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第2章 夢

22. 若いばぁさん

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 ヒヒーン

 馬の鳴き声がもう一度聞こえたと同時にヨシュアは勢いよく目を覚ました。全身汗だらけで呼吸も荒くなっている。

「……悪夢かIt’s nightmare

 頭を搔きながら先程まで見ていた夢を思い出していた。夢にも関わらず、痛みや相手を殺した感覚が今でも残っていることに、不快そうに眉をひそめている。そんな気持ちが残ったままだったが、深呼吸をして一旦自分を落ち着かせ、周りを見る。部屋は草や花で埋まっていた。

「おや、起きたのかい」

 ドアを開けて入ってきたのは、よぼよぼのおばあちゃんではなく若い女性だった。

「あんたの馬が背に乗せてここまで来たのを覚えているかい?」
「……まったく覚えていないな」

 首を横に振る。自分の行動を振り返ってみても、ここに来た経緯は思い出せなかった。確かにヨシュアは草原を歩いていた。肌で風を感じ、草と土の匂いを嗅いでいた。荒廃した町に入ったのも覚えている。そして、気づいたらここにいた。

「ああ、それじゃあれだね。花粉を吸って幻覚を見ちまったのさ」
「かふん……?」
「その様子だと、よく知らないみたいだねぇ」

 ヨシュアが座っているベッドの近くにある戸棚から、女性は何かを取り出していた。改めて部屋をよく見ると、いろいろなものが置いてあった。見たことあるような花に草。薬を調合するための道具。時々変な声を出す草にヨシュアの耳がやられかけていたが、触れないでおこう。

「ほら、これを飲んで今日は寝な。まだ花粉の効果が残っているだろうからね」
「……これを、飲むのか?」

 木の器に入れられた紫色のスープを差し出してきた。色に加え、更に追い打ちをかけるかのように、この世の物とは思えないような匂いもする。初めて嗅ぐそれに、胃から何かが這い上がるのを感じたヨシュアは顔をしかめ、逸らした。

「飲まないとずっと幻覚に悩まされちまうよ」

 ほら、と顔付近に近づけてくる。必死に抵抗するも、悪夢で体力を消費してしまっていたヨシュアの体ではその行動も空しく終わり、無理矢理口の中に入れられた。

「うっ」

 吐こうとするも、手で口を押さえられてしまい、流れるようにそのスープが喉を通っていく。想像を絶する味に、声にならない悲鳴を上げながら白目を向いたヨシュアは、眠る様に意識を飛ばした。

「なんだい、これくらい。たいしたものじゃないよ」

 そう愚痴ぐちる女性は準備していた水桶に布を浸し、しぼるとヨシュアの体を拭き始めた。汗でびっしょりと濡れていた彼の肌がさっぱりしていく。

「さて、外にいるペリルにもご飯をあげなきゃね」

 汗をあらかた拭き終わり、布をもう一度濡らしてから絞ると、ヨシュアのおでこにのせて、外へ向かった。女性が外に出ると、アルヴァ―ノは自分で仕留めたイノシシを食べていた。

「賢い馬だねぇ。自分で用意するなんて」

 近づいて来る女性を警戒しつつも、ゆっくりと食べている。

「何故ペリルがあの男と一緒にいるのかねぇ。なにか感じる事でもあるのかい?」

 危険だと分かっているのか一定の距離を取りつつ、疑問を投げかけた。それに答えることはない。そう分かっていても質問したくなるほど、ヨシュアとアルヴァーノの関係は女性にとって不思議なようだった。

「しばらくは幻覚を見ることもあるだろうから、お前の主人は数日間ここにいてもらうよ」

 食事している姿をしばらく見て、そう言い残すと家の中へと戻って行く。

「あんたも不思議な奴だねぇ。ただの人だってのに、あんな危険な馬と仲がいい」

 アルヴァーノにもしたような質問を、気絶しているヨシュアにも投げかけた。当然答えは返ってこない。そんなことを問い掛けられているとは知らず、先程のスープが効いているのか、また悪夢を見ているのかうなされていた。
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