憑かれ少女と悪霊は神隠しで異世界日本にきてしまったようです

yasaca

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9話 痴話喧嘩?

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 悪霊が先頭を歩き、環が後ろをついていっている。
 目的の場所に淡々と進んで向かう悪霊に、環から話しかけることも悪霊から話すこともない。
 そんな静かな時間が刻々と過ぎていく。
 
 それから時間が進み、あの少年と出会った裏路地に足を踏み入れた瞬間、悪霊目掛けて何かが落ちてくる。
 それは明確な敵意だった。
 しょうが体を横にずらすと、その凶刃は地面を穿つほどの衝撃で着地し、それを手にする相手も目だけをこちらに向けて睨んでくる。

「避けんな!」
「何者だ、てめぇ」

 余裕そうな動きで落下物を避けた悪霊は、目を吊り上げ睨む。地面を少しだけ抉るその衝撃で体の主導権が自分にあったから良いものの、桃では当然避ける事は出来なかっただろう。
 しょうは目を吊り上げ、襲撃者を睨んだ。

 音を立てて着地したのは男だ。環と悪霊がいる場所は家と家の間。暗闇とまではいかないが、薄暗い場所にいる。男がいる背の方に太陽があり、顔は逆光で見えなかった。

はじめ!」

 環が叱るように言った言葉は、顔が見えない男の名前だろう。短刀を悪霊に突きつけている。向けられた悪霊は、ひっそりと口角を上げて笑っていた。叱られて環の方を見ている男と環は気づいていない。

「姐さん! こいつは危険です! 今すぐ離れてください!」
「何言ってるの! 今道案内をしてくれていただけだよ!」

 悪霊を前後で挟みながら口喧嘩をしている。その声は案外大きく、町行く者たちが驚いた目で路地裏の様子を伺っていた。
 悪霊のしょうが憑りついているとはいっても、それで少女の身長が変わるわけではない。宿主の体は男と環の間にすっぽりとハマるくらいの大きさだ。

 最初は面白そうに頭上で繰り広げられる口喧嘩を見ていたが、両方から聞こえる声の大きさで耳が痛くなってきたのか、離れて壁に寄りかかりながら聞いていた。

「おい、いつまで痴話喧嘩をしているつもりだ?」

 終わりそうにない喧嘩を、悪霊は疲れた顔をしながら静止をかけた。その悪霊の突っ込みに、二人が同時に言い返す。
 迫力ある言い方にしょうは恐れず、片方の手を袴のポケットに突っ込み、表通りを指差した。
 そこには人だかりが出来ている。

「あんなに集まるまで喧嘩しといてか?」

 人だかりを見た二人はそれぞれの反応をした。一は舌打ちしながら近くにあった空箱を蹴り、環は集まった人たちに、「ただの口喧嘩ですので、ご安心ください」と言いながら頭を下げている。
 危ないことにはならずに済んだと安心したのか、町人たちはそれぞれ行こうとしていた方向へと離れていった。

「てめぇのせいだからな!」
「俺が何したというんだ?」

 悪霊は、ただ環を目的の場所に連れてきただけである。そこに喧嘩を吹っかけたのは一だった。
 その口の利き方にまた環が叱り、それに若い男が反論する。同じことを繰り返しそうな雰囲気に呆れた悪霊は、その場から離れ、目的である子供を探した。
 
「まぁ、ずっとここには居ないわな」

 しょうは踵を返すと、表通りに戻る。

「となると……こっちか」

 土地勘も無い筈なのに、しょうは迷わず人混みの中を進んでいく。まるで女の霊の記憶を見てその道を辿っているかのように。

「待ちやがれ!」

 後ろからものすごい勢いで近づいてくる一をしょうは無視し、周りを見渡しながら探す。
 一を避けるように早足で歩いていると、女の霊が憑りついていた時のような恐怖感は薄れ、年相応の元気な雰囲気をまとった子供を見つけた。その方へ向かおうと足を向けると、追い付いた男が前を塞ぐ。

「しつこい男だな……」
「お前! 悪霊喰ってたろ!」

 その一言で周りがざわつき始めた。
 この町に霊がいることに町人達が驚いていたが、それよりも視線の中心にいる少女が霊を食べたという話に、驚きを隠せないでいる。
 しょうは、謂れの無い言い掛かりを付けられていると言わんばかりに、不快そうに眉を潜めて「意味がわからない」と首を横に振った。

「悪霊同士はな奪い合いすんのが世の常なんだよ」
「そうなのか? 初めて知ったのだが」

 こちらを非難する言葉がいつの間にかただの悪口に変わってきており、はじめからこれ以上の情報は引き出せないと悟ったしょう。悪霊と少女がここについてまだ三日目。ここの常識などは全くと言っていいほど知らない悪霊は、会話の中で学んでいこうとしていた。それに、目の前の人物は口が軽そうに見える。この男からバレないように情報を聞き出していけば、ある程度のことは分かるのではないか、と。
 
 喚く一を見ないように、少し離れた場所でおろおろしていた少年は。

「おねぇちゃん……?」

と心配そうに声をかけた。

「よう。今ちょっと性格が変わっちゃいるが、同じ人物であることに変わりはねぇから」

 子供ながらも、目の前でしゃがんだ少女の雰囲気が会った時とは変わっているを感じたのか、体を縮こませながら悪霊の顔を恐る恐る見ている。
 警戒されたままだと会話も出来ないと考えた悪霊は、安心させようと少しだけ強く頭を撫でた。
 それに警戒をすこしだけ解き、ここに何故いるのかを聞いてくる。

 その後ろでいつまでも喚き散らしているはじめを環が羽交い締めにしてた。
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