上 下
12 / 138
第一部 二章:夢を持っていますか?

二話 筆記トップ

しおりを挟む
 ライゼは絶望的に魔力がない。
 種族的な特性と本人の才能も相まって、修行も何もしていない一般的な子供と比べても少ない。血の滲む修行をしても少ないのだ。
 どんな修行をしても殆ど増えないのだ。魔力量の成長限界に達してしまったのだ。

 だから魔法を使おうにも、根本的な魔力量が足らなくて使えないものが多いのである。
 けれど、ライゼはそれだけでへこたれたりはしなかった。当たり前である。

 ライゼは魔力操作技術を高めに高めて魔法に使う消費魔力を極度に減らしたり、魔法を発動させるための媒介を作り出し、それで消費魔力を減らしたりしていた。
 また、自身の魔力の大部分を常に“魔倉の腕輪”に補充して、自分の数倍以上もの魔力量を溜めていたりする。

 それに意図的に体内魔力を枯渇させ、十分な魔力回復を取ることによって基礎魔力回復速度を高める訓練を行っている。

 ただ、その魔力回復速度を早める訓練は、ぶっちゃけ言うと多くの人はやらない。とても辛いからだ。辛い何て一言では表せないほど嫌なものなのである。
 
 多くの魔法使いは、体内魔力が空っぽになる一歩手前まで魔力を消費して、心身を落ち着かせることによって、一時的に魔力回復速度が上昇する。そして、それを幾度となく繰り返すことによって基礎魔力回復速度が上昇するのだ。
 
 これは基礎魔力量を増幅させる時も同様である。

 だが、これよりも早く大きく基礎魔力回復速度を鍛える方法がある。
 それが体内魔力を空っぽにすることだ。

 超回復という言葉がある通り、人の筋肉は必要以上の負荷がかかり、それがミクロサイズで破壊された後、しっかりと休息を取れば一時的により強い筋肉になる。
 そして一時的に強い筋肉になったら、再び筋肉をに負荷をかけ、破壊し、回復を取るというサイクルをキチンと繰り返すことによって、筋肉は恒常的に強くなる。

 それは魔力も同様である。

 魔力関連で肉体に最も負荷をかけることは体内魔力を枯渇させる事である。空っぽの一歩手前よりも負荷が圧倒的に高い。
 そして、その負荷をキチンと回復させ、再び同じ訓練を続ければ魔力量と基礎魔力回復速度はぐっと上がるだろう。

 まぁ、ライゼの場合、魔力量の成長限界点は常人より遥かに低かったので、これ以上増えることはないだろが。

 と、最初の話しに戻るが、一般的には誰もこれをやらない。魔力に精通した魔法使いですら、この訓練方法はやらない。
 辛いからだ。

 分かりやすく言えば、四十度くらいの熱が出た時の辛さと言えばいいのだろうか。俺も一度やってみたのだが、いっそ死んだ方がマシでは、とつい思っていしまうほどの吐き気と痛みと苦しみに襲われるのだ。
 誰だって、そんな辛さを自ら味わいたいとは思わないだろう。

 それにそんな辛さを味わなくても、成長度具合はそれよりも少ないがけれど、辛さもそこまでない成長方法があるのだ。
 だから、そもそもやるという発想すらなかった。

 けれど、ライゼは訓練方法を選り好みできるほどの才能をもっていない。魔力量も魔力量の成長も低いライゼにとって、一番の最短ルートは一番辛い修行方法しかなかったのだ。

 そして途中からは、魔力量の増大は諦め、基礎魔力回復速度の強化へと移行した。

 だけど、ここ四年間、ライゼは決して弱音は吐かなかった。
 俺がどんなに言っても、毎日全身を襲う死よりも辛い苦痛に耐えながら、仕事や勉強をしていたのだ。
 決して寝込むことなく、四年間ずっと続けていたのだ。

 だからこそ、ライゼはこの四年間でここまで成長できたのだ。


 Φ


「第一次試験、筆記、合格者!」

 中年が叫ぶ。
 今は丁度昼過ぎ。ここで王立魔法学園に入学するための最初の篩によって残った存在が発表される時。
 学園内にある試験会場で大きな張り紙が出された。

『ライゼ』

 ライゼが羽織っている深緑のローブの首元には、俺専用の隠れ場所がある。俺の方からはよく回りが見えて、相手からは見えにくい場所に俺はいる。俺の鱗は蜥蜴色だし、深緑のローブと同化するのだ。

『うん』

 ライゼはその張り紙を遠くから見つめていた。身体強化によって視力を強化しているライゼは、数十メートル先の張り紙に書かれた合格者と成績上位者の名前の一覧を見る。
 身体強化は魔力量よりも操作技術が物をいうのだ。

『それで、筆記は当然一位通過だが』
『そうだね。皆困惑してるよ』

 王立魔法学園は貴族の少年少女たちも通う学園である。そこで、基本的な常識や魔法での戦い方を学び、三年後の十四歳になったら貴族専用の学校に行く。

 俺たちがいるアイファング王国の貴族の子供に対する基本的な教育では、幼い内は平民などもいる王立魔法学園である価値観を形成することを、一つの目的に入れている。

 貴族は魔法の才能がとても高い。また、戦闘の才能もだ。そういう子が生まれるように代々血を重ねてきたのだ。
 そして彼らは魔物などといった存在から国を、領民を守る義務がある。
 高貴な身分に伴う義務ノブレスオブリージュというやつだ。

 そして彼らは魔物との戦いで、先頭に立ち、そして平民である兵士たちを指揮する立場になる。だから、平民がどういう価値観や考え方を持っているのか知っている必要がある。それを理解とは言わないが、考慮できる価値観をもつ必要がある。
 そして、それは小さいときに学ぶしかない。大人になって自分が持つ価値観とは圧倒的に違う世界の価値観を学ぶことはとても難しいからだ。

 まぁ、それは日本の労働環境にもいえるが、おいておく。

 と、そんな話は置いといて、王立魔法学園の入学試験には当然貴族の子供たちも参加するので、成績のトップは貴族が占めることになるのは当たり前である。
 学園に臨む商人や金持ちの平民の子よりも、貴族の子の方がとても質の高い教育を受けているからである。

 だが、筆記試験の成績トップは貴族ではない。商人や金持ちの平民の子でもない。俺の自慢のライゼである。

 そしてライゼの名前を知る者はいない。
 貴族同士なら社交界とか何やらで互いの名前を知っていてもおかしくない。商人の子も同様である。
 金持ちの平民の子は知らないが、同じようなものである。

 だが、孤児であるライゼの名前は誰も知らないのだ。まぁ、俺はライゼの家族だから、ライゼは正確には孤児ではないんだが。

 だから、誰も知らない名前が成績トップになって皆驚いているのだ。
 うん。ライゼを自慢できるところが一つ増えて嬉しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。 目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に! 火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!! 有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!? 仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない! 進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命! グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか! 読んで観なきゃあ分からない! 異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す! ※「小説家になろう」でも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n5903ga/

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...