【完】私の従兄弟達は独特です 

yasaca

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次男の話 4

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 キリンを見た後、レッサーパンダを見てお互い癒されたり、蛇を見て驚いた私が引っ付いたのを大丈夫だよと弐龍じりゅう君が宥めてくれたり、フクロウやインコを見て興奮したりして、あっという間にお昼になってしまいました。
 弐龍君の体内時計は正確なようで、12時ちょうどにお腹が鳴りました。


「何食べたい?」
「んー」


 動物園の中だとは思えないほど、店が多くて迷ってしまいます。10種類ぐらいですかね。店内で食べるところが2か所。露店で売っているのが8か所。飲食出来るフリースペースも広くて、家族とかで来ても困らなそうです。


「あぅばば」


 ハンバーガー屋を指さしていますね。あれを食べたいのかな。何気に私初めてかもしれないですね。今までそういうものは禁止されていましたから。


「あそこに行こうか」
「ん!」
「席で待ってて」


 1人で並びに行こうとすると、後ろから泣きそうな声を出しながら必至に追いかけてくる弐龍君がいました。


「うっうっうっ!」
「一緒に行くの?」
「ん」


 私の服を掴んだ途端、それは治まり、先程までの元気な声に戻っています。

 そういえば弐龍君はバス停で会ってからずっと私の服を掴んでいますが、それは兄弟間でも同じなのでしょうか。服を掴むと安心するからしていたり?


「人多いね」
「あややや」


 お昼の時間帯だとやっぱり多いですね。もう少し早めに来てもよかったかもしれません。

 弐龍君と話しながら少しずつ動く列で待っていると、どこかで悲鳴が上がりました。慌しい雰囲気からしてただ事じゃないのかも。園内放送まで流れているし。


「うぁ?」


 次々と人が氾濫した川のように奥から流れ込んできます。人の悲鳴などで園内放送が何を言っているのかまったく分からない。それでも逃げなきゃ。


「うー」
「弐龍君!」


 人が押し寄せてくる方向をずっと見ていた彼の腕を掴んで移動しようとしたら、まったく動かなかった。彼ってこんなに重かったかな。岩のようにその場に留まり、ピクリとも動かない。あまつさえ、私の腕を振り切り、騒ぎがある方向へふらふらと向かっている。


「ダメだよ!」
「あぅあぅ」


 彼の正面に立って押し戻そうとしてもどんどん進んでしまって、私どうしたら。
 こんな時竜之介お兄さんがいたら。


「莉奈、ちゃん、は、安全な、ところに、いて」


 どこからか低い男性の声が聞こえてきたけど、この声はいったい誰の。私の名前を知っているということは知り合い?


「莉奈、ちゃん?」


 上から聞こえるということは弐龍君の声? まさか、彼の地声がこんなに低いだなんて。普段高い声で何を話しているかも分からない彼が、話し方に少しの引っ掛かりはあるとはいえ、普通に話せるとは思わなかった。
 ならなんで今まで普通に話さなかったんだろう。何か理由があるのかな。


「離れて、て」


 頭を優しく撫でられ、弐龍君が私の前に立つと、急に空を見上げて首を左右に動かし、何かを探しています。上には何もないけど、弐龍君には別のなにかが見えているのかな。まさか幽霊とかじゃないよね。
 不思議に思いながら彼と同じく上を見ていると、どこからか鳥の高い声が聞こえてきます。これはなんだろう。たか? とんび


「ぅああ」


 あ、声が戻っちゃった。って、弐龍君は何を。鞄から分厚い布を取り出して腕に付けているけど。
 その様子を見ていると、とても近い所で高い鳴き声が聞こえてきました。
 見上げていても、何処にも見つからないけど……。


「きゃっ!」


 な、なに? 何かが私の顔の近くをものすごい勢いで通り過ぎて、速すぎて何か分からなかった。でも、弐龍君の腕に鳥が止まったということは分かる。


「あちゃど? ことぅとだ」


 彼は何を。


「うー!」


 首を横に振っていますが、何をしているのかさっぱりです。


「ぁじゃくづ」


 もしかして、会話している? バスの時も赤ちゃんと話したって言ってたから、それを応用して? でも赤ちゃんと動物はまったく違うものだけど、出来るものなのかな。


「ぃちゅ」


 空を見上げ、何かを探しているような動作をしたあと、こくりと頷くと見ていた方向に走り出し、腕に止めた鳥を勢いよく空に投げています。あれは、どういうことなんだろう。


「ばっばー!」


 空に飛んでいく鳥に向かって手を振っている。その鳥は、上空を1周するとどこかへ飛んでいってしまいました。


「ゔっ」


 あれはどういうことなんだろうと思い、聞こうとしたらいきなり血を吐きだし、とても苦しそうにしています。いったい何が。


「あ゛ぅ」


 ぬいぐるみから何かを探しているようで、いろんな物を外に放り出しているけど、何を探しているんだろう。とにかく手伝わなきゃ。


「何か必要?」


 首を横に振りながらも必至に探し、取り出したのは錠剤入れ。もしかして、喉に病気がある?


「ゔぇ」


 水と一緒に呑みこんだ後、眉間に皺を寄せて、舌を出しているからそれほど苦いものなんだ。私にはまったくわからないことだけど、大変なんだなって思う。
 とりあえず、外に放り出したものを一緒に戻さないと。
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