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第1章 旅
冒険記録15. 女神と再会
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数ページ読み進めた時、突如愛馬の悲痛な声が聞こえる。何事かと顔を上げると、出会った時と同じ首輪を無理矢理つけられそうになっていた。護衛の何人かが地面に倒れて悲惨な状況になっているが、それよりも大事なのはアルヴァーノだった。その様子を見たヨシュアは、頭に血が上る感覚を久しぶりに味わう。
いつ以来だろうか。それすらも分からなくなるほど心をかき乱され、本を投げ捨てた。
後のことなど知ったことではない。今の優先順位は愛馬を助ける。
その事しかヨシュアの頭の中にはなかった。
「私のアルヴァ―ノに何をしている!」
離れさせるように、自分の近くにいた護衛を勢いよく蹴り、固まっている部隊にぶつけた。何人かは体勢を崩して情けない悲鳴を上げるが、さすがは訓練しているだけはあった。すぐ態勢を戻し、武器を構える。
相手が武器を持ち、本気で殺そうとしているのなら問答無用にこちらも仕掛けるのみ。そんなことを思いながら、煮えたぎる気持ちを抑えることはせず、相手を見据える。
相手は統率の取れた護衛。それに対し、こちらは一人。絶望的な状況だが、今のヨシュアはそんなこと考えているほど暇ではない。
隊長らしき人物が号令をかけ、槍を持つ者達が構えて突っ込んでくる。それを後ろに飛んで躱すが、それでも接近してくる。いくら避けようが、当たるまで突いてくるだろう。
カットラスをすばやく抜き、自分に一番近い槍を反動で外側に逸らす。一瞬驚く護衛だが、槍を戻そうと動かすよりも早く敵の懐に入り込み、滑らすように目の前の護衛の喉元を切り裂く。
ヨシュアが横に移動すると、傷口から血を噴き出し、少し前後に揺れた後、勢いよく前に倒れた。
「なっ……」
「驚くことはないだろ? お前さん達が槍を構え、私を殺そうとしてきたからそれに対応しただけだ」
うつ伏せに倒れながら血を流す護衛の場所から離れ、剣から滴る血を振り払い、構える。死体から遠ざかる時も、目線は外さない。
「本来なら懇願の声を上げようが、お構いなしにお前達を殲滅まで追い込むが、どうする」
肉を求める猛獣の様に目を鋭くし、問いかけた。
たった一人を死なせただけ。それでも、躊躇なく相手を仕留めたヨシュアに護衛達は足を竦ませる。
恐怖で誰一人口を開こうとしなかった。
「答えはなしか。……まぁいい。何もしないというその判断をしてくれて助かるよ。あまりにも殺り過ぎると愛しの者から制裁を食らってしまうからな」
「ええ、その通りですよ」
敵意が無くなった相手の目を見つめ、カットラスを戻し、本を鞄に戻す。
一騒動が終わったのを確認したアルヴァーノが近づいて来た。「怪我はないか」と問い掛けながら愛馬の体を見回していると、呆れを含んだ声がどこからか聞こえてくる。
その声にヨシュアは一瞬で反応する。転移されてからは、ヨシュアが聞きたくて聞きたくて仕方なかった女神の声だった。
「その声は愛しき女神! 今、貴女どちらに!」
声を聞き、また会えることを思うと、ヨシュアは興奮せずにはいられなかった。
早く姿が見たい。ただそれだけを願っていた。
さっきまで持っていた怒りはすっかり忘れ、今は女神の事しか頭にない。
「教会の中へ入りなさい」
「そこでなら会えるのか?」
「中へ入れば分かります」
その声と共に、興奮した状態のまま教会の中に入る。中では、何かが起きたのか聖職者達が慌てふためいている。
「あ、ヨシュアさん……」
「どうした? おじょーちゃん。口を開けたままだとアホ面に見えてくるぞ?」
周りが騒いでいる中、信じられないことが起きて、ジュリーは口を半開きの状態でヨシュアを見ている。その間抜けた表情を見て、彼女を小馬鹿にする。
「あのお方が……」
「女神アテリアか?」
小馬鹿にされた事すら気付かない程、驚いていることが目に見えた。名前を出すことすら畏れているのか、ヨシュアが代わりに言ったことに頷く。
「私は、いつものように、女神様に……」
「とりあえずは落ち着きな」
ヨシュアが教会の中に入ってからずっと立ったままでいるジュリーを近くの椅子に座らせる。腰を下ろしたことでいくらか落ち着いてきたのか、ぽつぽつと話し始めた。
彼女が言うには、いつものように礼拝をし、司祭の御言葉を聞き終わった時に、突如アテリアが現れたという。通常ではありえないことが起き、皆が混乱状態に陥っているとのことだった。
「私は信徒ではなかったからよく知らんが、おじょーちゃんの様子を見ると相当な様だな」
その凄さがよくわからないヨシュアには、周りの状況を見て把握するしかなかった。
「この際、入信してくださってもいいのですよ?」
「貴女のことは好きだが、それは遠慮させてもらおう」
ヨシュアの目の前に現れ、冗談を言うアテリアに笑いながら否定する。
実際、彼は誰かの下に就く気はなかった。自ら考えて行動し、常に誰かの前に立って先導する。それが好きな彼にとって、誰かに指導されるということは苦痛でしかなかった。
海賊となった時の、ある1回を除いては。
「冗談ですよ」
「ああ、知っているよ。愛しき女神」
神聖な者でも言うことに微笑ましくなりながらもヨシュアも言い返す。二人の間に微笑ましい雰囲気が出るが、
「さて、海賊ヨシュア。私がここへ直接来た理由をお聞きになりますか?」
先ほどの柔らかい雰囲気とはうってかわって、張り詰めた空気が教会内に流れ始める。それに気圧された聖職者達は、その場に崩れ落ちた。
「私に会いに来たとかか?」
凍り付く空気を物ともせず、にやりと笑い、挑発する。
「いいえ。次また同じことをした時に監視をつけさせてもらいますよという注意喚起をするために来たのです」
「監視だぁ?! 女神アテリアよ! それだけはやめてくれないか!? せっかくの旅が台無しになってしまう!」
ヨシュアの思惑とは反対に、女神は厳しい言葉を投げつける。焦る彼だったが、これは当然の処置だった。
転送される前に約束していたにも関わらず、それを破ってしまったのは彼自身だ。
「やめません。貴方は一度反省したにも関わらず、先ほど一人殺めました。監視だけで済むことを温情だと思いなさい」
「あ、あれは……」
先ほどのことを思い出し、居心地が悪そうに顔をそらす。それに追い打ちをかけるように、首の鎖の模様が赤く光り始める。
「かの馬が大切なのはわかります。ですが、それとこれは違う話です」
伏せる顔を無理やり正面に向けられているのが分かるほど、ヨシュアの顔の動きはぎこちなかった。今のヨシュアの体は女神に支配され、口と考える頭だけしか動かせない状況になっている。
「遥か東方に『仏の顔も三度まで』という言葉があるのは知っていますね?」
「ああ」
「この世界にも『三度までなら神も赦す』という言葉があります。この意味は分かりますね?」
「……ああ」
女神が言う言葉の意味を理解し、ぐぐもった声を出しながら頷く。
「ならば、今後気をつけなさい」
「ぐぅ!」
今までとは違い、冷たさを感じるほど鋭い言葉と共に、首と腕に広がる鎖模様が光り、ヨシュアを苦しめていく。床に膝を着き、悶える彼を心配したジュリーが近づき心配する。
それからしばらく経ち、女神に会った時はまだ明るかった外が、今は夕方を知らせる教会の鐘が鳴り、オレンジ色に空が染まっている。
「もういい、だろ……? これ、いじょう、される、と、おかしく、なりそう、だ」
耐えられなくなったヨシュアは、止めるよう懇願する。いくつもの戦いを生き残り、痛みに慣れてきた彼でも、女神のほんの少しの怒りが混ざった制裁は目に涙を溜めるほどだった。
「途中で思い留まりましたし、これくらいにしておきましょう」
その言葉と共に痛みが引いていくのを感じたヨシュアは、木でつくられた床に手を付き、肩で息をする。
いつ以来だろうか。それすらも分からなくなるほど心をかき乱され、本を投げ捨てた。
後のことなど知ったことではない。今の優先順位は愛馬を助ける。
その事しかヨシュアの頭の中にはなかった。
「私のアルヴァ―ノに何をしている!」
離れさせるように、自分の近くにいた護衛を勢いよく蹴り、固まっている部隊にぶつけた。何人かは体勢を崩して情けない悲鳴を上げるが、さすがは訓練しているだけはあった。すぐ態勢を戻し、武器を構える。
相手が武器を持ち、本気で殺そうとしているのなら問答無用にこちらも仕掛けるのみ。そんなことを思いながら、煮えたぎる気持ちを抑えることはせず、相手を見据える。
相手は統率の取れた護衛。それに対し、こちらは一人。絶望的な状況だが、今のヨシュアはそんなこと考えているほど暇ではない。
隊長らしき人物が号令をかけ、槍を持つ者達が構えて突っ込んでくる。それを後ろに飛んで躱すが、それでも接近してくる。いくら避けようが、当たるまで突いてくるだろう。
カットラスをすばやく抜き、自分に一番近い槍を反動で外側に逸らす。一瞬驚く護衛だが、槍を戻そうと動かすよりも早く敵の懐に入り込み、滑らすように目の前の護衛の喉元を切り裂く。
ヨシュアが横に移動すると、傷口から血を噴き出し、少し前後に揺れた後、勢いよく前に倒れた。
「なっ……」
「驚くことはないだろ? お前さん達が槍を構え、私を殺そうとしてきたからそれに対応しただけだ」
うつ伏せに倒れながら血を流す護衛の場所から離れ、剣から滴る血を振り払い、構える。死体から遠ざかる時も、目線は外さない。
「本来なら懇願の声を上げようが、お構いなしにお前達を殲滅まで追い込むが、どうする」
肉を求める猛獣の様に目を鋭くし、問いかけた。
たった一人を死なせただけ。それでも、躊躇なく相手を仕留めたヨシュアに護衛達は足を竦ませる。
恐怖で誰一人口を開こうとしなかった。
「答えはなしか。……まぁいい。何もしないというその判断をしてくれて助かるよ。あまりにも殺り過ぎると愛しの者から制裁を食らってしまうからな」
「ええ、その通りですよ」
敵意が無くなった相手の目を見つめ、カットラスを戻し、本を鞄に戻す。
一騒動が終わったのを確認したアルヴァーノが近づいて来た。「怪我はないか」と問い掛けながら愛馬の体を見回していると、呆れを含んだ声がどこからか聞こえてくる。
その声にヨシュアは一瞬で反応する。転移されてからは、ヨシュアが聞きたくて聞きたくて仕方なかった女神の声だった。
「その声は愛しき女神! 今、貴女どちらに!」
声を聞き、また会えることを思うと、ヨシュアは興奮せずにはいられなかった。
早く姿が見たい。ただそれだけを願っていた。
さっきまで持っていた怒りはすっかり忘れ、今は女神の事しか頭にない。
「教会の中へ入りなさい」
「そこでなら会えるのか?」
「中へ入れば分かります」
その声と共に、興奮した状態のまま教会の中に入る。中では、何かが起きたのか聖職者達が慌てふためいている。
「あ、ヨシュアさん……」
「どうした? おじょーちゃん。口を開けたままだとアホ面に見えてくるぞ?」
周りが騒いでいる中、信じられないことが起きて、ジュリーは口を半開きの状態でヨシュアを見ている。その間抜けた表情を見て、彼女を小馬鹿にする。
「あのお方が……」
「女神アテリアか?」
小馬鹿にされた事すら気付かない程、驚いていることが目に見えた。名前を出すことすら畏れているのか、ヨシュアが代わりに言ったことに頷く。
「私は、いつものように、女神様に……」
「とりあえずは落ち着きな」
ヨシュアが教会の中に入ってからずっと立ったままでいるジュリーを近くの椅子に座らせる。腰を下ろしたことでいくらか落ち着いてきたのか、ぽつぽつと話し始めた。
彼女が言うには、いつものように礼拝をし、司祭の御言葉を聞き終わった時に、突如アテリアが現れたという。通常ではありえないことが起き、皆が混乱状態に陥っているとのことだった。
「私は信徒ではなかったからよく知らんが、おじょーちゃんの様子を見ると相当な様だな」
その凄さがよくわからないヨシュアには、周りの状況を見て把握するしかなかった。
「この際、入信してくださってもいいのですよ?」
「貴女のことは好きだが、それは遠慮させてもらおう」
ヨシュアの目の前に現れ、冗談を言うアテリアに笑いながら否定する。
実際、彼は誰かの下に就く気はなかった。自ら考えて行動し、常に誰かの前に立って先導する。それが好きな彼にとって、誰かに指導されるということは苦痛でしかなかった。
海賊となった時の、ある1回を除いては。
「冗談ですよ」
「ああ、知っているよ。愛しき女神」
神聖な者でも言うことに微笑ましくなりながらもヨシュアも言い返す。二人の間に微笑ましい雰囲気が出るが、
「さて、海賊ヨシュア。私がここへ直接来た理由をお聞きになりますか?」
先ほどの柔らかい雰囲気とはうってかわって、張り詰めた空気が教会内に流れ始める。それに気圧された聖職者達は、その場に崩れ落ちた。
「私に会いに来たとかか?」
凍り付く空気を物ともせず、にやりと笑い、挑発する。
「いいえ。次また同じことをした時に監視をつけさせてもらいますよという注意喚起をするために来たのです」
「監視だぁ?! 女神アテリアよ! それだけはやめてくれないか!? せっかくの旅が台無しになってしまう!」
ヨシュアの思惑とは反対に、女神は厳しい言葉を投げつける。焦る彼だったが、これは当然の処置だった。
転送される前に約束していたにも関わらず、それを破ってしまったのは彼自身だ。
「やめません。貴方は一度反省したにも関わらず、先ほど一人殺めました。監視だけで済むことを温情だと思いなさい」
「あ、あれは……」
先ほどのことを思い出し、居心地が悪そうに顔をそらす。それに追い打ちをかけるように、首の鎖の模様が赤く光り始める。
「かの馬が大切なのはわかります。ですが、それとこれは違う話です」
伏せる顔を無理やり正面に向けられているのが分かるほど、ヨシュアの顔の動きはぎこちなかった。今のヨシュアの体は女神に支配され、口と考える頭だけしか動かせない状況になっている。
「遥か東方に『仏の顔も三度まで』という言葉があるのは知っていますね?」
「ああ」
「この世界にも『三度までなら神も赦す』という言葉があります。この意味は分かりますね?」
「……ああ」
女神が言う言葉の意味を理解し、ぐぐもった声を出しながら頷く。
「ならば、今後気をつけなさい」
「ぐぅ!」
今までとは違い、冷たさを感じるほど鋭い言葉と共に、首と腕に広がる鎖模様が光り、ヨシュアを苦しめていく。床に膝を着き、悶える彼を心配したジュリーが近づき心配する。
それからしばらく経ち、女神に会った時はまだ明るかった外が、今は夕方を知らせる教会の鐘が鳴り、オレンジ色に空が染まっている。
「もういい、だろ……? これ、いじょう、される、と、おかしく、なりそう、だ」
耐えられなくなったヨシュアは、止めるよう懇願する。いくつもの戦いを生き残り、痛みに慣れてきた彼でも、女神のほんの少しの怒りが混ざった制裁は目に涙を溜めるほどだった。
「途中で思い留まりましたし、これくらいにしておきましょう」
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