25 / 56
第2章 夢
22. 若いばぁさん
しおりを挟む
ヒヒーン
馬の鳴き声がもう一度聞こえたと同時にヨシュアは勢いよく目を覚ました。全身汗だらけで呼吸も荒くなっている。
「……悪夢か」
頭を搔きながら先程まで見ていた夢を思い出していた。夢にも関わらず、痛みや相手を殺した感覚が今でも残っていることに、不快そうに眉を顰めている。そんな気持ちが残ったままだったが、深呼吸をして一旦自分を落ち着かせ、周りを見る。部屋は草や花で埋まっていた。
「おや、起きたのかい」
ドアを開けて入ってきたのは、よぼよぼのおばあちゃんではなく若い女性だった。
「あんたの馬が背に乗せてここまで来たのを覚えているかい?」
「……まったく覚えていないな」
首を横に振る。自分の行動を振り返ってみても、ここに来た経緯は思い出せなかった。確かにヨシュアは草原を歩いていた。肌で風を感じ、草と土の匂いを嗅いでいた。荒廃した町に入ったのも覚えている。そして、気づいたらここにいた。
「ああ、それじゃあれだね。花粉を吸って幻覚を見ちまったのさ」
「かふん……?」
「その様子だと、よく知らないみたいだねぇ」
ヨシュアが座っているベッドの近くにある戸棚から、女性は何かを取り出していた。改めて部屋をよく見ると、いろいろなものが置いてあった。見たことあるような花に草。薬を調合するための道具。時々変な声を出す草にヨシュアの耳がやられかけていたが、触れないでおこう。
「ほら、これを飲んで今日は寝な。まだ花粉の効果が残っているだろうからね」
「……これを、飲むのか?」
木の器に入れられた紫色のスープを差し出してきた。色に加え、更に追い打ちをかけるかのように、この世の物とは思えないような匂いもする。初めて嗅ぐそれに、胃から何かが這い上がるのを感じたヨシュアは顔をしかめ、逸らした。
「飲まないとずっと幻覚に悩まされちまうよ」
ほら、と顔付近に近づけてくる。必死に抵抗するも、悪夢で体力を消費してしまっていたヨシュアの体ではその行動も空しく終わり、無理矢理口の中に入れられた。
「うっ」
吐こうとするも、手で口を押さえられてしまい、流れるようにそのスープが喉を通っていく。想像を絶する味に、声にならない悲鳴を上げながら白目を向いたヨシュアは、眠る様に意識を飛ばした。
「なんだい、これくらい。たいしたものじゃないよ」
そう愚痴る女性は準備していた水桶に布を浸し、しぼるとヨシュアの体を拭き始めた。汗でびっしょりと濡れていた彼の肌がさっぱりしていく。
「さて、外にいるペリルにもご飯をあげなきゃね」
汗をあらかた拭き終わり、布をもう一度濡らしてから絞ると、ヨシュアのおでこにのせて、外へ向かった。女性が外に出ると、アルヴァ―ノは自分で仕留めたイノシシを食べていた。
「賢い馬だねぇ。自分で用意するなんて」
近づいて来る女性を警戒しつつも、ゆっくりと食べている。
「何故ペリルがあの男と一緒にいるのかねぇ。なにか感じる事でもあるのかい?」
危険だと分かっているのか一定の距離を取りつつ、疑問を投げかけた。それに答えることはない。そう分かっていても質問したくなるほど、ヨシュアとアルヴァーノの関係は女性にとって不思議なようだった。
「しばらくは幻覚を見ることもあるだろうから、お前の主人は数日間ここにいてもらうよ」
食事している姿をしばらく見て、そう言い残すと家の中へと戻って行く。
「あんたも不思議な奴だねぇ。ただの人だってのに、あんな危険な馬と仲がいい」
アルヴァーノにもしたような質問を、気絶しているヨシュアにも投げかけた。当然答えは返ってこない。そんなことを問い掛けられているとは知らず、先程のスープが効いているのか、また悪夢を見ているのか魘されていた。
馬の鳴き声がもう一度聞こえたと同時にヨシュアは勢いよく目を覚ました。全身汗だらけで呼吸も荒くなっている。
「……悪夢か」
頭を搔きながら先程まで見ていた夢を思い出していた。夢にも関わらず、痛みや相手を殺した感覚が今でも残っていることに、不快そうに眉を顰めている。そんな気持ちが残ったままだったが、深呼吸をして一旦自分を落ち着かせ、周りを見る。部屋は草や花で埋まっていた。
「おや、起きたのかい」
ドアを開けて入ってきたのは、よぼよぼのおばあちゃんではなく若い女性だった。
「あんたの馬が背に乗せてここまで来たのを覚えているかい?」
「……まったく覚えていないな」
首を横に振る。自分の行動を振り返ってみても、ここに来た経緯は思い出せなかった。確かにヨシュアは草原を歩いていた。肌で風を感じ、草と土の匂いを嗅いでいた。荒廃した町に入ったのも覚えている。そして、気づいたらここにいた。
「ああ、それじゃあれだね。花粉を吸って幻覚を見ちまったのさ」
「かふん……?」
「その様子だと、よく知らないみたいだねぇ」
ヨシュアが座っているベッドの近くにある戸棚から、女性は何かを取り出していた。改めて部屋をよく見ると、いろいろなものが置いてあった。見たことあるような花に草。薬を調合するための道具。時々変な声を出す草にヨシュアの耳がやられかけていたが、触れないでおこう。
「ほら、これを飲んで今日は寝な。まだ花粉の効果が残っているだろうからね」
「……これを、飲むのか?」
木の器に入れられた紫色のスープを差し出してきた。色に加え、更に追い打ちをかけるかのように、この世の物とは思えないような匂いもする。初めて嗅ぐそれに、胃から何かが這い上がるのを感じたヨシュアは顔をしかめ、逸らした。
「飲まないとずっと幻覚に悩まされちまうよ」
ほら、と顔付近に近づけてくる。必死に抵抗するも、悪夢で体力を消費してしまっていたヨシュアの体ではその行動も空しく終わり、無理矢理口の中に入れられた。
「うっ」
吐こうとするも、手で口を押さえられてしまい、流れるようにそのスープが喉を通っていく。想像を絶する味に、声にならない悲鳴を上げながら白目を向いたヨシュアは、眠る様に意識を飛ばした。
「なんだい、これくらい。たいしたものじゃないよ」
そう愚痴る女性は準備していた水桶に布を浸し、しぼるとヨシュアの体を拭き始めた。汗でびっしょりと濡れていた彼の肌がさっぱりしていく。
「さて、外にいるペリルにもご飯をあげなきゃね」
汗をあらかた拭き終わり、布をもう一度濡らしてから絞ると、ヨシュアのおでこにのせて、外へ向かった。女性が外に出ると、アルヴァ―ノは自分で仕留めたイノシシを食べていた。
「賢い馬だねぇ。自分で用意するなんて」
近づいて来る女性を警戒しつつも、ゆっくりと食べている。
「何故ペリルがあの男と一緒にいるのかねぇ。なにか感じる事でもあるのかい?」
危険だと分かっているのか一定の距離を取りつつ、疑問を投げかけた。それに答えることはない。そう分かっていても質問したくなるほど、ヨシュアとアルヴァーノの関係は女性にとって不思議なようだった。
「しばらくは幻覚を見ることもあるだろうから、お前の主人は数日間ここにいてもらうよ」
食事している姿をしばらく見て、そう言い残すと家の中へと戻って行く。
「あんたも不思議な奴だねぇ。ただの人だってのに、あんな危険な馬と仲がいい」
アルヴァーノにもしたような質問を、気絶しているヨシュアにも投げかけた。当然答えは返ってこない。そんなことを問い掛けられているとは知らず、先程のスープが効いているのか、また悪夢を見ているのか魘されていた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界とは他の星系ですか
ゆみすけ
ファンタジー
ニートである、名前はまあいいか。 仕事をしていたが、首になった。 足が不自由になりセールスができなくなり自ら退職した。 未練はない。 働いていたときは、とりあえず給料はもらえた。 だから会社に不満はない。 すこし蓄えがあった。 それで食いつないでいる。 体が不自由なヒトの気持ちがすこしわかった。 アパートも引っ越した。 家賃が安いところをさがした。 贅沢はいえない。 今までの生活からダウンするのはつらかった。 一度覚えた贅沢は、なかなか制限できないものだ。 しかし、無い袖は触れない。 今日、昼なに食べようか、朝は無い、近所の安いスーパーでオニギリの安いやつでも、コンビニは高いから、スーパーのほうが安いから。 金が余分に無い、1日500円までだ。 足を引きずり歩く、すこしなら歩けるから。 声がする、 え、なに誰、聞えたのではなく、響いたから当然とまどった。 「聞えましたか、やっと聞えましたね。言葉理解できますか。」 だれ、頭に直接聞える声はだれだ。と思考した。 「まあ、だれでもいいでしょう。のちほど会ってからでも、とりあえずアポだけでもと思いまして。」 どうしたら会えるんだ。と思考した。 「あなたの時間に合わせます、だれもいないところで。」 なら近くの川の土手で夜7時ころなら誰もいないから。 「わかりました、では今夜7時ころ、そこの川の土手で。」と頭に響いて、その声はやんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる