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26話 危機察知
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教会から出た私たちはギルドへ戻ることにした。少ないけれど、情報を得たから知らせなきゃね。それに、もしかしたら調査から帰ってきた人たちが話をしているかもしれない。
シンと静まり返った街の道を歩きながらギルドに到着して、扉を開けようとドアノブを握った時、エヴァンが急に私の手首をやんわり掴んで止めた。
「どうしたの?」
「君は中には入らない方がいい」
「なんで?」
教会に行く前と同じく慌しく動いている人たちの声や足音が聞こえてくるだけ。何も変わっている様子はなさそうなんだけどな。
「非常事態が起きている」
「とにかく入らない方がいい」とエヴァンはそれ以上のことを言ってくれず、私の手首を掴む手が少しだけ強くなったのを感じた。見るために顔を上げると真剣な表情の中に、私を心配してくれているのも見て取れた。理由は分からないけど、信じてもよさそう。
「分かった」
ドアノブから手を離し、不思議そうに首を傾げていると急に後ろに引き寄せられた。誰?と一瞬驚いたけど、私の周りにはエヴァンとゾーイしかいない。そのまま地面に倒れることなく自分の後頭部に柔らかいものが当たった。ゾーイの胸だ。ゾーイが私の体に腕を巻き、抱きしめてくる。
「よく分からないけど、何かを察したのね?」
「ああ」
ゾーイも私と同じくよく分かっていなかったみたいだけど、真剣な表情で「下がっていろ」と言うエヴァンの言葉を聞き、私と一緒に後ろへ下がった。入れ替わるように、エヴァンがドアノブに手をかけてそっとドアを開けて中を覗いている。エヴァンの体で中は見えないけど、ドアを開けたことで一層声が大きく聞こえた。その発している言葉は教会に行く前と同じく、「ポーションはどこだ」とか「まだ意識のある魔法使いはいるか?」など。
「俺がいいと言うまで中に入るなよ?」
そう言い残し、ドアを今以上に開けることなく体を中へと擦りこませ、そっとドアを閉めた。少しの静寂の後、何か重いものを落としたような音が何回かした後、ドアが開き、エヴァンが顔だけ覗かせてくる。それと同時に先程まで騒がしかったギルド内が静まり返っていた。
「もういいぞ」
入りやすいようにドアを開け、待っている。中は横になっている人が大半で、残りの人たちは疲れのせいか床にへたり込み、うなだれている。
「お前たちが最初か」
ガインさんが近づいてきて不思議なことを言った。教会で介抱とかしてたから結構遅いのかと思っていたけど、最初に帰ってきたなんて。
「他の人たちはどうしたんだ?」
「街の外を出たっきりまだ戻ってきてなくてな」
エヴァンも不思議に思ったのか質問し、頭を掻き、眉間に皺を寄せながら答えるガインさん。
「も、もしかしたら時間がかかっているのかも。襲撃者がどんなのかまだ分からないし」
「こんな状況だし、不安になるのは分かるわ。そういうときほど事を急いては駄目よ。1日待ってみましょ」
さすがゾーイ。パンデミックが起きている世界で生きているからこそ、すごく冷静だ。うちの子最高。
なんて脳内で興奮したけど、すぐにやめた。エヴァンが少しだけ眉をひそめ、目を細めて見てくるから。
それにしても少しお腹空いたな。こんな状況で聞くと迷惑かなと思ってなかなか口に出せない。けど、皆同じなようで、あちこちでお腹が鳴っているのが聞こえてくる。それと同時に、ギルドの奥から給仕の人らしき人たちが大きい鍋とお皿、布がかぶせられた木で出来た編みかごを持ってきた。そろそろ皆お腹が空くだろうと準備してくれてたんだろう。
正確な時間は分からないけれど、外はうす暗くなっていた。
全員に配られるスープとパン。現代で生きている私とエヴァンにとっては、スープが少し薄く感じたけど、こんな状況でも作ってくれた給仕さんに文句をいうわけにもいかない。なにごともしてもらったら感謝しなきゃね。文句ばっかり言ったら次作ってくれなくなるかもしれないし。
「少量だけどお腹いっぱいになったね」
「そうね。久しぶりにしっかり食べられた気がするわ」
ゾーイの言葉に、現実戻ったら彼女がいる世界の設定少し変えようかなって思った夕食後だった。
シンと静まり返った街の道を歩きながらギルドに到着して、扉を開けようとドアノブを握った時、エヴァンが急に私の手首をやんわり掴んで止めた。
「どうしたの?」
「君は中には入らない方がいい」
「なんで?」
教会に行く前と同じく慌しく動いている人たちの声や足音が聞こえてくるだけ。何も変わっている様子はなさそうなんだけどな。
「非常事態が起きている」
「とにかく入らない方がいい」とエヴァンはそれ以上のことを言ってくれず、私の手首を掴む手が少しだけ強くなったのを感じた。見るために顔を上げると真剣な表情の中に、私を心配してくれているのも見て取れた。理由は分からないけど、信じてもよさそう。
「分かった」
ドアノブから手を離し、不思議そうに首を傾げていると急に後ろに引き寄せられた。誰?と一瞬驚いたけど、私の周りにはエヴァンとゾーイしかいない。そのまま地面に倒れることなく自分の後頭部に柔らかいものが当たった。ゾーイの胸だ。ゾーイが私の体に腕を巻き、抱きしめてくる。
「よく分からないけど、何かを察したのね?」
「ああ」
ゾーイも私と同じくよく分かっていなかったみたいだけど、真剣な表情で「下がっていろ」と言うエヴァンの言葉を聞き、私と一緒に後ろへ下がった。入れ替わるように、エヴァンがドアノブに手をかけてそっとドアを開けて中を覗いている。エヴァンの体で中は見えないけど、ドアを開けたことで一層声が大きく聞こえた。その発している言葉は教会に行く前と同じく、「ポーションはどこだ」とか「まだ意識のある魔法使いはいるか?」など。
「俺がいいと言うまで中に入るなよ?」
そう言い残し、ドアを今以上に開けることなく体を中へと擦りこませ、そっとドアを閉めた。少しの静寂の後、何か重いものを落としたような音が何回かした後、ドアが開き、エヴァンが顔だけ覗かせてくる。それと同時に先程まで騒がしかったギルド内が静まり返っていた。
「もういいぞ」
入りやすいようにドアを開け、待っている。中は横になっている人が大半で、残りの人たちは疲れのせいか床にへたり込み、うなだれている。
「お前たちが最初か」
ガインさんが近づいてきて不思議なことを言った。教会で介抱とかしてたから結構遅いのかと思っていたけど、最初に帰ってきたなんて。
「他の人たちはどうしたんだ?」
「街の外を出たっきりまだ戻ってきてなくてな」
エヴァンも不思議に思ったのか質問し、頭を掻き、眉間に皺を寄せながら答えるガインさん。
「も、もしかしたら時間がかかっているのかも。襲撃者がどんなのかまだ分からないし」
「こんな状況だし、不安になるのは分かるわ。そういうときほど事を急いては駄目よ。1日待ってみましょ」
さすがゾーイ。パンデミックが起きている世界で生きているからこそ、すごく冷静だ。うちの子最高。
なんて脳内で興奮したけど、すぐにやめた。エヴァンが少しだけ眉をひそめ、目を細めて見てくるから。
それにしても少しお腹空いたな。こんな状況で聞くと迷惑かなと思ってなかなか口に出せない。けど、皆同じなようで、あちこちでお腹が鳴っているのが聞こえてくる。それと同時に、ギルドの奥から給仕の人らしき人たちが大きい鍋とお皿、布がかぶせられた木で出来た編みかごを持ってきた。そろそろ皆お腹が空くだろうと準備してくれてたんだろう。
正確な時間は分からないけれど、外はうす暗くなっていた。
全員に配られるスープとパン。現代で生きている私とエヴァンにとっては、スープが少し薄く感じたけど、こんな状況でも作ってくれた給仕さんに文句をいうわけにもいかない。なにごともしてもらったら感謝しなきゃね。文句ばっかり言ったら次作ってくれなくなるかもしれないし。
「少量だけどお腹いっぱいになったね」
「そうね。久しぶりにしっかり食べられた気がするわ」
ゾーイの言葉に、現実戻ったら彼女がいる世界の設定少し変えようかなって思った夕食後だった。
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