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第一部 二章:夢を持っていますか?
プロローグ Do You Believe In You?――b
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それから。
「〝―――魔法―――魔法〟」
祈りが聞こえた。閃光の弾幕の中から微かな願いが、弱く儚い言葉が聞こえた。
「〝――の魔法―――魔法〟」
再び聞こえた。その希う祈りは先程よりも強く大きくなっている。
閃光の弾幕によって劈く爆音が響いているのに、確かに俺の耳に軽やかに、明瞭に、芯がある言霊が謳うのだ。囁くのだ。
それはライゼの声だ。
「〝――の魔法――る魔法〟」
ああ、再び聞こえた。
神聖だ。
祈りが多くの人の心を動かすように、尊く愛しい言葉が静かに響き渡るのだ。
それは世界への願いで、美しい。
――ゴウッ!
閃光の弾幕が晴れる。
「〝――の魔法を―る魔法〟」
そこには黄昏た空を眺めるライゼがいた。
どこまでも澄み切ったこげ茶の瞳はここではない遠くを見ていて、灰が混じったこげ茶の髪はここではないどこかへ誘われるように靡いていた。
血に沈んだ白シャツはまるで向こうの人のようで、血黒のズボンは幽鬼の様に恐ろしい。
浮いているライゼは、本当にどこかへ行きそうで。
「うん、及第点だ」
レーランは〝攻撃する魔法〟でライゼの胸を穿った。
ライゼは落ちた。
Φ
『ヘルメスが僕よりも早く起きてるなんて珍しいね』
『……今日くらい休め。これは命令だ』
日が昇っていない朝方。
身体のあちこちが包帯で巻かれているライゼは、しかしながら、白シャツと黒ズボン、深緑ローブを羽織り、服の下に蒼い宝石が付いたペンダントを、また右腕に蜥蜴色の腕輪を付けて、部屋を出ようとしていた。
俺は床の耐久ギリギリまで身体を大きくして、部屋の扉を塞ぐ。
塞がなければならない。
『昨日は、己の命すら削って魔力を生成した。それにレーランや司祭が怪我を治したとはいえ、安静にすべきだ。今日の仕事はナシだ』
『……でも、何か落ち着かないし』
『……というか、これからの生活を考えたらお前は仕事を減らすべきだ。むしろ、やるな。訓練としてならいい。けど、必要以上にやる必要はない。もし金が欲しいなら、俺が魔道具を作って売る』
俺は俺の意思をライゼにぶつける。
過保護と、お節介と言われるかもしれないが、これぐらいはやりたいのだ。ライゼの手助けをしたいのだ。
『……わかったよ』
ライゼは少しだけ苦笑いをしながら、渋々頷いた。
少し残念そうだ。
……
『まぁ、気分転換に配達の依頼を受けることを止めたりはしない。だけど、お前の望みは配達をする事ではないだろ』
『うん、そうだね。……うん』
ライゼは確認する様に頷いた。
それから深緑ローブを脱ぎ、ベットメイキングされた清潔なベットに背中から飛び込んだ。
『じゃあ、久しぶりに二度寝を楽しもうかな』
そして大の字になったライゼは急に静かになる。
あれ、どうしたんだ。
「……ああ、そうか。確かにそうだね」
と俺が疑問に思ったら、ライゼはいつも俺との会話では使っている〝思念を伝える魔法〟を使わずに、普通に呟いた。
思わず出てしまった呟きなのだろう。
『どうしたんだ?』
『……ヘルメス、僕は確かに未熟だったよ。必死に生き過ぎていた。余裕がなかったんだよ。だから、僕の想いは弱かったんだ』
万感の想いと喉のつっかえが取れたような晴れやかな思念が俺に伝わる。
ライゼは嬉しそうに笑っていた。
『そうか。なら、これからもっと楽しもうな』
『うん』
そして、その日は一日中寝ることを楽しんだ。
「〝―――魔法―――魔法〟」
祈りが聞こえた。閃光の弾幕の中から微かな願いが、弱く儚い言葉が聞こえた。
「〝――の魔法―――魔法〟」
再び聞こえた。その希う祈りは先程よりも強く大きくなっている。
閃光の弾幕によって劈く爆音が響いているのに、確かに俺の耳に軽やかに、明瞭に、芯がある言霊が謳うのだ。囁くのだ。
それはライゼの声だ。
「〝――の魔法――る魔法〟」
ああ、再び聞こえた。
神聖だ。
祈りが多くの人の心を動かすように、尊く愛しい言葉が静かに響き渡るのだ。
それは世界への願いで、美しい。
――ゴウッ!
閃光の弾幕が晴れる。
「〝――の魔法を―る魔法〟」
そこには黄昏た空を眺めるライゼがいた。
どこまでも澄み切ったこげ茶の瞳はここではない遠くを見ていて、灰が混じったこげ茶の髪はここではないどこかへ誘われるように靡いていた。
血に沈んだ白シャツはまるで向こうの人のようで、血黒のズボンは幽鬼の様に恐ろしい。
浮いているライゼは、本当にどこかへ行きそうで。
「うん、及第点だ」
レーランは〝攻撃する魔法〟でライゼの胸を穿った。
ライゼは落ちた。
Φ
『ヘルメスが僕よりも早く起きてるなんて珍しいね』
『……今日くらい休め。これは命令だ』
日が昇っていない朝方。
身体のあちこちが包帯で巻かれているライゼは、しかしながら、白シャツと黒ズボン、深緑ローブを羽織り、服の下に蒼い宝石が付いたペンダントを、また右腕に蜥蜴色の腕輪を付けて、部屋を出ようとしていた。
俺は床の耐久ギリギリまで身体を大きくして、部屋の扉を塞ぐ。
塞がなければならない。
『昨日は、己の命すら削って魔力を生成した。それにレーランや司祭が怪我を治したとはいえ、安静にすべきだ。今日の仕事はナシだ』
『……でも、何か落ち着かないし』
『……というか、これからの生活を考えたらお前は仕事を減らすべきだ。むしろ、やるな。訓練としてならいい。けど、必要以上にやる必要はない。もし金が欲しいなら、俺が魔道具を作って売る』
俺は俺の意思をライゼにぶつける。
過保護と、お節介と言われるかもしれないが、これぐらいはやりたいのだ。ライゼの手助けをしたいのだ。
『……わかったよ』
ライゼは少しだけ苦笑いをしながら、渋々頷いた。
少し残念そうだ。
……
『まぁ、気分転換に配達の依頼を受けることを止めたりはしない。だけど、お前の望みは配達をする事ではないだろ』
『うん、そうだね。……うん』
ライゼは確認する様に頷いた。
それから深緑ローブを脱ぎ、ベットメイキングされた清潔なベットに背中から飛び込んだ。
『じゃあ、久しぶりに二度寝を楽しもうかな』
そして大の字になったライゼは急に静かになる。
あれ、どうしたんだ。
「……ああ、そうか。確かにそうだね」
と俺が疑問に思ったら、ライゼはいつも俺との会話では使っている〝思念を伝える魔法〟を使わずに、普通に呟いた。
思わず出てしまった呟きなのだろう。
『どうしたんだ?』
『……ヘルメス、僕は確かに未熟だったよ。必死に生き過ぎていた。余裕がなかったんだよ。だから、僕の想いは弱かったんだ』
万感の想いと喉のつっかえが取れたような晴れやかな思念が俺に伝わる。
ライゼは嬉しそうに笑っていた。
『そうか。なら、これからもっと楽しもうな』
『うん』
そして、その日は一日中寝ることを楽しんだ。
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