17 / 27
17話 浮気現場
しおりを挟む
「密通ってなに?」
「……浮気のことだ」
さすがに何度も怒られるのは嫌だった少女は、悪霊が夫人と話している間ずっと静かにしていたが、話が終わった途端、悪霊にいろいろと質問をしてきた。あれはなに、これはなに?と、まるで小さい子がいろんなことに興味を持ち始めて、親がその質問に困惑するかのようなことがずっと起きている。一つ一つ答えているが、さすがに疲れてきた悪霊は返事するのが面倒になっていた。
「それ以上、質問するな」
もううんざりだと言わんばかりの獣が唸るような低い声を出し、話しかけてくるのを止めさせた。でも、とまだ渋る少女に、集中させろと言い放ち、黒い影を追うことを再開する。
目の前を歩く黒い影が時々立ち止まり、後ろを見ている。今は影だけだが、実際に同じことをしていたとなると相当怪しい動きだっただろう。
今見えているものは追いかけている影だけだが、誰かに呼び止められたかのか、肩を跳ね上がらせている。声は聞こえずとも、動作からして声をかけた人物と話しているのだろう。後半になるにつれ、影の動きが荒々しくなっていく。その話しかけてきた人物から離れるように腕を大きく振りかぶり、走ってその場を後にした。
「近道なのは屋根の上か」
歩く速度を速めながら見失わないように道行く町人の間をすり抜け、影を追う。人にぶつかることは無いが、どうしても進行の邪魔になると判断したしょうは、屋根の上に飛び乗り、追いかけた。その身軽さに町歩く町民たちは目をかっぴらいて驚き、足を止めた。
(顔まで分かればいいんだがな)
「さすがのしょうでもそれは難しいんだね」
(昔はターゲットの顔を見て……)
走りから歩きへと変わった影を見ながら内側にいる少女と会話していると、途中で悪霊の動きが止まる。先程の言葉が、まるで昔からこんな追跡をしてきたかのような発言が自然と頭の中に浮かんだのだ。しばらくその場にとどまったが気のせいだと頭を横に振り、再開する。本当かどうかのことの確認のために時間を潰し、影を見失ってしまっては元も子もない。
(どうやら影を追う俺を追跡しているやつがいるようだ。気に留めていなかったが、少ししつこいな)
「どうするの?」
(当然、撒く)
しょうが影を追いけている中、誰かがしょうを追いかけてくる。一人で何もない空間に話しかけている姿を見て、怪しんだのだろう。婦人から離れた直後からついてきている。気配駄々洩れの追跡者に気づかないふりをしたまま、同じ路地裏に入り、一気に屋根の上に飛んで姿を眩ませた。死角となる場所に隠れたと同時に、悪霊を追っていた何者かが路地裏に勢いよく入り込んでくる。
「あれ? さっきまでここを通ってたのに」
見た目、内側にいる少女も同じくらいの年に見える女の子が下で、首を傾げて周りをキョロキョロと見ている。その姿を見たあと、悪霊はその場を後にした。
いまだ影は路地裏を歩いている。相変わらず後ろを見たりと、挙動不審に周りを見ていた。
しばらくすると、長屋がある一つの戸の前で影が止まった。あの夫人の家を出た時と同じように何度も確認し、その中に入っていく。いざ突撃しようと悪霊が近づくと、先程追跡をかわした女の子が近づいてきた。
「お兄さん、そこでなにしようとしてるの?」
ニコニコと笑いながら近づいてくる相手のほうを向き、やれやれと肩を竦めた。
「ここにいるであろう密通野郎に用があってな」
「え、密通?!」
悪霊が怪しい人物だと思ってついてきたら、浮気現場に向かっていたとは露程にも思っていなかったのだろう。大きな声で驚いていた。中からコソコソと話す声が悪霊の耳に届く。おそらく目の前の女の子の声で中にいる者がどうしようかと相談している所だった。
一度出た影は消えず、何度でも追いかけることは出来るが、もう一度同じことを繰り返したくない悪霊は強硬手段に出た。隣で女の子が何か言っているのを無視して戸を開けると、中肉中背の男が走って押し通ろうとしているところだった。戸の前にいる声が少年と少女と判断しての行動だろう。助走距離がもう少し長ければ押し通れたのだろうが、どっしりと構えた悪霊に当たった男は、ばねのように跳ね返され、戸とは反対側の壁に当たった。
「逃げたかったのだろうが、残念だったな」
遠慮なく入っていき、しりもちをついている男を担ぎ、喚いている浮気相手の女を無視して夫人のところへ向かう。
「は、離せってんだ!」
「自力で逃げてもいいぞ? 出来るものならなぁ」
その言葉を聞いた男は、俵担ぎされている腕の中で暴れ始めたが、悪霊の腕は岩のように固く、微動だにしなかった。驚きを隠せない男は、腕の中で暴れては静かになりを繰り返している。
「ほらほら、俺から逃げるんだろ? 抵抗してみろよ」
先程から進展のない様子を煽る悪霊。その顔はとても楽しそうに口角を歪ませている。その顔を見たものはいなかったのが幸いだ。
路地裏から大通りに出ると、町行く人たちが驚いて悪霊の方を二度見していた。少年が中肉中背の男を担いで、表情を変えることもなく歩いていることが信じられないのだろう。ここで身長を変えて驚かせてもいいが、後ろをついてきている女の子が騒いで五月蠅くなるのは安易に想像できたのでやめた。
「……浮気のことだ」
さすがに何度も怒られるのは嫌だった少女は、悪霊が夫人と話している間ずっと静かにしていたが、話が終わった途端、悪霊にいろいろと質問をしてきた。あれはなに、これはなに?と、まるで小さい子がいろんなことに興味を持ち始めて、親がその質問に困惑するかのようなことがずっと起きている。一つ一つ答えているが、さすがに疲れてきた悪霊は返事するのが面倒になっていた。
「それ以上、質問するな」
もううんざりだと言わんばかりの獣が唸るような低い声を出し、話しかけてくるのを止めさせた。でも、とまだ渋る少女に、集中させろと言い放ち、黒い影を追うことを再開する。
目の前を歩く黒い影が時々立ち止まり、後ろを見ている。今は影だけだが、実際に同じことをしていたとなると相当怪しい動きだっただろう。
今見えているものは追いかけている影だけだが、誰かに呼び止められたかのか、肩を跳ね上がらせている。声は聞こえずとも、動作からして声をかけた人物と話しているのだろう。後半になるにつれ、影の動きが荒々しくなっていく。その話しかけてきた人物から離れるように腕を大きく振りかぶり、走ってその場を後にした。
「近道なのは屋根の上か」
歩く速度を速めながら見失わないように道行く町人の間をすり抜け、影を追う。人にぶつかることは無いが、どうしても進行の邪魔になると判断したしょうは、屋根の上に飛び乗り、追いかけた。その身軽さに町歩く町民たちは目をかっぴらいて驚き、足を止めた。
(顔まで分かればいいんだがな)
「さすがのしょうでもそれは難しいんだね」
(昔はターゲットの顔を見て……)
走りから歩きへと変わった影を見ながら内側にいる少女と会話していると、途中で悪霊の動きが止まる。先程の言葉が、まるで昔からこんな追跡をしてきたかのような発言が自然と頭の中に浮かんだのだ。しばらくその場にとどまったが気のせいだと頭を横に振り、再開する。本当かどうかのことの確認のために時間を潰し、影を見失ってしまっては元も子もない。
(どうやら影を追う俺を追跡しているやつがいるようだ。気に留めていなかったが、少ししつこいな)
「どうするの?」
(当然、撒く)
しょうが影を追いけている中、誰かがしょうを追いかけてくる。一人で何もない空間に話しかけている姿を見て、怪しんだのだろう。婦人から離れた直後からついてきている。気配駄々洩れの追跡者に気づかないふりをしたまま、同じ路地裏に入り、一気に屋根の上に飛んで姿を眩ませた。死角となる場所に隠れたと同時に、悪霊を追っていた何者かが路地裏に勢いよく入り込んでくる。
「あれ? さっきまでここを通ってたのに」
見た目、内側にいる少女も同じくらいの年に見える女の子が下で、首を傾げて周りをキョロキョロと見ている。その姿を見たあと、悪霊はその場を後にした。
いまだ影は路地裏を歩いている。相変わらず後ろを見たりと、挙動不審に周りを見ていた。
しばらくすると、長屋がある一つの戸の前で影が止まった。あの夫人の家を出た時と同じように何度も確認し、その中に入っていく。いざ突撃しようと悪霊が近づくと、先程追跡をかわした女の子が近づいてきた。
「お兄さん、そこでなにしようとしてるの?」
ニコニコと笑いながら近づいてくる相手のほうを向き、やれやれと肩を竦めた。
「ここにいるであろう密通野郎に用があってな」
「え、密通?!」
悪霊が怪しい人物だと思ってついてきたら、浮気現場に向かっていたとは露程にも思っていなかったのだろう。大きな声で驚いていた。中からコソコソと話す声が悪霊の耳に届く。おそらく目の前の女の子の声で中にいる者がどうしようかと相談している所だった。
一度出た影は消えず、何度でも追いかけることは出来るが、もう一度同じことを繰り返したくない悪霊は強硬手段に出た。隣で女の子が何か言っているのを無視して戸を開けると、中肉中背の男が走って押し通ろうとしているところだった。戸の前にいる声が少年と少女と判断しての行動だろう。助走距離がもう少し長ければ押し通れたのだろうが、どっしりと構えた悪霊に当たった男は、ばねのように跳ね返され、戸とは反対側の壁に当たった。
「逃げたかったのだろうが、残念だったな」
遠慮なく入っていき、しりもちをついている男を担ぎ、喚いている浮気相手の女を無視して夫人のところへ向かう。
「は、離せってんだ!」
「自力で逃げてもいいぞ? 出来るものならなぁ」
その言葉を聞いた男は、俵担ぎされている腕の中で暴れ始めたが、悪霊の腕は岩のように固く、微動だにしなかった。驚きを隠せない男は、腕の中で暴れては静かになりを繰り返している。
「ほらほら、俺から逃げるんだろ? 抵抗してみろよ」
先程から進展のない様子を煽る悪霊。その顔はとても楽しそうに口角を歪ませている。その顔を見たものはいなかったのが幸いだ。
路地裏から大通りに出ると、町行く人たちが驚いて悪霊の方を二度見していた。少年が中肉中背の男を担いで、表情を変えることもなく歩いていることが信じられないのだろう。ここで身長を変えて驚かせてもいいが、後ろをついてきている女の子が騒いで五月蠅くなるのは安易に想像できたのでやめた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
薬膳茶寮・花橘のあやかし
秋澤えで
キャラ文芸
「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」
記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。
薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。
記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。
*************************
既に完結しているため順次投稿していきます。
【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚
乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。
二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。
しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。
生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。
それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。
これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる