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12話 移動手段

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 筋肉痛が治っていなかったことを歩き出して今思い出してしまった。一日で治るわけないよね、そりゃ。
 骨というか筋肉がいたい。

「辛そうだな」
「きつい……」
 
 息切れもすごくて、しばらく木の陰に座って休憩してからじゃないと歩けないほど。小さいけど、街の壁がまだ視認出来るほどの距離で息切れか。運動しないとこれほど体力が落ちるものなんだね。もともと体力は少ない方だったけど、ここまで落ちるとなると適度な運動は本当大事だ。
 
「何か乗り物とか出せんのか?」
「分かんない。一応試してみる」

 車やバイク、自転車は出せたりするのかな? 詳しく書かないといけないから、知識も必要だよね。
 私が知っているのって、車だったら古代ギリシャのお話みたいなワゴン車とか、黄色い色していてボンネットに黒い線が2本入っている高級車。後、バイクだったらしのびみたいな名前のだったり。そこらへん。

「エヴァンって車とバイクの運転できる?」
「一通りのものは」
「もし、出せたらお願いしていい?」
「出せたらな」

 出来るならもし出た時に運転してもらおう。自分も持っているけど、ペーパードライバーに近いから不安だし。
 出来なかったらまたその時考えるかな。

【頭の中で浮かんだボンネットとトランクの真ん中にストライプが2本入った黄色い高級車が、私の目の前に突然現れた】

 これで出るかな? 実際では到底買えない値段の車だけど、ここでならいいよね? 


 しばらく待ってもうんともすんとも言わず、何もない時間が過ぎてしまった。

「……出ない、か」
「何を出そうとした?」
「真ん中にストライプが2本入った黄色い高級車」

 私が出そうとしていた車の詳細を聞いたエヴァンが一瞬だけ驚き、その後、手で目をおおいため息をついた。

「何故それを選んだ」
「憧れだったんだもん」
「分からんでもないが、出すなら馬にしろ」
「馬だったら馬小屋から借りたりとかすればいいじゃん」
「まだこの世界の金の価値もわからんのにか? 確かに車は楽だが、ここで出したら怪しまれるぞ」

 そんな言わんでも。確かに怪しまれるのは嫌だけど、出したいじゃんか。あのかっこいい車。
 それで走りまわりたいじゃん。

「不満そうだな」
「うん。それに馬と信頼関係を築かないと乗れないでしょ」
「そこはお前が信頼関係を築いた状態のを出せばいいだけじゃないか? 少し卑怯かもしれんが」
「あ……」
「ノベリストなんだろう。出せる物の限界は俺には分からんが、いろいろと試してみろ。とにかくあの車はここで出すな」

 確かに危険なのは分かってる。だって明らかにここじゃ異質だもん。ここに来て3日経つけど、ここは魔法で生活が成り立っていた。魔法を使えない人もいるっぽいけど、それでも生活が出来ている。そんな中に車という異質なものがあったら注目を浴びる。興味半分、怪しさ半分で見られる。
 最悪壊されてしまうかもしれない。
 それだけはちょっと嫌だな。あれが壊される様子は実際には見たくない。

 仕方ないけど馬にするか。どんなのがいいんだろうか。2人が乗っても大丈夫な馬がいいよな。
 足が速いのもいいけど速すぎるのもな。まぁそこはエヴァンに支えてもらおうかな。
 

【男女二人を乗せても丈夫な空の色をした馬が一頭、どこからか私のところに駆け寄ってくる。その馬は初めから2人を信頼していた】

 これでどうかな?

 なかなか来ないけど失敗しちゃったのか、それともちょっと時間がかかってるのかな?

 また失敗したかなと思っていたらどこからか馬の鳴き声が聞こえ、エヴァンが声が聞こえたほうへと顔を向けた。
 私も同じ方向を見てるけど、何もいないよ?

「来たぞ」
「え、どこ?」
「目の前だ」

 エヴァンがそう言ってから急に目の前に姿を現した馬に心臓が跳ね上がった。
 痛い。
 
「カモフラ―ジュ出来る馬か」

 接し方が分かっているのか、エヴァンは自分の手をお馬さんの鼻に近づけて、もう片方の手で背を優しく撫でている。
 
「空色の馬とは書いたけど、カモフラージュ出来る馬とは書いてないよ」
「予想外のことが起きたということか。まぁ、どちらにしても都合はいいだろう」

 最初から信頼関係があるとわかっているからか、軽快に乗り、私に向けて手を差し出してくる。乗れってことだよね。
 片手で簡単に彼の後ろに持ち上げられた。さすが、エヴァン。鍛えているだけはあるね。
 初めての乗馬だからちょっと不安だけど、彼の服をしっかり掴んでたら大丈夫かな。

「しっかり掴まっておけよ」
「うん」

 慣れた手つきで馬を走らせると目的の方へと向かっていく。
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