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序章 異世界
冒険記録5. 旅に出る準備
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「ヒトリ、ズツ、ではナク、トモニ、くるコト、を、オススメ、するぞ」
剣士の隣に立って一緒に警戒している女にヨシュアは目を向ける。女はダガーナイフを持って腰を低く落としていた。
「カルイ、ふくを、キテイル、というコトハ、斥候カ?」
「だから、何よ」
女はジロジロと見られているのが嫌なのか、不快感たっぷりな目でヨシュアを睨んだ。
「イヤ。めずらシイ、ノヲ、みたな、ト」
ヨシュアは自分の顎を撫でながら首を傾げ、女を見る。男の斥候でも見かけることが少ないのに、女性でその役割を担っているのを初めて見たヨシュアは物珍しそうに見ていた。
「どうせ死ぬんだし、関係ないでしょ」
「アマリ、ころしタク、ナイ、ノダガ、シカタナイ」
ため息を吐きながら、諦めたかのようにヨシュアは首を横に振る。渋々、右腰に下げてあるカットラスに手をかけた。向こうは殺る気満々だったが、戦闘する意思はヨシュアにはなかった。
「あ! ここにいたんだ!」
「? アア、きみカ」
戦闘を始めようとした時、元気でまだ幼い女の子の声が周りに響く。声の出所を探すと、ヨシュアがいる背中側の柵にリアが寄りかかっていた。
「もうお昼過ぎちゃったよ」
「……ソレホド、じかんが、スギテ、いたカ」
ヨシュアがリアの家を出た時は太陽が真上にあったが、見上げると、今は西側に傾いている。
「何してたの?」
「スコシ、ぼうけんしゃ、タチノ、ジツリョクヲ、みてた」
ヨシュアは、カットラスから手を放し、リアに向き直る。
「あ、倒れている人が!」
見られない様にリアの視線をさえぎりながら体を動かして移動していたが、見られてしまった。
「し、死んでる……?」
筋肉質な男が突っ伏して倒れているのを見たリアは体を震わせていた。リアには聞こえていなかったが、ヨシュアには微かに呻く武術家の声が聞こえ、背中が上下に動いているのが見えた。
「イヤ。いしきガ、ないダケダ」
「なぁんだ。驚いたー」
胸を撫でおろし、安心した顔になるリア。その表情を見て、何故こうも直ぐ安心しきった顔になるのか、更に疑問が増えるヨシュアだった。
リアの介入により中断された実力試しだったが、その後、冒険者達に会う機会が何度か訪れた。彼らが借りている場所は、ヨシュアが宿としているリアの家からは離れている。
この村はそれほど広くない土地だ。何度か会うたびに魔法について聞こうとするヨシュアだったが、相手が意図的に避けているせいか聞けずにいた。
「……ケキョク、まほうノ、コト、きけなカッタ、ナ」
この家に住み始めてから3日経ち、冒険者達は任務を完了したのか、既に帰っていた。木のスプーンを持ちながら、魔法使いの女の子が使っていた魔法をヨシュアは思い出している。
そんな思考のまま食事をしていたせいか、スープで机を汚れてしまっていた。
「ヨシュアさん、スープ溢してるよ」
「アア、スマナイ」
注意され、申し訳なさそうに謝るヨシュアに「仕方ないな、もう」とリアが呆れながら笑いつつも、台拭きを取りに行く。
「リア」
「んー?」
台拭きを水で濡らして戻ってきたリアが、スープで汚れた机を拭いている。ヨシュアは気になることがあったのか、彼女に呼び掛けた。その声に、作業しながら返事しているからか間延びした言葉が返ってくる。
「リア。コノむらニ、まほうヲ、ツカエル、やつハ、いるカ?」
「いるけど、今は街に行っているよ」
「アエタリハ……?」
魔法を使える者がいるなら紹介して欲しいとヨシュアが言う。
「ここで待っているよりも、大きい街に行って聞いてみたらどうかな?」
「フム……マチ、カ」
ここで知識を得られるのなら覚えたかった彼だったが、現実はそう甘くなく、街に行かなければ多くの事を知ることが出来ないという。
その答えを聞き、考え始める。
「魔法を使いたいの?」
「つかえるノ、ナラバ、つかいたいト、おもてイル。ダガ、つかう、ためノ、ちしきガ、ない」
今、魔法に関する知識がそれほど無いことに悔しそうな顔をする。この世界に来る前、魔法に詳しいという老婆と彼は会話したことがあったのだ。魔法がどういったものか、だいたいの事は知識としては知っていた。
ただ、あの時、さわりだけしか聞かなかった彼は、今ものすごく後悔していた。その時にもっと詳しく聞いていればと思ったヨシュアだったが、今はもう遅い。
だが、転移した今、魔法に関われるチャンスがヨシュアに巡ってきていた。この機会を無くせば、一生知らずのままになる。そんな気がしてならないヨシュアだった。
「リア、わたしハ、マチニ、イク」
「適正があるかどうか調べるの?」
「それもアルガ、まほうガ、つかえるト、イウモノニ、きょみガ、ワイタ」
ヨシュアの目が輝き、興奮している様が目に見える。
「タダ、まちニ、いくトしてモ、いろいろト、タリない」
言葉は問題ないが、この世界の事をヨシュアはほとんど知らない。それを補う為に今から準備をしなければならなかった。地図や寝床。それに長距離を移動するための手段や食料。
それらは旅をする為に必要な物だ。
「リア。このむらニ、ちずハ、あるカ? ソレト、もじニ、ツイテ、おしえて、ホシイ」
「地図はあるけど、私、文字に関しては少ししか文字知らないよ」
「カマワナイ」
「それでいいなら。ただし……皆の仕事を手伝ってもらうよ」
「アア」
農場を手伝う代わりに、リアから字を学ぶことを約束したヨシュアは、小さい声で「〝よし〟」と呟いていた。
「たびニ、でるヒハ、3ニチゴ、ダ。それまでダガ、ヨロシク、ナ」
「……うん」
そう言いながら頷くリアの顔は、少しだけ寂しそうだった。
それからヨシュアが出発するまでの間、彼女から字を学ぶことになった。ただ、彼女を含め、農民達は朝早くから働いている。リアが文字を教えられるのは仕事が終わった後だ。
その間ヨシュアは何をしているかというと、午前中は前夜の復習。午後は農民たちでは持てない物を持って納屋に収納する。皆の仕事が終わった後は、文字の読み書きをリアから学ぶという流れだ。
その甲斐があってか、3日という短い期間でリアが知る全てのことを習得することが出来、農民達から旅に必要な物を分けてもらうことが出来た。
3日後の朝
馬以外の調達を終えたヨシュアは、村の入り口に立っている。そこには見送りの為に来ていたリアもいた。
「ねぇ、また戻ってくる?」
「いまの、トコロハ、わからナイ。タダ、ココニ、わたしノ、きょみヲ、そそるものガ、アレバ、もどてクル、ダロウ」
そう言いながら、ヨシュアは村を見渡している。たった六日間だったが、リアや村人達、そして冒険者達と会って充実した日を過ごした彼の顔は、今までで一番穏やかな表情をしていた。
「興味がなくてもたまにでいいから、戻ってきて」
「マダマダ、おこさま、ダナ、きみハ」
勢いよくヨシュアの腰にリアが抱き着く。別れるのが悲しいのか、彼女の声は涙で震えていた。その様子を見降ろしながら、彼は頭を撫でていた。
「ぜたい、トイウ、やくそくハ、できないゾ」
「それでもいい」
「……できるカギリ、もどるト、シヨウ」
ヨシュアのお腹にグリグリ、と顔を埋めながらいまだに愚図っているリアに根負けした彼は、仕方なそうに言う。その答えを聞いたリアは、勢いよく顔を上げると、涙を強く拭った。
「その約束守ってよ!」
「アア」
念押しする様にリアは何度も言う。その言葉におかしそうに笑いながら離れ、ヨシュアは旅に出るのであった。
剣士の隣に立って一緒に警戒している女にヨシュアは目を向ける。女はダガーナイフを持って腰を低く落としていた。
「カルイ、ふくを、キテイル、というコトハ、斥候カ?」
「だから、何よ」
女はジロジロと見られているのが嫌なのか、不快感たっぷりな目でヨシュアを睨んだ。
「イヤ。めずらシイ、ノヲ、みたな、ト」
ヨシュアは自分の顎を撫でながら首を傾げ、女を見る。男の斥候でも見かけることが少ないのに、女性でその役割を担っているのを初めて見たヨシュアは物珍しそうに見ていた。
「どうせ死ぬんだし、関係ないでしょ」
「アマリ、ころしタク、ナイ、ノダガ、シカタナイ」
ため息を吐きながら、諦めたかのようにヨシュアは首を横に振る。渋々、右腰に下げてあるカットラスに手をかけた。向こうは殺る気満々だったが、戦闘する意思はヨシュアにはなかった。
「あ! ここにいたんだ!」
「? アア、きみカ」
戦闘を始めようとした時、元気でまだ幼い女の子の声が周りに響く。声の出所を探すと、ヨシュアがいる背中側の柵にリアが寄りかかっていた。
「もうお昼過ぎちゃったよ」
「……ソレホド、じかんが、スギテ、いたカ」
ヨシュアがリアの家を出た時は太陽が真上にあったが、見上げると、今は西側に傾いている。
「何してたの?」
「スコシ、ぼうけんしゃ、タチノ、ジツリョクヲ、みてた」
ヨシュアは、カットラスから手を放し、リアに向き直る。
「あ、倒れている人が!」
見られない様にリアの視線をさえぎりながら体を動かして移動していたが、見られてしまった。
「し、死んでる……?」
筋肉質な男が突っ伏して倒れているのを見たリアは体を震わせていた。リアには聞こえていなかったが、ヨシュアには微かに呻く武術家の声が聞こえ、背中が上下に動いているのが見えた。
「イヤ。いしきガ、ないダケダ」
「なぁんだ。驚いたー」
胸を撫でおろし、安心した顔になるリア。その表情を見て、何故こうも直ぐ安心しきった顔になるのか、更に疑問が増えるヨシュアだった。
リアの介入により中断された実力試しだったが、その後、冒険者達に会う機会が何度か訪れた。彼らが借りている場所は、ヨシュアが宿としているリアの家からは離れている。
この村はそれほど広くない土地だ。何度か会うたびに魔法について聞こうとするヨシュアだったが、相手が意図的に避けているせいか聞けずにいた。
「……ケキョク、まほうノ、コト、きけなカッタ、ナ」
この家に住み始めてから3日経ち、冒険者達は任務を完了したのか、既に帰っていた。木のスプーンを持ちながら、魔法使いの女の子が使っていた魔法をヨシュアは思い出している。
そんな思考のまま食事をしていたせいか、スープで机を汚れてしまっていた。
「ヨシュアさん、スープ溢してるよ」
「アア、スマナイ」
注意され、申し訳なさそうに謝るヨシュアに「仕方ないな、もう」とリアが呆れながら笑いつつも、台拭きを取りに行く。
「リア」
「んー?」
台拭きを水で濡らして戻ってきたリアが、スープで汚れた机を拭いている。ヨシュアは気になることがあったのか、彼女に呼び掛けた。その声に、作業しながら返事しているからか間延びした言葉が返ってくる。
「リア。コノむらニ、まほうヲ、ツカエル、やつハ、いるカ?」
「いるけど、今は街に行っているよ」
「アエタリハ……?」
魔法を使える者がいるなら紹介して欲しいとヨシュアが言う。
「ここで待っているよりも、大きい街に行って聞いてみたらどうかな?」
「フム……マチ、カ」
ここで知識を得られるのなら覚えたかった彼だったが、現実はそう甘くなく、街に行かなければ多くの事を知ることが出来ないという。
その答えを聞き、考え始める。
「魔法を使いたいの?」
「つかえるノ、ナラバ、つかいたいト、おもてイル。ダガ、つかう、ためノ、ちしきガ、ない」
今、魔法に関する知識がそれほど無いことに悔しそうな顔をする。この世界に来る前、魔法に詳しいという老婆と彼は会話したことがあったのだ。魔法がどういったものか、だいたいの事は知識としては知っていた。
ただ、あの時、さわりだけしか聞かなかった彼は、今ものすごく後悔していた。その時にもっと詳しく聞いていればと思ったヨシュアだったが、今はもう遅い。
だが、転移した今、魔法に関われるチャンスがヨシュアに巡ってきていた。この機会を無くせば、一生知らずのままになる。そんな気がしてならないヨシュアだった。
「リア、わたしハ、マチニ、イク」
「適正があるかどうか調べるの?」
「それもアルガ、まほうガ、つかえるト、イウモノニ、きょみガ、ワイタ」
ヨシュアの目が輝き、興奮している様が目に見える。
「タダ、まちニ、いくトしてモ、いろいろト、タリない」
言葉は問題ないが、この世界の事をヨシュアはほとんど知らない。それを補う為に今から準備をしなければならなかった。地図や寝床。それに長距離を移動するための手段や食料。
それらは旅をする為に必要な物だ。
「リア。このむらニ、ちずハ、あるカ? ソレト、もじニ、ツイテ、おしえて、ホシイ」
「地図はあるけど、私、文字に関しては少ししか文字知らないよ」
「カマワナイ」
「それでいいなら。ただし……皆の仕事を手伝ってもらうよ」
「アア」
農場を手伝う代わりに、リアから字を学ぶことを約束したヨシュアは、小さい声で「〝よし〟」と呟いていた。
「たびニ、でるヒハ、3ニチゴ、ダ。それまでダガ、ヨロシク、ナ」
「……うん」
そう言いながら頷くリアの顔は、少しだけ寂しそうだった。
それからヨシュアが出発するまでの間、彼女から字を学ぶことになった。ただ、彼女を含め、農民達は朝早くから働いている。リアが文字を教えられるのは仕事が終わった後だ。
その間ヨシュアは何をしているかというと、午前中は前夜の復習。午後は農民たちでは持てない物を持って納屋に収納する。皆の仕事が終わった後は、文字の読み書きをリアから学ぶという流れだ。
その甲斐があってか、3日という短い期間でリアが知る全てのことを習得することが出来、農民達から旅に必要な物を分けてもらうことが出来た。
3日後の朝
馬以外の調達を終えたヨシュアは、村の入り口に立っている。そこには見送りの為に来ていたリアもいた。
「ねぇ、また戻ってくる?」
「いまの、トコロハ、わからナイ。タダ、ココニ、わたしノ、きょみヲ、そそるものガ、アレバ、もどてクル、ダロウ」
そう言いながら、ヨシュアは村を見渡している。たった六日間だったが、リアや村人達、そして冒険者達と会って充実した日を過ごした彼の顔は、今までで一番穏やかな表情をしていた。
「興味がなくてもたまにでいいから、戻ってきて」
「マダマダ、おこさま、ダナ、きみハ」
勢いよくヨシュアの腰にリアが抱き着く。別れるのが悲しいのか、彼女の声は涙で震えていた。その様子を見降ろしながら、彼は頭を撫でていた。
「ぜたい、トイウ、やくそくハ、できないゾ」
「それでもいい」
「……できるカギリ、もどるト、シヨウ」
ヨシュアのお腹にグリグリ、と顔を埋めながらいまだに愚図っているリアに根負けした彼は、仕方なそうに言う。その答えを聞いたリアは、勢いよく顔を上げると、涙を強く拭った。
「その約束守ってよ!」
「アア」
念押しする様にリアは何度も言う。その言葉におかしそうに笑いながら離れ、ヨシュアは旅に出るのであった。
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