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第2章 夢
23.ばぁさんと誰か
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一人と一頭に似たような質問をしたその日から三日後、ようやく目を覚ましたヨシュア。
「……酷い目に遭った」
「何を言っているんだい。あんたを助けたんだよ。礼の一つもないのかい?」
ずっと寝たきりだったが、体を起こして休めるぐらいまで体力が回復していた。気絶してからどれくらい経ったのかを隣で介抱している女性に聞いた後、あの味を思い出してしまったのか、体を震わせた。
「……助かった」
「まったく」
女性に軽く腕を叩かれ、文句を言われる。病み上がりの人物に対してひどい扱いだった。
「あんたに聞きたいことが二つあってね。まずは、あのペリルをどうやって仲間にしたんだい」
木の丸い椅子に座り、真っ直ぐヨシュアを見てくる。
「ぺりる……? ああ、アルヴァ―ノのことか。何もしてないさ」
「何もしてないなんてことはないだろ?」
一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかったヨシュアだったが、愛馬に対して言っているのだと理解し、質問に答える。それに対して女性は訝いぶかしんでいた。そう思っても仕方ないだろう。ヨシュアからすれば少し珍しいだけの馬だ。だがこの世界からすれば、アルヴァ―ノは危険な存在だと認知されている。
「本当になにもしていない。唯一したことといえば、武器を地面において、危害を加えないということを証明しただけだな」
「それだけ?」
「ああ、それだけ」
真実を言った。ここで嘘を言ってもヨシュアには何のメリットもなかった。
「ああ、そういやジュリーおじょーちゃんが最初に言っていたんだが、人を嫌っているそうだ」
顎に手を置き、過去に言われた事を思い出していた。
「それも含めて不思議なんだよ。というより、ジュリー王女をおじょーちゃんって」
「ずっと言ってるが」
「それで捕まらなかったのかい?」
「咎められたが、一回も捕まってないな」
「……大した奴だよ、あんた」
呆れながらため息を吐く目の前の女性を見て、鼻で笑った。
「あと一つ。草原を歩いていたって言ったね。そこでこんな花を見なかったかい?」
そういう女性は、平たくなっている黄色い花をポケットから取り出してきた。それは鎖のように連なったものだった。この世界に来る前、ヨシュアは一度だけ似たような花を見たことがあったが、それほど興味が無かったのか思い出そうともしなかった。
「ほとんどは地面に落ちていたが、木から垂れ下がっているのもあったな」
「なら、あんたはその花粉を吸っちまったんだね」
「花粉で幻覚を見るなんてことあるのか?」
「あり得る話だねぇ」
確認が取れたのか、その花は戸棚の奥に直された。
「さて、毒が抜けきるまでここにいてもらうよ」
「歩くのもダメか? 外に出たいんだが」
「ダメだね」
意識が戻ってからというと、朝目覚めては介抱され、また横になるということを繰り返していた。そのせいか、ヨシュアの体はずっと疼うずいて仕方がなかった。看病してもらっている以上、文句は言えず、もどかしそうに彼はベッドで寝ている。一日だけならなんとか我慢は出来たのだが、彼の想像以上に看病が長引き、発狂しそうになるヨシュアがそこいるのだった。
「……まさかあんたが若い女じゃなくてばぁさんだったとは」
発狂しそうになっていた所を、心配しに来た愛馬が窓から顔を覗かせたりしてくれていた。暇つぶしをしてくれていたお陰で何も起きず、毒を完全に抜くことが出来た。そのおかげか今まで若い女性だと思っていた人が、年老いた人物に変わっている。
「あたしは最初からこの姿だったよ。あんたの欲望で若い女性に見えていただけさね」
「そうか」
目の前の相手が最後までベッドから動かさない様にしていたのは、それが理由だった。もし残った状態のまま旅を続けていたら、大変なことになっていた。小さい幻覚なら、何もない所でこけて多少怪我を負うだけだが、大きい幻覚となるとその場で息が途絶えることもあると彼女は言う。
「とにかく助かった。礼を言う」
「気にしなさんな」
「しかし、本当に何もしなくていいのか?」
「大丈夫だと言ったろ? 珍しいものが見れただけであたしは十分だよ。あと、これを持っていくといい。あんたみたいに抗体こうたいがない人は、またああなる可能性もあるからね」
そういうと、ポケットから紐が通してある小さい石の物を渡してきた。それをよく見ると何か文字が書かれていたが、ヨシュアには読めなかった
「それは守り石だよ。あらゆるものをはじいてくれるものさ」
「あらゆるもの?」
特別なものであろう物に首を傾げながら腕に付けたが、いまいちどんなものなのか分からなかった。
「魔法であったりあんたを悩ませた花粉であったりだね。だけど、注意しておきな。ずっとは出来ないから、たまに神聖な所で休ませてやりな」
「神聖な所というと教会とかか?」
「教会でなくても滝でも大丈夫だね」
不思議に思いながらも石を見る。何も感じないが貰えるものは貰っておく。これなら女神に怒られることもないだろう。
「とにかくありがとよ」
「またおいでな」
感謝の言葉を告げ、その場から去っていく一人と一頭だった。
「ばぁさんの所で休んだおかげで、この先いくらでも行けそうだ。次はどこを目指そうか」
ある程度歩いた彼らは、現在林道を歩いていた。ヨシュアが危惧きぐしている獣の声は聞こえず、鳥のさえずりだけが聞こえている。次の目的地を探るため、林の真ん中で立ち止まり地図を広げた。
「この先に何があるか」
自分がいるであろう大体の居場所を指さし、そこからくねくねと曲がる茶色い線を辿っていく。その先は一面青色だった。
「もしかしたら、海があるかもしれねぇ。行くぞ、アルヴァ―ノ」
地図を鞄に直し、ひらりと愛馬の背に乗る。乗ったのを確認したのち、道なりに進んでいく。林道がどんどん見えなくなってくると同時に、先程までヨシュアがいた場所に何者かが現れ、消えていった。
「……酷い目に遭った」
「何を言っているんだい。あんたを助けたんだよ。礼の一つもないのかい?」
ずっと寝たきりだったが、体を起こして休めるぐらいまで体力が回復していた。気絶してからどれくらい経ったのかを隣で介抱している女性に聞いた後、あの味を思い出してしまったのか、体を震わせた。
「……助かった」
「まったく」
女性に軽く腕を叩かれ、文句を言われる。病み上がりの人物に対してひどい扱いだった。
「あんたに聞きたいことが二つあってね。まずは、あのペリルをどうやって仲間にしたんだい」
木の丸い椅子に座り、真っ直ぐヨシュアを見てくる。
「ぺりる……? ああ、アルヴァ―ノのことか。何もしてないさ」
「何もしてないなんてことはないだろ?」
一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかったヨシュアだったが、愛馬に対して言っているのだと理解し、質問に答える。それに対して女性は訝いぶかしんでいた。そう思っても仕方ないだろう。ヨシュアからすれば少し珍しいだけの馬だ。だがこの世界からすれば、アルヴァ―ノは危険な存在だと認知されている。
「本当になにもしていない。唯一したことといえば、武器を地面において、危害を加えないということを証明しただけだな」
「それだけ?」
「ああ、それだけ」
真実を言った。ここで嘘を言ってもヨシュアには何のメリットもなかった。
「ああ、そういやジュリーおじょーちゃんが最初に言っていたんだが、人を嫌っているそうだ」
顎に手を置き、過去に言われた事を思い出していた。
「それも含めて不思議なんだよ。というより、ジュリー王女をおじょーちゃんって」
「ずっと言ってるが」
「それで捕まらなかったのかい?」
「咎められたが、一回も捕まってないな」
「……大した奴だよ、あんた」
呆れながらため息を吐く目の前の女性を見て、鼻で笑った。
「あと一つ。草原を歩いていたって言ったね。そこでこんな花を見なかったかい?」
そういう女性は、平たくなっている黄色い花をポケットから取り出してきた。それは鎖のように連なったものだった。この世界に来る前、ヨシュアは一度だけ似たような花を見たことがあったが、それほど興味が無かったのか思い出そうともしなかった。
「ほとんどは地面に落ちていたが、木から垂れ下がっているのもあったな」
「なら、あんたはその花粉を吸っちまったんだね」
「花粉で幻覚を見るなんてことあるのか?」
「あり得る話だねぇ」
確認が取れたのか、その花は戸棚の奥に直された。
「さて、毒が抜けきるまでここにいてもらうよ」
「歩くのもダメか? 外に出たいんだが」
「ダメだね」
意識が戻ってからというと、朝目覚めては介抱され、また横になるということを繰り返していた。そのせいか、ヨシュアの体はずっと疼うずいて仕方がなかった。看病してもらっている以上、文句は言えず、もどかしそうに彼はベッドで寝ている。一日だけならなんとか我慢は出来たのだが、彼の想像以上に看病が長引き、発狂しそうになるヨシュアがそこいるのだった。
「……まさかあんたが若い女じゃなくてばぁさんだったとは」
発狂しそうになっていた所を、心配しに来た愛馬が窓から顔を覗かせたりしてくれていた。暇つぶしをしてくれていたお陰で何も起きず、毒を完全に抜くことが出来た。そのおかげか今まで若い女性だと思っていた人が、年老いた人物に変わっている。
「あたしは最初からこの姿だったよ。あんたの欲望で若い女性に見えていただけさね」
「そうか」
目の前の相手が最後までベッドから動かさない様にしていたのは、それが理由だった。もし残った状態のまま旅を続けていたら、大変なことになっていた。小さい幻覚なら、何もない所でこけて多少怪我を負うだけだが、大きい幻覚となるとその場で息が途絶えることもあると彼女は言う。
「とにかく助かった。礼を言う」
「気にしなさんな」
「しかし、本当に何もしなくていいのか?」
「大丈夫だと言ったろ? 珍しいものが見れただけであたしは十分だよ。あと、これを持っていくといい。あんたみたいに抗体こうたいがない人は、またああなる可能性もあるからね」
そういうと、ポケットから紐が通してある小さい石の物を渡してきた。それをよく見ると何か文字が書かれていたが、ヨシュアには読めなかった
「それは守り石だよ。あらゆるものをはじいてくれるものさ」
「あらゆるもの?」
特別なものであろう物に首を傾げながら腕に付けたが、いまいちどんなものなのか分からなかった。
「魔法であったりあんたを悩ませた花粉であったりだね。だけど、注意しておきな。ずっとは出来ないから、たまに神聖な所で休ませてやりな」
「神聖な所というと教会とかか?」
「教会でなくても滝でも大丈夫だね」
不思議に思いながらも石を見る。何も感じないが貰えるものは貰っておく。これなら女神に怒られることもないだろう。
「とにかくありがとよ」
「またおいでな」
感謝の言葉を告げ、その場から去っていく一人と一頭だった。
「ばぁさんの所で休んだおかげで、この先いくらでも行けそうだ。次はどこを目指そうか」
ある程度歩いた彼らは、現在林道を歩いていた。ヨシュアが危惧きぐしている獣の声は聞こえず、鳥のさえずりだけが聞こえている。次の目的地を探るため、林の真ん中で立ち止まり地図を広げた。
「この先に何があるか」
自分がいるであろう大体の居場所を指さし、そこからくねくねと曲がる茶色い線を辿っていく。その先は一面青色だった。
「もしかしたら、海があるかもしれねぇ。行くぞ、アルヴァ―ノ」
地図を鞄に直し、ひらりと愛馬の背に乗る。乗ったのを確認したのち、道なりに進んでいく。林道がどんどん見えなくなってくると同時に、先程までヨシュアがいた場所に何者かが現れ、消えていった。
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