上 下
9 / 46

7話 お言葉に甘えて

しおりを挟む
 お姫様からハンカチを貰ってしまった。
 洗って返さなきゃと思ったけど、あまり粗末そまつに洗うとしわがついちゃうかもしれないから、気をつけなきゃ。

「この後どうされるのです?」
「何処かの街へと向かう予定です」
「それでしたら、一緒にわたくしが住んでいる街へ向かいませんか? ちょうど移動中のお話相手を欲していたところなのです」
「私は構いませんが、あかりはどうする?」

 これは好機とお姫様が両手を合わせ、エヴァンと一緒に私の方を見てくる。

 馬車はきらびやか。
 でも、そこまで派手ではない豪華なものに乗るなんてことは滅多にない事だから乗った方がいいけど、私みたいな一般人が乗って周りから変な目で見られないか、不安な気持ちもあるんだよね。

 でも、またとない機会。こんな時しか体験出来ないし、やってた方がいいよね。断るのも失礼だと言うし。

「で、では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 海外の挨拶にはうといし、つたないかもしれないけれど、最低限礼儀正しくしなきゃ。失礼になってしまうからね。
 あ、お辞儀もちゃんとしないと。日本のやり方で大丈夫かな。初対面の方だから敬礼が正しいかな。

「ええ、どうぞ」

 すごい。執事さんかな。その人が映画とかで見たことのある女性が乗車しやすくするためのエスコートが目の前で行われている。海外の人すごく似合うな。やるほうは当然って顔してるし、されるほうもこれが当たり前だって雰囲気だ。

「どうした? 乗らないのか?」
「あ、乗る」

 エヴァンが自然に私に手を差し伸べてきたけど、えっと、こういうときって私はどうしたらいいんだっけ。
 小説の資料を探してた時にたまたま見たんだけど、たしかエスコートしてくれる人がいるときは、勝手に乗らないんだったかな。
 いろいろと調べすぎて頭の中が真っ白になっちゃってる。

 まずは、片手差し出してるからそこに手を置いて、次に足場に足を乗せて……。

「慣れていないなら無理にする必要はないぞ」
「でも、礼儀が」
「甘く見ますわ」

 お姫様はそう言ってくれたけど、一般人の私とじゃ立場が違うし、彼女が良いと言っても側近の人達が許してくれなかったりとかあるかもしれないから。

「そう固くなる必要はありませんわ。少し気持ちを楽に持って?」
「は、はい」

 ぎこちなさがありながらも席に座ったけど、とても柔らかくて気を楽にするどころか逆に緊張してしまう。ドアが閉められたけど、エヴァンは中に座らないの? もしかしてお姫様と2人だけ? 

 ファッションセンス皆無だからパーカー着とけばいいやって楽してたけど、服装もちゃんとしておけばよかった。 
 この馬車に似合わない。

「そういえば名前を教えておりませんでしたね。わたくしはメアリーと申します」
「あかりと言います」
「よろしくお願い致しますわ」
「よ、よろしくお願いします」

 言葉使いも全然違う。こんなんのでいいのかな。

「あなたたちはどちらからいらっしゃったのですか?」
「えっと……」

 どうしよう、なんて答えよう。日本からって言って通じるかな。

「彼女は遥か東方の地から参りました。私は北の地から。彼女のほうはあまり知られていない場所です」
「は、はい、そうなんです」

 助け舟出してくれて助かったよ、エヴァン。緊張しがちな私じゃ変なことを言いそうで怖かった。

「まぁ、そんな遠いところから。どのようにして出会ったのですか?」
「私が旅をしているとき、彼女が倒れそうになっていたところを助けたといった感じですね」

 嘘は言ってないし、倒れたというか死にかけたけど、本当のことだから何も間違ってない。

 しかし、これからどうしようかな。生活するにしてもずっと野宿じゃいろいろと問題が出てくる。現代で充実した環境に私が慣れ切っているから不便にもなると思う。ここがどこかもまだ分かっていないのに。
 お姫様が目の前にいるけど、ここはどこですかって聞くのも引ける。ここに来ちゃった以上、慣れるしかないのかな。

「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「ええ」
「先程申した通り、私たちはそれぞれ別の地から参った者で、ここがどういう場所かまだ不明なのです」

 私が聞こうと思ったけど、聞けなかったことをエヴァンが代わりに聞いてくれたのかな。本当ありがたいな。彼がいなかったら、私は路頭に迷って野垂のたれ死んでいたと思う。
 初対面の人に緊張して、上手く話せず一人ぼっちに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...