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15話 お悩み相談 開始
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「すごいのねぇ」
「えへへ」
完全に落ち着いた猫を見ながら目を丸くして驚いている。婦人に褒められた少女は頬を赤くしていた。悪霊が猫の首の根っこを掴まえながら、降りてきたところを見ているはずなのに婦人が言及していないことを不思議に思うしょうだった。
「はぁ、死にそうだ……」
外に出ている間、神聖な空気が悪霊の体を傷つけていた。彼はしばらく寝込むことになるだろう。期間はどれくらいか。それはまだ分からない。
「嗚呼、そうだ。寝る前に少しでも食っておかなくては」
少女と婦人が会話している間に影を薄く伸ばして繋げると、先程解決した悩みを取り込んで少女の中へと入れた。
「食事の時くらい神経をすり減らさずに思いっきり食いたいものだ」
薄暗い空間の中で、薄い色をした雲のような形をしているものが悪霊の手に乗っている。それを器用に丸めながら小さくしていき、丸薬の大きさになるまで丸めると一気に飲み込んだ。
喉に引っ掛かりはしたが無事呑みこめた後、舌を出し、不快そう顔を歪める。普段から味が濃ゆい悪霊や妖を食べているせいか、人の小さな悩みは無味無臭に近かった。
「ほんならよー」
婦人の最後の言葉は理解できなかった少女だったが、会話が終わったのか二人は別れた。
家を出ていきなりお悩み相談が出来たことに、少女は嬉しそうに微笑んでいる。鼻歌が聞こえてしまいそうなくらい軽い足取りで道を進む。
現代日本では娯楽が多くあり、なんでも選べて遊ぶことが出来たが、こちらの娯楽は何があるかまだ分からない。
少ないなりに少女は、小さい頃に創造して遊んでいたことを思い出し、懐かしくも温かい気持ちになっていた。
「嬉しそうだな」
心の中ではしゃいでいる少女とは違い、内側から眠たそうな声が響く。弱っているのか、先程の少量を食べただけで眠くなるのは、今までの悪霊にしては珍しことだった。普段ならもう少しと次を催促していたが、今回はそれがない。そのことを少女が心配する。
(もっといる?)
「まぁ、蓄えは必要だな」
欠伸を噛み締めながら気怠そうに答える。傷など目に見えるものは体についていないが、精神体である悪霊にとってその内側となるものが傷つけられては、なかなか治るのも遅くなる。その為に、多くの栄養が必要なのだ。
「自然に探せよ。あまりにも周りを見てると怪しまれるぞ」
注意され、少女は心の中で「うん」と答える。しばらくは見過ぎないようにしていたようだが、こういうことに慣れていない少女はすぐ周りを見始め、悪霊にため息をつかれながらまた注意されていた。
太陽が南を向いている。時刻は羊の刻。
少女が悪霊に頼らずに探そうと周りを見ていたが、なかなか見つけることは出来なかった。あの婦人のように目の前に悩みがあることは稀で、ほとんどの者が心の内に隠している。
世界は違っていても、多かろうが少なかろうがモヤは誰にでもある。
世の中悩みに気付ける人と気づけない人がいるが、少女は残念ながら見つけられなかった。ただ、少女の中には悪霊のしょうがいる。
本来、悩みと悪霊は違うものだが、同じ負の感情から出来ているものであることに変わりはない。それ故に、少女の目を通して周りを見ている彼には見分けることが出来るのだった。
(みつかりそう?)
「見つかったとしても、話しかけづらいだろ。いきなり悩みを打ち明けませんか? なんて聞かれたら変な人って認識されるぞ」
確かに、と少女は思いながら悪霊が指示する方へ行く。悪霊が言うには、大きい悩みを持っている人物がいるとのことだった。
その人物の所に向かうと、話しかけるのを躊躇してしまうほど怒っている。あまりにも恐ろしい形相で怒っているものだから、話しかけるのが怖くなってしまった少女は、必死な様子で入れ替わってほしいと悪霊に頼み込んでいる。
「霊に比べたら可愛いもんだろ」
(まだ幽霊の方がマシだよ……!)
眠いと愚痴を溢しながらも、入れ替わってくれた悪霊に感謝しつつ、内側から見守る桃。
しかししょうはすぐに向かわずに、辺りを軽く見渡して、誰もいないことを確認して、深く溜め息をついた。
するとどうだろうか、桃の体が少しずつ変化しはじめた。
本来の体の持ち主は、大きくなっていく自分の手や足元を見ながら「そんなこと出来るの!?」と内側で騒いでいる。
「あまり使わないがな。腹も減るし。あのガキンチョの時は変身しわすれたが、俺が話すんならこっちの方が違和感ねぇだろ?」
確かに桃の小柄でおっとりとした風体と、しょうの口の悪さのミスマッチさときたら、初対面には衝撃だろう。
さらに体だけでなく、服までも変化させることが出来るようだ。
これで何処からどうみても別人になっていく。
この状況を京言葉の男が見れば、何らかの干渉があるかもしれないと思っていたが、特にアクションはない。
人に危害を加えなければ問題ないということなのか?
変化し終わったしょう。
取り敢えず男の姿をイメージして変身したのだが、目線の高さ、手足の長さ、体の軽さといったものがしっくりきて、彼としてはかなり満足のいく変身だったようだ。
「ちょっとこれ、背高すぎない?」
「そうか? お前がちっこいからそう感じるんじゃねえか?」
そうは言ったものの、身長は六尺一寸……現代で言う187cmだ。
それに引き換えこの世界の住人は、昔の日本のような体型で、まずそんな高身長の人間は見当たらない。
しかも年老いている顔でもないのに白髪だ。
「これじゃ目立っちゃうよ……。相手がびっくりして相談どころじゃ無いんじゃないかなぁ」
珍しく普通に意見してくる。
それくらい違和感があると言うことなのだろう。
「仕方ねぇ、失敗して困るのは俺の方だしな」
しょうは愚痴ると、身長を低くして、髪も黒く変化させた。
「納得いかないが、こんなもんか」
眉間に皺を寄せ、ため息をついていた。内側からでは具体的な容姿は分からないが、目線が変わったことだけは少女でもわかるようだ。普段とは違う視点に興奮している。あまりにも興奮しすぎて、悪霊に怒られるのは言うまでもなかった。
「えへへ」
完全に落ち着いた猫を見ながら目を丸くして驚いている。婦人に褒められた少女は頬を赤くしていた。悪霊が猫の首の根っこを掴まえながら、降りてきたところを見ているはずなのに婦人が言及していないことを不思議に思うしょうだった。
「はぁ、死にそうだ……」
外に出ている間、神聖な空気が悪霊の体を傷つけていた。彼はしばらく寝込むことになるだろう。期間はどれくらいか。それはまだ分からない。
「嗚呼、そうだ。寝る前に少しでも食っておかなくては」
少女と婦人が会話している間に影を薄く伸ばして繋げると、先程解決した悩みを取り込んで少女の中へと入れた。
「食事の時くらい神経をすり減らさずに思いっきり食いたいものだ」
薄暗い空間の中で、薄い色をした雲のような形をしているものが悪霊の手に乗っている。それを器用に丸めながら小さくしていき、丸薬の大きさになるまで丸めると一気に飲み込んだ。
喉に引っ掛かりはしたが無事呑みこめた後、舌を出し、不快そう顔を歪める。普段から味が濃ゆい悪霊や妖を食べているせいか、人の小さな悩みは無味無臭に近かった。
「ほんならよー」
婦人の最後の言葉は理解できなかった少女だったが、会話が終わったのか二人は別れた。
家を出ていきなりお悩み相談が出来たことに、少女は嬉しそうに微笑んでいる。鼻歌が聞こえてしまいそうなくらい軽い足取りで道を進む。
現代日本では娯楽が多くあり、なんでも選べて遊ぶことが出来たが、こちらの娯楽は何があるかまだ分からない。
少ないなりに少女は、小さい頃に創造して遊んでいたことを思い出し、懐かしくも温かい気持ちになっていた。
「嬉しそうだな」
心の中ではしゃいでいる少女とは違い、内側から眠たそうな声が響く。弱っているのか、先程の少量を食べただけで眠くなるのは、今までの悪霊にしては珍しことだった。普段ならもう少しと次を催促していたが、今回はそれがない。そのことを少女が心配する。
(もっといる?)
「まぁ、蓄えは必要だな」
欠伸を噛み締めながら気怠そうに答える。傷など目に見えるものは体についていないが、精神体である悪霊にとってその内側となるものが傷つけられては、なかなか治るのも遅くなる。その為に、多くの栄養が必要なのだ。
「自然に探せよ。あまりにも周りを見てると怪しまれるぞ」
注意され、少女は心の中で「うん」と答える。しばらくは見過ぎないようにしていたようだが、こういうことに慣れていない少女はすぐ周りを見始め、悪霊にため息をつかれながらまた注意されていた。
太陽が南を向いている。時刻は羊の刻。
少女が悪霊に頼らずに探そうと周りを見ていたが、なかなか見つけることは出来なかった。あの婦人のように目の前に悩みがあることは稀で、ほとんどの者が心の内に隠している。
世界は違っていても、多かろうが少なかろうがモヤは誰にでもある。
世の中悩みに気付ける人と気づけない人がいるが、少女は残念ながら見つけられなかった。ただ、少女の中には悪霊のしょうがいる。
本来、悩みと悪霊は違うものだが、同じ負の感情から出来ているものであることに変わりはない。それ故に、少女の目を通して周りを見ている彼には見分けることが出来るのだった。
(みつかりそう?)
「見つかったとしても、話しかけづらいだろ。いきなり悩みを打ち明けませんか? なんて聞かれたら変な人って認識されるぞ」
確かに、と少女は思いながら悪霊が指示する方へ行く。悪霊が言うには、大きい悩みを持っている人物がいるとのことだった。
その人物の所に向かうと、話しかけるのを躊躇してしまうほど怒っている。あまりにも恐ろしい形相で怒っているものだから、話しかけるのが怖くなってしまった少女は、必死な様子で入れ替わってほしいと悪霊に頼み込んでいる。
「霊に比べたら可愛いもんだろ」
(まだ幽霊の方がマシだよ……!)
眠いと愚痴を溢しながらも、入れ替わってくれた悪霊に感謝しつつ、内側から見守る桃。
しかししょうはすぐに向かわずに、辺りを軽く見渡して、誰もいないことを確認して、深く溜め息をついた。
するとどうだろうか、桃の体が少しずつ変化しはじめた。
本来の体の持ち主は、大きくなっていく自分の手や足元を見ながら「そんなこと出来るの!?」と内側で騒いでいる。
「あまり使わないがな。腹も減るし。あのガキンチョの時は変身しわすれたが、俺が話すんならこっちの方が違和感ねぇだろ?」
確かに桃の小柄でおっとりとした風体と、しょうの口の悪さのミスマッチさときたら、初対面には衝撃だろう。
さらに体だけでなく、服までも変化させることが出来るようだ。
これで何処からどうみても別人になっていく。
この状況を京言葉の男が見れば、何らかの干渉があるかもしれないと思っていたが、特にアクションはない。
人に危害を加えなければ問題ないということなのか?
変化し終わったしょう。
取り敢えず男の姿をイメージして変身したのだが、目線の高さ、手足の長さ、体の軽さといったものがしっくりきて、彼としてはかなり満足のいく変身だったようだ。
「ちょっとこれ、背高すぎない?」
「そうか? お前がちっこいからそう感じるんじゃねえか?」
そうは言ったものの、身長は六尺一寸……現代で言う187cmだ。
それに引き換えこの世界の住人は、昔の日本のような体型で、まずそんな高身長の人間は見当たらない。
しかも年老いている顔でもないのに白髪だ。
「これじゃ目立っちゃうよ……。相手がびっくりして相談どころじゃ無いんじゃないかなぁ」
珍しく普通に意見してくる。
それくらい違和感があると言うことなのだろう。
「仕方ねぇ、失敗して困るのは俺の方だしな」
しょうは愚痴ると、身長を低くして、髪も黒く変化させた。
「納得いかないが、こんなもんか」
眉間に皺を寄せ、ため息をついていた。内側からでは具体的な容姿は分からないが、目線が変わったことだけは少女でもわかるようだ。普段とは違う視点に興奮している。あまりにも興奮しすぎて、悪霊に怒られるのは言うまでもなかった。
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