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16話 浮気は昔からダメなようです
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髪色を確認するために一瞬だけ長くし、黒髪になっているを確認すると短くした。なんでもありな様子に、先程怒られたにもかかわらず興奮冷めやらぬようで、内側で少女がはしゃいでいる。
準備が出来た悪霊は道角から出て、怒りながらその場でずっと歩き回っている人物に近づいた。
「そこの方、お困りで?」
「誰よ、あなた」
不機嫌極まりない様子で振り返り、悪霊を睨む。その言葉には少しのとげが混ざっていた。これは少女では難しかっただろう。怒りで恐ろしくなった顔だけではなく、声までも震えあがってしまうほどだ。
「俺はしょう。背は小さいが、相談屋をしている。歩いていたところに、なにやら奥さんが困っているようだったから助けられればと思ってな」
「あなたが、相談屋? 冗談はそれくらいにしなさいよ」
鼻で笑い、あきらかに悪霊のことを下に見ていた。こんな子供が自分の悩みを解決できるわけがない、と。それには悪霊も気付いていたが、相手にしなかった。怒りや優越感、不満など、負となる感情を大きくすればするほど、それが美味くなるのを知っている。だからわざと下手に出ていた。
「信じられねぇのは認める。騙されたと思って、一度俺に打ち明けてみたらどうだ? それに、その悩み一人で解決できるのか?」
「何を知っているっていうんだい」
「とんでもなくデカい悩みだってことだけは分かるぞ」
ゆっくりと安心させるように微笑む目の前の悪霊を、怪しげに見ている。今のままでは変な子供としか見られていない。いきなり確信をつく言葉を言うのではなく、外堀から埋めて信用を勝ち取り、相談してもらう。その方法で行こうとしていた。
「聞き耳を立ててたわけではないのだが、偶然聞こえてしまってな。どうやら夫婦関係にいろいろとあるとのことだったが」
「ああ、そうだよ。なんでもあの馬鹿夫が密通しているみたいでね」
「それは難儀なことだな」
二度目のお悩み相談は浮気調査らしい。
いつの時代でもある浮気。男性も女性も夫婦という関係を持ったら、多少なりとも起きる可能性がある問題。現代ならば探偵に依頼して調査してもらうという手段があるが、しょうが二回だけこの町を歩いていたが、手代のような姿をしたものは見かけなかった。
「その夫はいつから密通を?」
「怪しいと感じるようになったのは、三日前からだね」
深く掘り下げ、少しずつ夫人から悩みを聞いていく。より深く聞き、より深く共感することで信頼を得られると悪霊は分かっていた。古来、女性は共感を求める人と長く話したいと思う性質がある。もちろんすべての女性に当てはまるものではないが、大概がそうである。それを悪霊は利用しようとしていた。
「なるほど。それでそんなに怒っているわけか」
「そうなのよ!」
悪霊が納得し、その理由に頷いていると、よほど嬉しかったのか先程よりも少し声が高くなる。
「奇怪だなんて思わないでほしいのだが、俺は少し特殊な目をしていてな。もし良ければだが、その夫を探そうか?」
「目でどうやって探すのさ?」
「浮かび上がった痕跡を追う」
黒髪黒目。町歩く人たちと何ら変わりないはずなのに、どこか変わっている雰囲気を出す目の前の少年に少しずつ魅かれていく夫人。
しばらく考えた後に信じてみようかなと目の前の女性が言う。その言葉を聞いた悪霊は目を細め、キラリと紅く、怪しく光らせた。これでもう夫人が疑うようなことはしてこないだろう。悪霊が変なことをしない限りは。
「まず、夫の持ち物を一つだけでもいい。見せてほしい」
「ああ、ちょっと待ってな」
手軽で分かりやすいものを持ってこようと家の中に入っていく。中からはその何かを探している音が響き、どこかにぶつかっている。言葉だけでもそうだったが、少しだけ気性が荒い女性のようだ。
「手ぬぐいだよ。火消しをやっているからね」
手ぬぐいを受け取り、畳んであるそれを横に広げて穴が開くほど凝視する。左から右へと目が行き来し、大雑把に証拠を探し、その後細かい所を注視していると、ある一つの場所で素早く動かしていたしょうの目が止まった。洗い残しではない黒いモヤ。悪霊しか見つけることが出来ない痕跡である。
「その密通相手を見つけたらどうしたい?」
手ぬぐいから視線を外し、モヤから出てきた黒い影が何かに見つからないように何度もその場で周りを確認し、こそこそと大通りに向かっていく様子を目で追いかけていた。
「ここに連れてきてくれな。その後はこっちで考えるよ」
「……了解した」
手ぬぐいを握りしめ、頷くと悪霊はその場を後にする。
(しばらくこのままだ。いいな?)
大通りに出て、内側にいる少女に心の中で会話をした。内側で会話をしたのは、先程から静かにしている刀を持った女の子にバレないようにだっだ。
「うん」と答える桃の同意を得た悪霊は、目の前で何度も後ろを振り返る男の影を追った。手ぬぐいと夫人から得た情報は少ない。だとしても、悪霊にとっては十分な証拠だった。このまま影を追ってついていけば、浮気男の居場所まで案内してくれるのだから。
準備が出来た悪霊は道角から出て、怒りながらその場でずっと歩き回っている人物に近づいた。
「そこの方、お困りで?」
「誰よ、あなた」
不機嫌極まりない様子で振り返り、悪霊を睨む。その言葉には少しのとげが混ざっていた。これは少女では難しかっただろう。怒りで恐ろしくなった顔だけではなく、声までも震えあがってしまうほどだ。
「俺はしょう。背は小さいが、相談屋をしている。歩いていたところに、なにやら奥さんが困っているようだったから助けられればと思ってな」
「あなたが、相談屋? 冗談はそれくらいにしなさいよ」
鼻で笑い、あきらかに悪霊のことを下に見ていた。こんな子供が自分の悩みを解決できるわけがない、と。それには悪霊も気付いていたが、相手にしなかった。怒りや優越感、不満など、負となる感情を大きくすればするほど、それが美味くなるのを知っている。だからわざと下手に出ていた。
「信じられねぇのは認める。騙されたと思って、一度俺に打ち明けてみたらどうだ? それに、その悩み一人で解決できるのか?」
「何を知っているっていうんだい」
「とんでもなくデカい悩みだってことだけは分かるぞ」
ゆっくりと安心させるように微笑む目の前の悪霊を、怪しげに見ている。今のままでは変な子供としか見られていない。いきなり確信をつく言葉を言うのではなく、外堀から埋めて信用を勝ち取り、相談してもらう。その方法で行こうとしていた。
「聞き耳を立ててたわけではないのだが、偶然聞こえてしまってな。どうやら夫婦関係にいろいろとあるとのことだったが」
「ああ、そうだよ。なんでもあの馬鹿夫が密通しているみたいでね」
「それは難儀なことだな」
二度目のお悩み相談は浮気調査らしい。
いつの時代でもある浮気。男性も女性も夫婦という関係を持ったら、多少なりとも起きる可能性がある問題。現代ならば探偵に依頼して調査してもらうという手段があるが、しょうが二回だけこの町を歩いていたが、手代のような姿をしたものは見かけなかった。
「その夫はいつから密通を?」
「怪しいと感じるようになったのは、三日前からだね」
深く掘り下げ、少しずつ夫人から悩みを聞いていく。より深く聞き、より深く共感することで信頼を得られると悪霊は分かっていた。古来、女性は共感を求める人と長く話したいと思う性質がある。もちろんすべての女性に当てはまるものではないが、大概がそうである。それを悪霊は利用しようとしていた。
「なるほど。それでそんなに怒っているわけか」
「そうなのよ!」
悪霊が納得し、その理由に頷いていると、よほど嬉しかったのか先程よりも少し声が高くなる。
「奇怪だなんて思わないでほしいのだが、俺は少し特殊な目をしていてな。もし良ければだが、その夫を探そうか?」
「目でどうやって探すのさ?」
「浮かび上がった痕跡を追う」
黒髪黒目。町歩く人たちと何ら変わりないはずなのに、どこか変わっている雰囲気を出す目の前の少年に少しずつ魅かれていく夫人。
しばらく考えた後に信じてみようかなと目の前の女性が言う。その言葉を聞いた悪霊は目を細め、キラリと紅く、怪しく光らせた。これでもう夫人が疑うようなことはしてこないだろう。悪霊が変なことをしない限りは。
「まず、夫の持ち物を一つだけでもいい。見せてほしい」
「ああ、ちょっと待ってな」
手軽で分かりやすいものを持ってこようと家の中に入っていく。中からはその何かを探している音が響き、どこかにぶつかっている。言葉だけでもそうだったが、少しだけ気性が荒い女性のようだ。
「手ぬぐいだよ。火消しをやっているからね」
手ぬぐいを受け取り、畳んであるそれを横に広げて穴が開くほど凝視する。左から右へと目が行き来し、大雑把に証拠を探し、その後細かい所を注視していると、ある一つの場所で素早く動かしていたしょうの目が止まった。洗い残しではない黒いモヤ。悪霊しか見つけることが出来ない痕跡である。
「その密通相手を見つけたらどうしたい?」
手ぬぐいから視線を外し、モヤから出てきた黒い影が何かに見つからないように何度もその場で周りを確認し、こそこそと大通りに向かっていく様子を目で追いかけていた。
「ここに連れてきてくれな。その後はこっちで考えるよ」
「……了解した」
手ぬぐいを握りしめ、頷くと悪霊はその場を後にする。
(しばらくこのままだ。いいな?)
大通りに出て、内側にいる少女に心の中で会話をした。内側で会話をしたのは、先程から静かにしている刀を持った女の子にバレないようにだっだ。
「うん」と答える桃の同意を得た悪霊は、目の前で何度も後ろを振り返る男の影を追った。手ぬぐいと夫人から得た情報は少ない。だとしても、悪霊にとっては十分な証拠だった。このまま影を追ってついていけば、浮気男の居場所まで案内してくれるのだから。
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