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第1章 旅
冒険記録20 次の場所へ
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「おい、金を出しな」
「へ?」
ピストルを直すと、腰を抜かしている盗賊の前にしゃがみ込み、手を突きだす。
「酒代だ。お前さん達のリーダー分のな」
「お、俺達は」
「後、迷惑料だ」
口ごもり余所を見る盗賊の胸倉を掴み、強制的にヨシュアの方へ向かせた。片方の手は握りこぶしを作っている。また別の方向を見たり、嘘を吐こうとするつもりなら容赦なく殴るといっているかのようだ。
「だ、誰がお前の」
口答えしてきた相手の頬を殴り、掴んでいる服を引っ張ってまた正面を向かせる。
「お前さん達にどうこう言う資格がないのだけは自覚しな」
「だ、だが」
さらに顔を殴る。殴られたところが腫れ、血も出ていた。
「殴られて、会話している内はまだ温情があると思え。お前さん達ならよく分かっているだろ?」
「は、はい」
「分かったなら金を集めてこい」
盗賊の服を掴んだまま立ち上がり、投げ飛ばした。勢い余ったのか地面に一度倒れたがすぐに起き上がると、気絶している奴やまだ意識ある者達から必死にお金を集めていた。その姿をヨシュアは腕を組みつつ、監視している。逃げ出すことが無いようにと。
「あ、集めてきました」
「それを持ったまま付いて来な」
何袋かを手に持ったまま見せている盗賊を後目に、酒場の中へ入っていく。中は先程の騒動で静まり返っていた。
「騒がせてしまってすまないな、女将。こいつが持っている分で酒代や食事代は足りるか?」
怯えるようについて来た盗賊の服を掴み、前に引きずり出す。引っ張られて情けない声を出していたが、無視をした。
「ちょいと数えさせて」
「ああ」
盗賊が女将に袋を渡し、近くの机に向かうと袋を開けて確認しだした。
「ヨシュアさん」
「おじょーちゃんか。どうした?」
先程の喧嘩で酒が体全体に回ってきたのか、椅子にどっかりと座り、体を休めていた。その姿を見ながらおずおずと近づいてきたジュリーの方へ顔を向ける。
「あれがヨシュアさんのやり方なんですか」
「いつもよりかは優しいがな。あいつらにはあのやり方が一番わかりやすい。説教垂れるよりかは」
椅子に凭もたれながら後ろに傾け、ゆりかごの様に動かしている。
「で、どうだ? 金は足りてるか?」
視界の端で数え終わったのを確認したヨシュアは椅子を戻し、机に肘を置きながら女将の方を向く。
「充分足りてるよ。むしろ貰いすぎなくらいさ」
「そいつぁ良かった。余分なもんも貰ってくれ。迷惑料としてな」
充分払えたことを確認した彼は、椅子から立ち上がり、出口へと向かった。その後をジュリーが追いかけようとしたが、衛兵たちに止められている。
「ああ、そうだ。女将。私は今、人を探していてね。ハイド村出身の魔法使いを探しているんだが、何か知らないか?」
「魔法使いねぇ。一度も聞いたことないよ」
木のドアを開けつつ、背を向けながら質問する。酒場は情報が集まりやすい所。何か少しでも情報があればと思いながら聞いたが、首を傾げる女将からは何も得られなかった。
「……そうか。では地道に探してみるとしよう」
「あ、あの! ヨシュアさん」
その答えを聞き、外へ出ると、衛兵を振り切ったジュリーが追いかけてくる。
「悪いな、おじょーちゃん。宿を一緒に探せなくなってしまったな。騒ぎを起こした私は、この街から出るとしよう。その方がお付きの人たちは安心するだろう」
城門へ歩き始めたヨシュアの服を引っ張り、止めている。走って出てきたのか衛兵たちも慌てて外に出てきた。
「いつでも戻って来て良いですからね! 衛兵の方達がなんて言おうと待ってますから!」
「いや、さすがにそれはダメだろおじょーちゃん。そこは入るなって言わねぇと」
腰に手を当て、仁王立ちしながら鼻息を荒くする。こんなことを言っていたが、彼女の立場は王女だ。軽々とあのような言葉は言ってはいけない。だが、彼女はまだ幼い。分かっていたとしても、感情を抑えることはまだ難しいのだろう。
「それと……」
「なんだ? おじょーちゃん」
「私の名前、覚えてますか?」
「ああ、覚えているとも。ジュリー・マクシーラ・アニス、だろ?」
「はい! 今度からはおじょーちゃんではなく、ジュリーと呼んでください」
「それは、おじょーちゃんがもう少し大人になってからな」
正面にまわってきた彼女の頭を乱暴に撫で、にやりと笑った。その背後から馬の蹄の音が近づいて来る。
「よぉ、アルヴァ―ノ。厩から出てきたのか?」
音に気付き、後ろを振り返えるとすぐ近くにいた。誰かの手を借りたのか、それとも自分でしたのか、朝にはしていなかったサドルバックを付けていた。
「こいつはありがたいな」
上質なもので作られたのか随分と肌触りがいいマントと、小さいがそれでもいっぱいに詰められたお金が入っていた。
「それ、貰ってください」
「ただの旅人にこれは多すぎなんじゃねぇか? おじょーちゃん」
小袋を持ちながら眉間に皺を寄せ、睨んでいる。しばらく何かを考え、鞄から袋を取り出すと、半分だけ移してもう1個をジュリーに放り投げた。驚いた彼女は、慌てて受け取り、目を真ん丸にさせヨシュアを見る。
「半分だけ貰うとしよう」
「え、全部じゃ」
「残り半分は今までのお礼だ。その後のことは自分でなんとかする」
これ以上の会話は不要といわんばかりに、愛馬の背にするりと乗り、去っていった。慌てて止めようとジュリーが手を伸ばしたが、空しく彼女の手は空を切るのだった。
「へ?」
ピストルを直すと、腰を抜かしている盗賊の前にしゃがみ込み、手を突きだす。
「酒代だ。お前さん達のリーダー分のな」
「お、俺達は」
「後、迷惑料だ」
口ごもり余所を見る盗賊の胸倉を掴み、強制的にヨシュアの方へ向かせた。片方の手は握りこぶしを作っている。また別の方向を見たり、嘘を吐こうとするつもりなら容赦なく殴るといっているかのようだ。
「だ、誰がお前の」
口答えしてきた相手の頬を殴り、掴んでいる服を引っ張ってまた正面を向かせる。
「お前さん達にどうこう言う資格がないのだけは自覚しな」
「だ、だが」
さらに顔を殴る。殴られたところが腫れ、血も出ていた。
「殴られて、会話している内はまだ温情があると思え。お前さん達ならよく分かっているだろ?」
「は、はい」
「分かったなら金を集めてこい」
盗賊の服を掴んだまま立ち上がり、投げ飛ばした。勢い余ったのか地面に一度倒れたがすぐに起き上がると、気絶している奴やまだ意識ある者達から必死にお金を集めていた。その姿をヨシュアは腕を組みつつ、監視している。逃げ出すことが無いようにと。
「あ、集めてきました」
「それを持ったまま付いて来な」
何袋かを手に持ったまま見せている盗賊を後目に、酒場の中へ入っていく。中は先程の騒動で静まり返っていた。
「騒がせてしまってすまないな、女将。こいつが持っている分で酒代や食事代は足りるか?」
怯えるようについて来た盗賊の服を掴み、前に引きずり出す。引っ張られて情けない声を出していたが、無視をした。
「ちょいと数えさせて」
「ああ」
盗賊が女将に袋を渡し、近くの机に向かうと袋を開けて確認しだした。
「ヨシュアさん」
「おじょーちゃんか。どうした?」
先程の喧嘩で酒が体全体に回ってきたのか、椅子にどっかりと座り、体を休めていた。その姿を見ながらおずおずと近づいてきたジュリーの方へ顔を向ける。
「あれがヨシュアさんのやり方なんですか」
「いつもよりかは優しいがな。あいつらにはあのやり方が一番わかりやすい。説教垂れるよりかは」
椅子に凭もたれながら後ろに傾け、ゆりかごの様に動かしている。
「で、どうだ? 金は足りてるか?」
視界の端で数え終わったのを確認したヨシュアは椅子を戻し、机に肘を置きながら女将の方を向く。
「充分足りてるよ。むしろ貰いすぎなくらいさ」
「そいつぁ良かった。余分なもんも貰ってくれ。迷惑料としてな」
充分払えたことを確認した彼は、椅子から立ち上がり、出口へと向かった。その後をジュリーが追いかけようとしたが、衛兵たちに止められている。
「ああ、そうだ。女将。私は今、人を探していてね。ハイド村出身の魔法使いを探しているんだが、何か知らないか?」
「魔法使いねぇ。一度も聞いたことないよ」
木のドアを開けつつ、背を向けながら質問する。酒場は情報が集まりやすい所。何か少しでも情報があればと思いながら聞いたが、首を傾げる女将からは何も得られなかった。
「……そうか。では地道に探してみるとしよう」
「あ、あの! ヨシュアさん」
その答えを聞き、外へ出ると、衛兵を振り切ったジュリーが追いかけてくる。
「悪いな、おじょーちゃん。宿を一緒に探せなくなってしまったな。騒ぎを起こした私は、この街から出るとしよう。その方がお付きの人たちは安心するだろう」
城門へ歩き始めたヨシュアの服を引っ張り、止めている。走って出てきたのか衛兵たちも慌てて外に出てきた。
「いつでも戻って来て良いですからね! 衛兵の方達がなんて言おうと待ってますから!」
「いや、さすがにそれはダメだろおじょーちゃん。そこは入るなって言わねぇと」
腰に手を当て、仁王立ちしながら鼻息を荒くする。こんなことを言っていたが、彼女の立場は王女だ。軽々とあのような言葉は言ってはいけない。だが、彼女はまだ幼い。分かっていたとしても、感情を抑えることはまだ難しいのだろう。
「それと……」
「なんだ? おじょーちゃん」
「私の名前、覚えてますか?」
「ああ、覚えているとも。ジュリー・マクシーラ・アニス、だろ?」
「はい! 今度からはおじょーちゃんではなく、ジュリーと呼んでください」
「それは、おじょーちゃんがもう少し大人になってからな」
正面にまわってきた彼女の頭を乱暴に撫で、にやりと笑った。その背後から馬の蹄の音が近づいて来る。
「よぉ、アルヴァ―ノ。厩から出てきたのか?」
音に気付き、後ろを振り返えるとすぐ近くにいた。誰かの手を借りたのか、それとも自分でしたのか、朝にはしていなかったサドルバックを付けていた。
「こいつはありがたいな」
上質なもので作られたのか随分と肌触りがいいマントと、小さいがそれでもいっぱいに詰められたお金が入っていた。
「それ、貰ってください」
「ただの旅人にこれは多すぎなんじゃねぇか? おじょーちゃん」
小袋を持ちながら眉間に皺を寄せ、睨んでいる。しばらく何かを考え、鞄から袋を取り出すと、半分だけ移してもう1個をジュリーに放り投げた。驚いた彼女は、慌てて受け取り、目を真ん丸にさせヨシュアを見る。
「半分だけ貰うとしよう」
「え、全部じゃ」
「残り半分は今までのお礼だ。その後のことは自分でなんとかする」
これ以上の会話は不要といわんばかりに、愛馬の背にするりと乗り、去っていった。慌てて止めようとジュリーが手を伸ばしたが、空しく彼女の手は空を切るのだった。
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