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22話 新たな人

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 どうなるか分からない。けど、この状況をなんとかしてくれる人がいるならそれに頼るしかない。
 怖いけれど、やるしかない。

「『ぞーい、たすけて!』」

 メモ帳を開いてみたけれど、なんとなく文字じゃ何も反応がない気がした。何故かついていたボイス機能を起動してスマホに語りかけると、漢字には変換されなかったが、私の声を認識したスマホがメモ帳にそのまま文字として書かれていく。
 文字が書かれたままの画面を数秒くらいじっと見つめて待っていると、画面が白く点滅し始め、強い光が辺りを照らした。顔を逸らしていても眩しかったから、正面で見ていたら目がやられてしまうところだった。


「呼んだかしら?」


 白い世界から、りんとした声に重なるように私の視界が暗くなり、同時に息苦しくなった。首に何か巻かれてる? 全然体が動かない。

「おい、離してやれ。息苦しそうだ」
「あら」

 漫画とかで人に抱きつかれて苦しくなるっていう表現あったけど、本当にこうなるとは思わなかった。

「ごめんなさい、貴女を苦しくさせるつもりはなかったの」

 肩で息をしている私の背中を優しく撫でているのはゾーイ。片目を隠した黒く長い髪を持った女性。パンデミックが起きた世界で働く人。
 呼んだ理由は、彼女が看護師だからだ。倒れている人達の原因をもしかしたら当ててくれるかもしれない。そう願ってここに呼んだ。

「は、初めまして、ゾーイ。私は上宮あかりって言うの。よろしくね」
「よろしくね、あかり」

 人を安心させるかのように笑みを浮かべ、私の頭を撫でている。とてつもなく優しそうに笑っているけれど、彼女を作った自分だから知っている。

「ゾーイ。私の後ろにいる彼はエヴァン。エヴァン・トリスって言うの」
「よろしく、エヴァン」
「ああ」

 彼女は男性に興味を持たない。ゾーイの目には私しか写っていなかった。

「ゾーイ、ここに呼んだ理由なんだけど、ここの建物の中で人が倒れてて、その人達の治療がしたいの」
「とりあえず中を見てみなきゃ分からないわね」

 隣の建物を見ている私につられてみるゾーイ。手を引いてギルドの中に案内する。大丈夫だとは信じたいけど、あの場面を見て、引かなきゃいいけど。

「想像したよりも大丈夫そうね。もっと怪我人とかいるのかと思っていたけれど」
「出来そう?」

 中に颯爽さっそうと入って行き、倒れている人に近づいて首元に指を当てている。心拍数を図っているその隣で、急に現れたゾーイに驚いている魔法使いさん。何か言おうとている人を無視してゾーイは診ていた。

「な、なんなの貴方!」
「す、すみません。彼女だったら皆さんが倒れている原因が分かると思うんです。しばらく待ってもらえませんか?」

 怒っている人に話しかけるのは怖いけど、ゾーイの知識なら先に進めると思う。それにしても、さっきまで魔法で治療していた人息が上がっているような。襲撃があってから私たちが依頼から戻ってくるまでし続けていたとしたら、他の人も。
 そう思った瞬間、他の魔法使いたちが次々と倒れていった。気絶していない人たちが悲鳴を上げている。

「気絶しているだけだからこのまま安静にさせてたら起きるわよ。ただ、毛布とかが必要ね。これから夜になるから冷えてしまうわ」
「あ、じゃあ、聞いて来ます! エヴァン手伝ってくれる?」
「ああ」

 エヴァンを連れて受付さんのところに行くが、倒れた人を震えながらずっと見ていた。

「あの、受付さん」
「ああああ」

 何度も声をかけたり、肩を軽く叩いてみるも、叫ぶばかりでこちらを見向きもしなかった。ずっと聞いていたら自分もなんだか怖くなってくる。

「あの男なら大丈夫だろう」
「あの男?」

 エヴァンに腕を掴まれ、引っ張られながらその場から離れていく。ずかずかと進んでいくエヴァンの動向を見ていると、進行先にギルド長の部屋があった。

「お、おお。お前たちは無事だったか」

 勢いよくエヴァンが開けたドアにガインさんが驚いている。ちょうど紙を足に縛り付けていた鳩を飛ばしたところだったみたい。

「ギルド長、毛布はあるか?」
「あるが、何に使うんだ?」
「気絶しているもの奴らにだ。どこにある」
「こっちだ。ついて来な」

 部屋を出ていくガインさんについていき、毛布を取りにいく。明日には倒れている人が目を覚ましてくれたらいいな。
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