上 下
43 / 138
第一部 幕間:gear

その道のりは長いようで短い

しおりを挟む
 騒がしい冒険者ギルド。
 早朝という事もあり、多くの仕事が掲示板に張られ、冒険者たちが我先にと仕事を勝ち取ろうと、依頼人や冒険者ギルド職員に交渉をしている。
 そんな中、四人の冒険者パーティーは真剣な表情で、丸机を囲っていた。

「おい、イルシア」
「待ってくれ、アタイもまだ整理がついてないんだ」

 大剣を背負ったガタイのいい男が露出が高い盗賊姿の褐色の女性に苛立ちにも似た声を飛ばす。
 盗賊の女性、イルシアは頭を掻きむしりながら、手元の書類を何度も読み直している。

 そして、数回読み直した後、ゆっくりとあり得ない事実を飲み込むように、顔を上げた。

「……まず、ライゼはこの国を出た」
「「「ッ」」」

 絞り出すように呟かれたその言葉に、丸机を囲っていた男二人が立ち上がる。
 野性味あふれる大剣男は怒鳴りそうになり、巨大な盾を背負う鈍そうな男は心配そうにしている。

 そして、魔法使い姿の女性は深呼吸をした後、冷静にイルシアに訊ねる。

「続きをお願いします」
「カーミラ、分かってる。もう一つは、ライゼと共に国を出たお方がいる」
「お方ですか?」

 カーミラは普段、イルシアが使わない言葉に引っかかる。
 立っていた男二人は、目頭を揉んだ後、ひとまず座る。

「ああ、天上の存在だ」
「……勿体ぶらずに教えろ、イルシア」
「……んだ」

 そして男たちは焦らしに焦れて、貧乏ゆすりを始める。

「……分かったよ。ライゼと共にこの国を出ていったお方はな、何と伝説の勇者パーティーに魔法を教え、自らも魔王を倒した英雄、深き森人ハイエルフの賢者、レーラーだ」

 イルシアは右手付近に置いてあったオルゴールを弄びながら、呆れるように、信じられないように言った。

「「「……」」」

 そしてもちろん、その言葉を聞いた三人は冗談はよせという表情をする。
 だが、イルシアは更に続ける。

「しかもだ、ライゼは賢者レーラーの弟子だそうだ。アタイが、大きな借り作って魔法学園の学園長から直接仕入れた情報だ。間違いない」

 そう言い切ったイルシアに、パーティーメンバーであるグルドやカーミラ、ダルは瞠目する。
 イルシアが言い切る事は滅多になく、言い切るという事はそれは絶対的な確かな情報の時だけなのだ。

 つまり、今の言葉は真実で。

「ッ!!!!!」

 最初に、カーミラが周囲にいた冒険者たちが思わず、振り向いてしまうほどの膨大な魔力を放出し、魔女帽子とローブをはためかせて立ち上がる。
 そして、イルシアの肩を魔法使いでは考えられらないほどの万力で掴み、思いっきり揺らす。

「どこに! どこに、彼のお方はいるのですか!? 掴んでいるのでしょう! イルシアの事なら掴んでいるんでしょう! 早く」
「…ぅ…ぐぇ、し、しま…る」

 あらゆる魔法使いの憧れの存在であるレーラーがいたという事実に、そして、今補足できるという事実に、魔法使いであるカーミラは我を失った。
 我を失ったから、高ランク冒険者の魔法使いに見合う、膨大な魔力がギルド内に放出されていて、職員が何事かと駆けつけてきた。

「お、落ち着け、カーミラ。イルシアが死ぬだろ!」

 そしてあまりの事実に呆然としていたグルドが我を取り戻し、そんなカーミラを掴む。ついでにダルが言葉足らずながらも、周りに誤魔化しの説明を入れている。
 そして、彼らは一旦落ち着くために、高ランクの冒険者専用個室に入った。

 最初からそこに入っておけば良かったのではと、グルド達全員が後悔していた。


 Φ


 それから、情報を幾つか確認し、少しだけ揉め、ようやく全員が事実を認めたころ、グルドが切り出した。

「で、今後、どうするんだ」
「……そこですよね」

 元々、彼らはアイファング王国の王都を活動拠点にするつもりはなかった。だが、ライゼと出会い、彼の新人指導役を偶々引き受けたことによって、ライゼが魔法学園卒業までは、何かあった時のために王都を中心に活動していたのだ。
 しかし、そのライゼもいなくなった。

 彼らにとってみれば、断りにくい中期依頼を完遂させ、帰って来たと思ったら、いきなり、ギルドからライゼが送った彼ら宛の手紙を受け取り、ライゼが王都からいなくなったことを、アイファング王国からいなくなったことを知ったのだ。
 青天の霹靂である。

 手紙には国と揉めたとかで、詳しい事情は書いていなかったが、今まで面倒を見てきてくれた礼と、キチンとした別れの挨拶ができなかった事に対しての謝罪などが書いてあった。
 しかし、彼らが知りたいのはそんな事ではないと思い、イルシアに情報を集めさせていたのだ。

 そして、事の顛末を知った。

「アタイは、ライゼの足取りを追いたいと思っているが」
「んだ」

 イルシアとダルは、ライゼから直接話を聞くために、今にでもここを発つべきだと主張する。

「……アイファング王国を発つのは賛成ですが、ライゼさんを追うのはどうかと」
「ああ、それは俺もだ。詳しい話をアイツから聞きたい気持ちは山々だが、追いかけるのはな。アイツに迷惑だし、何より、冒険者であるアイツにとってな……」

 冒険者のしきたりと言うか、言い伝えというか、ジンクスみたいなものの中に、面倒を見た新人冒険者が、一人立ち、もしくは旅に出たときは、しばらく会わない方が良いというジンクスがある。
 なんでも、新人冒険者が、一人立ち中、もしくは旅中で先輩冒険者に出会ってしまうと、死ぬフラグが立つのだ。

 理屈は分からないが、それで命を落とした新人冒険者をグルドたちは何人も知っている。
 また、後悔に襲われた先輩冒険者も。

 迷信臭いし、理屈もない話なのだが、しかし、冒険者はそれ故にジンクスを大事にしている。
 なので、グルドとカーミラは渋っているのだ。

「……なら、ヒメル大陸に拠点を移す事はどうだい?」

 グルドの呟きに、少しだけ考え込んだイルシアは懐から世界地図を取り出し、一番北にある大陸を指差した。

「ライゼたちがヒメル大陸に行くことは確実だ。アタシの確かな情報筋から得た情報だからな。だが、なんでも、アンツェンデル大陸、イグニス大陸を経由してヒメル大陸に行くつもりらしい」
「……なるほどな。ライゼがヒメル大陸に着くころには流石にあのジンクスも時効だろうしな」

 グルドは頷く。

「……確かにいいですね。ヒメル大陸といえば、まだ、魔人が多く存在していますし、私たちの名を上げるにも、ライゼさんに私たちの名前を轟かせるにも丁度いいですね」

 つまり、魔人たちをぶち殺しまくって、名を上げようというわけである。おっとり美人なのに、怖い事を宣う。

「んだ。そんだ。それんだ、いい」

 ダルも頷く。

「じゃあ、『竜の魂渡り』はハーフンの王都の港からヒメル大陸に渡る事が直近の目標、長期の目標は上級魔人を倒し、Sランク冒険者パーティーに成り上がる事でいいか」
「はい」
「ああ」
「んだ」

 そして、二日後、Aランク冒険者パーティーである『竜の魂渡り』は王都を発った。ギルド職員が必死になって留めようとしたが、無駄だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。 目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に! 火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!! 有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!? 仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない! 進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命! グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか! 読んで観なきゃあ分からない! 異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す! ※「小説家になろう」でも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n5903ga/

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...