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第一部 幕間:gear

子育てか、もしくは介護か

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 これはまだ、ライゼが魔法学園にいた頃の話。
 丁度、ライゼがレーラーの弟子になってからの一幕だ。

 その日も、いつも通りライゼは日が昇る前に日が射し込まない地下の研究室で目が覚めた。座る事も寝ることもできる素晴らしいソファーの上で目が覚めた。
 それから、ライゼは暗闇の中で、着替えを済まし、〝汚れを落とす魔法ドリックァファルメ〟などで最低限の身支度をした後、俺を起こした。

 俺はいつも通り、やる気のない瞼を無理やりこじ開けて起きる。
 掌サイズの俺はあくびと共に長い舌をチロチロと出して楔を打った後、ライゼの肩に飛び乗る。

 そして、今日もライゼは早朝の配達の仕事へと出かけた。
 配達の仕事は、身体を鍛えるにも、魔力を鍛えるにも、魔法を鍛えるにも最適なのだ。

 Φ


 入り組んだ石畳を駆ける一筋の影がある。
 ようやく白み始めた東の空の下で、薄暗い石畳の街中を駆ける影がある。

 もちろん、ライゼだ。

 配達の仕事には主に二種類ある。
 手紙の配達と小包の配達である。
 というか、他にも大きな荷物の配達もあるのだが、ライゼは断っている。割に合わないし、ライゼは基本的に自分の得意な範囲の仕事しか受けないようにしているからだ。

 そして、ライゼは特に小包の配達において、王都のギルド内からの信用が高い。評価が高い。
 何故なら、“空鞄”を使うことによって、運ぶものが生モノであったとしても、新鮮なまま配達することが可能だからだ。

 “空鞄”は魔法ポーチとは違い、異空間に仕舞う事によって時間経過を無くすことができる利点がある。
 時間経過を遅らせる事も無くすことも今のところは魔道具ではできていない。

 ライゼの体内魔力量がもっと大きければ配達産業として巨大な財産を築いていたかもしれないが、残念ながら“空鞄”はライゼの魔力に比例して、容量はそこまで大きくない。
 それでも、少し大きめなトランクス鞄並みには容量があるので、個人使用においてはとても重宝しているのだ。

 そんな“空鞄”を持つライゼは、冒険者ギルドから預かった生モノの小包を配達している。
 ついでに、手紙もだ。

 体内魔力を枯渇させ、高熱に魘された状態になりながらも走る。高熱に魘された状態によって虚脱感がライゼを襲っている。
 が、それも訓練の一つだ。

 虚脱感によってライゼの力は限りなく低くなっている。そのうえで、いつも通りの走りを実現するために、最低限の力で最適な走り方をしている。というか、強制的にそうせざる終えないのだ。
 これによって、魔力量が低いライゼが、魔力を使い果たした時でも動けるようになる。戦えるようになる。

 また、走りながら、動きながら心身を落ち着かせ、魔力回復速度を上昇させる訓練をしている。
 もちろん、最初は動きながら休むなど阿保みたいな事はできなかったが、子鬼人という種族の特性か、四年も続けていると軽い運動中なら、魔力だけだが休息という状態に持ち込む事ができたのだ。

 普通に考えておかしいのだが、これくらいしなければ、ライゼが使いたい魔法は使えない。『くだらない魔法』の中には、強大な精神力と体力、魔力が必要になるものもあるのだ。
 変人が創り出した変人だけの魔法だ。簡単に使えるもの方が少ない。

 そして、ライゼはここ数年間で身に着けた事を、更に最適に無意識に落とし込むために、毎朝、配達の仕事をしながら訓練しているのだ。
 それに、配達の仕事はどこから配達すれば最短距離になるかを計算する必要がある。その日の街路の状況や天気、住民の気質によっても最適な順序は変わる。
 
 ライゼは配達をしながら、それを記憶し、考え、行動している。
 良い訓練なのだ。


 Φ

 
 そんな良い訓練は、朝日が昇りきる頃には終わり、朝食を食べるためにライゼは学園へと戻る。
 そして、最初に地下の研究室に行き、温かなシャワーを浴びて、軽く身体を休めた後、研究室に併設されているレーラー専用の寝室に行き、レーラーを無理やり起こす。

「レーラー師匠。朝だよ」

 寝室の明かりを付けながら、ライゼはひとまず声をかける。
 もちろん、白いシーツの上で真っ白な布団に包まっているレーラーに起きる様子はない。

 いつも通りのことだ。ライゼは分かっている。

「レーラー師匠、起きて」

 なので、ライゼは布団を奪い取る。レーラーを外気に晒す。
 そして、そこには白いネグリジェを身に纏ったレーラーがいた。陶磁器の様に真っ白な肌とネグリジェの境目は分かりづらく、結構はだけている。

 もちろん、レーラーは完全なロリ、小学生くらいの背丈と体系だ。エロさは全くもってないが、しかし、神神しさがある。
 深き森人ハイエルフであるからして、レーラーの容姿はとても美しい。神の造形物かと思うほど、無機質に完璧で端整だ。

 しかし、ライゼはそんなレーラーに見惚れることもしない。慣れたのもあるし、ライゼは巨乳好きなのだ。俺が言うのだから間違いない。
 なので、ロリでまな板のレーラーには目を奪われたりしないのだ。心は、ある意味で奪われているかもしれないが。

 そして、そんなライゼははだけているレーラーのネグリジェを整えると、未だに寝ているレーラーの身体を無理やり起こす。
 それから、黄金に艶めく金髪を櫛でかしていく。そのころにはレーラーも重い瞼を若干だけ開け、うつらうつらと首を動かし始める。
 寝起き時のレーラーはいつもの無表情ではなく、柔らかな表情である。

 そんなレーラーの金髪を梳かしたライゼは、次に枕元においてあった小さな蒼い宝石がついたヘアゴムを掴み、金髪を纏めて、ポニーテールにする。
 ただ、たまにライゼの気分によって三つ編みになったり、ツインテールになったりしている。

 ライゼは、ここ数ヶ月レーラーの髪を結んできたため、ヘアアレンジ力がとても高くなったのである。
 そして、髪型を決めたら〝飲み水を出す魔法トリンクアーサーシュテンロー〟でレーラーの前に水球を出し、それをレーラーの顔に無理やりつける。

 レーラーはそれでもうつらうつらとしている。藻掻くこともしない。
 そんなレーラーの顔を濡らしたライゼは、近くにおいてあった清潔なタオルでレーラーの顔を軽く拭く。水を拭き取る。

 次に近くの箪笥からグレーに近いオールインワンを取り出し、近くに掛けてあった新緑色のローブも手にもつ。
 そして、レーラーのネグリジェを脱がし、オールインワンを着せていく。
 
 ライゼは女性の裸を見ているのに興奮もしない。淡々と作業のように熟していく。
 そんなもんだ。見ている俺も何とも思わない。

 そういうもんらしい。

 最後に新緑ローブを着せていき、少しだけ整えた後、レーラーはようやく完全に目が覚める。
 柔らかな無防備な表情から無機質な無表情になる。

「……おはよ、ライゼ」
「おはよ、レーラー師匠。じゃあ、朝食を食べに行こう」
「うん」

 そして、学園の食堂へと向かった。
 これが毎日である。
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