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最終章 変化
冒険記録48 火の中
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「私の子供が建物に残されてしまって……! どうか助けてください」
茫然と周りを見つめるヨシュアに、涙目で女性が声をかける。半壊している建物の近くでは、瓦礫を持ちあげようと数人の男たちが踏ん張っていた。
「あ、ああ」
慌てて向かうヨシュア。その後をヘルニーが付いていく。
男たちの隣にヨシュアは移動し、瓦礫に手を添えてなるべく目立たないように持ち上げようとするが、それでも力を抑えるのが難しかったらしく、一瞬で引っ繰り返した。たたらを踏んだ男たちは、前のめりに倒れそうになる。驚いて、ヨシュアを見るが、彼は見ない振りをしていた。
瓦礫からは誰も出てきていない。ヘル二ーが目だけを変えて周りを見ると、数歩先に子供の影が見えた。
「ヨシュア、もう少し先に子供がいる。早く助けなきゃ」
「……ああ」
ヘルニーに腕を掴まれ、そのまま子供が埋まっている所へ向かい、壁になっている物を退かす。そこから子供がヘルニーに走り寄り、怖かったと言いながら泣いていた。なぐさめながら子供を持ち上げたヘルニーは、そのまま女性のところに向かい、確認を取っていた。埋まっていた子供だとわかり、ホッとした顔を浮かべる。感謝しながら泣く親に「良かったね」と言いながら子供の頭を撫で、ヨシュアのところに戻ってきた。
「次行くぞ」
「うん」
もう用はないと親子に背を向けて次の現場へと向かう。何か言いたげにヨシュアを見上げていたヘルニーは、薄笑いを浮かべながら隣を歩く。気づかないふりをし、困っている人を走りながら探していると、家が燃え、その前に人だかりが出来ていた。
「だれか水を! 中に子供達が!」
泣きながら燃え盛る火の中に入ろうとしている男性を衛兵たちが止めている。木のバケツに入っている水で、必死にかけて火を止めようとしているが、焼け石に水状態だった。火を止められる可能性を持つ者は、魔法使いしかいない。火事場に剣を持ったものは多くいても、魔法使いはこの場に居ない。火事が起こっているのはここだけではないからだ。今、多くの場所に駆り出されている。
「子供が4人も! 行くよ!」
「火の中に突っ込むってのか? 馬鹿なことを言うな。火傷どころじゃなくなるぞ」
「大丈夫だよ」
「その自信はなんなんだ」
ヨシュアの手を掴んでヘルニーは走り出す。自信があるのは、しっかり自身を守りながら行けば火程度では怪我しないからだと知っているからだ。しかし、ヨシュアは身を守る術を知らない。もう自身が人ではないことはわかってはいても、まだ人であった感覚は抜けていないのだ。
「おい!」
周りが止めようとしている所をすり抜けるヘルニー。そのまま中に入りそうな勢いのヘルニーを止めようと、ヨシュアは掴まれている腕を逆に掴み、足に力を入れ、反対側に投げる動きをする。急に体が止まり、驚くヘルニー。援助していた者達のところに投げられた。
「無防備に行かせようとするな。お前さんなら無事な方法を知っているのかもしれんが、私は知らないのだぞ」
「だから大丈夫なんだって」
「何がだ」
「だって僕と君」
言葉を止めて、ヨシュアに近づく。そして彼の耳元に顔を近づけると
「火程度じゃ死なないから」
と囁いた。
「だが、さきほどまで瓦礫に埋もれて頭を怪我してただろ」
「触ってみなよ。もう治ってるよ」
信じられないのか瓦礫で怪我したはずのところを触り、血が付いているはずのバンダナまで取って確認している。手についてるはずの血が付いておらず、バンダナについていた血はすでに固まっていた。ここにくるまで一切治療はしていない。自然に回復していたことに目を見開いているヨシュア。
「分かった? たとえ火傷を負ってもすぐ治るんだよ」
「いいや、まったく。過剰すぎて自身に恐ろしさを感じている」
垂れてきた前髪をかきあげ、額にバンダナを付ける。準備が出来たと勘違いしているヘルニーは再度ヨシュアの腕を掴むと、火の中に突っ込んだ。突然のことで体が動かなかったヨシュアは、周りの悲鳴を聞きながらそのまま火の中に入って行く。
「うう……!」
人ではないヘルニーは恐怖など感じていないのだろう。だから躊躇なく火の中に入って行った。だが、ヨシュアは違う。いくら人ではなくなりかけているとはいえ、まだ火は恐ろしいものだと体が覚えているのだ。パチパチと燃え、火は更に勢いを増している。柱が崩れ、煽られた火がヨシュアに向かう。
熱さといつ崩れるか分からない建物の中で、彼は覚悟を決めるかのように目を閉じた。ヘルニーのようにすぐ人は見つけられる力は持っていない。目を開けて、煙を吸わないように手で口と鼻を押さえ、焼けた木材を素手で触り、焼ける音を聞きながら炭と化したものを退かしていく。
茫然と周りを見つめるヨシュアに、涙目で女性が声をかける。半壊している建物の近くでは、瓦礫を持ちあげようと数人の男たちが踏ん張っていた。
「あ、ああ」
慌てて向かうヨシュア。その後をヘルニーが付いていく。
男たちの隣にヨシュアは移動し、瓦礫に手を添えてなるべく目立たないように持ち上げようとするが、それでも力を抑えるのが難しかったらしく、一瞬で引っ繰り返した。たたらを踏んだ男たちは、前のめりに倒れそうになる。驚いて、ヨシュアを見るが、彼は見ない振りをしていた。
瓦礫からは誰も出てきていない。ヘル二ーが目だけを変えて周りを見ると、数歩先に子供の影が見えた。
「ヨシュア、もう少し先に子供がいる。早く助けなきゃ」
「……ああ」
ヘルニーに腕を掴まれ、そのまま子供が埋まっている所へ向かい、壁になっている物を退かす。そこから子供がヘルニーに走り寄り、怖かったと言いながら泣いていた。なぐさめながら子供を持ち上げたヘルニーは、そのまま女性のところに向かい、確認を取っていた。埋まっていた子供だとわかり、ホッとした顔を浮かべる。感謝しながら泣く親に「良かったね」と言いながら子供の頭を撫で、ヨシュアのところに戻ってきた。
「次行くぞ」
「うん」
もう用はないと親子に背を向けて次の現場へと向かう。何か言いたげにヨシュアを見上げていたヘルニーは、薄笑いを浮かべながら隣を歩く。気づかないふりをし、困っている人を走りながら探していると、家が燃え、その前に人だかりが出来ていた。
「だれか水を! 中に子供達が!」
泣きながら燃え盛る火の中に入ろうとしている男性を衛兵たちが止めている。木のバケツに入っている水で、必死にかけて火を止めようとしているが、焼け石に水状態だった。火を止められる可能性を持つ者は、魔法使いしかいない。火事場に剣を持ったものは多くいても、魔法使いはこの場に居ない。火事が起こっているのはここだけではないからだ。今、多くの場所に駆り出されている。
「子供が4人も! 行くよ!」
「火の中に突っ込むってのか? 馬鹿なことを言うな。火傷どころじゃなくなるぞ」
「大丈夫だよ」
「その自信はなんなんだ」
ヨシュアの手を掴んでヘルニーは走り出す。自信があるのは、しっかり自身を守りながら行けば火程度では怪我しないからだと知っているからだ。しかし、ヨシュアは身を守る術を知らない。もう自身が人ではないことはわかってはいても、まだ人であった感覚は抜けていないのだ。
「おい!」
周りが止めようとしている所をすり抜けるヘルニー。そのまま中に入りそうな勢いのヘルニーを止めようと、ヨシュアは掴まれている腕を逆に掴み、足に力を入れ、反対側に投げる動きをする。急に体が止まり、驚くヘルニー。援助していた者達のところに投げられた。
「無防備に行かせようとするな。お前さんなら無事な方法を知っているのかもしれんが、私は知らないのだぞ」
「だから大丈夫なんだって」
「何がだ」
「だって僕と君」
言葉を止めて、ヨシュアに近づく。そして彼の耳元に顔を近づけると
「火程度じゃ死なないから」
と囁いた。
「だが、さきほどまで瓦礫に埋もれて頭を怪我してただろ」
「触ってみなよ。もう治ってるよ」
信じられないのか瓦礫で怪我したはずのところを触り、血が付いているはずのバンダナまで取って確認している。手についてるはずの血が付いておらず、バンダナについていた血はすでに固まっていた。ここにくるまで一切治療はしていない。自然に回復していたことに目を見開いているヨシュア。
「分かった? たとえ火傷を負ってもすぐ治るんだよ」
「いいや、まったく。過剰すぎて自身に恐ろしさを感じている」
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「うう……!」
人ではないヘルニーは恐怖など感じていないのだろう。だから躊躇なく火の中に入って行った。だが、ヨシュアは違う。いくら人ではなくなりかけているとはいえ、まだ火は恐ろしいものだと体が覚えているのだ。パチパチと燃え、火は更に勢いを増している。柱が崩れ、煽られた火がヨシュアに向かう。
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