上 下
74 / 80
5章

73話 水浴び

しおりを挟む
 ひもを持ったままアレシアが持つのを待っているが、いつまでたっても手に取らない。どうしたものか。修行だといって持たせるか? 

「うっ」
「いつかは慣れないといけないことだからな」
「はい……」

 鼻を抑えながら恐る恐るひもを手にし、持ち上げようとしたがびくともしていなかった。片手で持てるほどブルは軽くない。諦めて両手で持ち上げようとしていたが、変わらずだ。まさか槍以上のものは持てないとかではないだろうな。
 思い返してみると初めて会った時も荷物が少なかったような。

「……まずは体を鍛えるのが先だな」
「すみません」

 ブルを持ってヘイリーたちのところに戻るか。アレシアを鍛えることに関しては、後々で構わないだろう。

 問題はエルフの子供達だ。あの二人を元の場所に連れて帰らなければならない。ただ、依頼を受けて何日もギルドに帰らないとなると怪しまれる可能性も出てくる。何か別の理由を作るか? モンスターに襲われたとか。
 いや、それは無理だな。私とアレシア、シルフだけならできることかもしれないが、今はヘイリーがいる。彼女が苦戦するほどのモンスターがそうそう出ることはない。

「戻ったぞ」
「うっ」

 エルフの女の子が鼻を抑えて倒れた。臭いがきつすぎたか? 確か初めてアレシアと会った時も倒れていたような。ヘイリーは鼻を抑えるだけで気絶はしていないが、嫌そうにしている。

「そんなに臭うか?」
「うん、臭い」
「今までは?」
「今まではなかったけど、ここに来た途端だね」

 ここに来た瞬間臭ったというのは危ないかもしれない。仕方ない。水浴びでもするか。ここから少し離れた場所に移動してブルから弾を抜いた後、捌く。焚火の準備はヘイリーとアレシアに任せよう。私一人でやらなくてもいい。アレシアは慣れていなくてもヘイリーが慣れているはずだから。

「どこ行くの?」
「肉をさばいてくる。そのあと水浴びしてくるから遅れる」
「じゃあ、捌いたの持っていくね」
「ああ」

 シルフが大きい姿になって私の後をついてくる。持っていくと言っていたし、最後までいないよな?

「慣れてるね」
「同じことの繰り返しだからな」

 ブルの頭の中に残っている弾を取り出し、毒となる肝と皮部分を取り除いていく。今回は頭も取り除いたほうがいいかもしれないな。弾のかけらがないとは言い切れないからな。
 シルフは「へぇー」と感心しながらその様子をずっと見ていた。

「それってなに?」
「銀の串だ。これで毒があるかどうかを確認出来る」
「どうやって分かるの?」
「これが変色する」

 私が知っているのはそれだけ。何がどう変わるかなんての説明は出来ない。それは化学とかの話になるからだ。

「よし、捌き終わったぞ。これを持っていってくれ」
「うん」

 小さい体で持ち上げてヘイリーの所へ行った。どうやっているかなんてのは分からない。
 何度か戻ってくるかもしれんが、今の間に水浴びしておくか。拭くためのタオルがあっただろうか。なかったらそのまま手でやればいい。
 ついでに服もと思ったが、着る服がなくなる。

「わお」
「のぞきか」

 とりあえず上半身だけと思って服を脱いだ時に、もう一つを取りに来たシルフが覗いていた。

「初めて見たかも。アーロの体」
「だからって触るか?」

 肉を持っていかず、近づいて私をじっくり見まわすと、今まで出来た傷を指先で何度も感触を確かめていた。これでは水浴びも出来ない。

「ヘイリーたちが待ってるだろ。早く持っていったらどうだ」
「もう少し」

 感触を楽しんでいるのか、手全体を使ってペタペタと触っている。このままだと食事の時間が遅くなる。
 気にせずにするか。何か言ってきても気にしないことにした。やめろと言ってもシルフはやめることはないだろう。

 タオルを水に浸して絞り、濡れすぎず、乾きすぎず湿っているぐらいがちょうどいい。水が冷たいのが不満だが、体を洗えるからいい。

「髪も洗えたらいいんだが、それは贅沢な悩みだな」

 ここに来てからシャンプーというものは見ていない。作る気もないし、手に入るものではないものを求めても意味はない。無駄な労力だろう。なら今ここでできることをやればいい。

「水でびちょびちょ……」
「それはすまなかったな」

 シルフが小さくなって頭の上に乗ってきたが、気にせず体を洗う。髪が濡れてしまったが、時間が経てば乾くだろうしな。
 両腕と前と背中、後は顔。これで多少の臭いは取れただろうか。それは今はわからないが、スッキリできたのは間違いない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

私は走る、竜を乗せて、どこまでも。

十文子
ファンタジー
竜は少女に乗り、少女は竜を背負ってひた走る。 ドラゴンライダーならぬライダードラゴンは、今日もダンジョンの奥へ、戦火の町へ、伝説の英雄に荷物を届ける。 たとえその荷物の中身が、どこかからさらってきた姫さまや、世界を滅ぼす魔王を封印した宝玉だったとしてもかまいはしない。 これはそんなふたりのお話。 ※1章あたり2万文字~3万文字くらいの短編連作にするつもりです。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと時分の正体が明らかに。 普通に恋愛して幸せな毎日を送りたい!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

処理中です...