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三男の話 3
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今日は月曜日。土曜日まで長いですね。
まさか龍君が料理に目覚めていたなんて。私も時々することはありますけれど、そこまで得意ではないのです。
「姉さん、そこ危ないよ」
急に腕を引っ張られてクレープを落としそうになりましたが、すぐ近くをものすごい勢いで通った車に接触して大事に至らなくてよかったです。龍君が引っ張てくれなかったら事故が起きるところでした。
「こんな狭い道をあんな速度で走るなんて。何考えてんだか。姉さんに何かあったら絶対許さん」
通り過ぎていった車を睨みつけ、ずっと見ている龍君。これほど険しい顔をしている彼を見るのは初めてですね。
「まったく」
鼻息を荒くし、いかにも怒っていますというような荒々しい歩き方でどんどん進んでいき、少し置いてけぼりな状態に。家に帰るまでに落ち着いてくれたらいいのですが。
「心配してくれてありがとね、龍君」
「ん、別に。姉さんが無事ならそれでいい」
頭を優しく撫でると、不貞腐れた顔の中に嬉し恥ずかしそうな表情も見え隠れしていて、前よりも彼を愛おしく感じてしまいます。
なんだか懐かしいような。
「姉さんもツナサラダ食べる?」
「いいの?」
「うん」
一口貰って食べると、ツナの塩味とクリームの甘さが噛み合って少し変わった味をしていますが、美味しいですね。
クレープというと甘いものだけってイメージがありましたが、案外合うようで、ちょっとした発見になってよかったです。たまには学校の帰り道に食べ物を買ってみて、冒険してみるのもいいかもしれません。
「龍ー!」
「ん? 伸吾?」
後ろから同じ制服を着た男の子が走ってきました。お友達でしょうか。
「この人誰? もしかして年上の彼女さん?」
「ちげぇよ。俺の従姉妹の姉さん」
「お姉さん、お名前は何て言うんですか? それと、連絡先教えてください」
「いきなりナンパすんな!」
龍君と違って元気で積極的なのはいいことですね。けど、いきなり連絡先を聞くのはどうかと思いますよ。
「ええー、いいだろ。連絡先聞いても」
「ダメに決まってんだろ。姉さんがびっくりしちまってんじゃねぇか」
スマホをもって近寄ってきているところを龍君が私の前に立って防いでいます。
大丈夫、驚いていませんよ。ただ、少しだけ引いているだけです。
「なんだよー」
しぶしぶといった感じで引き下がってくれました。最近の子はこんなにも積極的なんですかね。それともこの子が別なだけでしょうか。
「なぁ、龍。明日英語教えてくんね?」
「ほんと苦手だよな、伸吾って。まぁいいけど」
「サンキュー! 後、ついでに国語と数学と社会と理科もな」
「全部じゃねぇか」
「とにかく明日、図書館でな!」
「おい!」
言いたいことだけ言って走って去っていく龍君の同級生。
嵐のように来て去っていきますね。あまりにも勢いがあり過ぎてお互い呆然としてしまいました。
呼び止めようとしたのか、龍君の手は空中で止まっています。
「何時からとか決めてほしいんだけど」
「いつもあんな感じなの?」
「うん」
いささか龍君の顔には疲れが見えています。それでも会話しているのは彼自身の優しさなんでしょうね。それが原因でいつか倒れないようにしてほしいですね。
そこは彼自身もわかっていると思いたいです。もう中学生で自分を自覚している頃でしょうから。
「あのさ、姉さん」
もうすぐで龍君の家の前に着きそうだというところで、すでに2人とも食べ終わったクレープの紙を捨てた時、龍君がゴミ箱の前で止まってしまいました。
「ん?」
「兄さん達や弟達にはクレープ買ったこと内緒にしてくんね?」
「どうして?」
「皆、こういうものが大好きだからさ」
大好きだったら共有してもよさそうですが、何か他に理由があるのでしょうか。
「それに、姉さんとだけの秘密にしたい」
「……分かったわ。2人だけの秘密ね」
「ん」
今日、彼は何回照れたのでしょう。
普段一緒にいるわけではないですし、会えるとしたら正月の時ぐらいでいつもの龍君を知らないのですが、とても多かった気がします。いろんなところが変わったと思ったのですが、こうやって表情が変わっていなくて少しホッとしました。
2人だけの秘密を約束したあと、龍君たちが住む家の前に着きました。そこで別れようとしたのですが、彼が玄関に入って待っててと言ったので、お言葉に甘えて玄関の中で待っています。
「はい、これ。昨日試しで作ってみたクッキー。家に帰った後でも帰る途中でもいいけど、食べて」
「ありがとう」
ほのかにはちみつの香りがします。これは楽しみにですね。
弐龍君が龍君に抱き着きながらなにか言っていますが、相変わらず私にはさっぱりです。
「気を付けて帰ってね」
「ばっばー!」
まさか龍君が料理に目覚めていたなんて。私も時々することはありますけれど、そこまで得意ではないのです。
「姉さん、そこ危ないよ」
急に腕を引っ張られてクレープを落としそうになりましたが、すぐ近くをものすごい勢いで通った車に接触して大事に至らなくてよかったです。龍君が引っ張てくれなかったら事故が起きるところでした。
「こんな狭い道をあんな速度で走るなんて。何考えてんだか。姉さんに何かあったら絶対許さん」
通り過ぎていった車を睨みつけ、ずっと見ている龍君。これほど険しい顔をしている彼を見るのは初めてですね。
「まったく」
鼻息を荒くし、いかにも怒っていますというような荒々しい歩き方でどんどん進んでいき、少し置いてけぼりな状態に。家に帰るまでに落ち着いてくれたらいいのですが。
「心配してくれてありがとね、龍君」
「ん、別に。姉さんが無事ならそれでいい」
頭を優しく撫でると、不貞腐れた顔の中に嬉し恥ずかしそうな表情も見え隠れしていて、前よりも彼を愛おしく感じてしまいます。
なんだか懐かしいような。
「姉さんもツナサラダ食べる?」
「いいの?」
「うん」
一口貰って食べると、ツナの塩味とクリームの甘さが噛み合って少し変わった味をしていますが、美味しいですね。
クレープというと甘いものだけってイメージがありましたが、案外合うようで、ちょっとした発見になってよかったです。たまには学校の帰り道に食べ物を買ってみて、冒険してみるのもいいかもしれません。
「龍ー!」
「ん? 伸吾?」
後ろから同じ制服を着た男の子が走ってきました。お友達でしょうか。
「この人誰? もしかして年上の彼女さん?」
「ちげぇよ。俺の従姉妹の姉さん」
「お姉さん、お名前は何て言うんですか? それと、連絡先教えてください」
「いきなりナンパすんな!」
龍君と違って元気で積極的なのはいいことですね。けど、いきなり連絡先を聞くのはどうかと思いますよ。
「ええー、いいだろ。連絡先聞いても」
「ダメに決まってんだろ。姉さんがびっくりしちまってんじゃねぇか」
スマホをもって近寄ってきているところを龍君が私の前に立って防いでいます。
大丈夫、驚いていませんよ。ただ、少しだけ引いているだけです。
「なんだよー」
しぶしぶといった感じで引き下がってくれました。最近の子はこんなにも積極的なんですかね。それともこの子が別なだけでしょうか。
「なぁ、龍。明日英語教えてくんね?」
「ほんと苦手だよな、伸吾って。まぁいいけど」
「サンキュー! 後、ついでに国語と数学と社会と理科もな」
「全部じゃねぇか」
「とにかく明日、図書館でな!」
「おい!」
言いたいことだけ言って走って去っていく龍君の同級生。
嵐のように来て去っていきますね。あまりにも勢いがあり過ぎてお互い呆然としてしまいました。
呼び止めようとしたのか、龍君の手は空中で止まっています。
「何時からとか決めてほしいんだけど」
「いつもあんな感じなの?」
「うん」
いささか龍君の顔には疲れが見えています。それでも会話しているのは彼自身の優しさなんでしょうね。それが原因でいつか倒れないようにしてほしいですね。
そこは彼自身もわかっていると思いたいです。もう中学生で自分を自覚している頃でしょうから。
「あのさ、姉さん」
もうすぐで龍君の家の前に着きそうだというところで、すでに2人とも食べ終わったクレープの紙を捨てた時、龍君がゴミ箱の前で止まってしまいました。
「ん?」
「兄さん達や弟達にはクレープ買ったこと内緒にしてくんね?」
「どうして?」
「皆、こういうものが大好きだからさ」
大好きだったら共有してもよさそうですが、何か他に理由があるのでしょうか。
「それに、姉さんとだけの秘密にしたい」
「……分かったわ。2人だけの秘密ね」
「ん」
今日、彼は何回照れたのでしょう。
普段一緒にいるわけではないですし、会えるとしたら正月の時ぐらいでいつもの龍君を知らないのですが、とても多かった気がします。いろんなところが変わったと思ったのですが、こうやって表情が変わっていなくて少しホッとしました。
2人だけの秘密を約束したあと、龍君たちが住む家の前に着きました。そこで別れようとしたのですが、彼が玄関に入って待っててと言ったので、お言葉に甘えて玄関の中で待っています。
「はい、これ。昨日試しで作ってみたクッキー。家に帰った後でも帰る途中でもいいけど、食べて」
「ありがとう」
ほのかにはちみつの香りがします。これは楽しみにですね。
弐龍君が龍君に抱き着きながらなにか言っていますが、相変わらず私にはさっぱりです。
「気を付けて帰ってね」
「ばっばー!」
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