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第一部 二章:夢を持っていますか?
エピローグ Do You Believe In You?――a
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と思った瞬間、ゴウッという音と共に全てが晴れる。
二人の姿がないと思った瞬間。
「クッ」
上を見上げる。上空にライゼとレーランがいた。
レーランは〝人を浮かす魔法〟か何かで、ふわふわと空中を浮いていてる。
ライゼは〝防御する魔法〟の障壁の上で蜥蜴色の短刀を逆手で構え、上にいる半眼のレーランを睨む。
……“魔倉の腕輪”の魔力もだいぶ消費しているみたいだな。
“魔倉の腕輪”は俺が創った物であるが故に、一目見ればある程度の残量魔力が分かる。
まぁ、さっきはライゼの魔力隠蔽技術が高くて、“魔倉の腕輪”の位置も把握できなかったが、把握できればどういう状態かが分かるのだ。俺の鱗も使っているので特に。
そしてライゼはボロボロだった。
深緑ローブは既にただのボロ雑巾と化していて、また白のシャツも所々破れていて、血によって赤く染められている。黒のズボンも同様である。腕や額からも血を流していて、ライゼは荒い呼吸をしている。
対して、レーランは全くの無傷。
着ている新緑のローブも、陶磁器の様に美しい白い肌も、何一つ汚れがない。
圧倒的格差があった。
「うん、独学でいて魔法技術は相当のレベルに達している。それに魔力放出をほぼ無にするほどの魔力操作技術もある」
冷たい凍えた瞳でライゼを見下しながら、分析を伝える。
「けど、まだまだだね。イメージが足りないから〝攻撃する魔法〟の魔力圧縮が弱い。だから、脆くて貫通性がない。それに魔法に対しての想いも足らない」
「……僕の魔法への想いが足らないだと」
そして、その分析結果にライゼが珍しくキレる。
血を垂らしながらも無表情になり、鋭くこげ茶の瞳をレーランに向ける。
「うん。ライゼは魔法に対しての信頼がない。自分はあらゆる魔法を使うことができるのだという想いが足らない。忘れていると思うけどね、魔法が使えるかどうかは技術によって決まるわけではないんだ。想いで決まるんだ。ライゼ、君は魔法に対して自由ではない」
……なるほど。確かにライゼは己の使える魔法を正確に理解している。
ライゼは『くだらない魔法』も好きだが、普通にどんな魔法も好きだ。だからこそ、それを扱うために、魔法を扱う理論を学んでいる。
だが、理論を学び過ぎたからこそ、己の才能の限界を知っていて、自分がどんな魔法を使えるかを把握している。できないものはできないと理解している。
「ライゼ、君は魔法に対しての才能がない。だから、魔法理論を学び、効率的に魔法を使おうとするのは間違いじゃない。才能がない者が高みを目指すなら当たり前の行動だ。けれど、君は魔法が好きなんだ。魔法を追い求めることが好きなんだ。そしてだからこそ、魔法は自由であるべきなんだ」
「ッ」
そして今まで凍えた無表情しか映さなかったレーランが、静かに微笑んだ。
「ライゼ、君には想いが足らない。才能のない者がどんな魔法でも使える魔法を希う事をすらしていない」
もう一回微笑む。
自分の子供に言い聞かせるようだ。
「いいかい。魔法の才能がなくても、強い想いがあれば魔法を創り出すことができるんだ。かつて君が〝魔力を蝶にする魔法〟を生み出したように」
え、マジか。知らなかった。〝魔力を蝶にする魔法〟ってライゼが創造主なのか。
あ、でも、だからか。
四年前、まだ魔力操作技術も魔法技術も拙くて、老人に教えてもらっていた魔法が悉く失敗していたのに、ライゼは何故か〝魔力を蝶にする魔法〟だけは使えていたのだ。
ああ、そういう事なのか。
「さて、今日の授業はここまでだよ。じゃあ、頑張って」
そして、俯いているライゼに向かってレーランは無数の〝攻撃する魔法〟を浮かべて、放った。
俯ていたライゼは、その膨大な魔力にハッと顔を上げる。
「ッ、〝攻撃する魔法〟ッ! 〝防御する魔法〟ッ!」
ライゼは慌てて自分に襲い掛かってくる魔力弾を相殺し、また、光る障壁を蹴って空中をかけてレーランに切りかかろうとする。
だけど。
「カハァッ!」
一つの〝攻撃する魔法〟がライゼを打った。殺さないようにするために、レーランは貫通力を低くしたのか、ライゼの身体を打ち抜きはしなかったが、しかし、血が流れる。
また、その一発によって生まれたライゼの隙に、次々と〝攻撃する魔法〟が撃ち込まれていく。ライゼがピンポン玉のように空中を跳ぶ。
『ライゼッ!』
あまりの状況に見ていられず、俺は思わず、助けに行こうとしたが。
『駄目だよ。ライゼは戦っているんだ。己の覚悟を、暗闇を突き進むための想いを掴もうとしているんだ。そして、それを為すには一人でなくてはならないんだよ。大丈夫。ヘルメスはライゼの家族なんだろう。ならライゼは孤独じゃない。見守るのも家族の役目だよ』
脳裏に響いた無機質な、けれどどこか温かい言葉に俺は練っていた魔力を鎮めた。そして、今も苦しそうに空中を舞っているライゼを見た。
ああ、助けたい。アイツのそばにいたい。
けれど。
「ァアアァアッァ!」
己を鼓舞するためか、必死に声を張り上げてライゼは体内の、“魔倉の腕輪”の魔力を練り上げていく。
藻掻くように何かを掴むようにか弱く儚い叫び声を上げる。
だが、レーランは無慈悲だ。
冷たい翡翠の瞳と、輝く大杖の翡翠の水晶をライゼに向けて、冷徹に呟いた。
「〝攻撃する魔法〟」
そして、閃光の弾幕がライゼを埋め尽くした。
それから。
二人の姿がないと思った瞬間。
「クッ」
上を見上げる。上空にライゼとレーランがいた。
レーランは〝人を浮かす魔法〟か何かで、ふわふわと空中を浮いていてる。
ライゼは〝防御する魔法〟の障壁の上で蜥蜴色の短刀を逆手で構え、上にいる半眼のレーランを睨む。
……“魔倉の腕輪”の魔力もだいぶ消費しているみたいだな。
“魔倉の腕輪”は俺が創った物であるが故に、一目見ればある程度の残量魔力が分かる。
まぁ、さっきはライゼの魔力隠蔽技術が高くて、“魔倉の腕輪”の位置も把握できなかったが、把握できればどういう状態かが分かるのだ。俺の鱗も使っているので特に。
そしてライゼはボロボロだった。
深緑ローブは既にただのボロ雑巾と化していて、また白のシャツも所々破れていて、血によって赤く染められている。黒のズボンも同様である。腕や額からも血を流していて、ライゼは荒い呼吸をしている。
対して、レーランは全くの無傷。
着ている新緑のローブも、陶磁器の様に美しい白い肌も、何一つ汚れがない。
圧倒的格差があった。
「うん、独学でいて魔法技術は相当のレベルに達している。それに魔力放出をほぼ無にするほどの魔力操作技術もある」
冷たい凍えた瞳でライゼを見下しながら、分析を伝える。
「けど、まだまだだね。イメージが足りないから〝攻撃する魔法〟の魔力圧縮が弱い。だから、脆くて貫通性がない。それに魔法に対しての想いも足らない」
「……僕の魔法への想いが足らないだと」
そして、その分析結果にライゼが珍しくキレる。
血を垂らしながらも無表情になり、鋭くこげ茶の瞳をレーランに向ける。
「うん。ライゼは魔法に対しての信頼がない。自分はあらゆる魔法を使うことができるのだという想いが足らない。忘れていると思うけどね、魔法が使えるかどうかは技術によって決まるわけではないんだ。想いで決まるんだ。ライゼ、君は魔法に対して自由ではない」
……なるほど。確かにライゼは己の使える魔法を正確に理解している。
ライゼは『くだらない魔法』も好きだが、普通にどんな魔法も好きだ。だからこそ、それを扱うために、魔法を扱う理論を学んでいる。
だが、理論を学び過ぎたからこそ、己の才能の限界を知っていて、自分がどんな魔法を使えるかを把握している。できないものはできないと理解している。
「ライゼ、君は魔法に対しての才能がない。だから、魔法理論を学び、効率的に魔法を使おうとするのは間違いじゃない。才能がない者が高みを目指すなら当たり前の行動だ。けれど、君は魔法が好きなんだ。魔法を追い求めることが好きなんだ。そしてだからこそ、魔法は自由であるべきなんだ」
「ッ」
そして今まで凍えた無表情しか映さなかったレーランが、静かに微笑んだ。
「ライゼ、君には想いが足らない。才能のない者がどんな魔法でも使える魔法を希う事をすらしていない」
もう一回微笑む。
自分の子供に言い聞かせるようだ。
「いいかい。魔法の才能がなくても、強い想いがあれば魔法を創り出すことができるんだ。かつて君が〝魔力を蝶にする魔法〟を生み出したように」
え、マジか。知らなかった。〝魔力を蝶にする魔法〟ってライゼが創造主なのか。
あ、でも、だからか。
四年前、まだ魔力操作技術も魔法技術も拙くて、老人に教えてもらっていた魔法が悉く失敗していたのに、ライゼは何故か〝魔力を蝶にする魔法〟だけは使えていたのだ。
ああ、そういう事なのか。
「さて、今日の授業はここまでだよ。じゃあ、頑張って」
そして、俯いているライゼに向かってレーランは無数の〝攻撃する魔法〟を浮かべて、放った。
俯ていたライゼは、その膨大な魔力にハッと顔を上げる。
「ッ、〝攻撃する魔法〟ッ! 〝防御する魔法〟ッ!」
ライゼは慌てて自分に襲い掛かってくる魔力弾を相殺し、また、光る障壁を蹴って空中をかけてレーランに切りかかろうとする。
だけど。
「カハァッ!」
一つの〝攻撃する魔法〟がライゼを打った。殺さないようにするために、レーランは貫通力を低くしたのか、ライゼの身体を打ち抜きはしなかったが、しかし、血が流れる。
また、その一発によって生まれたライゼの隙に、次々と〝攻撃する魔法〟が撃ち込まれていく。ライゼがピンポン玉のように空中を跳ぶ。
『ライゼッ!』
あまりの状況に見ていられず、俺は思わず、助けに行こうとしたが。
『駄目だよ。ライゼは戦っているんだ。己の覚悟を、暗闇を突き進むための想いを掴もうとしているんだ。そして、それを為すには一人でなくてはならないんだよ。大丈夫。ヘルメスはライゼの家族なんだろう。ならライゼは孤独じゃない。見守るのも家族の役目だよ』
脳裏に響いた無機質な、けれどどこか温かい言葉に俺は練っていた魔力を鎮めた。そして、今も苦しそうに空中を舞っているライゼを見た。
ああ、助けたい。アイツのそばにいたい。
けれど。
「ァアアァアッァ!」
己を鼓舞するためか、必死に声を張り上げてライゼは体内の、“魔倉の腕輪”の魔力を練り上げていく。
藻掻くように何かを掴むようにか弱く儚い叫び声を上げる。
だが、レーランは無慈悲だ。
冷たい翡翠の瞳と、輝く大杖の翡翠の水晶をライゼに向けて、冷徹に呟いた。
「〝攻撃する魔法〟」
そして、閃光の弾幕がライゼを埋め尽くした。
それから。
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