転生トカゲは見届ける。~俺はライゼの足なのです~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
38 / 138
第一部 三章:世界はあなただけのもの

十話 確かな誓い

しおりを挟む
「それから、私は先生に色々な事を教わりました。文字や計算、お金、魔法や魔物、色々な事を教えてもらいました」

 目を赤く腫らしたアウルラが落ち着いたのを見計らってライゼは話を続ける。

「けれど、私は両親を失った辛さから、先生は先生として利害関係で結ぶようにしました。私の大切に先生を入れたくなかったんだと思います。“空鞄”という魔法ポーチと同じような祝福ギフトを使って、配達や薬草採取の仕事を冒険者ギルドで受けて、得た収入を老人に払う。そうやって暮らしていました」

 悲しみは辛さへと変わり、辛さは恐怖に代わる。人は恐怖を避けるために自己防衛する性質がある。
 そうでなくては、危険な世界ではやっていけない。

「ただ、先生と暮らしているうちに世界や理不尽に対する恨みは薄れていきました、けれど、魔人に対する恨みは今でも私の胸を燻っています」
「……では、どうして」
「魔人は憎いです。とても憎いです。けれど、私は、私を産んで愛してくれた両親が、縁もゆかりもない私を拾って育ててくれた先生が大好きです。その彼らは、僕の『くだらない魔法』を、魔人を殺すこともできない魔法を喜んで、そして誇る様に笑ってくれました」

 深い深呼吸をして、ライゼはこげ茶の瞳をアウルラに向ける。

「だから、自分の憎しみよりも、際限ない恨みよりも、僕の大切が誇ってくれた魔法をもっと多くの人に知ってもらいたいのです。喜んでもらいたいのです。まぁ、それでも一生魔人を憎み続けるでしょうが」

 俺にはその憎しみを、恨みを、癒すことはできない。どんなに時間が経とうが、大切を奪った存在を憎む感情は癒せない。
 だって、ライゼは大切と向き合って、『くだらない魔法』を使おうとしているから。それを人生の目標にしているから。

 だから、魔人を憎むことはやめられない。
 それは目の前にいる少女に対しても同様だ。

 けれど、その少女は理解して、それでも泰然とした態度でライゼに向き合った。

「話してくれて感謝しますわ。そして私《わたくし》は、全身全霊を、一生を掛けてライゼとの約言を果たすことを誓いますわ」
「……では、僕の一生を掛けて楽しみにしています」

 そうして、夜は更けていった。


 Φ


 翌日。

 俺は風すら置き去りにするほどの速さで走っていた。
 流石にその速度で走ると背中に乗っているライゼやアウルラが結構揺れるが、二人とも我慢してくれている。

『ヘルメス。二時、二』
『ああ、分かってる』

 俺はライゼからの指示によって、木々をよけながら、進行方向を右へと変えて、緩やかに迂回していく。

「ッ」

 アウルラが右に掛かったGに耐えようと必死にライゼの深緑ローブを掴む。
 唇をキッと噛む。

「なっ!」

 と、そうしながら木々と魔物を避けて風を切っていたら、目の前に崖が現れた。
 しかし、俺は止まることはない。止まっていては今日中にここを出ることはできなくなる。

『しっかり掴まっとけッ!』
「ッ」
「きゃあッ!」

 ライゼとアウルラが俺の身体を強くつかみ、悲鳴を上げる。
 俺がほぼ垂直の崖を登っているのだ。“張り付き”と“登攀”のスキルが補助してくれる。
 崖登りだってできるのだ。

『口を閉じろ、舌を噛むぞ!』

 俺はライゼと悲鳴を上げているアウルラに登りながら注意する。
 二人を乗せて、また“身大変化”で身体を大きくしているため、身体が重く、崖を登るのに体力を大分消費するが、頑張る。

 だから、舌を噛まないようにしてもらうと助かる。

「クッ」
「ンッ」

 二人の口から我慢するような息が漏れるが、しかし、俺は更に崖を登るスピードを上げる。二人を強力なGと風圧が襲うが、我慢してもらう。
 本来なら、魔法を使ってそれらを無くすのだが、しかし、ここで魔法を使えば魔物たちに居場所をバラしてしまう。

『抜けたぞ!』

 崖を登り切った。
 二人は声にならない溜息をついて一安心しているが、しかし、その暇を与えず俺は走る。二人を王都まで届ける。

『スピードを上げるぞ!』

 朝から走り続けて半日、二人の消耗が激しい。ようやく第五階層に入ったが、このままいけばアウルラの体力と精神力が、半日も持たずに尽きてしまうだろう。
 その前に第五階層を突破する必要がある。

 それに、いくら魔力隠蔽と魔力感知で魔物を避けようとしても、この階層の魔物は強い。あらゆる面で優れている。
 万が一がある。

 なので、俺は残っている魔力を“身体強化”に足に注ぎ込み、一陣の風となって森を駆ける。山を疾走する。
 ライゼもアウルラもそれが分かったのか、残っている力をふり絞って俺にしがみつく。また、ライゼは咄嗟に“身体強化”を発動させて、疾走する風の中アウルラを自分の手前に持ってくる。

 落ちないように抑え込む。

 そして三時間が経った。
 ようやく、ヴァンズン山脈の果てと王都の影が見えてきた。

 だが。

――グギャガァアァッーーーッァー!

 ヴァンズン山脈を出る直前で俺達の前にドラゴンが降り立った。
 一瞬で目の前に現れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...