憑かれ少女と悪霊は神隠しで異世界日本にきてしまったようです

yasaca

文字の大きさ
上 下
15 / 27

15話 お悩み相談 開始

しおりを挟む
「すごいのねぇ」
「えへへ」

 完全に落ち着いた猫を見ながら目を丸くして驚いている。婦人に褒められた少女は頬を赤くしていた。悪霊が猫の首の根っこを掴まえながら、降りてきたところを見ているはずなのに婦人が言及していないことを不思議に思うしょうだった。

「はぁ、死にそうだ……」

 外に出ている間、神聖な空気が悪霊の体を傷つけていた。彼はしばらく寝込むことになるだろう。期間はどれくらいか。それはまだ分からない。

「嗚呼、そうだ。寝る前に少しでも食っておかなくては」

 少女と婦人が会話している間に影を薄く伸ばして繋げると、先程解決した悩みを取り込んで少女の中へと入れた。

「食事の時くらい神経をすり減らさずに思いっきり食いたいものだ」

 薄暗い空間の中で、薄い色をした雲のような形をしているものが悪霊の手に乗っている。それを器用に丸めながら小さくしていき、丸薬の大きさになるまで丸めると一気に飲み込んだ。
 喉に引っ掛かりはしたが無事呑みこめた後、舌を出し、不快そう顔を歪める。普段から味が濃ゆい悪霊や妖を食べているせいか、人の小さな悩みは無味無臭に近かった。

ほんならよーさよなら

 婦人の最後の言葉は理解できなかった少女だったが、会話が終わったのか二人は別れた。
 家を出ていきなりお悩み相談が出来たことに、少女は嬉しそうに微笑んでいる。鼻歌が聞こえてしまいそうなくらい軽い足取りで道を進む。
 
 現代日本では娯楽が多くあり、なんでも選べて遊ぶことが出来たが、こちらの娯楽は何があるかまだ分からない。
 少ないなりに少女は、小さい頃に創造して遊んでいたことを思い出し、懐かしくも温かい気持ちになっていた。

「嬉しそうだな」

 心の中ではしゃいでいる少女とは違い、内側から眠たそうな声が響く。弱っているのか、先程の少量を食べただけで眠くなるのは、今までの悪霊にしては珍しことだった。普段ならもう少しと次を催促していたが、今回はそれがない。そのことを少女が心配する。

(もっといる?)
「まぁ、蓄えは必要だな」

 欠伸を噛み締めながら気怠そうに答える。傷など目に見えるものは体についていないが、精神体である悪霊にとってその内側となるものが傷つけられては、なかなか治るのも遅くなる。その為に、多くの栄養なやみが必要なのだ。

「自然に探せよ。あまりにも周りを見てると怪しまれるぞ」

 注意され、少女は心の中で「うん」と答える。しばらくは見過ぎないようにしていたようだが、こういうことに慣れていない少女はすぐ周りを見始め、悪霊にため息をつかれながらまた注意されていた。


 太陽が南を向いている。時刻は羊の刻。

 少女が悪霊に頼らずに探そうと周りを見ていたが、なかなか見つけることは出来なかった。あの婦人のように目の前に悩みがあることは稀で、ほとんどの者が心の内に隠している。
 
 世界は違っていても、多かろうが少なかろうがモヤは誰にでもある。
 世の中悩みに気付ける人と気づけない人がいるが、少女は残念ながら見つけられなかった。ただ、少女の中には悪霊のしょうがいる。
 
 本来、悩みと悪霊は違うものだが、同じ負の感情から出来ているものであることに変わりはない。それ故に、少女の目を通して周りを見ている彼には見分けることが出来るのだった。

(みつかりそう?)
「見つかったとしても、話しかけづらいだろ。いきなり悩みを打ち明けませんか? なんて聞かれたら変な人って認識されるぞ」

 確かに、と少女は思いながら悪霊が指示する方へ行く。悪霊が言うには、大きい悩みを持っている人物がいるとのことだった。
 その人物の所に向かうと、話しかけるのを躊躇ちゅうちょしてしまうほど怒っている。あまりにも恐ろしい形相で怒っているものだから、話しかけるのが怖くなってしまった少女は、必死な様子で入れ替わってほしいと悪霊に頼み込んでいる。

「霊に比べたら可愛いもんだろ」
(まだ幽霊の方がマシだよ……!)

 眠いと愚痴を溢しながらも、入れ替わってくれた悪霊に感謝しつつ、内側から見守る桃。
 しかししょうはすぐに向かわずに、辺りを軽く見渡して、誰もいないことを確認して、深く溜め息をついた。
 するとどうだろうか、桃の体が少しずつ変化しはじめた。
 本来の体の持ち主は、大きくなっていく自分の手や足元を見ながら「そんなこと出来るの!?」と内側で騒いでいる。

「あまり使わないがな。腹も減るし。あのガキンチョの時は変身しわすれたが、俺が話すんならこっちの方が違和感ねぇだろ?」

 確かに桃の小柄でおっとりとした風体と、しょうの口の悪さのミスマッチさときたら、初対面には衝撃だろう。

 さらに体だけでなく、服までも変化させることが出来るようだ。
 これで何処からどうみても別人になっていく。

 この状況を京言葉の男が見れば、何らかの干渉があるかもしれないと思っていたが、特にアクションはない。
 人に危害を加えなければ問題ないということなのか?

 変化し終わったしょう。
 取り敢えず男の姿をイメージして変身したのだが、目線の高さ、手足の長さ、体の軽さといったものがしっくりきて、彼としてはかなり満足のいく変身だったようだ。

「ちょっとこれ、背高すぎない?」
「そうか? お前がちっこいからそう感じるんじゃねえか?」

 そうは言ったものの、身長は六尺一寸……現代で言う187cmだ。
 それに引き換えこの世界の住人は、昔の日本のような体型で、まずそんな高身長の人間は見当たらない。
 しかも年老いている顔でもないのに白髪だ。

「これじゃ目立っちゃうよ……。相手がびっくりして相談どころじゃ無いんじゃないかなぁ」

 珍しく普通に意見してくる。
 それくらい違和感があると言うことなのだろう。

「仕方ねぇ、失敗して困るのは俺の方だしな」

 しょうは愚痴ると、身長を低くして、髪も黒く変化させた。

「納得いかないが、こんなもんか」

 眉間に皺を寄せ、ため息をついていた。内側からでは具体的な容姿は分からないが、目線が変わったことだけは少女でもわかるようだ。普段とは違う視点に興奮している。あまりにも興奮しすぎて、悪霊に怒られるのは言うまでもなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

薬膳茶寮・花橘のあやかし

秋澤えで
キャラ文芸
 「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」  記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。  薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。  記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。 ************************* 既に完結しているため順次投稿していきます。

【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。 二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。 しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。 生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。 それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。 これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

処理中です...