10 / 138
第一部 二章:夢を持っていますか?
プロローグ Do You Believe In You?――b
しおりを挟む
それから。
「〝―――魔法―――魔法〟」
祈りが聞こえた。閃光の弾幕の中から微かな願いが、弱く儚い言葉が聞こえた。
「〝――の魔法―――魔法〟」
再び聞こえた。その希う祈りは先程よりも強く大きくなっている。
閃光の弾幕によって劈く爆音が響いているのに、確かに俺の耳に軽やかに、明瞭に、芯がある言霊が謳うのだ。囁くのだ。
それはライゼの声だ。
「〝――の魔法――る魔法〟」
ああ、再び聞こえた。
神聖だ。
祈りが多くの人の心を動かすように、尊く愛しい言葉が静かに響き渡るのだ。
それは世界への願いで、美しい。
――ゴウッ!
閃光の弾幕が晴れる。
「〝――の魔法を―る魔法〟」
そこには黄昏た空を眺めるライゼがいた。
どこまでも澄み切ったこげ茶の瞳はここではない遠くを見ていて、灰が混じったこげ茶の髪はここではないどこかへ誘われるように靡いていた。
血に沈んだ白シャツはまるで向こうの人のようで、血黒のズボンは幽鬼の様に恐ろしい。
浮いているライゼは、本当にどこかへ行きそうで。
「うん、及第点だ」
レーランは〝攻撃する魔法〟でライゼの胸を穿った。
ライゼは落ちた。
Φ
『ヘルメスが僕よりも早く起きてるなんて珍しいね』
『……今日くらい休め。これは命令だ』
日が昇っていない朝方。
身体のあちこちが包帯で巻かれているライゼは、しかしながら、白シャツと黒ズボン、深緑ローブを羽織り、服の下に蒼い宝石が付いたペンダントを、また右腕に蜥蜴色の腕輪を付けて、部屋を出ようとしていた。
俺は床の耐久ギリギリまで身体を大きくして、部屋の扉を塞ぐ。
塞がなければならない。
『昨日は、己の命すら削って魔力を生成した。それにレーランや司祭が怪我を治したとはいえ、安静にすべきだ。今日の仕事はナシだ』
『……でも、何か落ち着かないし』
『……というか、これからの生活を考えたらお前は仕事を減らすべきだ。むしろ、やるな。訓練としてならいい。けど、必要以上にやる必要はない。もし金が欲しいなら、俺が魔道具を作って売る』
俺は俺の意思をライゼにぶつける。
過保護と、お節介と言われるかもしれないが、これぐらいはやりたいのだ。ライゼの手助けをしたいのだ。
『……わかったよ』
ライゼは少しだけ苦笑いをしながら、渋々頷いた。
少し残念そうだ。
……
『まぁ、気分転換に配達の依頼を受けることを止めたりはしない。だけど、お前の望みは配達をする事ではないだろ』
『うん、そうだね。……うん』
ライゼは確認する様に頷いた。
それから深緑ローブを脱ぎ、ベットメイキングされた清潔なベットに背中から飛び込んだ。
『じゃあ、久しぶりに二度寝を楽しもうかな』
そして大の字になったライゼは急に静かになる。
あれ、どうしたんだ。
「……ああ、そうか。確かにそうだね」
と俺が疑問に思ったら、ライゼはいつも俺との会話では使っている〝思念を伝える魔法〟を使わずに、普通に呟いた。
思わず出てしまった呟きなのだろう。
『どうしたんだ?』
『……ヘルメス、僕は確かに未熟だったよ。必死に生き過ぎていた。余裕がなかったんだよ。だから、僕の想いは弱かったんだ』
万感の想いと喉のつっかえが取れたような晴れやかな思念が俺に伝わる。
ライゼは嬉しそうに笑っていた。
『そうか。なら、これからもっと楽しもうな』
『うん』
そして、その日は一日中寝ることを楽しんだ。
「〝―――魔法―――魔法〟」
祈りが聞こえた。閃光の弾幕の中から微かな願いが、弱く儚い言葉が聞こえた。
「〝――の魔法―――魔法〟」
再び聞こえた。その希う祈りは先程よりも強く大きくなっている。
閃光の弾幕によって劈く爆音が響いているのに、確かに俺の耳に軽やかに、明瞭に、芯がある言霊が謳うのだ。囁くのだ。
それはライゼの声だ。
「〝――の魔法――る魔法〟」
ああ、再び聞こえた。
神聖だ。
祈りが多くの人の心を動かすように、尊く愛しい言葉が静かに響き渡るのだ。
それは世界への願いで、美しい。
――ゴウッ!
閃光の弾幕が晴れる。
「〝――の魔法を―る魔法〟」
そこには黄昏た空を眺めるライゼがいた。
どこまでも澄み切ったこげ茶の瞳はここではない遠くを見ていて、灰が混じったこげ茶の髪はここではないどこかへ誘われるように靡いていた。
血に沈んだ白シャツはまるで向こうの人のようで、血黒のズボンは幽鬼の様に恐ろしい。
浮いているライゼは、本当にどこかへ行きそうで。
「うん、及第点だ」
レーランは〝攻撃する魔法〟でライゼの胸を穿った。
ライゼは落ちた。
Φ
『ヘルメスが僕よりも早く起きてるなんて珍しいね』
『……今日くらい休め。これは命令だ』
日が昇っていない朝方。
身体のあちこちが包帯で巻かれているライゼは、しかしながら、白シャツと黒ズボン、深緑ローブを羽織り、服の下に蒼い宝石が付いたペンダントを、また右腕に蜥蜴色の腕輪を付けて、部屋を出ようとしていた。
俺は床の耐久ギリギリまで身体を大きくして、部屋の扉を塞ぐ。
塞がなければならない。
『昨日は、己の命すら削って魔力を生成した。それにレーランや司祭が怪我を治したとはいえ、安静にすべきだ。今日の仕事はナシだ』
『……でも、何か落ち着かないし』
『……というか、これからの生活を考えたらお前は仕事を減らすべきだ。むしろ、やるな。訓練としてならいい。けど、必要以上にやる必要はない。もし金が欲しいなら、俺が魔道具を作って売る』
俺は俺の意思をライゼにぶつける。
過保護と、お節介と言われるかもしれないが、これぐらいはやりたいのだ。ライゼの手助けをしたいのだ。
『……わかったよ』
ライゼは少しだけ苦笑いをしながら、渋々頷いた。
少し残念そうだ。
……
『まぁ、気分転換に配達の依頼を受けることを止めたりはしない。だけど、お前の望みは配達をする事ではないだろ』
『うん、そうだね。……うん』
ライゼは確認する様に頷いた。
それから深緑ローブを脱ぎ、ベットメイキングされた清潔なベットに背中から飛び込んだ。
『じゃあ、久しぶりに二度寝を楽しもうかな』
そして大の字になったライゼは急に静かになる。
あれ、どうしたんだ。
「……ああ、そうか。確かにそうだね」
と俺が疑問に思ったら、ライゼはいつも俺との会話では使っている〝思念を伝える魔法〟を使わずに、普通に呟いた。
思わず出てしまった呟きなのだろう。
『どうしたんだ?』
『……ヘルメス、僕は確かに未熟だったよ。必死に生き過ぎていた。余裕がなかったんだよ。だから、僕の想いは弱かったんだ』
万感の想いと喉のつっかえが取れたような晴れやかな思念が俺に伝わる。
ライゼは嬉しそうに笑っていた。
『そうか。なら、これからもっと楽しもうな』
『うん』
そして、その日は一日中寝ることを楽しんだ。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
猛焔滅斬の碧刃龍
ガスト
ファンタジー
ある日、背後から何者かに突然刺され死亡した主人公。
目覚めると神様的な存在に『転生』を迫られ 気付けば異世界に!
火を吐くドラゴン、動く大木、ダンジョンに魔王!!
有り触れた世界に転生したけど、身体は竜の姿で⋯!?
仲間と出会い、絆を深め、強敵を倒す⋯単なるファンタジーライフじゃない!
進むに連れて、どんどんおかしな方向に行く主人公の運命!
グルグルと回る世界で、一体どんな事が待ち受けているのか!
読んで観なきゃあ分からない!
異世界転生バトルファンタジー!ここに降臨す!
※「小説家になろう」でも投稿しております。
https://ncode.syosetu.com/n5903ga/
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる