【完】私の従兄弟達は独特です 

yasaca

文字の大きさ
上 下
12 / 17

四男の話

しおりを挟む
 午後の天気が良くて、河川敷を散歩していたのですが、どこかで誰かが喧嘩している声が聞こえます。
 ここは毎日が平和で、めったに喧嘩などは起きないのですが、今日は珍しく起きてしまったようです。

 喧嘩している中の一人の男の子の声を、私は聞いたことがあるような。


「今度邪魔したらただじゃおかねぇからな」


 いざこざは終わったみたいですね。橋の下でするなんてまるで漫画の中の世界みたい。


「誰かと思えば姉貴じゃねぇか。ここで何してんだ」
「散歩」
「ふーん」


 喧嘩していた人物の正体は、迫田家四男のけい君でした。もともと荒っぽい性格でしたが、それがまた拍車がかかったように、言葉も更に荒っぽくなっている気がします。


「1人じゃ危ねぇだろ。誰も一緒じゃねぇのか?」
「たまにはね」
「そんな日もあるか。まぁ、見た感じ怪我はなさそうだし、相棒が悲しむこともねぇからいっか」


 彼のいう“相棒”は龍君のこと。慶君と龍君は双子で龍君が先に生まれた。らしいけれど、慶君からしたら、『たった数分の差で生まれたから相棒でもいいだろ?』ということでそう呼んでいるって聞いたことがあります。

 私にも双子の友達がいたりしますが、お互いの名前で呼んだり、兄や弟として呼びあっているところが多いですが、相棒と呼ぶのは珍しいなって思いました。

 しかも、違和感はまったくありません。なんとも不思議ですね。


「ああ、そうだ。姉貴に会ったら聞こうと思ってたんだ。クッキーどうだった? って相棒が」
「美味しかったよ」
「そりゃあ良かった。めちゃくちゃ不安がってたぞ」
「なら、安心させてあげてね」


 初めてとは思えないほどとても美味しくて、私好みの味でした。
 
 龍君はエスパーかなにかなのでしょうか? 私も蜂蜜が好きだと言っていないのです。龍君は最近料理するようになったと言っていたので。


「チッ」


 急に隣から舌打ちが聞こえてきて、もしかして嫌な思いをさせたのかと思ったのですが、違ったようです。慶くんの目の前に小さな虫がいたみたいです。眉間にしわを寄せて、自分の顔の前で追い払う動きをしています。


「最近多くなってきてやがんな。竜之介兄貴に話すか」


 虫退治も竜之介お兄さんがするのでしょうか。いくらお兄さんがすごいとは言っても、それは専門の人に話した方がいいのではないのでしょうか。


「ミサンガはあるみたいだし、気配は大丈夫だと思うんだがな」


 私をじっと見つめて眉間に皺を寄せながら、何度も目を上下に動かし、私の頭から足すべてを確認しています。
 特に変わったところはないと思いますが。


「危なくなりゃ言えばいいだけだな」
「何が危ないの?」
「何でもねぇ」


 慶君はたまにこうやって呟いては何でもないとはぐらかすので、疑問が増えるばかりです。


「おーおー、女侍らして気分良さそうだな。その女こっちにもよこせよ、迫田ぁ」
「……誰だてめぇ」
「忘れてんじゃねぇぞ! この前の借り返させてもらうぞ」


 どうしましょう、目の前で喧嘩が起きそうです。後ろを見たのですが、すでに囲まれていました。


「お前が誰とか別に興味ねぇが、こいつには手出しすんなよ」


 慶君に下がっていろと手で誘導されますが、どこにも逃げる場所はありません。


「今日こそはてめぇを倒してやる」

 
 目の前にいた慶君の喧嘩相手が舌なめずりをしながら、懐に手を入れ、小型ナイフを取り出してきました。
 銃刀法違反ですし、汚いです。


「俺は忠告したぜ。こいつに手ぇ出したら、俺以上に恐ろしい奴がてめぇを殴りに行くかもしれねぇぞ。いや、殴るだけじゃ足りんかもな。最悪殺しかねねぇ。それでもいいならかかってこい」


 そんなに煽ってしまっては相手さんが怒ってしまいます。
 ああ、すでに怒りが頂点に達していますね。こめかみに青筋がたっています。


「かかれ!」
「はぁー。口で言って分かんねぇ野郎共には手が一番だな」


 下手に動かない方がいいでしょうか。

 そもそも、私は何故こんなに冷静なんでしょう。普段から危険な目に遭っていて、それで恐怖心が薄れてしまったのでしょうか。それはそれで問題ですね。いざというときに逃げられなくなります。


 慶君の動きは速すぎて何をしているのかまったく分かりませんが、時々私の体を軸に回し蹴りとかしているので、そこだけは分かりました。あまりにも勢いがあるので、そのたびに体が持っていかれます。

 そしてとうとう最後の1人になりました。ナイフを取り出した相手です。完全に腰が抜けていますね。


「お、覚えてろ!」
「誰か覚えるかってんだ」


 へっぴり腰で逃げていく人。慶君もあの子も漫画みたいなやりとりをしますね。


「わり、姉貴。巻き込んじまった」
「いつもあんな感じなの?」
「まぁな」


 罰が悪そうに目を逸らし、頭の後ろを掻いている慶君。


「相棒には伝えないでくれねぇか?」
「秘密?」
「ああ。話しちまったら相棒寝込むからな」


 大概の人が秘密は1つや2つあるものですが、龍君が寝込むことなんでしょうか? よく分からないのですが、秘密にしておきましょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋
キャラ文芸
 14歳の夏休みに、母が父と別れて田舎の実家に帰ると言ったのでついて帰った。見えなくてもいいものが見える主人公、麻美が体験する様々なお話。    完結しました。長い間読んで頂き、ありがとうございます。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜

西浦夕緋
BL
【和風BL】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。 彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。 亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。 罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、 そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。 「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」 李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。 「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」 李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

処理中です...