【完】私の従兄弟達は独特です 

yasaca

文字の大きさ
上 下
11 / 17

三男の話 3

しおりを挟む
 今日は月曜日。土曜日まで長いですね。
 まさか龍君が料理に目覚めていたなんて。私も時々することはありますけれど、そこまで得意ではないのです。


「姉さん、そこ危ないよ」


 急に腕を引っ張られてクレープを落としそうになりましたが、すぐ近くをものすごい勢いで通った車に接触して大事に至らなくてよかったです。龍君が引っ張てくれなかったら事故が起きるところでした。


「こんな狭い道をあんな速度で走るなんて。何考えてんだか。姉さんに何かあったら絶対許さん」


 通り過ぎていった車を睨みつけ、ずっと見ている龍君。これほど険しい顔をしている彼を見るのは初めてですね。


「まったく」


 鼻息を荒くし、いかにも怒っていますというような荒々しい歩き方でどんどん進んでいき、少し置いてけぼりな状態に。家に帰るまでに落ち着いてくれたらいいのですが。


「心配してくれてありがとね、龍君」
「ん、別に。姉さんが無事ならそれでいい」


 頭を優しく撫でると、不貞腐れた顔の中に嬉し恥ずかしそうな表情も見え隠れしていて、前よりも彼を愛おしく感じてしまいます。


 


「姉さんもツナサラダ食べる?」
「いいの?」
「うん」


 一口貰って食べると、ツナの塩味とクリームの甘さが噛み合って少し変わった味をしていますが、美味しいですね。
 クレープというと甘いものだけってイメージがありましたが、案外合うようで、ちょっとした発見になってよかったです。たまには学校の帰り道に食べ物を買ってみて、冒険してみるのもいいかもしれません。


「龍ー!」
「ん? 伸吾?」


 後ろから同じ制服を着た男の子が走ってきました。お友達でしょうか。


「この人誰? もしかして年上の彼女さん?」
「ちげぇよ。俺の従姉妹の姉さん」
「お姉さん、お名前は何て言うんですか? それと、連絡先教えてください」
「いきなりナンパすんな!」


 龍君と違って元気で積極的なのはいいことですね。けど、いきなり連絡先を聞くのはどうかと思いますよ。


「ええー、いいだろ。連絡先聞いても」
「ダメに決まってんだろ。姉さんがびっくりしちまってんじゃねぇか」


 スマホをもって近寄ってきているところを龍君が私の前に立って防いでいます。
 大丈夫、驚いていませんよ。ただ、少しだけ引いているだけです。


「なんだよー」


 しぶしぶといった感じで引き下がってくれました。最近の子はこんなにも積極的なんですかね。それともこの子が別なだけでしょうか。


「なぁ、龍。明日英語教えてくんね?」
「ほんと苦手だよな、伸吾って。まぁいいけど」
「サンキュー! 後、ついでに国語と数学と社会と理科もな」
「全部じゃねぇか」
「とにかく明日、図書館でな!」
「おい!」


 言いたいことだけ言って走って去っていく龍君の同級生。
 嵐のように来て去っていきますね。あまりにも勢いがあり過ぎてお互い呆然としてしまいました。
 呼び止めようとしたのか、龍君の手は空中で止まっています。


「何時からとか決めてほしいんだけど」
「いつもあんな感じなの?」
「うん」


 いささか龍君の顔には疲れが見えています。それでも会話しているのは彼自身の優しさなんでしょうね。それが原因でいつか倒れないようにしてほしいですね。
 そこは彼自身もわかっていると思いたいです。もう中学生で自分を自覚している頃でしょうから。


「あのさ、姉さん」


 もうすぐで龍君の家の前に着きそうだというところで、すでに2人とも食べ終わったクレープの紙を捨てた時、龍君がゴミ箱の前で止まってしまいました。


「ん?」
「兄さん達や弟達にはクレープ買ったこと内緒にしてくんね?」
「どうして?」
「皆、こういうものが大好きだからさ」


 大好きだったら共有してもよさそうですが、何か他に理由があるのでしょうか。


「それに、姉さんとだけの秘密にしたい」
「……分かったわ。2人だけの秘密ね」
「ん」


 今日、彼は何回照れたのでしょう。
 普段一緒にいるわけではないですし、会えるとしたら正月の時ぐらいでいつもの龍君を知らないのですが、とても多かった気がします。いろんなところが変わったと思ったのですが、こうやって表情が変わっていなくて少しホッとしました。


 2人だけの秘密を約束したあと、龍君たちが住む家の前に着きました。そこで別れようとしたのですが、彼が玄関に入って待っててと言ったので、お言葉に甘えて玄関の中で待っています。


「はい、これ。昨日試しで作ってみたクッキー。家に帰った後でも帰る途中でもいいけど、食べて」
「ありがとう」


 ほのかにはちみつの香りがします。これは楽しみにですね。
 弐龍じりゅう君が龍君に抱き着きながらなにか言っていますが、相変わらず私にはさっぱりです。


「気を付けて帰ってね」
「ばっばー!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋
キャラ文芸
 14歳の夏休みに、母が父と別れて田舎の実家に帰ると言ったのでついて帰った。見えなくてもいいものが見える主人公、麻美が体験する様々なお話。    完結しました。長い間読んで頂き、ありがとうございます。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...