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第2章 夢
冒険記録32 愛馬の甘え方
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「何故起こさなかった」
「息が止まりそうなほど怖かったのに、声なんてかけてられないよ」
黒霧から無事切り抜け、ルアードという港街に着いたヨシュア達の舟。別の港町にいた者達は、ケガをしているヨシュア達を見て驚愕していた。何か起きたのだと察し、すぐさま医者を呼び、負傷者達は治療院に連れていかれ、そうでない者達は荷物を降ろしたりしている。
運ばれた部屋では起きたヨシュアとヘルニーが口論をしている。寝ている間に船長しかいない巨大船を見たという話にヨシュアが喰いつくのは当然だ。
「あの時、眠りさえしなきゃ」
ヨシュアがいた場所でも噂され、恐れられていたフライングダッチマン号。見たら死ぬとされている船でも彼にとっては興味の対象となった。夢でも見ていたんだろう、もしくはおかしくなったと、仲間たちに思われるかもしれないことを語ることは出来ないが、それでもヨシュアの頭の中に残る印象深い思い出となるのは確実だった。それが見れなくて悔しそうに顔を歪めている。
「仕方なかったと思うよ」
「若い頃はあれくらいで倒れていなかったんだが、年だな」
ベッドの上で寝転がっているが、その上で動くにしてもだいぶしんどそうにゆっくりとだが体を動かしている。ヨシュアは後何年かすれば40になる。他の者達よりは動けているが、本人が言ったようにだいぶガタが来ていた。
「結局あれ何だったの?」
「海を漂う幽霊船だ。名はフライングダッチマン。確か、神を罵って呪われたとか言われている船だったか?」
「なんでそんな船がここの海域に?」
「さぁな」
2人が話している所に漁師の1人が慌てた様子で部屋に入ってきた。何事かとヘルニーが聞けば、ヨシュアの愛馬、アルヴァーノが暴れているとのことだった。自分が寝ている間に相棒であるヨシュアをどこかに連れていかれたことに怒っていた。
そのことに2人は目を見合わせ、ヘルニーは苦笑いをし、ヨシュアは笑った。笑い過ぎで脇腹に激痛が走り、押さえてベッドに倒れ込んだが。
報告に来ていた漁師の手を借りてアルヴァーノが暴れているというところに案内してもらうと、教会の前で暴れていた時のように地面に穴が開いている。大きさはこちらの方が断然大きかった。教会前が人の身長の半分だとすれば、ここは人と同じくらいの大きさだった。
ヨシュアが愛馬の名前を呼ぶと、ぴたりと動きが止んで首を動かして探し、ヨシュアを見つけた後の反応はすさまじいものだった。前足で地面を掻き、もの凄い勢いでヨシュアに近づいた。支えている漁師が驚きで固まっている。
「少しだけ離してくれるか」
恐怖で動かない漁師に言葉をかけ、ヨシュアが漁師の腕を退かし、ゆっくりと腕を上げたヨシュアは、まだかまだかと前掻きして待っている愛馬の頭を撫でた。嬉しそうに目を細め、近づくアルヴァーノ。近づいてきて顔と首をすり寄せた。勢いが強すぎて、ヨシュアの体がふらついていたが。
「落ち着け、私はどこにもいかんさ。お前さんと離れるようなことはせんよ」
安心させるように優しい声で愛馬を宥めるヨシュア。その声を聞いて落ち着いたのか、激しいすり寄せの動きから顔を服に近づけて、服を甘噛みし始めた。
落ち着いたのを感じ取ったヨシュアは、先程まで寝ていた部屋へ戻ると愛馬に告げると、甘噛みから服を引っ張り厩に連れて行こうとしている。
「アルヴァーノ。私は今、ゆっくりとしていなきゃいけない時なんだ。すまんな」
それでも引っ張る力は弱まらない。ヨシュアが倒れないように気を付けながらも、どんどん厩に近づいている。
「どうしたものか……」
後ろ向きで連れていかれるヨシュアは、腕を組んで考えていた。無理矢理離れることも不可能ではないのだが、人のように感情がある愛馬を傷付けたくない。特に気に入っている物は、丁重に接するヨシュアは困った顔をしている。
「愛情がすごいね」
「まぁな。大切な存在だと思われているのは嬉しいことなのだがな」
後から来たヘルニーが苦笑を浮かべていた。ズルズルと引っ張られ続け、|《うまや》厩についてしまう。愛馬がヨシュアの服から口を離し、鼻で彼の背中を押して入れようとしている。
「アルヴァーノ。寂しくさせるのはすまないと思っているが、まずは怪我を治さなくてはならないんだ」
そう言うと、ヨシュアの背中を押す力がさらに増した。
「息が止まりそうなほど怖かったのに、声なんてかけてられないよ」
黒霧から無事切り抜け、ルアードという港街に着いたヨシュア達の舟。別の港町にいた者達は、ケガをしているヨシュア達を見て驚愕していた。何か起きたのだと察し、すぐさま医者を呼び、負傷者達は治療院に連れていかれ、そうでない者達は荷物を降ろしたりしている。
運ばれた部屋では起きたヨシュアとヘルニーが口論をしている。寝ている間に船長しかいない巨大船を見たという話にヨシュアが喰いつくのは当然だ。
「あの時、眠りさえしなきゃ」
ヨシュアがいた場所でも噂され、恐れられていたフライングダッチマン号。見たら死ぬとされている船でも彼にとっては興味の対象となった。夢でも見ていたんだろう、もしくはおかしくなったと、仲間たちに思われるかもしれないことを語ることは出来ないが、それでもヨシュアの頭の中に残る印象深い思い出となるのは確実だった。それが見れなくて悔しそうに顔を歪めている。
「仕方なかったと思うよ」
「若い頃はあれくらいで倒れていなかったんだが、年だな」
ベッドの上で寝転がっているが、その上で動くにしてもだいぶしんどそうにゆっくりとだが体を動かしている。ヨシュアは後何年かすれば40になる。他の者達よりは動けているが、本人が言ったようにだいぶガタが来ていた。
「結局あれ何だったの?」
「海を漂う幽霊船だ。名はフライングダッチマン。確か、神を罵って呪われたとか言われている船だったか?」
「なんでそんな船がここの海域に?」
「さぁな」
2人が話している所に漁師の1人が慌てた様子で部屋に入ってきた。何事かとヘルニーが聞けば、ヨシュアの愛馬、アルヴァーノが暴れているとのことだった。自分が寝ている間に相棒であるヨシュアをどこかに連れていかれたことに怒っていた。
そのことに2人は目を見合わせ、ヘルニーは苦笑いをし、ヨシュアは笑った。笑い過ぎで脇腹に激痛が走り、押さえてベッドに倒れ込んだが。
報告に来ていた漁師の手を借りてアルヴァーノが暴れているというところに案内してもらうと、教会の前で暴れていた時のように地面に穴が開いている。大きさはこちらの方が断然大きかった。教会前が人の身長の半分だとすれば、ここは人と同じくらいの大きさだった。
ヨシュアが愛馬の名前を呼ぶと、ぴたりと動きが止んで首を動かして探し、ヨシュアを見つけた後の反応はすさまじいものだった。前足で地面を掻き、もの凄い勢いでヨシュアに近づいた。支えている漁師が驚きで固まっている。
「少しだけ離してくれるか」
恐怖で動かない漁師に言葉をかけ、ヨシュアが漁師の腕を退かし、ゆっくりと腕を上げたヨシュアは、まだかまだかと前掻きして待っている愛馬の頭を撫でた。嬉しそうに目を細め、近づくアルヴァーノ。近づいてきて顔と首をすり寄せた。勢いが強すぎて、ヨシュアの体がふらついていたが。
「落ち着け、私はどこにもいかんさ。お前さんと離れるようなことはせんよ」
安心させるように優しい声で愛馬を宥めるヨシュア。その声を聞いて落ち着いたのか、激しいすり寄せの動きから顔を服に近づけて、服を甘噛みし始めた。
落ち着いたのを感じ取ったヨシュアは、先程まで寝ていた部屋へ戻ると愛馬に告げると、甘噛みから服を引っ張り厩に連れて行こうとしている。
「アルヴァーノ。私は今、ゆっくりとしていなきゃいけない時なんだ。すまんな」
それでも引っ張る力は弱まらない。ヨシュアが倒れないように気を付けながらも、どんどん厩に近づいている。
「どうしたものか……」
後ろ向きで連れていかれるヨシュアは、腕を組んで考えていた。無理矢理離れることも不可能ではないのだが、人のように感情がある愛馬を傷付けたくない。特に気に入っている物は、丁重に接するヨシュアは困った顔をしている。
「愛情がすごいね」
「まぁな。大切な存在だと思われているのは嬉しいことなのだがな」
後から来たヘルニーが苦笑を浮かべていた。ズルズルと引っ張られ続け、|《うまや》厩についてしまう。愛馬がヨシュアの服から口を離し、鼻で彼の背中を押して入れようとしている。
「アルヴァーノ。寂しくさせるのはすまないと思っているが、まずは怪我を治さなくてはならないんだ」
そう言うと、ヨシュアの背中を押す力がさらに増した。
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