憑かれ少女と悪霊は神隠しで異世界日本にきてしまったようです

yasaca

文字の大きさ
上 下
6 / 27

6話 この場所はどんなところ?

しおりを挟む
「環さん、私外歩いてきてもいいですか?」
「いいよ。でも、遠くに行き過ぎないように気を付けてね」

 朝食を食べ終わった後、片づけをしている時に内側から聞かれた内容をそのまま彼女に話すと、注意と一緒に返事が来る。
 
 悪霊がこの世界について知るのも1つの目的だが、実を言うと腹が空いていたのだった。少女から食べるものを分けてもらっていたが、あれは栄養にはならなかった。見せかけのもの。本当の食事は人の肝か、同族の魂。その二つだ。ここでその二つを得ることは難しいだろう。だから、散歩ついでに困っているものを助けるふりをして、その悩みを喰おうとしていた。

「それじゃ行ってきます」
「気を付けてね」

 環が火打石を少女に向ける。それが何なのか分からなかった桃は環に聞こうとしたが、悪霊に止められた。同じ日本の出だとしても、時代が違うことがバレる可能性があるから、今は何も言わずに受け入れろ、と。後で俺から説明すると言われて、納得した少女は環に感謝を伝えると、その場を後にした。

「現代では見なくなった火打石だな」
「私に火を付けようとしてたの?」
「ちげぇよ。厄を寄せ付けない為のまじないだ。お前らが神社で厄除けのお守りを買うように、ああやって石を擦って火種を起こすことで縁起が悪いものを寄せ付けないようにしてんだ」
「へぇ」

 このことを含めて考えてみると、大まかな時代の推測できた。火打石が初めて登場したのは、日本最古の歴史書に載っている古事記だ。奈良時代のものである。そこから明治まで残っていた。そこからライターが出てきて、今では火打石をしている者はごく少数だ。

「少なくともここは、時代的に古墳から明治初期の間だな」
「随分広いね」
「それだけ日本人と厄除けは昔から親密だってことだ。それに、あの女が自分が持っている刀を討猟刀だと言っていた。そんな刀はない。古来の刀匠は必ず銘付けをするのが普通なんだが、あいつが俺に教えてくれたのは総称だ。銘ではなかった」

 悪霊の唸る声が響く。説明してもらっていたが、少女の頭ではついていけなかった。
 理由を聞くと、大きなため息と共に呆れ声が聞こえてくる。
 現代に戻った後、勉強付けに少女はなるだろう。

「銘付けは大宝律令が制定され、平安末期に一般化し始めた時だ。そうなると、ここは古墳時代から奈良時代以降の日本ということになるのだが、周りを見ると長屋と呼ばれるものがある」
「えっと……?」

 悪霊の呟く言葉に、少女の脳の狭量が限界に達したのか、煙が出ている。
 それを無視し、しょうは考察を続けていた。
 内側で呟く悪霊の言葉を一切理解できない少女は、諦めて周りを見ながら歩き始めている。

「そういえば、制定された後にも無銘刀なんてのも何振りか出ているんだったか? だが、それだとここがいつの時代か分からん」
「江戸とかじゃないの?」
「江戸……」

 今分かっていることを悪霊は脳内でまとめ始めた。
 火打石は奈良から明治。刀を所持していた時代は、古墳から明治維新の時まで。
 ここがもし、日本と同じ道を辿っているならばその中にヒントはある。合わせた時代からどこかを探ればいいのだから。

「もう少し判断材料が欲しいところだな」

 しょうが放った言葉に一旦考えが煮詰まったのを感じた桃は、先ほど疑問に思ったがタイミングを逃してしまった質問をしてみた。

「そういえば銘って、なんなの?」
「名前だ……何のとか聞くなよ」

 言葉通り聞きかけた桃は釘を刺された形。行動が読まれている事に少し歯痒い気持ちになったが、そう言いながらも説明してくれるのだろうとわかっていたため、続きを催促するように耳を傾ける。
 しょうもまた行動を読まれており、気持ち悪かったがお互いを理解している証なのだと、微笑ましさすら感じる。

「ったく。分かりやすくお前にもっと分かりやすく説明するとだなぁ……。有名な刀と言えば妖刀『村正』と『正宗』だ。聞いたことあるな?」
「村正の方は聞いたことある!」

 知っている言葉が出てきた興奮しているが、悪霊はそれどころではなかった。
 そのことを無視し、説明を続ける。

「今言ったように刀には名が残る。だが、やつの刀には名が無かった。全体の名を教えられたんだ」
「……えっと名がないから日本じゃないってこと?」
「日本ではないが、ここは確かに日本だ。そもそも、一般人が悪霊退治なんかするか。それは住職や陰陽師、祈祷師の役目だ」
「確かに!」

 思いもしなかったという少女に呆れている。 
 少女の目を通し、周りを見ているが、歴史書や歴史の教科書で見た画像とまったく同じ場面に、一瞬過去へ行ったのかと錯覚してしまう。
 時折見る異形のモノがいなければ、そのまま信じていただろう。

 やはり異世界に飛ばされてしまったのだなと悪霊は考えた。
 そうなると、自分たちを神隠しに遭わせた張本人を探すことになる。途方もなく長いものになるだろう。
 悪霊自体はこのことを楽しんではいるが、宿主である少女は耐えられるかどうか。

「嗚呼、腹が減った……」

 内側で一人呟く。その声は外を歩く人、宿主の少女にも聞こえないほど小さい声だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

薬膳茶寮・花橘のあやかし

秋澤えで
キャラ文芸
 「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」  記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。  薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。  記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。 ************************* 既に完結しているため順次投稿していきます。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。 二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。 しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。 生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。 それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。 これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...