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第一部 二章:夢を持っていますか?
十四話 提案
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「これより実技試験最終試合を開始します。両者、前へ」
進行役の人にそう言われて、ライゼは控えしつから出て、闘技場の中央へと歩く。夕方に近い事もあってか、多くの在校生が観客席に集まっていた。
そして、ライゼに向かって野次を飛ばしていた。
普通にお祭り気分の野次や賭け事に対しての野次、そして悪意ある野次というよりは暴言だ。まぁ、子鬼人がここまでに来ている事がおかしいのだ。そして、もしこれたという事は不正な手段を使ったと考える。
そういうものだ。
「ライゼさん。アナタは王立魔法学園が始まって以来二度目の偉業を目の前にしていますわ」
ライゼの前に立ったアウルラは腰まである煌びやかな銀髪を靡かせて、ライゼにそう言った。
ただ、ライゼはその言葉の意味が分からなかった。というより、どうでもよかった。だから、その言葉の意味を捉えるまで時間がかかった。
「……偉業? …………ああ、勇者様のですか」
王立魔法学園の入学式の実技試験は最初から変わっていない。
一日目のノルマ型は時代によって課題の魔法が変わったりするが、模擬試合はずっと変わっていない。
そもそも、前にも言ったが筆記試験を通過していれば、実技試験で本当に問題を起こさなければ、入学は確定なのである。
では、なんで実技試験をするかといえば、これも前にいったがクラス分けに使うからだ。だが、それだけが理由ではない。
アイファング王国の貴族の子の殆どは王立魔法学園に通う必要がある。王族でもそれは変わらない。
簡単に言えばパフォーマンスなのである。貴族の子供たちがこれだけの力がある。だから、庶民は安心しろ、というパフォーマンスなのだ。
実際、王立魔法学園の歴史上、平民の子が実技試験の上位に行くことはない。あるとしても、上位陣の端っこに入るくらいだ。それくらい才能と教育の差がある。
だが、王立魔法学園の歴史の中で一人だけその常識を覆した人物がいる。それは六十年前に魔王を倒した勇者である。彼は、アイファング王国の平民で類い稀なる破邪魔法の使い手で、また剣の才能にも恵まれた人物だった。
そして、彼は王立魔法学園の入学試験において筆記、実技共に一位を叩きだしたのだ。貴族の子でもあまりない実績である。極稀に王族の子が為すくらいの事だ。
なので共に一位を取ることは貴族の間でも名誉なことなのであろう。
故に筆記で一位を取り、実技でも一位を取る可能性があるライゼにプレッシャーをかけるために言ったのだろうが、ライゼは忘れていたのだ。フリでもなく普通に忘れていたのだ。
「……ッ。なるほど、学費免除が目的でしたか」
だから、アウルラは少しだけ苛立たしそうに冷たくライゼに言う。まぁ、たまに学費免除だけが目的でそういう名誉とかに興味がない場合があるのだ。
それを理解して苛立たしいのだろう。なんせ彼女は、筆記においてライゼに僅差で負けて、今は一位を争う試合で対峙しているのだ。
勝手にライバル視して、相手は自分ではなく学費を見ているという事実に、甚くプライドが傷つけられたのだろう。
そしてそれに気が付いたライゼが煽る。
「はい、そうでございます、アウルラ王女殿下。ですので、孤児で貧しい私のために負けては頂けないでしょうか」
進行役の人は静観している。面白そうとでも思っているのか、それとも干渉しないようにされているのかは知らないが、明らかに煽っているライゼを注意したりはしない。
「……ライゼさん、アナタは少し勘違いされていますわ」
アウルラはその煽りに凍る様に無表情にして、冷たくライゼに言う。
「アナタが負けようがアナタの学費免除は確定なのですよ」
うん? 学費免除は共に一位を取った者だけだろう?
「……どういうことでしょうか」
「成績上位を占めるのは私のような王族か、貴族です。そして私たちは経済力がありますわ。そして上に立つ者としての誇りを持っていますわ。ですので、学費は全額払うんですのよ。ケチるなど言語道断ですわ」
「つまり、アウルラ様がこの戦いで私に勝ったとしても、一位の権利を僕に譲るという事ですか」
「そういうことですわ」
なるほど。そういうものなのか、貴族っていうのは。
つまり、彼らは書類上では順位の飾りは貰うが、その順位に付随する権利は貴族ではない子に譲るという事である。
なので、ライゼがこの戦いで負けて一位にならなかったとしても、一位の権利は貰えるので、学費免除になるのだ。
「……なるほど。けれど、アウルラ様が勝つことはありませんので、その権利を私に譲る事はないと思いますよ」
ライゼって意外と口喧嘩が好きだよな。煽ることが好きだよな。
「ッ。子鬼人如きが好きか――!」
そしてあまりの煽りに耐えられなくなったのか、アウルラが思わず声を上げるが、直ぐに落ち着きを取り戻す。凍えるような柴水晶の瞳をライゼに向ける。
それを見ていたライゼが進行役の人に身体を向ける。
「申し訳ないのですが、この試合の失格条件をもう一つ付け加える事は可能でしょうか?」
「……両者の合意と内容によりますが、何を追加するつもりで?」
「魔法以外の攻撃を相手に当てた場合、失格にするという条件です。アウルラ様はどうでしょうか?」
そしてにこやかにアウルラを見る。アウルラは、舐められた勝負にピクピクと眉を動かす。
この提案は圧倒的にライゼが不利になる。
〝魔法を反射する魔法〟を使うアウルラ相手に魔法勝負を挑むのだ。
それにここまで近接戦闘も使っていて、また魔力量が少ないために使える魔法が限られているライゼにとって、それは完全な縛りである。
縛りで挑んでやろうと提案したのだ。
「ええ、いいですわ。その傲慢な心を私が直々に矯正してあげますわ」
「……了解しました。試験官様方の確認を取った後、正式に承認させて頂きます」
そして、それは承認された。
進行役の人にそう言われて、ライゼは控えしつから出て、闘技場の中央へと歩く。夕方に近い事もあってか、多くの在校生が観客席に集まっていた。
そして、ライゼに向かって野次を飛ばしていた。
普通にお祭り気分の野次や賭け事に対しての野次、そして悪意ある野次というよりは暴言だ。まぁ、子鬼人がここまでに来ている事がおかしいのだ。そして、もしこれたという事は不正な手段を使ったと考える。
そういうものだ。
「ライゼさん。アナタは王立魔法学園が始まって以来二度目の偉業を目の前にしていますわ」
ライゼの前に立ったアウルラは腰まである煌びやかな銀髪を靡かせて、ライゼにそう言った。
ただ、ライゼはその言葉の意味が分からなかった。というより、どうでもよかった。だから、その言葉の意味を捉えるまで時間がかかった。
「……偉業? …………ああ、勇者様のですか」
王立魔法学園の入学式の実技試験は最初から変わっていない。
一日目のノルマ型は時代によって課題の魔法が変わったりするが、模擬試合はずっと変わっていない。
そもそも、前にも言ったが筆記試験を通過していれば、実技試験で本当に問題を起こさなければ、入学は確定なのである。
では、なんで実技試験をするかといえば、これも前にいったがクラス分けに使うからだ。だが、それだけが理由ではない。
アイファング王国の貴族の子の殆どは王立魔法学園に通う必要がある。王族でもそれは変わらない。
簡単に言えばパフォーマンスなのである。貴族の子供たちがこれだけの力がある。だから、庶民は安心しろ、というパフォーマンスなのだ。
実際、王立魔法学園の歴史上、平民の子が実技試験の上位に行くことはない。あるとしても、上位陣の端っこに入るくらいだ。それくらい才能と教育の差がある。
だが、王立魔法学園の歴史の中で一人だけその常識を覆した人物がいる。それは六十年前に魔王を倒した勇者である。彼は、アイファング王国の平民で類い稀なる破邪魔法の使い手で、また剣の才能にも恵まれた人物だった。
そして、彼は王立魔法学園の入学試験において筆記、実技共に一位を叩きだしたのだ。貴族の子でもあまりない実績である。極稀に王族の子が為すくらいの事だ。
なので共に一位を取ることは貴族の間でも名誉なことなのであろう。
故に筆記で一位を取り、実技でも一位を取る可能性があるライゼにプレッシャーをかけるために言ったのだろうが、ライゼは忘れていたのだ。フリでもなく普通に忘れていたのだ。
「……ッ。なるほど、学費免除が目的でしたか」
だから、アウルラは少しだけ苛立たしそうに冷たくライゼに言う。まぁ、たまに学費免除だけが目的でそういう名誉とかに興味がない場合があるのだ。
それを理解して苛立たしいのだろう。なんせ彼女は、筆記においてライゼに僅差で負けて、今は一位を争う試合で対峙しているのだ。
勝手にライバル視して、相手は自分ではなく学費を見ているという事実に、甚くプライドが傷つけられたのだろう。
そしてそれに気が付いたライゼが煽る。
「はい、そうでございます、アウルラ王女殿下。ですので、孤児で貧しい私のために負けては頂けないでしょうか」
進行役の人は静観している。面白そうとでも思っているのか、それとも干渉しないようにされているのかは知らないが、明らかに煽っているライゼを注意したりはしない。
「……ライゼさん、アナタは少し勘違いされていますわ」
アウルラはその煽りに凍る様に無表情にして、冷たくライゼに言う。
「アナタが負けようがアナタの学費免除は確定なのですよ」
うん? 学費免除は共に一位を取った者だけだろう?
「……どういうことでしょうか」
「成績上位を占めるのは私のような王族か、貴族です。そして私たちは経済力がありますわ。そして上に立つ者としての誇りを持っていますわ。ですので、学費は全額払うんですのよ。ケチるなど言語道断ですわ」
「つまり、アウルラ様がこの戦いで私に勝ったとしても、一位の権利を僕に譲るという事ですか」
「そういうことですわ」
なるほど。そういうものなのか、貴族っていうのは。
つまり、彼らは書類上では順位の飾りは貰うが、その順位に付随する権利は貴族ではない子に譲るという事である。
なので、ライゼがこの戦いで負けて一位にならなかったとしても、一位の権利は貰えるので、学費免除になるのだ。
「……なるほど。けれど、アウルラ様が勝つことはありませんので、その権利を私に譲る事はないと思いますよ」
ライゼって意外と口喧嘩が好きだよな。煽ることが好きだよな。
「ッ。子鬼人如きが好きか――!」
そしてあまりの煽りに耐えられなくなったのか、アウルラが思わず声を上げるが、直ぐに落ち着きを取り戻す。凍えるような柴水晶の瞳をライゼに向ける。
それを見ていたライゼが進行役の人に身体を向ける。
「申し訳ないのですが、この試合の失格条件をもう一つ付け加える事は可能でしょうか?」
「……両者の合意と内容によりますが、何を追加するつもりで?」
「魔法以外の攻撃を相手に当てた場合、失格にするという条件です。アウルラ様はどうでしょうか?」
そしてにこやかにアウルラを見る。アウルラは、舐められた勝負にピクピクと眉を動かす。
この提案は圧倒的にライゼが不利になる。
〝魔法を反射する魔法〟を使うアウルラ相手に魔法勝負を挑むのだ。
それにここまで近接戦闘も使っていて、また魔力量が少ないために使える魔法が限られているライゼにとって、それは完全な縛りである。
縛りで挑んでやろうと提案したのだ。
「ええ、いいですわ。その傲慢な心を私が直々に矯正してあげますわ」
「……了解しました。試験官様方の確認を取った後、正式に承認させて頂きます」
そして、それは承認された。
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