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四男の話
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午後の天気が良くて、河川敷を散歩していたのですが、どこかで誰かが喧嘩している声が聞こえます。
ここは毎日が平和で、めったに喧嘩などは起きないのですが、今日は珍しく起きてしまったようです。
喧嘩している中の一人の男の子の声を、私は聞いたことがあるような。
「今度邪魔したらただじゃおかねぇからな」
いざこざは終わったみたいですね。橋の下でするなんてまるで漫画の中の世界みたい。
「誰かと思えば姉貴じゃねぇか。ここで何してんだ」
「散歩」
「ふーん」
喧嘩していた人物の正体は、迫田家四男の慶君でした。もともと荒っぽい性格でしたが、それがまた拍車がかかったように、言葉も更に荒っぽくなっている気がします。
「1人じゃ危ねぇだろ。誰も一緒じゃねぇのか?」
「たまにはね」
「そんな日もあるか。まぁ、見た感じ怪我はなさそうだし、相棒が悲しむこともねぇからいっか」
彼のいう“相棒”は龍君のこと。慶君と龍君は双子で龍君が先に生まれた。らしいけれど、慶君からしたら、『たった数分の差で生まれたから相棒でもいいだろ?』ということでそう呼んでいるって聞いたことがあります。
私にも双子の友達がいたりしますが、お互いの名前で呼んだり、兄や弟として呼びあっているところが多いですが、相棒と呼ぶのは珍しいなって思いました。
しかも、違和感はまったくありません。なんとも不思議ですね。
「ああ、そうだ。姉貴に会ったら聞こうと思ってたんだ。クッキーどうだった? って相棒が」
「美味しかったよ」
「そりゃあ良かった。めちゃくちゃ不安がってたぞ」
「なら、安心させてあげてね」
初めてとは思えないほどとても美味しくて、私好みの味でした。
龍君はエスパーかなにかなのでしょうか? 私1度も蜂蜜が好きだと言っていないのです。龍君は最近料理するようになったと言っていたので。
「チッ」
急に隣から舌打ちが聞こえてきて、もしかして嫌な思いをさせたのかと思ったのですが、違ったようです。慶くんの目の前に小さな虫がいたみたいです。眉間にしわを寄せて、自分の顔の前で追い払う動きをしています。
「最近多くなってきてやがんな。竜之介兄貴に話すか」
虫退治も竜之介お兄さんがするのでしょうか。いくらお兄さんがすごいとは言っても、それは専門の人に話した方がいいのではないのでしょうか。
「ミサンガはあるみたいだし、気配は大丈夫だと思うんだがな」
私をじっと見つめて眉間に皺を寄せながら、何度も目を上下に動かし、私の頭から足すべてを確認しています。
特に変わったところはないと思いますが。
「危なくなりゃ言えばいいだけだな」
「何が危ないの?」
「何でもねぇ」
慶君はたまにこうやって呟いては何でもないとはぐらかすので、疑問が増えるばかりです。
「おーおー、女侍らして気分良さそうだな。その女こっちにもよこせよ、迫田ぁ」
「……誰だてめぇ」
「忘れてんじゃねぇぞ! この前の借り返させてもらうぞ」
どうしましょう、目の前で喧嘩が起きそうです。後ろを見たのですが、すでに囲まれていました。
「お前が誰とか別に興味ねぇが、こいつには手出しすんなよ」
慶君に下がっていろと手で誘導されますが、どこにも逃げる場所はありません。
「今日こそはてめぇを倒してやる」
目の前にいた慶君の喧嘩相手が舌なめずりをしながら、懐に手を入れ、小型ナイフを取り出してきました。
銃刀法違反ですし、汚いです。
「俺は忠告したぜ。こいつに手ぇ出したら、俺以上に恐ろしい奴がてめぇを殴りに行くかもしれねぇぞ。いや、殴るだけじゃ足りんかもな。最悪殺しかねねぇ。それでもいいならかかってこい」
そんなに煽ってしまっては相手さんが怒ってしまいます。
ああ、すでに怒りが頂点に達していますね。こめかみに青筋がたっています。
「かかれ!」
「はぁー。口で言って分かんねぇ野郎共には手が一番だな」
下手に動かない方がいいでしょうか。
そもそも、私は何故こんなに冷静なんでしょう。普段から危険な目に遭っていて、それで恐怖心が薄れてしまったのでしょうか。それはそれで問題ですね。いざというときに逃げられなくなります。
慶君の動きは速すぎて何をしているのかまったく分かりませんが、時々私の体を軸に回し蹴りとかしているので、そこだけは分かりました。あまりにも勢いがあるので、そのたびに体が持っていかれます。
そしてとうとう最後の1人になりました。ナイフを取り出した相手です。完全に腰が抜けていますね。
「お、覚えてろ!」
「誰か覚えるかってんだ」
へっぴり腰で逃げていく人。慶君もあの子も漫画みたいなやりとりをしますね。
「わり、姉貴。巻き込んじまった」
「いつもあんな感じなの?」
「まぁな」
罰が悪そうに目を逸らし、頭の後ろを掻いている慶君。
「相棒には伝えないでくれねぇか?」
「秘密?」
「ああ。話しちまったら相棒寝込むからな」
大概の人が秘密は1つや2つあるものですが、龍君が寝込むことなんでしょうか? よく分からないのですが、秘密にしておきましょう。
ここは毎日が平和で、めったに喧嘩などは起きないのですが、今日は珍しく起きてしまったようです。
喧嘩している中の一人の男の子の声を、私は聞いたことがあるような。
「今度邪魔したらただじゃおかねぇからな」
いざこざは終わったみたいですね。橋の下でするなんてまるで漫画の中の世界みたい。
「誰かと思えば姉貴じゃねぇか。ここで何してんだ」
「散歩」
「ふーん」
喧嘩していた人物の正体は、迫田家四男の慶君でした。もともと荒っぽい性格でしたが、それがまた拍車がかかったように、言葉も更に荒っぽくなっている気がします。
「1人じゃ危ねぇだろ。誰も一緒じゃねぇのか?」
「たまにはね」
「そんな日もあるか。まぁ、見た感じ怪我はなさそうだし、相棒が悲しむこともねぇからいっか」
彼のいう“相棒”は龍君のこと。慶君と龍君は双子で龍君が先に生まれた。らしいけれど、慶君からしたら、『たった数分の差で生まれたから相棒でもいいだろ?』ということでそう呼んでいるって聞いたことがあります。
私にも双子の友達がいたりしますが、お互いの名前で呼んだり、兄や弟として呼びあっているところが多いですが、相棒と呼ぶのは珍しいなって思いました。
しかも、違和感はまったくありません。なんとも不思議ですね。
「ああ、そうだ。姉貴に会ったら聞こうと思ってたんだ。クッキーどうだった? って相棒が」
「美味しかったよ」
「そりゃあ良かった。めちゃくちゃ不安がってたぞ」
「なら、安心させてあげてね」
初めてとは思えないほどとても美味しくて、私好みの味でした。
龍君はエスパーかなにかなのでしょうか? 私1度も蜂蜜が好きだと言っていないのです。龍君は最近料理するようになったと言っていたので。
「チッ」
急に隣から舌打ちが聞こえてきて、もしかして嫌な思いをさせたのかと思ったのですが、違ったようです。慶くんの目の前に小さな虫がいたみたいです。眉間にしわを寄せて、自分の顔の前で追い払う動きをしています。
「最近多くなってきてやがんな。竜之介兄貴に話すか」
虫退治も竜之介お兄さんがするのでしょうか。いくらお兄さんがすごいとは言っても、それは専門の人に話した方がいいのではないのでしょうか。
「ミサンガはあるみたいだし、気配は大丈夫だと思うんだがな」
私をじっと見つめて眉間に皺を寄せながら、何度も目を上下に動かし、私の頭から足すべてを確認しています。
特に変わったところはないと思いますが。
「危なくなりゃ言えばいいだけだな」
「何が危ないの?」
「何でもねぇ」
慶君はたまにこうやって呟いては何でもないとはぐらかすので、疑問が増えるばかりです。
「おーおー、女侍らして気分良さそうだな。その女こっちにもよこせよ、迫田ぁ」
「……誰だてめぇ」
「忘れてんじゃねぇぞ! この前の借り返させてもらうぞ」
どうしましょう、目の前で喧嘩が起きそうです。後ろを見たのですが、すでに囲まれていました。
「お前が誰とか別に興味ねぇが、こいつには手出しすんなよ」
慶君に下がっていろと手で誘導されますが、どこにも逃げる場所はありません。
「今日こそはてめぇを倒してやる」
目の前にいた慶君の喧嘩相手が舌なめずりをしながら、懐に手を入れ、小型ナイフを取り出してきました。
銃刀法違反ですし、汚いです。
「俺は忠告したぜ。こいつに手ぇ出したら、俺以上に恐ろしい奴がてめぇを殴りに行くかもしれねぇぞ。いや、殴るだけじゃ足りんかもな。最悪殺しかねねぇ。それでもいいならかかってこい」
そんなに煽ってしまっては相手さんが怒ってしまいます。
ああ、すでに怒りが頂点に達していますね。こめかみに青筋がたっています。
「かかれ!」
「はぁー。口で言って分かんねぇ野郎共には手が一番だな」
下手に動かない方がいいでしょうか。
そもそも、私は何故こんなに冷静なんでしょう。普段から危険な目に遭っていて、それで恐怖心が薄れてしまったのでしょうか。それはそれで問題ですね。いざというときに逃げられなくなります。
慶君の動きは速すぎて何をしているのかまったく分かりませんが、時々私の体を軸に回し蹴りとかしているので、そこだけは分かりました。あまりにも勢いがあるので、そのたびに体が持っていかれます。
そしてとうとう最後の1人になりました。ナイフを取り出した相手です。完全に腰が抜けていますね。
「お、覚えてろ!」
「誰か覚えるかってんだ」
へっぴり腰で逃げていく人。慶君もあの子も漫画みたいなやりとりをしますね。
「わり、姉貴。巻き込んじまった」
「いつもあんな感じなの?」
「まぁな」
罰が悪そうに目を逸らし、頭の後ろを掻いている慶君。
「相棒には伝えないでくれねぇか?」
「秘密?」
「ああ。話しちまったら相棒寝込むからな」
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