72 / 80
5章
71話 男であるということ
しおりを挟む
「ここなら安全だろう」
木の間から光が少ししか入らないが、目を凝らしてみればもうすでに夕暮れになっているのが分かる。朝、依頼主と別れてからそれほど経ったのか? ほんの二、三時間しか経っていないと思っていたのだが。それとも私の目がおかしいのだろうか?
「シルフ。君の目には空はどう見える? 私からは夕暮れに見えるのだが」
「僕から見ても夕暮れだよ」
シルフもということは私の目は正常だということか。
もしかして時間の感覚が狂ってしまったのか? もし魔法とやらにかかっておかしくなっているのならシルフが真っ先に言いそうなものだが。
「アーロ。これ、どうする?」
「外そう」
子供の首にある首枷を指差しながら私に聞いてくる。外せるのなら外すべきだ。こんなものつけていいはずがない。
しかしどうやって外すか。鍵穴がない首枷など初めて見る。それだけで通常のものとは違うということ予測できる。私が触れても大丈夫な物なのだろうか?
「ゃ……」
目の前に座る少女は私とは目線を合わせないようにしている。まだ怖いのだろう。それならば席を外した方がいい。男に見下ろされるより、女性たちと共に居たほうが気も安らぐはずだ。アレシアとヘイリーはまだ固まっているが、もうしばらくしたら戻ってくるだろう。
「これ、アーロは触らない方がいいかも」
「何故?」
「触った人を探知するのがかかってる」
逆探知する魔法ということなのだろうか? ならシルフも危ないのではないか?
「僕は大丈夫。見えないし認識出来ない存在だから」
「大精霊だからか?」
「うん。名前は有名みたいだけどね」
解錠はシルフに任せるか。
それよりも少年の方が一刻を争うかもしれん。血を流し過ぎている。応急措置でしかないが、今あるものでやるしかない。
「その子を首枷を外すの頼んでいいか?」
「うん、任せて」
一刻を争う時に、後ろから風を切る音が聞こえた。この感じはシルフではない。殺気を込めた攻撃となると……。
「……ない、で!」
刻一刻と時間が過ぎる。が、ここで少女の声を無視して少年の治療したら、次は確実に当ててくるだろう。交渉するしかないか?
「その子に、触らないで!」
「分かった。触らない。だが、今すぐ止血しなくては死んでしまうぞ」
交渉の余地はなし、か。何もしないと降参の意味で手を上げた。この意味が伝わるだろうか?
「離れて」
これ以上刺激しないようゆっくりと立ち上がって少年から離れよう。こうなったらアレシアかヘイリーに任せるしかない。
「アレシア、ヘイリー。いつまで呆けているつもりだ」
「ほ、呆けてなんかいないし」
二人の意識を戻そうと少しだけ語気を強くした。ヘイリーは慌てて意識を戻してきたが、アレシアはまだのようだ。
「呆けが取れたら、そこで横たわっている少年の治療を頼む。私では出来ない」
「う、うん」
手を動して指差すことも出来ないだろう。目線で自分の足元を見て、ここにいるとヘイリーに伝える。彼女が近づいたと同時に私はゆっくりと離れよう。
しかし、あれだけの事をされても尚、私に殺気を向けてくる。心は折れなかったようだ。それほどあの少年が大事なのだろう。
さて、私が今やれることは追っ手が来ないように警戒するのみだ。少女はまだ睨んでいる。木の裏に隠れず、背を向けて周りを見るか。
「あ、アーロさん」
「意識は戻ったな」
ようやく話せるようになったか。長い間ぼーっとしていたが、あの状況を見ても失神しなくなっただけマシになった。ちらりと後ろを見ると少女はまだ私の方を見ている。つられてアレシアも後ろを見るが、少女の形相に目を丸くして、慌てて顔を戻した。
「何故あんなに睨んでいるんです?」
「私が男だからだ」
よくわからないと言った顔で私の顔を見上げている。アレシアはあの場面を見て、ただだだ驚愕しただけなのか、あるいは悲惨さを見て固まったのか。そこのところは私には分からない。もし、知らないのであれば、あれについて教えるべきなのか、しない方がいいのか悩ましいところだ。もちろん、正しく教えるべきだろう。ただそれを男の私がしてもいいのかということだ。
「あの、アーロさん。さっきのって」
「さっきの?」
「あの男の人たち、何してたんですか?」
決定だ。アレシアはあの状況がどういうものか知らない。なんて伝えようか。そのままか? それとも言葉を濁しながら?
「アーロさん?」
仕方ないが、間接的に説明するしかない。同じ仲間だとは言ってもアレシアも女性だ。直接的な言葉を男の私からは聞きたくはないだろうしな。
「男どもがいたいけな少女を囲って怖い思いをさせていた」
「そう、だったんですね……」
詳しく教えてほしいと言われたらヘイリーに任せよう。嫌な役回りだと後で文句を言われるかもしれんが、男の口から聞かされるほうよりかは断然いい。
「アーロ、これ取れたよ」
シルフが首枷を持ちながら私の隣に来る。これの処理は後で考えよう。今のところ周りに人の気配はないし、少しでも身体を休めなければ。
「ああ。なら、しばらく休憩して二人を元々住んでいた場所に送り届けよう」
「二人の身体洗った方がいいかな? すごく汚れてるし、幸い近くに水場があるみたい」
「そうだな。では私は食料を探そう。アレシア、協力してくれ」
「は、はい!」
二人が何を食べるかは分からない。とりあえず食べられるものを取っておいて損はないだろう。
木の間から光が少ししか入らないが、目を凝らしてみればもうすでに夕暮れになっているのが分かる。朝、依頼主と別れてからそれほど経ったのか? ほんの二、三時間しか経っていないと思っていたのだが。それとも私の目がおかしいのだろうか?
「シルフ。君の目には空はどう見える? 私からは夕暮れに見えるのだが」
「僕から見ても夕暮れだよ」
シルフもということは私の目は正常だということか。
もしかして時間の感覚が狂ってしまったのか? もし魔法とやらにかかっておかしくなっているのならシルフが真っ先に言いそうなものだが。
「アーロ。これ、どうする?」
「外そう」
子供の首にある首枷を指差しながら私に聞いてくる。外せるのなら外すべきだ。こんなものつけていいはずがない。
しかしどうやって外すか。鍵穴がない首枷など初めて見る。それだけで通常のものとは違うということ予測できる。私が触れても大丈夫な物なのだろうか?
「ゃ……」
目の前に座る少女は私とは目線を合わせないようにしている。まだ怖いのだろう。それならば席を外した方がいい。男に見下ろされるより、女性たちと共に居たほうが気も安らぐはずだ。アレシアとヘイリーはまだ固まっているが、もうしばらくしたら戻ってくるだろう。
「これ、アーロは触らない方がいいかも」
「何故?」
「触った人を探知するのがかかってる」
逆探知する魔法ということなのだろうか? ならシルフも危ないのではないか?
「僕は大丈夫。見えないし認識出来ない存在だから」
「大精霊だからか?」
「うん。名前は有名みたいだけどね」
解錠はシルフに任せるか。
それよりも少年の方が一刻を争うかもしれん。血を流し過ぎている。応急措置でしかないが、今あるものでやるしかない。
「その子を首枷を外すの頼んでいいか?」
「うん、任せて」
一刻を争う時に、後ろから風を切る音が聞こえた。この感じはシルフではない。殺気を込めた攻撃となると……。
「……ない、で!」
刻一刻と時間が過ぎる。が、ここで少女の声を無視して少年の治療したら、次は確実に当ててくるだろう。交渉するしかないか?
「その子に、触らないで!」
「分かった。触らない。だが、今すぐ止血しなくては死んでしまうぞ」
交渉の余地はなし、か。何もしないと降参の意味で手を上げた。この意味が伝わるだろうか?
「離れて」
これ以上刺激しないようゆっくりと立ち上がって少年から離れよう。こうなったらアレシアかヘイリーに任せるしかない。
「アレシア、ヘイリー。いつまで呆けているつもりだ」
「ほ、呆けてなんかいないし」
二人の意識を戻そうと少しだけ語気を強くした。ヘイリーは慌てて意識を戻してきたが、アレシアはまだのようだ。
「呆けが取れたら、そこで横たわっている少年の治療を頼む。私では出来ない」
「う、うん」
手を動して指差すことも出来ないだろう。目線で自分の足元を見て、ここにいるとヘイリーに伝える。彼女が近づいたと同時に私はゆっくりと離れよう。
しかし、あれだけの事をされても尚、私に殺気を向けてくる。心は折れなかったようだ。それほどあの少年が大事なのだろう。
さて、私が今やれることは追っ手が来ないように警戒するのみだ。少女はまだ睨んでいる。木の裏に隠れず、背を向けて周りを見るか。
「あ、アーロさん」
「意識は戻ったな」
ようやく話せるようになったか。長い間ぼーっとしていたが、あの状況を見ても失神しなくなっただけマシになった。ちらりと後ろを見ると少女はまだ私の方を見ている。つられてアレシアも後ろを見るが、少女の形相に目を丸くして、慌てて顔を戻した。
「何故あんなに睨んでいるんです?」
「私が男だからだ」
よくわからないと言った顔で私の顔を見上げている。アレシアはあの場面を見て、ただだだ驚愕しただけなのか、あるいは悲惨さを見て固まったのか。そこのところは私には分からない。もし、知らないのであれば、あれについて教えるべきなのか、しない方がいいのか悩ましいところだ。もちろん、正しく教えるべきだろう。ただそれを男の私がしてもいいのかということだ。
「あの、アーロさん。さっきのって」
「さっきの?」
「あの男の人たち、何してたんですか?」
決定だ。アレシアはあの状況がどういうものか知らない。なんて伝えようか。そのままか? それとも言葉を濁しながら?
「アーロさん?」
仕方ないが、間接的に説明するしかない。同じ仲間だとは言ってもアレシアも女性だ。直接的な言葉を男の私からは聞きたくはないだろうしな。
「男どもがいたいけな少女を囲って怖い思いをさせていた」
「そう、だったんですね……」
詳しく教えてほしいと言われたらヘイリーに任せよう。嫌な役回りだと後で文句を言われるかもしれんが、男の口から聞かされるほうよりかは断然いい。
「アーロ、これ取れたよ」
シルフが首枷を持ちながら私の隣に来る。これの処理は後で考えよう。今のところ周りに人の気配はないし、少しでも身体を休めなければ。
「ああ。なら、しばらく休憩して二人を元々住んでいた場所に送り届けよう」
「二人の身体洗った方がいいかな? すごく汚れてるし、幸い近くに水場があるみたい」
「そうだな。では私は食料を探そう。アレシア、協力してくれ」
「は、はい!」
二人が何を食べるかは分からない。とりあえず食べられるものを取っておいて損はないだろう。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる