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最終章 変化

冒険記録47 不安

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 建物が崩れたこと、近くに人がいたことで悲鳴が上がる。ヨシュアとヘルニーは逃げる暇すらなかった。瓦礫の下から血は流れていない。

「いったぁーーい!」

 瓦礫を持ち上げようと、女性の魔法使いが杖をかざしている途中で瓦礫が吹っ飛んでいく。岩から生まれたミトラスのようにヘルニーは顔を出した。顔に擦り傷と青あざが出来ていたが、大きな怪我はない。出て来たばかりだというのに、ヘルニーは自分の上に重なっている岩を退かしつつ、ヨシュアを探している。

「おーい、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、ありがとー! そのついでにもう1人を探すの手伝ってくれる?」

 ヘルニーが先程までいた場所から瓦礫を誰もいない方へ転がして退かしつつ、救助しようとしていた者たちに援助を求めた。武器や身なりからして冒険者と呼ばれる者達だろう。パーティーを組んでいるのか、各それぞれが自分の役割を担当しながら連携し、少しずつ瓦礫を退かしていく。

「ヨシュアー?」

 ヘルニーが元の姿に戻ればヨシュアを探すのも簡単だろう。ただ、人がいる前で変身を解いてはならないと創造主が決めたのだ。忠実に守るヘル二ーは目だけを変え、ヨシュアを探す。

「いたか?」
「どこにもいないです……」

 女性が魔法で大きい瓦礫を退かしながら探すも、一向に見つからない。腰に剣を刺している男は、人がギリギリ持てる石などを動かし、諦めずに探し続けている。

「ねぇ! ここにある瓦礫を退かして欲しいんだけど、出来そう?」

 目だけを変化させたヘル二ーが瓦礫の下に人がいるのを確認する。額にバンダナ。ジュストコールは昆虫がはばたかせる前の様な広がり方をしている。ヨシュアだ。意識はないが、息はしている。
 ヘルニーの呼びかけに冒険者たちが反応し、近づいてきた。
 
 彼の身長はだいたい150センチほど。彼の腰くらいの高さと同じくらいの瓦礫を指差して、これだと指示していた。
 女性が魔力ポーションで補給し、近づいて魔法で瓦礫を持ち上げると、大の字でヨシュアが倒れていた。小石が当たったのか、額に付けていたバンダナが赤よりも濃く色付いている。他にも切り傷などが出来ているが、大きな怪我はなかった。

クソがっDamn it!」

 勢いよく起き上がるヨシュアの頭と、心配そうに覗き込んでいたヘル二ーの頭がもう少しで衝突するところだった。間一髪で避けたヘル二ーは冷や汗をかいている。

「なんだ、この……!」

 外見は変わらず、内側だけ変わっていく体に焦りと恐怖がヨシュアの顔に滲み出ている。理解できていないものに変わっていくほど、恐ろしいものはない。ついさきほどまでは人であった者が突如大きな力を得れば、興味の幅が広いヨシュアであっても恐怖する。海賊だろうと例外ではないのだ。
 起き上がるために近くにあった瓦礫を彼が握っただけで亀裂が走り、半分に割れた。左右に倒れた瓦礫を見て目を丸くし、ヨシュアは自分の手を見つめていた。

「知識だけじゃなかったのか……? さすがにこれは過剰すぎる。確かに間接的に手伝いをするとは言っていたが」

 茫然と自分の手を見つめるヨシュアとは違い、ヘルニーは驚いていなかった。むしろ当たり前だというような顔をしているが、冒険者たちは違う。ヨシュアを人ではない何かとして見ていた。正体が分からないものに対しての警戒度が上がっていく。

「……私は、どうなってしまうんだ」

 その場から動けないほどの衝撃を受けていた。これからどうやって生きていけばいいのか分からないほど混乱している。人としての限界を超え、触れれば何かしらを壊してしまう自身の力に動揺の色が隠せない。

「大丈夫?」
「大丈夫ではない。が、今は救助が先だ……」

 気持ちを切り替えようとヨシュアは頭を振り、額から出ている血を手で押さえながら瓦礫の中から出る。ヨシュアの視界にちらりと写った冒険者たちの顔は怯えていた。同じ顔をされたヨシュアは一瞬だけ悲しそうに眉尻を下げ、「助かった」と一言告げて、まだ救助が終わっていない所へと向かう。

 通りには救助された者達が治療を受けていた。意識がある者は治療ポーションを飲み、無い者は大部屋につれていかれている。

「こんな状況になったのは、私のせいなんだな……」

 皆がせっせと動いている現場を見て、先程までの瓦礫さえ破壊してしまう力に異常なまでの足の速さ。その力にヨシュアは怯えていた。

「お前さんは知ってたのか?」
「……うん」
「そうか」

 気まずそうに答えるヘルニーにヨシュアは俯く。
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