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第2章 夢
29. 行方不明船
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「何事もなければいいけどね」
「海も山と同じく空が変わりやすいからな。なんとも言えん」
寝転がりながら見上げていたヨシュアは、空を睨んだ。憎んでいるという目線ではなく、何かが変わったという目だった。その場に立ち上がると同時に、漁師の1人が筒を伸ばす形の望遠鏡で見ながら慌てていた。
「な、なんだあれは!」
「それを貸せ」
「あ、ああ」
受け取り、ヨシュアが見ると、遠くで黒霧が発生していた。そして、望遠鏡を顔から離し、今自分が乗っている舟の形やマスト等を確認している。彼がもう一度覗くと、急に笑いだした。それを訝しんでいる漁師達とヘルニー。近くにいる漁師の中の1人をヨシュアは自分の隣に引っ張り、望遠鏡を渡した。
「霧の中に見える舟。ここのと似てねぇか?」
「た、確かに」
そうヨシュアが問いかけると、覗いている漁師が恐る恐る頷き、自分にも見せてくれと他の者が言いだし、1人1人が順番に確認している。そして全員が似ていると答えた。更に、行方不明となっていた舟だということも分かったことで、助けに行こうと言いだす。それをヨシュアは止めた。
「何故止めるんだ!」
「怪しいからだ。霧の向こう側は晴れてて、一部だけに発生しているなんてことは海上では起きん」
「だが……!」
望遠鏡がヨシュアの手に戻ってきて、彼は覗きながら言う。
「あまり近づきすぎるのも危険だ。目視でギリギリ舟が見えるところまで移動するぞ。漁師共を確認出来たら救出。出来なかったらそのまま放置。それでいいな?」
その提案に漁師たちが頷き、それぞれが舟を動かすために移動する。慌てて動くその様子を見ていたヘルニーがヨシュアに近づいた。
「あれって何で近づいちゃダメなの? 霧が発生してるから?」
「いろいろと要因はある。まず、あれは通常の白い霧とは違う。そして、一部だけ空が黒く曇っている」
風がないせいか、手漕ぎで移動している。動きがゆっくりだが、少しずつ霧までの距離が縮まっていく。霧が発生している手前まで来た舟は止まり、ヨシュアはもう一度望遠鏡で舟を見る。筒を限界まで伸ばし、見逃さないように覗いてたが急に顔から外すと、慌てた声で漁師たちに告げた。
「ここから今すぐ離れるぞ!」
「え、なになに」
焦っているヨシュアの声に、何が起きたのか分からない漁師たちは茫然としていた。ヨシュアの声につられる様にヘルニーが慌てている。
「あの舟に漁師共はいない」
信じられないのか漁師たちはいまだ固まっているが、リーダーの男が代表としてヨシュアに呼ばれ、覗いてみろと渡された望遠鏡で確認して腰を抜かした。顔色から血の気が失せて青ざめている。留まっている間に舟はこちら側に近づいてきていた。
「お前ら死にたくなきゃ舟を動かせ。固まっている場合じゃねぇぞ」
鬼気迫ったヨシュアの声に弾かれたかのように、舟を動かし始めた。その間にもどんどん近づき、ついには目視ではっきりと見えるところまでの場所にいる。それを見た漁師たちは悲鳴を上げ、必死に漕いだ。
「急げよ。だが、注意もしておけ。こんな時に座礁なんざしたくねぇからな」
方向転換し、霧から少しずつ離れていくがあちらの方が幾分か早い。あっという間に隣に並べられた。
「な、なんとかしてくれぇ」
「ただただお前たちは逃げることだけを考えてな。私がどうにかする」
並んだことで更に慌てだす漁師たちを言葉で落ち着かせながら、ヨシュアは腰にさしてあるカットラスを手に取る。今は無人船だが、不意をついて何かが現れるかもしれないと彼は警戒していた。しばらく睨んでいると、舟が離れていく。そのことに安堵する漁師たちは速度を緩めた。だが、ヨシュアはそう思っていなかった。
「急いで回避しろ!」
その言葉と同時に、方向転換した舟が勢いよくこちら側の側面に近づいてくる。その尋常ではない早さを目撃した漁師たちは、必死で舟を漕ぐ。それでもぶつかることは避けられない。
もう少しでぶつかると思われた時、無人船に岩が落ちて水しぶきを上げた。それは舟の中心に落ち、穴が開いている。
「もしかして、お前が?」
無人船が止まった原因を作った愛馬がいる方へヨシュアが振り向く。その間にもヨシュア達が乗っている舟は進み続け、少しずつ距離が出来始めた。愛馬が不機嫌そうに鼻を鳴らしている。寝ているところを邪魔されて、怒っているのだろう。目を見開いて固まっているヨシュアに近づき、服を引っ張って、元の場所に戻っていく。そして、座れとでも言うように服を引いていた。
「座って落ち着けと言いたいのか?」
愛馬が首を縦に振る。
「ありがとよ。ただ、この状況が落ち着くまでは座れん」
そう言うと不満そうな顔をする愛馬の背を撫で、離れる。自身を落ち着かせようと目を瞑り、深呼吸をした後、声を張り上げた。
「オールを持っている者はそのまま漕ぎ続けろ! 1人は海の状況確認と風を読め! そして手が空いている者は、商品以外の武器を取れ!」
「武器って……」
「なんでもいい!」
「海も山と同じく空が変わりやすいからな。なんとも言えん」
寝転がりながら見上げていたヨシュアは、空を睨んだ。憎んでいるという目線ではなく、何かが変わったという目だった。その場に立ち上がると同時に、漁師の1人が筒を伸ばす形の望遠鏡で見ながら慌てていた。
「な、なんだあれは!」
「それを貸せ」
「あ、ああ」
受け取り、ヨシュアが見ると、遠くで黒霧が発生していた。そして、望遠鏡を顔から離し、今自分が乗っている舟の形やマスト等を確認している。彼がもう一度覗くと、急に笑いだした。それを訝しんでいる漁師達とヘルニー。近くにいる漁師の中の1人をヨシュアは自分の隣に引っ張り、望遠鏡を渡した。
「霧の中に見える舟。ここのと似てねぇか?」
「た、確かに」
そうヨシュアが問いかけると、覗いている漁師が恐る恐る頷き、自分にも見せてくれと他の者が言いだし、1人1人が順番に確認している。そして全員が似ていると答えた。更に、行方不明となっていた舟だということも分かったことで、助けに行こうと言いだす。それをヨシュアは止めた。
「何故止めるんだ!」
「怪しいからだ。霧の向こう側は晴れてて、一部だけに発生しているなんてことは海上では起きん」
「だが……!」
望遠鏡がヨシュアの手に戻ってきて、彼は覗きながら言う。
「あまり近づきすぎるのも危険だ。目視でギリギリ舟が見えるところまで移動するぞ。漁師共を確認出来たら救出。出来なかったらそのまま放置。それでいいな?」
その提案に漁師たちが頷き、それぞれが舟を動かすために移動する。慌てて動くその様子を見ていたヘルニーがヨシュアに近づいた。
「あれって何で近づいちゃダメなの? 霧が発生してるから?」
「いろいろと要因はある。まず、あれは通常の白い霧とは違う。そして、一部だけ空が黒く曇っている」
風がないせいか、手漕ぎで移動している。動きがゆっくりだが、少しずつ霧までの距離が縮まっていく。霧が発生している手前まで来た舟は止まり、ヨシュアはもう一度望遠鏡で舟を見る。筒を限界まで伸ばし、見逃さないように覗いてたが急に顔から外すと、慌てた声で漁師たちに告げた。
「ここから今すぐ離れるぞ!」
「え、なになに」
焦っているヨシュアの声に、何が起きたのか分からない漁師たちは茫然としていた。ヨシュアの声につられる様にヘルニーが慌てている。
「あの舟に漁師共はいない」
信じられないのか漁師たちはいまだ固まっているが、リーダーの男が代表としてヨシュアに呼ばれ、覗いてみろと渡された望遠鏡で確認して腰を抜かした。顔色から血の気が失せて青ざめている。留まっている間に舟はこちら側に近づいてきていた。
「お前ら死にたくなきゃ舟を動かせ。固まっている場合じゃねぇぞ」
鬼気迫ったヨシュアの声に弾かれたかのように、舟を動かし始めた。その間にもどんどん近づき、ついには目視ではっきりと見えるところまでの場所にいる。それを見た漁師たちは悲鳴を上げ、必死に漕いだ。
「急げよ。だが、注意もしておけ。こんな時に座礁なんざしたくねぇからな」
方向転換し、霧から少しずつ離れていくがあちらの方が幾分か早い。あっという間に隣に並べられた。
「な、なんとかしてくれぇ」
「ただただお前たちは逃げることだけを考えてな。私がどうにかする」
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「急いで回避しろ!」
その言葉と同時に、方向転換した舟が勢いよくこちら側の側面に近づいてくる。その尋常ではない早さを目撃した漁師たちは、必死で舟を漕ぐ。それでもぶつかることは避けられない。
もう少しでぶつかると思われた時、無人船に岩が落ちて水しぶきを上げた。それは舟の中心に落ち、穴が開いている。
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「ありがとよ。ただ、この状況が落ち着くまでは座れん」
そう言うと不満そうな顔をする愛馬の背を撫で、離れる。自身を落ち着かせようと目を瞑り、深呼吸をした後、声を張り上げた。
「オールを持っている者はそのまま漕ぎ続けろ! 1人は海の状況確認と風を読め! そして手が空いている者は、商品以外の武器を取れ!」
「武器って……」
「なんでもいい!」
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