憑かれ少女と悪霊は神隠しで異世界日本にきてしまったようです

yasaca

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19話 君は一体何者だ?

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「姿が変わっていたことだけど、説明してもらってもいいかな?」
「それは、だな……」

 どう説明しようか一瞬悩む悪霊。何か言い繕える言葉を探してはいるが、何も思いつかずすっとだんまりになっていると、環が口を開いた。

「君が前、私に『桃のもう一つの人格だ』って言ってたけど、今はそう思えなくなってきてるの」

 一つ一つ確認するかのように慎重に言葉をつなぎ、悪霊に語り掛けている。

「正直に答えてほしい。君は一体何者なの?」
「……俺は、すでに死んでいる存在だ」

 自身が悪霊だとはそのまま言えず、言葉を濁した。
 しょうが言葉を濁したことが分かったのだろう。環が何か言おうとしていたが、それを止めて、しょうは少しずつ話していく。自身が誰かの中にいないと存在を保っていられないこと。死んでいる存在ではあるが、生きているもの達と同じように眠り、食事をすることが出来ること。
 
 ぽつりぽつりと言葉を紡ぐしょうの言葉に、環の頭の中に一つの可能性が出てくる。目の前にいる存在は、自分たちが相手している悪霊と似ている、と。

 こちらの世界の悪霊は、人に憑りついて呪い殺し、その魂を食べて力を増す存在。しょうが話す内容があまりにも類似していたことで悪霊だとしか環は思えなくなってしまった。

「しょう君。君は神隠しに遭ってここに来たって言ってたね。それから今まで人を食べた?」
「……いいや。人の悩みを食っていただけだ。ほんの少しだけだがな」

 環に言われた言葉で、すでに自身が悪霊だとばれてしまったことを悟ったしょう。もう言い逃れは出来ないだろうと、覚悟を決めたしょうは深呼吸をする。

「悩み?」
「形は違えど、元を辿れば悩みと悪霊は人の負の感情から出来るものだ。悩みは今抱えている負の気持ち。悪霊は死後もその悩みが忘れきれず、現実に執着し、漂い続ける負の存在。ここに来てから俺も同じように食おうとしたが、お前が言っていた妖怪や悪霊を討伐する為の刀のことを聞いてからは止めた。俺もまだ祓われたくないからな」

 環が知っている悪霊は、理性もなく見境なく人の魂を食う害悪。有無を言わさず祓われる存在だった。だが、目の前にいる悪霊のしょうは理性があった。生きている人のように考え、食べて寝る。そこだけ見ればただの人だと錯覚してしまうほど。環が今までのしょうの行動を思い返していたが、少し不審なところがあっても人という枠からは外れない行動をしていて、それが余計混乱に陥っていた。

「俺を祓うのか? 祓ったら桃も死ぬことになるぞ」
「なぜか教えて貰っても?」
「今、桃と条件という名の契約を勝手に突き付けた形でこの中にいる。しかも、俺の意思以外では外せねぇものだ」

 勝手に契約していたことを初めて知ったのか、内側で桃が驚いている。そして何故言わなかったのか怒っていた。

(言う必要がなかったからだ)
(必要あるよ!!)

 まだまだ桃の人生はこれからだというのに、しょうの自分勝手な行動で自分も死ぬなんて理不尽すぎた。いじめを解決してもらったとはいっても、そこはやっぱり悪霊らしい考えだと思った桃だった。

「悪霊を食べていないにも関わらず、いまだ存在出来ていることが不思議だね。もしかして桃ちゃんのを食べてた?」
「神隠しでここに来る前にほんの少し食ったが、それから今までずっと食ってねぇな」
 
 桃が自殺しかけていたところに憑りついてから次の日、小指の爪ほどの量の魂を味見したが、その直後に桃が体調を崩し、これは無理だとしょうは悟った。それから他の悪霊を今まで以上に狙い、食べていた。

「……しょう君、君は厄介な霊だね」
「そうか?」

 思考する悪霊は討伐する者たちにとっては厄介な相手となる。
 それは何故か。本能で動いている他の悪霊と違い、人のように思考し、嘘をつくことが出来るからだ。悪霊にこうだと言われてしまえば嘘を見破ることは難しくなる。

 しょうと桃がいた現実では、悪霊や妖怪は噂で存在したり強くなったりするが、この世界は同族や人の魂を食らって力を伸ばしている。環たちは人に実害が出ないように先に悪霊を討伐したりしているが、すべてを阻止することは出来ない。少なからず被害は出ていて、出たとしてもそれ以上被害者を多くしないためにその場所へ赴いていた。

「二つ質問いい?」
「なんだ」
「週に一回、清めている私の体の中に何故入れたのか、どうやってこの神域に入れたのかを聞いてもいいかな?」
「お前に負の感情があったからそこに付け入って侵入した。神域に入れたのは、自分と桃に膜を張って入ったからだな。どちらも疲労がとんでもなかったが」

 しょうは言葉と表情で辛そうにしていたが、環からすればその二つを耐えてまだ存在出来ているしょうに、環の頭の中で警鐘が鳴っていた。今まで会ったことない悪霊であると警戒し、顔を強張らせている。

「君の処置はこちらが判断してからにする。その間に人を食べたりしたら」
「環。そのまま言葉を続けても俺は構わないが、桃が俺の目や耳を通して今聞いていることを忘れるなよ?」
「……本当、厄介だね君は」

 眉間に皺を寄せてしょうを睨む環に、初めて見る環の表情を愉快そうに喉を鳴らしながらしょうは見ている。ただ一人環が何を言おうとしていたのか分からなかった桃が、内側で何度もしょうに問いかけていた。
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