上 下
40 / 46

38話 久しぶりの再会

しおりを挟む
 しょうめつ……? 誰が? エヴァンとゾーイが?
 突然のエヴァンの言葉の意味が理解できない。言葉として耳に届いたのに、それを脳内で咀嚼そしゃく出来ない。

「え、どういう……」
「これ以上に分かりやすい説明はないが、そうだな……。意識や考えは個人でそれぞれあるが、根本では繋がっている状態だということ。子がいなくなっても親が生きていればいつでも復活は出来る。残酷な考えではあるがな」
「そんなこと……」

 ないとははっきり言えなかった。これまで何度も小説の中でどういう人生を送らせていくかって考えていたから。その中でもパロディで死ぬこともあった。でも、キャラクターとして死なせたことは1度もない。エヴァンが言うのってそういうことだよね。

「……不満とかはなかったの?」
「当然あった。こいつが俺たちの人生を左右させていたんだってな」
「それでも守ってくれたのはなんで? エヴァンだったら私程度すぐ倒せたと思う」
「弱いながらも自分で考え、動いていたから。とくにこの世界は死にやすい世界なのだろう? 俺たちの世界と違い、日本は平和なところだ。怖いはずなのに必死に生きようとしていたからだ」

 エヴァンやゾーイと違って確かに私が生きている日本は平和だ。ましてやクトゥルフ神話生物に会うなんてことはめったにない。本来の私は怖がりで、泣いたりしたことはあったけど、どうにかこの世界で生きようとしていた。それを見ていたってこと? 文句も一切言わずずっと?
 でも、それってもし私がなまけていたら倒されていた可能性だってあるよね……? こわ……。

「……これからも必死に生きます」
「是非そうしてくれ」

 クトゥルフ以外にも死ぬ可能性が出てきた。気を付けとこ。

「そうだったのね」
「あ、えっと」

 ゾーイはどう思っているんだろう。横目で隣に座っているゾーイを見る。うつむき、目をつぶっている。

「まぁ、創作の中だろうがどうでもいいわ。私がすることはあかりちゃんの健康を守ることと他の看病だから」

 あ、よかった。このことを聞いて嫌になっていなくなるとかじゃなくて。
 心臓の鼓動が恐怖で早くなっていたけど、落ち着いてきたときにギルド内のドアが勢いよく開いた。
 心臓が跳ね上がるようなことするの誰。まったく。
 心の中でイライラを誰かに向けてぶつけていると、騎士が入ってきた。さすがに騎士相手にエヴァンもゾーイも、もちろん私も戦えないよ。

「一人の男と女を姫が探している。エヴァン・トリス。あかり。この名をもつ者はギルド長室に」

 男女ってこのギルド内でもいっぱいいるけど、名差しだったら私たち以外いない。それにしても姫様が何故私たちの名前を? ここに来る前メアリー様以外に会っていないけど。

「向かってみる?」
「何かあっても平気なように準備する」
「ゾーイも行こう」
「ええ」

 ギルド中の人たちにめちゃくちゃ見られている。凄く怖い。
 エヴァンの後ろに隠れながらギルド長室に向かい、中で待っていたガインさんに座るよう言われた。もしかして聞きたいこととかあったのかな? と思っていたら、ドアが開けられ、騎士を連れた誰かが入ってくる。

「お久しぶりですね、あかり様、エヴァン様」
「お久しぶりございます、姫様」
「メアリー様」

 ドレスの裾を持ち上げ、腰を落として挨拶するメアリー様。それに対し、エヴァンはお腹に左手を、後ろに右手を回してお辞儀している。わ、私もしなきゃ。とりあえず日本で一番偉いお辞儀を。
 驚いて名前だけ呼んじゃったけど、大丈夫だよね。

「ギルド長に聞きましたわ。今回の事件についてあかり様が情報を提供してくださったのですね」
「そうです」

 肯定したけど、いつ情報が渡ったんだろう。

「是非お城でと考えたのですが、今危険な状態でして、こちらのギルド長室をお借り致しました」
「姫様、危険な状態とは?」

 危険な状態って、もしかして深きものが城の中にまで入って来ちゃったのか? それだったらすごくまずい。

「1人の男が突如我が国が所有する図書館に侵入いたしまして、謎の本を置いていったのです」
「その姿は見たのですか?」
「ええ。ただ、肌が黒いこととあかり様のことをご存じでしたので、もしかするとと思いこちらに来たのです」

 ニャルラトホテップだ。もう、長いからニャル様って呼ぶけど、間違いない。千の顔を持つニャル様。その時はエジプト人の姿になっていたんだ。

「その男性について何か知っていますか?」
「はい。ただ、知ってしまうと正気度というものが減っておかしくなってしまう可能性もあります」
「正気度とは?」
「姫様はご自身のステータス表はご存じですか?」

 メアリー様も調べていたらスムーズに説明が出来る。知らなかったら説明はするけど。

「ええ」
「その中にSANと書かれたものがあるのは知っていますね」

 知っていることを確認した私は、ステータス表についてガインさんにもした説明をメアリー様にもした。

「姫様、その人物が持っていた本の表紙の文字読みました?」
「いいえ。ただ、その中身を読んだ1人の兵士がおかしくなってしまいまして」

 あれを開いちゃったのか。中身は知らないけれど、発狂してもおかしくない本だったからな。
 
「あれは何なのでしょう?」
「私も中は見ていないので分からないですが、召喚魔法かもしくは魔法を使えるようになるか。そのどちらかだと思います」
「何を召喚するのです?」

 分からないと首を横に振る。中身を見ればわかるかもしれないけれど、もうあれをみる勇気は私にはない。

「あかり様でも分からない、ですか……」
「ごめんなさい。その本を見られるほど、私の正気度は高いわけではないですから」

 これ以上減らしたら自分でもどうなるか分からない。あの時はゾーイに助けてもらったけど、またなった時、自分がエヴァンたちを死なせてしまうかもしれない。自分のスマホは何かを召喚させるだけだけど、それでやれてしまったら自分をめちゃくちゃに責めてしまう。
しおりを挟む

処理中です...