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次男の話 3
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入ってすぐ見えたのは、人気コーナーのパンダがいるところでした。名前は新しいの新が二つでアラアラというらしいです。どこか、ご婦人が困った時に口にする言葉みたいですね。
「ぱっぱい」
また何か会話しているのでしょうか。しばらくその様子を見ていると、目を丸くして猫のように驚いています。何か驚くようなことがあったのかな?
何かを呟きながらその場であたふたしているので、とりあえず落ち着かせます。
「どうしたの?」
「こちゅちゅ!」
まだ興奮冷めやらぬようで、私の周りを回り始めてしまいました。何度も何度も同じところを周わるので、少しだけ目が回ってきました。
それは弐龍君も同じようで、気持ち悪くなってきたのか、立ち止まって俯いています。
「ゔぇー」
椅子に座って休んだ方がいいでしょう。背中を摩りながら近くのベンチへ。
「大丈夫?」
「ゔぅ……」
項垂れていて顔は見えずらいのですが、とても気持ち悪そうです。水を買ってきた方がよさそうですね。
「やあぁ」
離れるのが嫌なのか、私の服の裾を掴んで目に涙を浮かべています。
元気な弐龍君が静かになって分かったのですが、どうやら誰かがコソコソと話しながら私たちを見ているみたいです。どちらかというと弐龍君を見ているみたいですね。
先程まで恥ずかしいと思ってた私が言えることではないのですが、陰口はその人自身を傷付けてしまいますよ。
「あうぁでちゃ」
私を引き寄せて腰に抱き着いて来ました。それほど離れるのが寂しいのでしょうか。
お腹に顔を埋めると、頭を左右に動かして、楽しんでいます。時々顔を止めて匂いも嗅いでいますね。
「ぁふ……」
顔がとろけるとはまさにこのことですね。目尻も眉も下がり、口角が上がって三日月のようになっています。どうやら彼は陰口のことは気づいていないみたいです。なら、知らせない方がいいですね。
「大丈夫? 少しは気持ち悪さとか無くなった?」
もう一回お腹に顔を埋めると、そこで頷きました。
「あ」
一言声に出し、ぬいぐるみを自分の前に持ってくると、背中に付けてあるチャックを降ろし、何かを探しています。ただのぬいぐるみかと思ったのですが、それ、鞄だったんですね。中は何が入っているんでしょう。
「のの?」
水筒が出てきました。どうやら家族の誰かが持たせていたみたいですね。中身は温かいお茶でしょうか。湯気が出ています。備え付けのコップに注ぐと、差し出してきました。
「大丈夫だよ」
「ん」
断ると、水筒を足の間に挟み、コップを両手に持って息を吹きかけて冷ましているようです。熱いですからね。
「ぁち」
ゆっくりと飲んでもまだ熱かったようで、舌を出して冷ましています。猫舌なのかな。
ふと思ったことなのですが、竜之介お兄さんの体温は高かったですが、弐龍君はどうなのでしょう。猫舌なだけで、体温は高いのでしょうか。
「あ、普通だった」
「う?」
必至にお茶に息を吹きかけて冷ましている弐龍君のおでこに触ってみましたが、じんわりと自分の手が温かくなるだけでした。突然おでこに手を当てられて目を丸くして不思議そうに見上げています。
光の反射でだと思うのですが、弐龍君の目が黄色く光っているような。でも彼の目の色はこげ茶。こんなことってあるんですかね。
「いとぅとぅ?」
お茶を飲み終わった弐龍君は水筒を鞄に片付けて、私の服を掴むと、別の方向を指差しています。そっち側は草食動物コーナーがある方向ですね。そっちに行きたいのかな?
「行こっか」
ベンチから立ち上がり、弐龍君が一瞬だけ後ろを見た後、私の腕を掴んで草食動物コーナーへと早歩きで向かっています。何を見たのでしょうか。顔が反対側に向けられていたので、どんな顔をしていたかは分かりません。
「じ、弐龍君少し待って」
ライオンとかを早く見に行きたいのでしょうね。ベンチから草食動物のコーナーに移動したのはほんの少しの距離なのに、もう息が上がってしまいました。歩くのも速かったですし、先程とは何か違うような雰囲気を弐龍君から感じたのですが、気のせいでしょうか。
「ぁじゃい」
笑った顔を見るとさっきのは気のせいだったみたいですね。
ここは、キリンがいるコーナー。映像で見るよりも実際に見たほうが迫力満点です。
「おおおお」
目を輝かせてはしゃいでいます。今度は私の周りを回らないんですね。ただ、そのかわりに私の手を掴んだまま手を振り上げてめちゃくちゃに動かしているので、少し痛いです。
「弐龍君、肩がちょっと痛いかな」
「あぅ……」
手をゆっくり降ろすと、私の肩と手を優しく撫でながら申し訳なそうに眉尻を下げています。
「たいたい?」
「大丈夫よ」
弐龍君の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めています。まるで猫みたいですね。
「ぱっぱい」
また何か会話しているのでしょうか。しばらくその様子を見ていると、目を丸くして猫のように驚いています。何か驚くようなことがあったのかな?
何かを呟きながらその場であたふたしているので、とりあえず落ち着かせます。
「どうしたの?」
「こちゅちゅ!」
まだ興奮冷めやらぬようで、私の周りを回り始めてしまいました。何度も何度も同じところを周わるので、少しだけ目が回ってきました。
それは弐龍君も同じようで、気持ち悪くなってきたのか、立ち止まって俯いています。
「ゔぇー」
椅子に座って休んだ方がいいでしょう。背中を摩りながら近くのベンチへ。
「大丈夫?」
「ゔぅ……」
項垂れていて顔は見えずらいのですが、とても気持ち悪そうです。水を買ってきた方がよさそうですね。
「やあぁ」
離れるのが嫌なのか、私の服の裾を掴んで目に涙を浮かべています。
元気な弐龍君が静かになって分かったのですが、どうやら誰かがコソコソと話しながら私たちを見ているみたいです。どちらかというと弐龍君を見ているみたいですね。
先程まで恥ずかしいと思ってた私が言えることではないのですが、陰口はその人自身を傷付けてしまいますよ。
「あうぁでちゃ」
私を引き寄せて腰に抱き着いて来ました。それほど離れるのが寂しいのでしょうか。
お腹に顔を埋めると、頭を左右に動かして、楽しんでいます。時々顔を止めて匂いも嗅いでいますね。
「ぁふ……」
顔がとろけるとはまさにこのことですね。目尻も眉も下がり、口角が上がって三日月のようになっています。どうやら彼は陰口のことは気づいていないみたいです。なら、知らせない方がいいですね。
「大丈夫? 少しは気持ち悪さとか無くなった?」
もう一回お腹に顔を埋めると、そこで頷きました。
「あ」
一言声に出し、ぬいぐるみを自分の前に持ってくると、背中に付けてあるチャックを降ろし、何かを探しています。ただのぬいぐるみかと思ったのですが、それ、鞄だったんですね。中は何が入っているんでしょう。
「のの?」
水筒が出てきました。どうやら家族の誰かが持たせていたみたいですね。中身は温かいお茶でしょうか。湯気が出ています。備え付けのコップに注ぐと、差し出してきました。
「大丈夫だよ」
「ん」
断ると、水筒を足の間に挟み、コップを両手に持って息を吹きかけて冷ましているようです。熱いですからね。
「ぁち」
ゆっくりと飲んでもまだ熱かったようで、舌を出して冷ましています。猫舌なのかな。
ふと思ったことなのですが、竜之介お兄さんの体温は高かったですが、弐龍君はどうなのでしょう。猫舌なだけで、体温は高いのでしょうか。
「あ、普通だった」
「う?」
必至にお茶に息を吹きかけて冷ましている弐龍君のおでこに触ってみましたが、じんわりと自分の手が温かくなるだけでした。突然おでこに手を当てられて目を丸くして不思議そうに見上げています。
光の反射でだと思うのですが、弐龍君の目が黄色く光っているような。でも彼の目の色はこげ茶。こんなことってあるんですかね。
「いとぅとぅ?」
お茶を飲み終わった弐龍君は水筒を鞄に片付けて、私の服を掴むと、別の方向を指差しています。そっち側は草食動物コーナーがある方向ですね。そっちに行きたいのかな?
「行こっか」
ベンチから立ち上がり、弐龍君が一瞬だけ後ろを見た後、私の腕を掴んで草食動物コーナーへと早歩きで向かっています。何を見たのでしょうか。顔が反対側に向けられていたので、どんな顔をしていたかは分かりません。
「じ、弐龍君少し待って」
ライオンとかを早く見に行きたいのでしょうね。ベンチから草食動物のコーナーに移動したのはほんの少しの距離なのに、もう息が上がってしまいました。歩くのも速かったですし、先程とは何か違うような雰囲気を弐龍君から感じたのですが、気のせいでしょうか。
「ぁじゃい」
笑った顔を見るとさっきのは気のせいだったみたいですね。
ここは、キリンがいるコーナー。映像で見るよりも実際に見たほうが迫力満点です。
「おおおお」
目を輝かせてはしゃいでいます。今度は私の周りを回らないんですね。ただ、そのかわりに私の手を掴んだまま手を振り上げてめちゃくちゃに動かしているので、少し痛いです。
「弐龍君、肩がちょっと痛いかな」
「あぅ……」
手をゆっくり降ろすと、私の肩と手を優しく撫でながら申し訳なそうに眉尻を下げています。
「たいたい?」
「大丈夫よ」
弐龍君の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めています。まるで猫みたいですね。
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