上 下
4 / 138
第一部 序章:羽搏くのはあなただけ

三話 ようやく人の影

しおりを挟む
 さて、ホントどうしよう。

 何故か前世の記憶が目覚めて、不老になったけど、明らかに俺って弱いしな。
 そして、女神とやらから魔王の討伐を命じられたわけでもないし。

 ……よし。人里に降りよう。
 “身体変化”で小さなトカゲになれば普通に入れる筈だし、この世界の事を知りたいからな。
 “雑食”のお陰で、基本的に気を付けていれば食事に困ることはないだろうし。

 よし、歩き続けよう。

 まぁ、ここは森の中だが、直ぐに人里は見つかるだろう。


 Φ


 そう思っていた時期もありました。
 俺が前世の記憶を思い出してから数十年が経ちました。ずっと真っ直ぐ歩き続きました。トカゲとしての能力なのか、同じ道をグルグルと回ることはなく、ずっと真っ直ぐ歩き続けました。

 けれど、人里どころか森すら抜けることはありませんでした。

 マジで、ヤバい。
 数十年歩き続けたのに森から抜けられないってどういうことだよ。ホント、マジで。そのくせ、道中は恐ろしい異形の生物やら何やらがいたのに人とは出会わなかった。俺は化け物に会いたいんじゃなくて人に会いたいのだ。
 
 というか、なまじ前世の記憶があるせいで、人が恋しい。

 なので、途中からは“身大変化”を使って体長を数メートル程度にし、移動速度を上げて歩き続けたが、結局森は抜けなかった。

 あ、けど、この数十年間で幾つかの収穫はあった。

 まず、魔力を感じることができ、また、魔力を操作することができたのだ。まぁ、体内で魔力を操作することができても、身体能力が上がる以外に何もできなかったのだが、魔力を感知することができたのは大きかった。

 先程も言った通り、道中に異形の生物を見かけることがあり、そいつらは魔力を使った不可思議な力を使ってくるのだ。
 そしてめっちゃ強い。
 図体がでかいだけの俺が直ぐに死んでしまうほどだ。まぁ、トカゲの尻尾切りで逃げてはきたんだが。

 だけど、そいつらは不思議で、魔力を沢山体外に放出しているのだ。だから、魔力を感知することができるようになったおかげで、俺はそいつらを避けることができたのだ。
 逆に、俺の体内からも魔力が放出されていたので、こっちは魔力操作を使って魔力の放出を抑えていた。

 それで、数十年間そんなことをやっていたら、スキルが若干増えた。

=====================================
名前:
種族:ペレグリーナーティオトカゲ
祝福ギフト:雑食・前世の記憶
スキル:舌伸ばし・熱視・張り付き・登攀・尻尾再生・隠密・身大変化・不老・逃走・身体強化・魔力感知・魔力操作・魔力隠蔽
=====================================

 こんな感じになった。
 増えたのは“逃走”・“魔力感知”・“魔力操作”・“身体強化”・“魔力隠蔽”だ。
 全部、名前の通りである。

 ああ、だけど、“身体変化”は体内の魔力を高速で巡回させる事によって身体能力をあげるのだが、上げ過ぎると肉体が耐え切れなくなって裂けるんだ。
 一回、異形の生物、俺は魔物と読んでいるがそいつらから逃げる時に体内にある魔力をほぼ全開で使って逃げたら、後ろ足に両方ともブチッという音と共に強烈な痛みが走ったのである。

 あれ以降、“身体強化”は、ほどほどにしている。

 そして今日も今日とて、その“身体強化”と“身大変化”で移動スピードを上げながら移動している。
 まぁ、たまに日向ぼっこしたり、虫を食べたり、草や花、果実を食べながらふらふらとしているので、一日の移動距離はそこまでないのだが。

 一応、あると信じている人里を目指して移動しているが、ぶっちゃけ当てのない旅である。気ままにその日暮らしを楽しんでいた。

 そうして、数日後。

 俺は森を出た。
 森を出ることができたのだ。

 出た先は草原。地平線の果てまで草原だが、一応森を出ることができた。
 それに、さっき確かめたのだが、草原に生えている草花は基本的に食べられる奴である。食料には困らない。草花なので水も沢山含んでいるため、水不足にもならない。

 俺は森から草原に変わっただけの当てのない旅を続けた。
 その間、魔物や鳥に襲われそうにはなったが、人間はいなかった。少し悲しい。 けれど、今までは一色森だったため、新たな景色が見れて嬉しかった。

 
 Φ


 王都よ、私は帰って来た!

 まぁ、目の前にある城壁が王都なのかどうなのかは分からないが、俺はようやく人の気配が感じられる所にやってきた。

 長く長く続いた森を抜け、草原にでた俺は東へと進んでいた。
 多分東である。太陽の動きが前世と同じならば、東へ俺は向かっていた。

 それから草原を東へ進むこと一年たった後、また、森に出くわし、しかし、この森は小さく数日で抜けることができた。 
 そして、“身体強化”によって、めっちゃ良くなった視力が数十キロ先の大きな城壁を捉えたのである。

 なので、俺は“身大変化”を使って、ニホントカゲくらいの大きさへと身体を小さくした。この世界の常識だと分からないが、俺の常識では体長数メートルを超えるトカゲは化け物である。

 もちろん、こっちの世界ではそれが当たり前なのかもしれないが、しかし、小さくなっていた方が、万が一は少ないだろうと思うので、俺は小さくなった。

 だが、小さくなると移動速度が落ちる。食べられる草花が生えまくっている草原なので食べ物には困らなかったが、数十キロ先の城壁へ行くのに一週間くらいかかった。
 大変だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

この結婚は間違っていると思う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,618pt お気に入り:754

悪役令嬢の生産ライフ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:433pt お気に入り:5,541

幽霊屋敷の掃除婦

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:110

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,764

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:3,558

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:2,529

処理中です...