79 / 80
5章
78話 くだらない理由
しおりを挟む
「もう少しでいろいろと聞き出せそうだったのに」
「すまんな」
ただの死体となった盗賊を見ながらヘイリーは私に対し、不満そうに口を開いた。飛び散った血や肉塊が自分の靴やズボンに付いている。別に汚いなどは思わないが、不快な気分で満たされている。
「でもなんで急に?」
「……いろいろとな」
腹が立ったから殺しただなんて死んでも言えん。
どうしても信じられなかった。エルフが何故弱い立場にいるのか。本気を出せば人間など一瞬で終わらせるほどの実力を持っているというのに。それとも、この世界は人間の方が強いのだろうか。
全員が全員エルフを下に見ているということは無いだろう。ただ、うっすらとそう感じさせるものがある。
一定数何かを下に見るやつらはいる。私がいた世界でもいた。そして、その中で少数が行動を起こす。自分たちこそが正義だと信じる者達が。
胸糞悪いと思っているが、私も他人から見ればその中の一人なのかもしれない。モンスターや人を殺しまくっている。それが世の中の為だと信じて。
私がいた世界で、この世界のようにモンスターによる人的被害は出ていない。
だから、事情を知らない者は私を非難するだろう。モンスターにも家族がいると言って。そんなこと知るかと言ってやりたいが、その人たちもブリティッシュだ。国境を死守しなければいとも簡単に死ぬ。
ただ、それに対する報酬はない。
「これ、どうする?」
「……隠す。特に私が倒した奴らは」
私の近くに倒れている者はナイフで斬られた死体と違い、証拠がわかりやすい。この世界の住人が銃を知らずとも、私がしたとわかってしまうだろう。燃やしたら森が焼けてしまう可能性がある。
だから、埋める。掘ってもすぐ見えないところに。
「アレシア達が起きる前に埋めておこう」
「……うん」
「気分悪いか?」
「……ちょっとね」
目が泳いでいる。それはそうだろう。尋問するはずの者をいきなり私が銃で殺したのだ。動揺するはずだ。
気にせず先に穴を掘っていたら、ヘイリーが目を瞑り、俯いている姿が視界に見え、その後、自分自身の頬を叩いていた。
「……アーロ、もう一度聞くよ。尋問するはずだった者をなんで急に殺したの? 言いにくいのかもしれないけれど聞きたい」
「……下らない理由だ」
「アーロ」
穴を掘りながら話すも、ヘイリーの真剣な声に私は途中で手が止め、彼女を見る。ヘイリーが真っ直ぐに目を向けて見てくる。私はその視線から外れるように目線を下に下げた。
真剣な眼差しは本当に苦手だ。特に女性からのは。
私が話題を逸らしたとしてもヘイリーは聞いてくるだろう。長くなればなるほど言いづらくなるが、仕方ない。
「……本当に下らない理由だぞ」
「それでも聞きたい」
口を開くのに勇気がいる。
「……想い人がいると言ったろ? その人がエルフなんだ。私はエルフの力がどれほどか知っているからこそ、この世界のエルフが下に見られているのかが分からなかった。それが気に入らなかったんだよ」
「……そっか」
「下らない理由だろ? ムカついたから殺しただなんて」
自分でもどうかしていると思う。思春期ぐらいの子供ならまだしも、いい大人がムカついたからっていう理由で、殺人をする。
いったいどうしてしまったのだろうか、私は。
何になろうとしているのだろうか。
わからない。
この世界に来てから、躊躇はするものの、自制心が無くなってきている。
とにかく穴を掘って死体を埋めよう。自分の今感じている思いと一緒に。そうすれば少しだけ楽になれるかもしれない。
「アーロ、こっちは終わったよ」
「こちらもだ」
全て埋め終わったな。後は服と靴の汚れを落とさなければ。
「情報は集められなかったけど、アーロは人だったんだなって分かって良かった」
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。ずっと人形みたいだって思ってたから」
「自分でいうのもなんだが、結構人らしいことをしていたと思ってたんだが」
悩んだり、翻弄されたりとかしていたはずだが、それは自分の感情か。行動ではヘイリーを雪山で埋もれた時に蘇生をしたり、アイスベアーを倒すために協力したりな。
「戻るか」
「ほっとしたら眠気が来ちゃった」
私の前を歩きながら欠伸をするヘイリー。その姿を見ていると私まで眠たくなってくるが、朝までの残り時間、他に盗賊が来ないとも限らないから警戒しておかなくては。
「すまんな」
ただの死体となった盗賊を見ながらヘイリーは私に対し、不満そうに口を開いた。飛び散った血や肉塊が自分の靴やズボンに付いている。別に汚いなどは思わないが、不快な気分で満たされている。
「でもなんで急に?」
「……いろいろとな」
腹が立ったから殺しただなんて死んでも言えん。
どうしても信じられなかった。エルフが何故弱い立場にいるのか。本気を出せば人間など一瞬で終わらせるほどの実力を持っているというのに。それとも、この世界は人間の方が強いのだろうか。
全員が全員エルフを下に見ているということは無いだろう。ただ、うっすらとそう感じさせるものがある。
一定数何かを下に見るやつらはいる。私がいた世界でもいた。そして、その中で少数が行動を起こす。自分たちこそが正義だと信じる者達が。
胸糞悪いと思っているが、私も他人から見ればその中の一人なのかもしれない。モンスターや人を殺しまくっている。それが世の中の為だと信じて。
私がいた世界で、この世界のようにモンスターによる人的被害は出ていない。
だから、事情を知らない者は私を非難するだろう。モンスターにも家族がいると言って。そんなこと知るかと言ってやりたいが、その人たちもブリティッシュだ。国境を死守しなければいとも簡単に死ぬ。
ただ、それに対する報酬はない。
「これ、どうする?」
「……隠す。特に私が倒した奴らは」
私の近くに倒れている者はナイフで斬られた死体と違い、証拠がわかりやすい。この世界の住人が銃を知らずとも、私がしたとわかってしまうだろう。燃やしたら森が焼けてしまう可能性がある。
だから、埋める。掘ってもすぐ見えないところに。
「アレシア達が起きる前に埋めておこう」
「……うん」
「気分悪いか?」
「……ちょっとね」
目が泳いでいる。それはそうだろう。尋問するはずの者をいきなり私が銃で殺したのだ。動揺するはずだ。
気にせず先に穴を掘っていたら、ヘイリーが目を瞑り、俯いている姿が視界に見え、その後、自分自身の頬を叩いていた。
「……アーロ、もう一度聞くよ。尋問するはずだった者をなんで急に殺したの? 言いにくいのかもしれないけれど聞きたい」
「……下らない理由だ」
「アーロ」
穴を掘りながら話すも、ヘイリーの真剣な声に私は途中で手が止め、彼女を見る。ヘイリーが真っ直ぐに目を向けて見てくる。私はその視線から外れるように目線を下に下げた。
真剣な眼差しは本当に苦手だ。特に女性からのは。
私が話題を逸らしたとしてもヘイリーは聞いてくるだろう。長くなればなるほど言いづらくなるが、仕方ない。
「……本当に下らない理由だぞ」
「それでも聞きたい」
口を開くのに勇気がいる。
「……想い人がいると言ったろ? その人がエルフなんだ。私はエルフの力がどれほどか知っているからこそ、この世界のエルフが下に見られているのかが分からなかった。それが気に入らなかったんだよ」
「……そっか」
「下らない理由だろ? ムカついたから殺しただなんて」
自分でもどうかしていると思う。思春期ぐらいの子供ならまだしも、いい大人がムカついたからっていう理由で、殺人をする。
いったいどうしてしまったのだろうか、私は。
何になろうとしているのだろうか。
わからない。
この世界に来てから、躊躇はするものの、自制心が無くなってきている。
とにかく穴を掘って死体を埋めよう。自分の今感じている思いと一緒に。そうすれば少しだけ楽になれるかもしれない。
「アーロ、こっちは終わったよ」
「こちらもだ」
全て埋め終わったな。後は服と靴の汚れを落とさなければ。
「情報は集められなかったけど、アーロは人だったんだなって分かって良かった」
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。ずっと人形みたいだって思ってたから」
「自分でいうのもなんだが、結構人らしいことをしていたと思ってたんだが」
悩んだり、翻弄されたりとかしていたはずだが、それは自分の感情か。行動ではヘイリーを雪山で埋もれた時に蘇生をしたり、アイスベアーを倒すために協力したりな。
「戻るか」
「ほっとしたら眠気が来ちゃった」
私の前を歩きながら欠伸をするヘイリー。その姿を見ていると私まで眠たくなってくるが、朝までの残り時間、他に盗賊が来ないとも限らないから警戒しておかなくては。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる