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第3章 魔法使い  

冒険記録42. 目的達成

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「まさか、その時には既に……」
「そうじゃの」

 アルヴァーノもといペリルは、人が嫌いで魔力を持った人が近づくと暴れだす危険な生き物だ。ヨシュアが懐かれていたのは、すでに人ではなく魔力もない状態だったからだ。

「ここで分かるとは思わなかった。しかも、魔力とやらがあるかどうか聞くつもりだったのに」
「誰にじゃ?」
「ハイド村出身の魔法使いとやらに」
「なんじゃ、わしのことではないか」

 落胆した気分を紛らわせようと、アルヴァーノから離れたヨシュアは椅子に座り、残っているワインを一気飲みする。目的の一つでもあった魔法使いに会うという目的を愚痴ぐちりながらこぼすと、目的の人物が目の前にいた。いろいろなことがこの短時間で起こりすぎたのか、ヨシュアは目を回している。

「……は?」
「ハイド村出身の魔法使いはわしじゃ」

 絞り出したヨシュアの疑問の声に、聞こえていなかったのかと再度言うガルーラをヨシュアは疑いの目で見ていた。そんな直ぐに見つかるはずないと口にしながら。

「……嘘つくなよ、じいさん」
「嘘をつく理由がないわい」
「私が混乱している時に嘘をついて信じ込ませようとしてんのか」

 睨むヨシュアに「怖い怖い」と呟きながら手の平をヨシュアに向けているが、少しも怖がった様子を見せないガルーラ。

「違うわい。わしがそこの村出身となる証拠と言えば、ハイド村にはリアがおるであろう」

 もう何も口を開きたくないと、彼はガルーラの話に耳を傾けながらワインで喉を潤していく。床と机の上に10杯の空のジョッキが彼の周りにはあった。それでも彼の頬は、少し赤くなっている程度である。

「リアは良い子じゃよ。純粋で優しい子じゃ」
「突然の何自慢だ、じいさん」
「孫自慢じゃ」
「……孫だったのかよ」

 ハイド村に居た時、リアは一言も孫だと言わなかった。本人にいえば聞かれなかったからと言われるまでだが、まさかガルーラと関係があったとはヨシュアは思いもしなかったのだろう。

「孫自慢は終わりだ。飯が冷めちまう」

 続きを語ろうとしていたガルーラの口に肉を押し込んで止めさせ、ヨシュアは次のワインを頼もうとしていたが、これ以上頼むとお金とお酒が無くなるとガルーラと店主に止められ、少しだけ食い下がるもあっけなく退店したのだった。

 店から出たヨシュアは浮かない顔をしていた。まだ受け止めきれてないのだろう。この異世界に来てから略奪など海賊として生きていた行動は出来なくなっていたが、人として生活をしていた。傷つくし、お腹も空く。彼の行動理念も変わらない。

「大丈夫?」
「だいじょうぶにみえるか?」

 千鳥足ながらも歩を進めるヨシュア。心配して近くに寄ってくるヘルニーが声をかけたが、その返事も弱弱しかった。アルヴァーノがヨシュアを慰めるかのようにすり寄ってくるが、その動きは少しだけぎこちなかった。鼻の先を背中に軽く押し当てるだけ。

「最初からお前さんは知っていたんだな」

 背中に当たる愛馬の鼻で慰めてくれているのだろうと感じたヨシュアは、アルヴァーノの背を優しく撫でていた。それに安心したのか、さきほどよりも強めに甘え始めた。

 アルヴァーノが知っていたとしても、ヨシュアは責めつもりはなかった。言葉で伝える手段が今ままでなかったのだ。それで責めてしまってはアルヴァーノが可哀想である。先程の愛馬のぎこちなさは、知っていたのに彼へ教えなかったことへの罪悪感だったのだろう。伝えなかったことで離れてしまうかもしれない、と恐れたがゆえだった。

「心配するな。これは私自身の問題だ。お前さんは悪くないし、離れるつもりもないからな」

 その言葉で安心したのか、さきほどまで耳をバラバラに動かし、目を少しだけいろんな方向に動かしていたが、今は目を細め、頭をヨシュアに勢いよくすり寄せていた。動きが激しく彼がバランスを崩すぐらいに。

「この時間帯じゃ開いてないかもな、宿屋」
「野宿?」
「それもあり得るな」

 あたりはすっかり暗くなっている。ヨシュア達の足元を照らすのは月の光だけだった。この場で留まっていても、宿屋が見つかるわけではない。宿かどうかを、ヘルニーと話しながら探していると、ガルーラが「自分の家で寝るといい」と言い、何を言われたのか分からず、呆然と立ち尽くすヨシュアがそこにいた。
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