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第一部 二章:夢を持っていますか?
七話 お花畑
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「……こほん。では、最後にライゼさんが得意な、もしくは好きな魔法を披露してください」
「わかりました」
今日の魔法実技はこれで終わりだ。
だからこそ、ライゼは今出せる己の全てを出す。
ライゼは深く深呼吸する。瞳を閉じ、意識を集中させる。
唱える。
「〝煌く花と蝶の魔法〟」
瞬間、ライゼの足元から草が生える。花が育つ。それはゆっくりとライゼを中心に広がっていく。
咲く花々は色鮮やかで、少しだけ輝く。
同時に煌びやかな羽を輝かせながらはためかせる蝶々が、ライゼの足元から飛び立っていく。同時に広がっていく美しい花畑からも飛び立っていく。
咲いて舞って、咲いて舞って、咲いて舞って。
その繰り返し。それを繰り返すうちに受験者や試験官の足元にも花が咲き誇り、蝶々が舞い踊る。
そして、小さな演習場で妖精が遊んでいると錯覚するほどに、見惚れるほどに美しい花畑と蝶の舞に埋め尽くされた瞬間。
「〝魔力が弾ける魔法〟」
全ての花と蝶が色取り取りの光へと変わり、弾けたのだ。
そして、その彩り豊かな光は粉雪の様に、虹が振ったように小さな演習場を満たした。
幻想的な光景だった。
進行役の人も受験者たちも、また何食わぬ顔だった試験官の二人も驚きに、感動に震え、目を見開いていた。
感嘆の声すら漏らしていた。
けれど唯一、その幻想的な光景を作り出したライゼは、今までは崩さなかった泰然とした表情を崩し、荒い息を吐いている。
〝煌く花と蝶の魔法〟がライゼに多大な消耗を強いたのだ。
〝煌く花と蝶の魔法〟は〝魔力を蝶にする魔法〟と〝魔力を花にする魔法〟の混合魔法である。
しかし、〝煌く花と蝶の魔法〟は半径数十センチメートルの花畑と蝶々を作り出すのに、ライゼの全魔力を消費するのだ。
しかし、ライゼは小さいとはいえ、数十人を収容して魔法の実技ができるほどの演習場を全て埋め尽くした。
少ない魔力量で、何故それができたのか。
簡単だ。
〝煌く花と蝶の魔法〟を行使して魔力を使い果たしては、高い精神集中によって高速で魔力回復させ、再び〝煌く花と蝶の魔法〟を使って使い果たした魔力を高速回復させるという作業を、何度も、何十回も繰り返したのだ。
それと、中級攻撃魔法の際にできた時間を使って、事前に無詠唱で遅延発動型の〝煌く花と蝶の魔法〟を行使していたのである。
そうやってできた美しいお花畑を〝魔力が弾ける魔法〟によって、魔力で形作っている蝶や花畑を消したのだ。魔力として弾かせたのだ。
ライゼには中級魔法を使うための魔力はないけど、下級魔法や初級魔法を短期間に何度も使うことはできる。それがライゼの武器。
そしてその普通なら考えられない魔法行使を、とても高い魔力操作技術と魔法技術によって為しえたのである。
殆んどの人はそれに気が付いていない。いるとすれば試験官の二人だけ。
そしてライゼはここまでの魔力枯渇による身体負荷と魔力操作や魔法操作により精神的な負荷によって、ついには“忍耐”をもってしても、平静を装えなくなったのだ。
だが、ライゼは笑っていた。こんな綺麗な魔法で今、この場にいる全ての人を感動させて、喜ばせたことがとても嬉しかったのだ。
だから、ライゼは魔法が好きなのだ。
そして騒然としたライゼの一日目の実技試験は終了した。
ライゼの後にやった銀髪の女の子はそれはもう気の抜けた感じだった。魔力量や魔法行使時の技術を見る限り、ライゼを除いて一番高かったのだろうが、本人が気が抜けていたこともあり、何とも締まらない終わりとなった。
そして、明日のトーナメント方式の模擬戦闘の話を聞いて、ライゼは夕方の仕事に出かけたのだった。
Φ
「マクスランド、見てた?」
「もちろんでございます、レーラ―様」
「……どこに目があるか分からないからレーランと呼んで。それと畏まった口調だと怪しまれるから、もっと軽く」
「分かりました」
艶めくポニーテルの金髪を揺らしながら、翡翠の森人は老人に言う。老人は畏まった様子で森人に頭を下げる。
「ねぇ、あの子って貴族の子供ではないんだよね」
「ええ、出願書類などによると孤児だそうです。種族は子鬼人で名前はライゼ、Eランク冒険者をしているそうです。そして、筆記試験一位通過」
「……たまにいるんだよね。ああいう子」
「ええ、七十年近い教師人生で二度目ですが」
たまにどころではなく殆どいないのだ。
「……じゃあ、あのトカゲは?」
「それは知りません。従魔なのか召喚獣なのか」
老人は困ったように目を細める。森人は若干溜息を吐く。
「ねぇ、というか明日の模擬試験やる必要ある? だって、魔力量がEランクだとしても、あそこまでの圧倒的な魔法技術と何十回もの魔力枯渇に耐える精神だよ。どう考えてもそこらのひよっこじゃ勝てないじゃん。それに、冒険者をやってるなら武術面をある程度できるだろうし」
そして呆れるように言った。
また、付け足した。
「というか、なんでこんなちんけな魔法学園に入ろうとしてるの? あれほどの魔力隠蔽を可能にしてる魔力操作技術に、魔法技術。こんなところで学べるものを超えてるじゃん。それに孤児って事は独学でしょ。まぁ、王立図書館の書物で勉強したと思うんだけど、それだけの力があるならこの学園で学ぶことなんてあるの? 王立図書館ってこの学校で学べる大体の書物があるじゃん」
老人はそう言われて少し悔しそうに頷きます。
「……それは確かに。けれど、もしかしたらレーランさんが特別講師の依頼を受けてくれた理由と同じかもしれませんよ」
「……魔導書か。確かに、この国はある程度書物を開放してるけど、魔導書、特に戦闘系じゃない魔導書は冊数が少ないからね。それに、好きな魔法であれを出してくるあたり、魔法が純粋に好きな子なのか」
投げやりな感じに、また納得したように頷く森人。
「ええ。それにして何故、あの魔力倉庫用の魔道具を使わなかったのでしょうか」
「意地か、それか面白くないからとかそんな理由じゃない? たまにいるんだよ。そういう魔法使い」
「レーランさんもそうですけどね」
老人にそう言われて、森人は少し言葉を詰まらせたのだった。
そして老人は、今日のレーラー様は饒舌に話すな、と思った。
「わかりました」
今日の魔法実技はこれで終わりだ。
だからこそ、ライゼは今出せる己の全てを出す。
ライゼは深く深呼吸する。瞳を閉じ、意識を集中させる。
唱える。
「〝煌く花と蝶の魔法〟」
瞬間、ライゼの足元から草が生える。花が育つ。それはゆっくりとライゼを中心に広がっていく。
咲く花々は色鮮やかで、少しだけ輝く。
同時に煌びやかな羽を輝かせながらはためかせる蝶々が、ライゼの足元から飛び立っていく。同時に広がっていく美しい花畑からも飛び立っていく。
咲いて舞って、咲いて舞って、咲いて舞って。
その繰り返し。それを繰り返すうちに受験者や試験官の足元にも花が咲き誇り、蝶々が舞い踊る。
そして、小さな演習場で妖精が遊んでいると錯覚するほどに、見惚れるほどに美しい花畑と蝶の舞に埋め尽くされた瞬間。
「〝魔力が弾ける魔法〟」
全ての花と蝶が色取り取りの光へと変わり、弾けたのだ。
そして、その彩り豊かな光は粉雪の様に、虹が振ったように小さな演習場を満たした。
幻想的な光景だった。
進行役の人も受験者たちも、また何食わぬ顔だった試験官の二人も驚きに、感動に震え、目を見開いていた。
感嘆の声すら漏らしていた。
けれど唯一、その幻想的な光景を作り出したライゼは、今までは崩さなかった泰然とした表情を崩し、荒い息を吐いている。
〝煌く花と蝶の魔法〟がライゼに多大な消耗を強いたのだ。
〝煌く花と蝶の魔法〟は〝魔力を蝶にする魔法〟と〝魔力を花にする魔法〟の混合魔法である。
しかし、〝煌く花と蝶の魔法〟は半径数十センチメートルの花畑と蝶々を作り出すのに、ライゼの全魔力を消費するのだ。
しかし、ライゼは小さいとはいえ、数十人を収容して魔法の実技ができるほどの演習場を全て埋め尽くした。
少ない魔力量で、何故それができたのか。
簡単だ。
〝煌く花と蝶の魔法〟を行使して魔力を使い果たしては、高い精神集中によって高速で魔力回復させ、再び〝煌く花と蝶の魔法〟を使って使い果たした魔力を高速回復させるという作業を、何度も、何十回も繰り返したのだ。
それと、中級攻撃魔法の際にできた時間を使って、事前に無詠唱で遅延発動型の〝煌く花と蝶の魔法〟を行使していたのである。
そうやってできた美しいお花畑を〝魔力が弾ける魔法〟によって、魔力で形作っている蝶や花畑を消したのだ。魔力として弾かせたのだ。
ライゼには中級魔法を使うための魔力はないけど、下級魔法や初級魔法を短期間に何度も使うことはできる。それがライゼの武器。
そしてその普通なら考えられない魔法行使を、とても高い魔力操作技術と魔法技術によって為しえたのである。
殆んどの人はそれに気が付いていない。いるとすれば試験官の二人だけ。
そしてライゼはここまでの魔力枯渇による身体負荷と魔力操作や魔法操作により精神的な負荷によって、ついには“忍耐”をもってしても、平静を装えなくなったのだ。
だが、ライゼは笑っていた。こんな綺麗な魔法で今、この場にいる全ての人を感動させて、喜ばせたことがとても嬉しかったのだ。
だから、ライゼは魔法が好きなのだ。
そして騒然としたライゼの一日目の実技試験は終了した。
ライゼの後にやった銀髪の女の子はそれはもう気の抜けた感じだった。魔力量や魔法行使時の技術を見る限り、ライゼを除いて一番高かったのだろうが、本人が気が抜けていたこともあり、何とも締まらない終わりとなった。
そして、明日のトーナメント方式の模擬戦闘の話を聞いて、ライゼは夕方の仕事に出かけたのだった。
Φ
「マクスランド、見てた?」
「もちろんでございます、レーラ―様」
「……どこに目があるか分からないからレーランと呼んで。それと畏まった口調だと怪しまれるから、もっと軽く」
「分かりました」
艶めくポニーテルの金髪を揺らしながら、翡翠の森人は老人に言う。老人は畏まった様子で森人に頭を下げる。
「ねぇ、あの子って貴族の子供ではないんだよね」
「ええ、出願書類などによると孤児だそうです。種族は子鬼人で名前はライゼ、Eランク冒険者をしているそうです。そして、筆記試験一位通過」
「……たまにいるんだよね。ああいう子」
「ええ、七十年近い教師人生で二度目ですが」
たまにどころではなく殆どいないのだ。
「……じゃあ、あのトカゲは?」
「それは知りません。従魔なのか召喚獣なのか」
老人は困ったように目を細める。森人は若干溜息を吐く。
「ねぇ、というか明日の模擬試験やる必要ある? だって、魔力量がEランクだとしても、あそこまでの圧倒的な魔法技術と何十回もの魔力枯渇に耐える精神だよ。どう考えてもそこらのひよっこじゃ勝てないじゃん。それに、冒険者をやってるなら武術面をある程度できるだろうし」
そして呆れるように言った。
また、付け足した。
「というか、なんでこんなちんけな魔法学園に入ろうとしてるの? あれほどの魔力隠蔽を可能にしてる魔力操作技術に、魔法技術。こんなところで学べるものを超えてるじゃん。それに孤児って事は独学でしょ。まぁ、王立図書館の書物で勉強したと思うんだけど、それだけの力があるならこの学園で学ぶことなんてあるの? 王立図書館ってこの学校で学べる大体の書物があるじゃん」
老人はそう言われて少し悔しそうに頷きます。
「……それは確かに。けれど、もしかしたらレーランさんが特別講師の依頼を受けてくれた理由と同じかもしれませんよ」
「……魔導書か。確かに、この国はある程度書物を開放してるけど、魔導書、特に戦闘系じゃない魔導書は冊数が少ないからね。それに、好きな魔法であれを出してくるあたり、魔法が純粋に好きな子なのか」
投げやりな感じに、また納得したように頷く森人。
「ええ。それにして何故、あの魔力倉庫用の魔道具を使わなかったのでしょうか」
「意地か、それか面白くないからとかそんな理由じゃない? たまにいるんだよ。そういう魔法使い」
「レーランさんもそうですけどね」
老人にそう言われて、森人は少し言葉を詰まらせたのだった。
そして老人は、今日のレーラー様は饒舌に話すな、と思った。
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