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第一部 二章:夢を持っていますか?
八話 戦闘試合の朝
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「ふぅ、ようやく終わったよ」
『大丈夫か?』
『うん』
あれだけの身体的、精神的消耗をしたはずのライゼは、しかし、いつも通り夕方からの配達の仕事に出かけていた。流石に今日くらいは休めと言ったりはしたが、ライゼは首を縦に振らなかった。
ライゼにとって入学試験は通過点の一つで、そしてそれはライゼにとって特別な事ではない。ライゼは、試験は日常の延長線上でしかないと思っているので、特別明日のために休息を取ったりはしないのだ。
まぁ、それにいつも体調には気を付けているので、特別な休息が必要というわけでもない。
そしてライゼは冒険者ギルドに寄り、配達依頼の報告を済ませた後、併設されている食事場に移動した。
それから、いつも通りのメニューを店主に頼むと、長机の席に着いた。
「よぉ、ライゼ。今日は学園の入学試験一日目だったらしいじゃねぇか。どうだったんだ?」
「そうです、教えてください」
と、四人の男女がライゼ前に座った。
全員冒険者である。また、ライゼに冒険者の基礎を教えてくれた先輩でもある。
「あ、グルド先輩方。長期依頼から帰っていらしたんですか?」
「ああ。で、どうだったんだ?」
大剣を背負った野性味あふれるグルドはライゼに訊ねる。ライゼの事を可愛がっていたので、そりゃあ試験の結果が気になるのだろう。
「ええっと、一次の筆記試験は無事に合格。午後にあった二次の実技試験の一部も一つを除いて問題なくクリアですね。あとは明日、トーナメント形式の模擬戦闘があるだけです」
「……その一つというのはやはり」
魔法使いの黒の三角帽子を被ったおっとりとした女性が言いづらそうに聞いてくる。他の三人も気になっているのか真剣にライゼを見つめている。
「そうです、カーミラ先輩。僕にはどう頑張っても中級魔法は使えませんので」
「……そのせいで入学が取り消しになるということはないのか?」
神妙な表情で聞いてくるグルド。他の三人も同様である。
「いえ、そもそも筆記が一位で通ったので二次試験が全滅でも受かりますね。それに中級魔法は魔力によるごり押しでも発動させる事ができない子が多かったので、できなくても基本的に問題はないです」
そんな神妙な雰囲気を吹き飛ばすように、ライゼはカラカラと笑う。
うん。こういう表情のライゼは好きだ。基本的にライゼは、落ち込んだりしない。いつも笑っている。それは強がりではなく、ライゼの強さなのだ。
そしてその笑いに一同は固まる。
いい表情である。
「……ひ、筆記一位通過って本当なのですか!? あそこって貴族様方も通うんですよ!」
最初に石化を解いたカーミラが思わず立ち上がって、ライゼに顔を近づける。カーミラさんは普段は三角帽子に隠れていて気が付きにくいが美人である。
ライゼはそんな美人さんが吐息が当たるくらいに近づいていてドギマギとしている。初心くて可愛い。ただし、ライゼはやらん。
「待て待て、カーミラ。その前に祝いだ。今夜はアタイが全て奢てやる!」
そして興奮した様子のカーミラさんを椅子に引き戻した盗賊みたいな格好の女性が、大声を上げる。
「野郎ども。今日はライゼの偉業に乾杯だ! 飲め、飲め! アタイが全て奢ってやるぞ!」
そして夕食を食べていた冒険者たちが思わず立ち上がり、一斉に雄叫びを上げた。うん、今日は収拾がつかなくなりそうだな。
にしてもケチな女性、イルシアさんがこんな事を言うなんて珍しい。
「イ、イルシアさん。大丈夫なんですか?」
「あぁん。大丈夫に決まってんだろ。アタイはケチだから金は持ってるんだよ」
そしてイルシアさんは心配そうに聞いたライゼにニカッと笑う。
「さぁ、食え食え。そして明日の試験に英気を蓄えろ!」
そうして、どんちゃん騒ぎによって夜は更けていった。
あと、イルシアさんはお金だけでは足りなくなったので、カーミラさんやグルド、あともう一人の冒険者であるダルが補填してた。
Φ
『ヘルメス、起きて』
『んぁ。……ああ』
翌朝。昨日と同じく朝日が昇る前にライゼは起き、専用の小さなベットで寝ている俺を起こした。昨日のどんちゃん騒ぎが楽しくて寝不足なのだが。
しかし、ライゼは元気そうである。スキルや種族の特性のお陰だろう。
子鬼人の特性として睡眠時間が他の主族よりも少なくて済むのだ。だから、労働力として酷使している地域もあるらしいが。
『あれ、今日の配達はないのか?』
そして、ゆっくりと起き上がった俺の視線の先には深緑のトランクスを整理しているライゼがいた。
同じ服を何着も持っているライゼは、昨日と同じように白いシャツに黒のズボン、そして深緑のローブと右腕に金属製の腕輪、そしてシャツの下には蒼い宝石がついたペンダントを身に着けていた。
『うん、手紙や荷物は昨日のうちに終わらせたからね。それに今日はゴブリン討伐の依頼を受けようかと思って』
『……大丈夫か? 今日は戦闘試合があるんだぞ』
流石に気になる。試験まであと五時間近くあるが、ゴブリン討伐に行くとすると、最低でも三時間くらいは掛かるはずだ。
あ、でも、俺が大きくなってライゼを運べばもう少し短縮できるか。
『うん、それに少しだけ仕込みもしたいし』
『……そうか。なら、軽食をとって行くか』
『うん』
そして俺達は王都を出て、近くの森に移動し、ゴブリンの群れを三群ほど壊滅させた後、祝福である“空鞄”の深緑色のトランクスに入れていた果物を食べながら、試験会場へ向かったのだった。
“空鞄”は、ライゼの魔力量とイメージによって形や大きさが変化する鞄で、それは異空間に仕舞う事ができるのだ。
そして、異空間に締まっている間は時間経過がしないという優れた祝福なのだが、しかし、何分ライゼの魔力量が低いため便利な旅行鞄程度にしかならなかったりする。
それに、似たような魔道具もあるし。
『大丈夫か?』
『うん』
あれだけの身体的、精神的消耗をしたはずのライゼは、しかし、いつも通り夕方からの配達の仕事に出かけていた。流石に今日くらいは休めと言ったりはしたが、ライゼは首を縦に振らなかった。
ライゼにとって入学試験は通過点の一つで、そしてそれはライゼにとって特別な事ではない。ライゼは、試験は日常の延長線上でしかないと思っているので、特別明日のために休息を取ったりはしないのだ。
まぁ、それにいつも体調には気を付けているので、特別な休息が必要というわけでもない。
そしてライゼは冒険者ギルドに寄り、配達依頼の報告を済ませた後、併設されている食事場に移動した。
それから、いつも通りのメニューを店主に頼むと、長机の席に着いた。
「よぉ、ライゼ。今日は学園の入学試験一日目だったらしいじゃねぇか。どうだったんだ?」
「そうです、教えてください」
と、四人の男女がライゼ前に座った。
全員冒険者である。また、ライゼに冒険者の基礎を教えてくれた先輩でもある。
「あ、グルド先輩方。長期依頼から帰っていらしたんですか?」
「ああ。で、どうだったんだ?」
大剣を背負った野性味あふれるグルドはライゼに訊ねる。ライゼの事を可愛がっていたので、そりゃあ試験の結果が気になるのだろう。
「ええっと、一次の筆記試験は無事に合格。午後にあった二次の実技試験の一部も一つを除いて問題なくクリアですね。あとは明日、トーナメント形式の模擬戦闘があるだけです」
「……その一つというのはやはり」
魔法使いの黒の三角帽子を被ったおっとりとした女性が言いづらそうに聞いてくる。他の三人も気になっているのか真剣にライゼを見つめている。
「そうです、カーミラ先輩。僕にはどう頑張っても中級魔法は使えませんので」
「……そのせいで入学が取り消しになるということはないのか?」
神妙な表情で聞いてくるグルド。他の三人も同様である。
「いえ、そもそも筆記が一位で通ったので二次試験が全滅でも受かりますね。それに中級魔法は魔力によるごり押しでも発動させる事ができない子が多かったので、できなくても基本的に問題はないです」
そんな神妙な雰囲気を吹き飛ばすように、ライゼはカラカラと笑う。
うん。こういう表情のライゼは好きだ。基本的にライゼは、落ち込んだりしない。いつも笑っている。それは強がりではなく、ライゼの強さなのだ。
そしてその笑いに一同は固まる。
いい表情である。
「……ひ、筆記一位通過って本当なのですか!? あそこって貴族様方も通うんですよ!」
最初に石化を解いたカーミラが思わず立ち上がって、ライゼに顔を近づける。カーミラさんは普段は三角帽子に隠れていて気が付きにくいが美人である。
ライゼはそんな美人さんが吐息が当たるくらいに近づいていてドギマギとしている。初心くて可愛い。ただし、ライゼはやらん。
「待て待て、カーミラ。その前に祝いだ。今夜はアタイが全て奢てやる!」
そして興奮した様子のカーミラさんを椅子に引き戻した盗賊みたいな格好の女性が、大声を上げる。
「野郎ども。今日はライゼの偉業に乾杯だ! 飲め、飲め! アタイが全て奢ってやるぞ!」
そして夕食を食べていた冒険者たちが思わず立ち上がり、一斉に雄叫びを上げた。うん、今日は収拾がつかなくなりそうだな。
にしてもケチな女性、イルシアさんがこんな事を言うなんて珍しい。
「イ、イルシアさん。大丈夫なんですか?」
「あぁん。大丈夫に決まってんだろ。アタイはケチだから金は持ってるんだよ」
そしてイルシアさんは心配そうに聞いたライゼにニカッと笑う。
「さぁ、食え食え。そして明日の試験に英気を蓄えろ!」
そうして、どんちゃん騒ぎによって夜は更けていった。
あと、イルシアさんはお金だけでは足りなくなったので、カーミラさんやグルド、あともう一人の冒険者であるダルが補填してた。
Φ
『ヘルメス、起きて』
『んぁ。……ああ』
翌朝。昨日と同じく朝日が昇る前にライゼは起き、専用の小さなベットで寝ている俺を起こした。昨日のどんちゃん騒ぎが楽しくて寝不足なのだが。
しかし、ライゼは元気そうである。スキルや種族の特性のお陰だろう。
子鬼人の特性として睡眠時間が他の主族よりも少なくて済むのだ。だから、労働力として酷使している地域もあるらしいが。
『あれ、今日の配達はないのか?』
そして、ゆっくりと起き上がった俺の視線の先には深緑のトランクスを整理しているライゼがいた。
同じ服を何着も持っているライゼは、昨日と同じように白いシャツに黒のズボン、そして深緑のローブと右腕に金属製の腕輪、そしてシャツの下には蒼い宝石がついたペンダントを身に着けていた。
『うん、手紙や荷物は昨日のうちに終わらせたからね。それに今日はゴブリン討伐の依頼を受けようかと思って』
『……大丈夫か? 今日は戦闘試合があるんだぞ』
流石に気になる。試験まであと五時間近くあるが、ゴブリン討伐に行くとすると、最低でも三時間くらいは掛かるはずだ。
あ、でも、俺が大きくなってライゼを運べばもう少し短縮できるか。
『うん、それに少しだけ仕込みもしたいし』
『……そうか。なら、軽食をとって行くか』
『うん』
そして俺達は王都を出て、近くの森に移動し、ゴブリンの群れを三群ほど壊滅させた後、祝福である“空鞄”の深緑色のトランクスに入れていた果物を食べながら、試験会場へ向かったのだった。
“空鞄”は、ライゼの魔力量とイメージによって形や大きさが変化する鞄で、それは異空間に仕舞う事ができるのだ。
そして、異空間に締まっている間は時間経過がしないという優れた祝福なのだが、しかし、何分ライゼの魔力量が低いため便利な旅行鞄程度にしかならなかったりする。
それに、似たような魔道具もあるし。
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