズ王国へ向かうために。
空は蒼かった。
煌く大河は、今にも消えてしまいそうなほど精一杯の輝きを放ち、流れている。
しかし、夜を代表する月はない。今日は新月なのだ。
そんな夜の下で、星々の光しかない美しい夜の下で、レーラーとライゼは、星々が煌くようなシュターノンというケーキを食べている。
ディナーの締めである。
「美味しいね、レーラー師匠」
「うん、そうだね」
今まで黙々と噛みしめるように、抱きしめるように食べいたライゼは、そう言葉を漏らす。
レーラーはそれに嬉しそうに、少しだけ頬を緩めて頷く。
まぁ、レーラーの表情はそれでも殆ど動いていないのだが。
「ありがと、レーラー師匠」
「うん、こっちもありがと」
そしてシュターノンを食べ終わった二人はそう言葉を交わした。
また、ライゼはクリームを食べている俺に目を向ける。
『ヘルメスもありがと』
『ああ、どういたしまして』
まぁ、今回俺は何もやっていない。
けれど、うん。この言葉は喜んで受け取る。感謝は受け取り手ではなく、言い手の感情だ。受け取り手が如何こう言うのは無粋だ。
なら、存分に受け取ればいい。
そして、星が輝く夜の中、ディナーは終わり、俺達は宿屋に帰った。
ライゼの首元には蒼い蝶が描かれた蓋つきの懐中時計が星に輝いていた。
Φ
日が昇る前、ライゼはいつも通り起きる。俺は、珍しく早起きする。
そして、もっと珍しくレーラーが一人で起きていた。
「……レーラー師匠、今日は槍でも降るの? 流石に、出立の日に槍が降るのは困るんだけど」
「失敬な。私でも早起きできる日はあるよ。まぁ、数年に一度だけど」
そんな珍しい日だからこそ、ライゼは怖がっているのだが。
まぁ、けど、レーラーが早起きしたなら、今日は問題なく出立できそうだ。
「まぁ、いいか。ヘルメス、荷物が多いけど大丈夫?」
『ああ、問題ない』
それから俺らは宿屋を引き払い、城門に行く。
ライゼとレーラーは身長が低いのに、とても多くの荷物を持っている。食料やら何やらである。どうせ、二週間も立たずになくなる。
それらを引きずる様に持って城門に着いた俺たちは、手続きを済ませたあと、自由都市ウーバーを出た。ナファレン王国に足を踏み入れた。
そして、しばらく朝日に照らされる草原を歩き、城門に立っていた衛兵が豆粒ほどになった時、俺はライゼの肩から飛び降りる。
そして、地面に着くと同時に、“身大変化”で体長四メートルほどの大きさになる。ライゼとレーラーは抱えていた荷物を俺に括り付ける。
俺は馬、いや、ロバみたいなものだ。
「じゃあ、失礼するよ」
そして、レーラーは俺の背中の上に乗る。
俺は少しだけ蜥蜴色の鱗を震わし、レーラーが座りやすいようにする。
『ライゼは座らないのか?』
『僕はいいかな』
『そうか』
そして、俺達は草原の中、昇り始めた朝日の陽射しを浴びながら、北東へと伸びる土の道を進んだ。
目的地のウォーリアズ王国へ向かうために。
空は蒼かった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる
ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。
モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。
実は前世が剣聖の俺。
剣を持てば最強だ。
最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。
猛焔滅斬の碧刃龍
ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。
目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に!
火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!!
有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!?
仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない!
進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命!
グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか!
読んで観なきゃあ分からない!
異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す!
※「小説家になろう」でも投稿しております。
https://ncode.syosetu.com/n5903ga/
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる